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銀英伝考察3
銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威
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No. 3761
Re:Re:イオン・ファゼガス号のエンジン、技術について
古典SFファン 2003/02/24 01:01
>  数学的正当性を認めます。
>  その上で「光速航行を行ってワープ可能な帝国艦隊に何回も空域哨戒をかけられるメリットは何も無い」事を思い起こしていただきたく思います。

その通りです。
私も、「大質量ワープが可能ならば、使っている」という論理に何の不自然も感じません。
3巻でその技術が開発されるまで「出来なかった」といっているのです。
この点に関しましては、全く意見を変更する必要を感じておりません。
当方の意見の数学的正当性は、既に認めていただきましたし。


> 「光速航行エンジンしかないから光速で逃げるしかない」のはその通りなんでしょうが「逃亡犯が物語の整合性のために全速で逃げない」って理由になります?

おおっと、少々お待ちください(−−;;;。
私は、彼らが光速の何割で逃げたかについては述べておりません。
「選択可能なオプションが幾つかあり、エネルギー的にそれがどのような事を意味するか」と述べただけです。
「・・・と思います?」と問われて、技術屋が示す応答というのは、「自然・不自然」じゃないんです。
「必須・不要」か、「可能・不可能」で、私が示した答えに関して申しますと、それは「選択次第で可能」を示しているでしょう?
・・数学的に。
彼らが光速の75〜85%を選択し、4〜6光年以内の恒星系のどこかに向かった場合、暦年には目立った差異は生じません。
それが答えであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
「彼らがそうしたかどうか?」というのは、書いてない以上誰にも答えられない問いですね?
でも、「それは可能」なのです。
私には、それで十分であり、意見は全く変化しておりません。

なお、傍証として以下のような事も考えられます。
先のτが示すとおり、光速へ接近しようとすればするほど、ほんのちょっとの速度増加のために多大なエネルギーを必要とするようになります。
光速の75%〜85%が「得」と言う表現は、そう言うことです。
彼らが全速で逃げない理由には、確かになりません。
が・・・
「彼らが全速で逃げられなかったかも知れない」
という事の傍証には、なりえるでしょう。
ええ。エネルギー不足で。

確か前に、誰か取り込み口100kmのバサード・ラムについて計算してたはずですが、
バサード・ラムは確かに「燃料切れ」の心配はありません。
が、取り込み口になるラムスクープ場のサイズと、あたりの星間ガスの密度の関係で、
「一時に取り込める量には限界がある」
んです。
これは、取り込み口のサイズに関係します。
取り込み口を広げると、取り込み量は増えますが、ラムスクープ場を支えるためのエネルギーは、逆二乗則に従って増大します。
例えば、10倍の燃料を取り込むために10倍のサイズのスクープ場を作ると、・・・取り込みで消費するエネルギーは100倍になってしまうんですよ。
「無尽蔵」でも、蛇口のサイズに限界があるというわけで。
これは、バサード・ラムのテクノロジーから導かれる帰結です。
(「タウ・ゼロ」を読むと、方程式は書いてませんが、このような設定に関しては漏れなく載っています。多分まだ創元文庫で出てますが)

さらに、帝国軍から逃げる時点での話ですが。


>  しかも資源惑星に心当りがあって直行したなら80〜85%加速もそれなりに理由がつくでしょうが、どう考えてもあれは「帝国の追及を逃れる為未知の星域にのりだした」のではないですか?
> 「一刻も早く追跡から逃れ資源惑星を発見する」には可能な限りの速度を出すべきでしょう。

これに関しては、上述している
「その速度が出せなかった」という可能性が1点。
「出す必要がなかった」という可能性が1点。

私は、以前にこのような発言もしております


>「有効探知距離500〜1000光秒の世界」
>では、1000光秒ずつワープして捜索をすることになります。
>
>1000光秒ずつワープ、1000秒以内に捜索、1000秒以内にまたワープ・・・
>を繰り返さない限り、1光日を捜索するのに1日、1光月を捜索するのに1ヶ月掛かり、
>しかも敵の逃走したと推定される範囲は1日ごとに1立方光日ずつ増大していきます。

「探知距離500〜1000光秒」では、帝国軍は、ある程度の時間が経過すると、亜光速航行で逃げる船を追跡できなくなるのです。
数学的に、その根拠を示します。

探知距離1000光秒だと、1000光秒ずつワープして探し回る事になります。
1光日は86400光秒。
捜索範囲は1000光秒単位のマス目で、1日で644972.544個に達します。
帝国軍にもこの空間を逃げている船を捕捉するチャンスはあります。
1000光秒を1秒でスキャンし、1秒以内にワープを繰り返したとして、1日目に1000隻の船を集めて捜索を開始したとしたら、捜索完了までは644秒しか掛かりません。
その場合、船が捜索可能な範囲から抜け出す時間はないのです。

しかし、あの作品の中で、そんな速度で探知やワープが行われた事はありません。
ワープ準備に10秒掛かった場合、捜索完了までの時間は6440秒。

その間に、船は探知可能な範囲の6.44倍も進んでしまっています。
2日目には空間の大きさは2×2×2で8倍となります。
3日目には3×3×3で27倍。
10日たてば1000倍です。
実際には移動範囲はとして想定可能な空間は球状なので、これは概算ですが、探知範囲も普通、球状なので、概算としては同じスケールが適用できます。

結論的に、
1.逃走をすぐ発見し
2.逃走した方向を大体でも事前に知っていて
3.捜索に必要な数の船(数千隻以上)を動員して数日以内に網を張り、捜索を完了したら秒単位で次のワープに移れるような体制をとった時
亜光速で逃げるイオン・ファゼカスを捕捉する事は可能となります。

が、これが実際問題として、あの世界で可能かどうかについては、
「無理っぽい」
というのが、私の結論です。

天文学的距離は、イメージが掴みにくいのです。
実際、私もこれを想像するのに計算を用いました。
繰り返しますが、私は技術者です。
イメージを捕えるのに数字を補助に使い、それを不自然に思わないというのは、まあ習い性ですのでご勘弁ください。


No. 3763
Re:お詫びと補足
平松重之 2003/02/24 01:15
>Kenさん
>砂倉さん
>パンツァーさん

 今更ですが、初めまして。

 少し古本屋で調べてみたのですが、確かに砂倉さんのおっしゃる通り、1996年初版の徳間文庫版及び2000年初版の徳間デュアル文庫版では、件の部分は「1000万トン」に修正されております。これはこちらの事実誤認でした。申し訳ありません。m(__)m
 1982年初版のノベルズ版ですが、どうやら途中の版で件の部分の数字が修正されている様です。砂倉さんの55刷、パンツァーさんの53刷では「50億トン」と記載されているとの事ですが、自分が持っているのは79刷で、こちらでは「1000万トン」となっています。冒険風ライダーさんが以前、今の掲示板No.1896で示された件の部分を引用してみますと、

銀英伝1巻 P190上段〜下段
<彼らは各艦隊の補給部から食糧を供出するとともに、イゼルローンの総司令部に次のようなものを要求した――五〇〇〇万人分の九〇日分の食糧、二〇〇種に上る食用植物の種子、人造蛋白製造プラント四〇、水耕プラント六〇、およびそれらを輸送する船舶。
「解放地区の住民を飢餓状態から恒久的に救うには、最低限、これだけのものが必要である。解放地区の拡大にともない、この数値は順次、大きなものとなるであろう」
 という注釈をつけた要求書を見て、遠征軍の後方主任参謀であるキャゼルヌ少将は思わずうなった。
 五〇〇〇万人の九〇日分の食糧といえば、穀物だけで五〇億トンに達するであろう。一〇〇〇万トン級の輸送船が五〇〇隻必要である。第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた。
「イゼルローンの倉庫全部を空にしても、穀物は七億トンしかありません。人造蛋白と水耕のプラントをフル回転しても……」
「足りないことは分かっている」
 部下の報告を、キャゼルヌはさえぎった。>

 となっており、修正後は、

<彼らは各艦隊の補給部から食糧を供出するとともに、イゼルローンの総司令部に次のようなものを要求した――五〇〇〇万人分の一八〇日分の食糧、二〇〇種に上る食用植物の種子、人造蛋白製造プラント四〇、水耕プラント六〇、およびそれらを輸送する船舶。
「解放地区の住民を飢餓状態から恒久的に救うには、最低限、これだけのものが必要である。解放地区の拡大にともない、この数値は順次、大きなものとなるであろう」
 という注釈をつけた要求書を見て、遠征軍の後方主任参謀であるキャゼルヌ少将は思わずうなった。
 五〇〇〇万人の一八〇日分の食糧といえば、穀物だけで一〇〇〇万トンに達するであろう。二〇万トン級の輸送船が五〇隻必要である。第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた。
「イゼルローンの倉庫全部を空にしても、穀物は七〇〇万トンしかありません。人造蛋白と水耕のプラントをフル回転しても……」
「足りないことは分かっている」
 部下の報告を、キャゼルヌはさえぎった。>

 と変化しています。ちなみにコミック版の1992年の初版では穀物の量は「50億トン」とノベルズの旧版と同じになっていますが、後の版で修正されているかどうかは未確認です。
 まあ、やはりこの場合は作者である田中氏の意向が働いているであろう修正後の「1000万トンの穀物」「20万トン級の輸送船50隻」という数字を採用するべきだと思います。


No. 3765
ここでちょっと作戦タイム
古典SFファン 2003/02/24 03:33
・・・さてと。
ここでちょっと疑問です。

当方としての出発点は、「作中事実」のつもりです。
(1)3巻の時点で、大質量ワープは新技術である
同盟側ではシェーンコップ、ムライたちの会話、帝国側ではシャフトとラインハルトの会話が、この傍証となっています。
ここからの帰結が、
(2)「イオン・ファゼカスは亜光速船である」
という事。
なぜなら、
(3)過去に存在しなかった大質量ワープは、イオン・ファゼカスには使えない
では、
(4)イオン・ファゼカスが亜光速船であるというのは、可能なのか、不可能なのか?

(1)は、私の認識する作中事実です。
(2)〜(4)はそれに続く連鎖推理です。
先の想定が崩れれば、後のものは考慮する必要がありません。
全く以って、「ワープが使えれば使う」に違いないのです。
それは論理的な話で、私としても否やはありません。
でも(Nightさんも言っておられましたが)作中で技術の後退も忘却もなかったとすれば、
「まだ出来ていないものは使えない」
のです。
・・思うに、作中事実から引き出せるのは、ここまでです。
作中では、取り立てて技術の後退や消失は記述されていません。
(あったとしても書いてないので)それは傍証に使えないのです。

が。
こちらが論証に使った、アルタイル系付近の天文学的状況、亜光速に伴うウラシマ効果、ローレンツ変換式、バサード・ラムのテクノロジー、
探知距離500〜1000光秒をスケールとした捜索方式に関する数学的考察は、そもそも
「作中に書いてない」事の塊です(−−;;;。

私は、自分が認識する「作中にある事実を壊さないように」数字を選択しました。
ある程度テクノロジーに仮想が入っていますが、実際に船を建造し、コースを選ぶ時のように。
今までのところ、「イオン・ファゼカスが亜光速船であっても逃げる事は出来る」ように、私には見えています。
でもまあ、これははっきり言って、小難しいのです(笑)。
数字を使いすぎると、技術者自身が錯覚に陥るというのはよくあることです。

討論の内容ややり方について詰める事なく走りすぎた感じがしたので、
「そもそもこう言うのはありなのか?」
という事については、S.Kさんにお尋ねしてみたい気がします。

困ったことに、討論に「作中に明示されていない物理法則を一切使ってはならない」と規定されていれば、私には推測の小道具がなくなってしまいます。
つまり、「意見を変更しようにも、作中で何がどうなっているのか解釈する手段を切り捨てろ」という事に等しいので。
技術屋に数字を読むなと言っても無理ですよ・・。

つまるところ、私とS.Kさんの認識は、
「大質量ワープは銀英伝3巻の時点で出た新テクノロジーであり、それ以前には使えなかった」
「いや、使えた(=可能性はあった?)」
という点で相違していると了解しています。
後のは全て、それに続く流れに過ぎません。

これまでの討論で私が意見を変更していない以上、これは文字通り「解釈の相違」「意見の相違」です。
このまま続けるのも悪くはないと思うのですが(他の人がそれを見て何か面白いのであれば(笑))
当方としてはこのあたりで、「いろいろ小難しい道具ばかり使って話をするしか方法を知らないんですが、いいんですか?」
という事を問うて、何か妥協点を探したいんですが。


No. 3767
Re:ここでちょっと作戦タイム
S.K 2003/02/24 05:40
 別に作中事実の否定などしておりませんよ。
「イオン・ファゼガス号」がワープ可能だった方が歴史のズレの不在や
脱出成功に貢献するから他の航法より妥当だと判断できるだけで。

 それとシェーンコップの科白からは「発想の柔軟性さえあれば大質量ワープ自体は現実的至極なものである」という解釈しか出てきませんがこれは私の国語力の問題ですか?

 作中事実に基づいて考察する、多いに賛成です。
では「イオン・ファゼガス号」のワープとワープ抜きでの脱走成功、どちらがより不可能事かで再検討いたしましょうか。
 所用で2、3日間が空きますが。


No. 3768
Re:Nightさんへ
Night 2003/02/24 09:27
>  弁論大会の壇上の演説者は「貴方に」語り掛けているわけではありませんがその内容は「貴方にも」伝わるはずです。
>  伝わらない理由は二つあって「弁士の力量」が先に疑問視された様なので片手落ちにならないよう「聴者の姿勢」を問うたわけです

 了解しました。ですが、私は弁士の力量を疑問視したつもりは全くありません。
 あと、以前の投稿にも書きましたが、S.Kさんがまとめて下さった投稿の流れのどのあたりがどう私の元の投稿に関係していて、どのような回答になっているかについては教えてください。私としては、釈然としていませんので。


> 「余分」ってどう頑張っても戦艦にキャタピラは使えないのですからいちいち材料に戻すより有効活用を考えたらいいじゃないかってレベルの話ですが。

 並行作業は無理ではないかということについては、どうお考えでしょうか。


>  ヤンのおかげで拾った命で各々が潜伏して思想を守って時を待てばそれでいいのです。
>  ヤンなしに成立しないのは「ヤン崇拝」というある意味帝政より民主主義から遠い代物だけです。

 ヤンだって、素直に投降したほうがよっぽど楽なのです。ラインハルトはそう無茶なことは言わないでしょうから。(他の幕僚はどうか知りませんが……)
 何故、そうしなかったについては、8巻に書いてあります。今のところ、私としてはそれに付け加えることはありません。


No. 3769
Re:ここでちょっと作戦タイム
Night 2003/02/24 09:42
 横レス失礼します。


 そもそも、大質量ワープと言う技術は、ヤンが移動要塞を一目見ただけで、その原理やら何やら全て分かってしまうと言う代物なのですよね。ようは、あくまでコロンブスの卵的な発想の問題と言うだけで。
 文章に直したってほんのわずかです。『複数のワープエンジンを(輪状に?)同調させて動かすことで、大質量をワープさせることができる』。これだけです。

 こんな技術、一度思いついてしまったら、忘れたくたって忘れられるようなものじゃありません。あれば色々使えそうな技術ですから、なおさらです。

 亜光速の場合、宇宙船を作るだけです。余分な説明は一切不要です。
 ですが、大質量ワープの場合、まず発明して、宇宙船を作って、その後忘れなければなりません。その忘れ方の程度も、「細かい内容を忘れてしまったので、もう大質量ワープはできなくなってしまった」というような軽度のものではなく、「大質量ワープって一体なんだっけ?」というような重度のものです。大質量ワープと言う技術が存在したことそのものを忘れないといけないのです。

 どちらが無理がある解釈かは火を見るより明らかと思いますが。


No. 3770
ここでちょっと作戦タイム
古典SFファン 2003/02/24 11:05
>  別に作中事実の否定などしておりませんよ。
> 「イオン・ファゼガス号」がワープ可能だった方が歴史のズレの不在や
> 脱出成功に貢献するから他の航法より妥当だと判断できるだけで。

私も、S.Kさんが作中事実を否定しているとは云っておりません。
(そう聞こえたとしたら、申し訳ないm(__)m)。
「これは解釈の相違である」
と、云っているのです。
つまり、われわれは同じ文章に違う解釈を以ってしているのであって、それ自体は
何ら不自然な事はないのではないでしょうか?

そして、文章に書いていない事について私が敷衍している解釈や、物理的事実は、
全て「その後に続いている」事であるから、この「最初の解釈の相違」が鍵なので
あって、この点が解決されれば、他の部分の解釈について私が考えている事は大した
問題ではないと、判断したという事です。

何度か云ってますが、私の考えは最初の論点が崩れれば崩れるのです。
後の話は自分的に納得できるかどうかを計っているのであって、小難しいからまずは
置いときましょう、というのが先の発言という事で。


>  作中事実に基づいて考察する、多いに賛成です。
> では「イオン・ファゼガス号」のワープとワープ抜きでの脱走成功、どちらがより不可能事かで再検討いたしましょうか。
>  所用で2、3日間が空きますが。

・・「作中事実のみに基づく考察」の限界についても、もしかしたらお話する事になる
かも知れませんが・・。
そも、「作中事実とは何か?」と云う事についてです。
私とS.Kさんは、そもそも事実解釈のやり方が違う事にお気づきですか?
・・私は必ず、ある程度数字を見ます。前の発言に於いても、私は「計算した」ので
あり、多少なりとも都合の良い数字を選択する事はあっても、計算そのものでデタラメ
をした事はありません。
作中事実の解釈についても、私は「その背景には数字がある」と、ある程度は考え
ます。
その結果として解釈に違いが生じた場合、私は前節のように「考えを変えない」
事がありえるのはご了承ください。
要するに決着は「互いの考えに変化なし」で討論が終了するのも、悪くない結末である
と考えます。
(そのネタで観客が面白いのであれば・・)


PS.
>  それとシェーンコップの科白からは「発想の柔軟性さえあれば大質量ワープ自体は現実的至極なものである」という解釈しか出てきませんがこれは私の国語力の問題ですか?>

彼は技術者ではありません。
それを云うならムライもそうなのですが、ムライは参謀です。
参謀が事実関係についていい加減な事を発言すると云う可能性と、陸戦の専門家で
あり、明らかに技術者ではないシェーンコップが技術的に正確な事を述べていると
云う可能性を比較するなら、私は躊躇なくムライの方を取ります。

私とS.Kさんの会話で起きた事を考えてみてください。
私は「イオン・ファゼカスが暦年に矛盾を生じずに亜光速航行する事が可能なのは、
方程式が示している」と云いました。
それは作中事実ではなく、物理的事実で、変える事は出来ません。
が、S.Kさんは「その確率は低い」と仰いました。
実はあの方程式(ローレンツ変換)は、やり方を知っていればWindowsの関数電卓で、
数分で計算出来るのです。
技術者であれば、発言する前に計算した筈ですが、S.Kさんは計算しなかったなと、
(もしも計算されたのであれば、予断的発言を謝罪いたします)あの発言を見た時に
思いました。
揚げ足を取るつもりは全くありません、
τが二次曲線的に働く事を前もって知っていなければ、そう云う風に感じても無理は
ないのです。
また、一見面倒そうな方程式を計算しなかったのは無理もありません。
私自身が、やり方を知るまでそうだったのです。

ですが、それは計算しなければ分からないのです。
そして、計算すれば否定できない結果が出るのです。
だから、可能な時には必ず、概算でもいいから計算して、事実の隙間を埋めるのです。
それが、技術者(少なくともその一部)の発想です。

シェーンコップが技術的な裏付けなく、感覚的に大づかみで物事を述べるのは、
彼のバックグラウンドからして当然です。
彼は細かい技術的なことに関わらず、「現場で素早く」判断をする事を求められる
現場指揮官から上がってきた人です。
彼が実際に細かい計算をしてからしか発言や行動をしない人なら、瞬時の判断を求め
られる戦場には向いていません。
彼の発言が技術的なものでないのは、その抽象的内容からして明らかです。
技術者が事実解釈を求められた場合、その応答パターンは大抵「こうすれば出来る」
「ああすれば出来るかも知れない」という具体性や数字のオーダーを含みます。
そのような具体的なものだけが「実現可能性」であり、シェーンコップの発言には
それがありません。
彼の発言だけからでは、技術的実現可能性については一切判断できないのです。
また、彼はそれを求められる立場でもありません。
技術的に間違った事を云っても、責任を問われるキャリアやポジションではないからです。

翻ってムライたちは参謀です。
参謀は事実に基づいて発言しなければなりません。データマンとしての参謀がデタラメ
を口にする事や、数字について間違った事を述べる事の恐ろしさは考えるまでもないでしょう。
同じく技術者ではなくても、彼らの発言はそのポジションに基づいて、それぞれ割り引いて考えなくてはならない、というのが私の発想です。

これは、彼らの発言が瞬間的にでも考えての結果であると考えた場合の解釈です。
彼らの発言が軽口や動揺から出たものであり、そう大した意味を持たないのであれば、
この発言からの解釈もまた、大した重みを持たない事になります。
・・しかし、そう云った場合に付いては、まず、この「ガイエスブルク出現の一幕」
について考察し終わってからでも遅くはないでしょう。


No. 3772
Re:ここでちょっと作戦タイム
古典SFファン 2003/02/24 12:15
>  そもそも、大質量ワープと言う技術は、ヤンが移動要塞を一目見ただけで、その原理やら何やら全て分かってしまうと言う代物なのですよね。ようは、あくまでコロンブスの卵的な発想の問題と言うだけで。

えーと・・・・
すいません、ヤンが大質量ワープの原理を見抜いたかどうかは一切書いてありません。
看破して破壊した発想は、
「移動中にエンジンの一つを撃つ」
です。
これは、車のエンジンでも航空機のエンジンでも宇宙船のエンジンでも、
「複数の推力軸線を合わせる必要があるものなら、動いている時にエンジンを一つ壊せば上手く動けなくなる」
と云う、模型で試してみれば子供にも分かる理屈によるものだと思います。
大質量ワープについて、それを絡ませる必要はないのではないでしょうか。

それと、「発想の転換の問題」だと述べたのはシェーンコップのはずですが、彼は技術者ではなく、
意図的にデタラメは云っていないまでも、
「その発言からは技術的信憑性を計れない」
と、私は考えております。


>  文章に直したってほんのわずかです。『複数のワープエンジンを(輪状に?)同調させて動かすことで、大質量をワープさせることができる』。これだけです。

そう云ったのはシャフトですが、シャフト自身がした発明が「同調」だけであったとしても、
同調を可能にする基礎技術が過去の時代にあったのかどうかが不明です。

例えば、90年代のパソコン用CPUのクロック数は10Mhzです。
今のパソコン用CPUは3.06Ghz.
その速度差は300倍。
(両者は同じIntel製での比較)
外見上今のPCの処理速度があまり変わってないのは、処理するデータが同じく数百倍に増えたためです。

CPUについて基本的に変わったのは「速度」のみです。
が、10年前のPCには絶対出来なかった量のデータを、今のPCは処理しています。
(厳密には出来たかも知れません。1日で終わるものが1年近く掛かっても良いなら・・(−−;;)
こう云う場合、実用性に関しては「用途と時間のバランス」の問題なのです。
例えば事務処理に300倍も掛かるんじゃ困りますよね(笑)。

同様に、特に複雑な解釈をしなくても、ヤンたちの時代にはかなり簡単に出来た「同調」が、過去の時代には「使い物にならん」技術であった可能性は十分にあります。
「肝心なものが足りなかった」と云うだけで、それはあり得るのです。
テクノロジーは基本的には日進月歩なのです。
「何百年かの技術格差」は大きいというだけで、私には納得の行くところです。


>  こんな技術、一度思いついてしまったら、忘れたくたって忘れられるようなものじゃありません。あれば色々使えそうな技術ですから、なおさらです。

作中事実は一つです。
「3巻の時点では大質量ワープは新技術」
これだけです。
シェーンコップもムライも、可能性はともかくそれを同盟側で運用した実例について知らなかったのは、あの一幕を見ていれば私には明らかな事に思えます。
作中の過去にそれが「あった」か「なかった」かについて決め手はありません。
少なくとも同盟側の彼らはその時点では大質量ワープについて知らず、帝国側ではシャフトが言い出すまで、ラインハルトはそれを視野に入れていなかったのです。
「イオン・ファゼカス亜光速船説」は、上の「新技術」説から出て来る帰結です。
作中ではっきりとそれを否定する記述があれば崩れますが、今のところそう云うことはないと、私は判断しております。

PS.
「イオン・ファゼカスがワープ船であれば何が不都合なのか」と云うのは、これとは別に検討すべき話であるかと、私には思えます。
出発点が違うからです。
・「イオン・ファゼカスはワープ船である」とした場合

 【帝国が当時から大質量ワープ技術を持っていたのなら、何故イゼルローンは最初から移動要塞ではなかったのか?何故移動要塞の大軍団を以って、同盟を壊滅させなかったのか?】

というのが、私の疑問です。

・「イオン・ファゼカスはワープ船でない」場合
 上記のような疑問は生じません。

私は、途中から半ば意識して、「イオン・ファゼカスはワープ船か?亜光速船か?」と云う問題に絞りました。
で、これまでのところ、亜光速船であっても問題はないと考えています。
が、その検証に使ったパラメータは徹頭徹尾、物理的なものだったので、「作中事実」に絞ってもそれが
「可能」なのか、「不可能」なのか、「判定不能」なのかに話を
絞ろうかと思って、作戦タイムを頂きました。
(これは、「意見が分かれたまま投了」と云うこともありえます。討論とはそう云うものでしょう)

「ワープ船だったら、後の話の展開と合わなくなる」と云うのは、実はこの問題とは違う話なのです。
イオン・ファゼカスがワープ船であったなら、大質量ワープの技術を持ちながら、帝国がそれを腐らせていた理由が、私には分からなくなってしまいます。
この点に関する追求は、また別個の問題としてやってみてもいいのではないでしょうか。

つまり、
「イオン・ファゼカスワープ船説」に基づき、「帝国は何故その技術を腐らせていたのか?」

「技術を忘れた」と云うのが、S.Kさんの回答だったと思います。
「そんなはずはない」と云うのがNightさん説ですね。
コロンブスの卵的発想だったから、シャフト以前に持ち出す奴がいなかったと云う説も、かつてあったような気がします。
あ、逃亡奴隷に出来た事が帝国に出来なかったなどという解釈は、少なくとも私には頂けません。
幾らなんでもそれはないでしょう。

これは、先のような数字的問題を(多分)含みません。
が、正直云って、この事実解釈に関しては、ほとんど多数決の助けでも借りたいところです。
というのは、数字で検証が出来ない問題について、作中に明確に書いていない上、導入すると後で矛盾を孕むような解釈を受け入れるかどうかは、
ほとんど解釈している人の主観に任されるような話だからです。
逆に、「数字的矛盾が大きく出ていないような話で、ある人の主観と別の人の主観を対決させて解が分かれたところで、それを厳しく争う意味などあるのか?」
という気は、しないでもない。
討論がネタとして面白いのは、実際にはそれが「自我の決闘」であるからと言う面も、確かにあるのでしょうがね(笑)。


No. 3773
タイトルマッチ:大質量ワープとイオン・ファゼカスの秘密
古典SFファン 2003/02/24 17:16
S.Kさん:

当方として一応、争点(ネタ?)をまとめておこうと思います。
応答を急く気は全く有りませんので、S.Kさん、じっくりと腰を据えてご考察ください(お互いに楽しみが日常の時間を食いつぶしすぎないよう、精神と肉体の余裕を持って対話いたしましょう)。

当方から提示するポイントはこれ。
「作中事実」3巻の時点で、大質量ワープは新技術である
「その帰結」過去に存在しなかった大質量ワープは、イオン・ファゼカスには使えない。故に、イオン・ファゼカスは亜光速船である

どちらから攻略するかは、ご自由です。
類型的に、
「作中事実の認識がおかしい」=前提の誤りの証明が成立した場合、帰結点も自動的に崩壊します。
「イオン・ファゼカスが亜光速船だとすると致命的矛盾が発生する」=推論の誤りの証明が成立した場合、前提がどうあれ、イオン・ファゼカス亜光速船説は崩壊します。

但し、先立つ発言で行った物理学的・天文学的・工学的考証でお分かりかと思われますが、私が示せる回答には常に幅があります。
それを確定するものは、基本的に数字です。
もしも数字を用いず、作中の事実関係のみで可否を争う場合、
「可能」「不可能」の間に、「判定不能」のグレーゾーンが生じて来るのはご了承ください。

作品に書いてある事は作中事実です。
書いていない事は推定、もしくは現実からの類推です。
が、「書いていない事は一切、ひとかけらも用いない」ような討論の組み立て方は、人間の頭では無理でしょう。
われわれは「たとえ」や「モデル」を、「それぞれが日常的に親しんでいる多くの事物」に依存しています。
人間の頭がそう云った多くの「記号」を相関させないと思考出来ないというのは、かなり良く知られた事実なのです。
つまるところ、討論で日常使っている事物を用いた例えや物理理論が出てきたとしても、それが「この場合持ち出すのに妥当であるか、ないか」をケースバイケースで判断していく事が、このような場合には必要であろうという事です。
前節の議論では、この前提が整理されておらず、また論点も順を追っていた訳ではありませんでした。
さらに、証明内容があまりに物理理論に依存しすぎていました。

今少しシンプルな解釈論から出発して、出来るだけ話を拡散させず、分かりやすく話をまとめられないか、と云うのが、当方の意図です。


No. 3774
とりあえず数点だけ
パンツァー 2003/02/24 21:29
議論をするのであれば、もう少し読解を確実にしてからにしてください。
何度か読めば、ずいぶん違うと思うのですよ。
一読しましたが、確かに鋭い指摘となっている部分もあります。
が、半分以上が勘違い等で占められているように思います。
どうか、もう少し整理をお願いしたい。
全部に返答するのが面倒なので、上の方の数点について回答します。
これを参考に、投稿内容を整理して、再投稿してください。
一々、この未熟と思われる内容に付き合うのが、はっきり言って苦痛です。
Kenさんにしては、不愉快極まりないでしょうが、私はどうも割りに合わないと思っているんですよ。こっちが一生懸命書いても、ろくに考えず適当に返答しているように思えて、ですね。
これは、私の側の問題だから、これを理由に感情的になってよいという理由にはならないのでしょうが。できる限り、表現は和らげるとしましょう。


☆ポイント1
> 冒険風ライダーさんは、「唯一」だ、などと述べていますか。

> (#3585)
> これはないでしょう。作品の外から「現代世界の物理法則に基づいた要塞の燃費問題」を持ち出してきたのであれば、その正当性や妥当性の立証責任は100%「持ち出してきた側」にあるのです。そしてその証明が「できるかもしれないし、できないかもしれない」で良いはずがないではありませんか。>

銀英伝世界にない物を導入するに際して、その物が銀英伝世界で正当または妥当であるかどうか、の立証責任は100%「持ち出してきた側」にある、と冒険風ライダーさんは、言っているのです。
文章の意味を理解してください。
「銀英伝世界」が議論の前提です。
銀英伝世界は、本を読めば、読者の間で共有可能ですが、
「銀英伝世界にない物」は、それができないでしょう。
「銀英伝世界にない物」を、「銀英伝世界」に通用する扱いとするには、
それなりの立証責任がいると言っているんです。
全然、冒険風ライダーさんの文章が理解できていないのですよ。

☆ポイント2
(#1726−1727)
> 外部からの補給に頼ることができない状態であることを当然承知しているはずのユリアンが「事態の急変には50年の歳月がかかる」と気長な持久戦戦略を述べているのに対して、「イゼルローン陣営における補給の権威」であるキャゼルヌが、孤立無援状態のイゼルローン要塞で50年もの持久戦を行うために必要な諸々の補給物資の調達に関して何ら懸念を抱いている様子がないのです。ということは、イゼルローン要塞で50年もの持久戦を行うに際し、補給事情は何ら問題にはならないということを、イゼルローン陣営の当事者達は当然のように認識していることになります。
> このことから、イゼルローン要塞には100万単位の人口を全て養えるだけの食糧自給能力と、軍隊が戦うに際して必要な戦略物資を全て自給自足で調達することができる能力が備わっていることが判明するのです。しかもこの自給自足能力は、孤立無援状態のイゼルローン要塞の人口と軍隊を半世紀以上も余裕で支えることができるというのですから、ほぼ半永久的に機能し続けるものであると言っても過言ではありません。そして、イゼルローン以外の要塞も、ほぼ同じ自給自足能力を保有していると考えて差し支えはないでしょう。>

イゼルローン要塞が有限の資材しか提供できないとしたら、50年という期間を区切ってみても、有限性が明らかになるのです。
50年経てば、イゼルローン要塞の提供能力の40%を消費するとか、90%であるとか、そういう次元の話になります。
キャゼルヌが「何ら懸念を抱いている様子がない」というのは、提供能力の何%を消費したとかいった計算すらしていない、ということを意味します。
これは、イゼルローン要塞が無尽蔵の生産能力を有しているから、としか考えようがないのです。

☆ポイント3
> これまた詭弁です。あなたは、私が冒険風ライダーさんや不沈戦艦さんと「移動要塞」について論争しているところへ、割り込んできたのでしょう。前後2回にわたる長大スレッドのテーマも「移動要塞」です。そこへ何の説明もなく「静止要塞」の自給能力を持ち出してどうするのですか。あなたが静止要塞のこと「だけ」を論じたいなら、別スレッドを立ててください。静止要塞で得た「小結論」を恒久移動要塞が可能という「大結論」へもってゆきたいなら、言葉のすりかえではなく、演繹なり帰納をやってください。

私は、Kenさんの文章を読む限り、「無限の自給自足能力」は、静止要塞のこととしか取れないといったのです。
「無限の自給自足能力」と「エンジンの燃費の皆無」とをベースにして、「移動要塞」が出来上がる以上、このようにしか読めないではありませんか?

それに、大本のスレッドを立てたのは、そもそも私ですよ。私が、参加するなといったら、Kenさんは、この議論から出て行くのですか?

☆ポイント4
> >同じ艦船であっても、質量の大きなものもあれば、小さなものもあるのです。
> >したがって、単純に考えれば、「物体の移動」に関する信頼性に値する理論が存在する上で、「質量」に関する一変数が相違するだけなのです。
>
> というものです。エアバスは「小質量で成り立つことが、大質量で成り立つとは限らない」ことの一例です。

「物体の移動」に関する信頼性に値する理論(A)が、成り立たないことを分かりやすく例示するために、比較例(B)を用いるわけでしょう?
だったら、Aを批判するに際して、基本的性質が同種のBを用いなければ、Bを用いてAを批判することにはならないのですよ。エアバスをBとしても、基本的性質が異なるので、宇宙船に関するAの性質を否定することになるわけがない、といったのです。

> と言われたので、私は帆船とタンカーの例を出しました。

この例も、全然よい比較ではありません。
銀英伝の冒頭部に、
<人類をして恒星間飛行を可能たらしめた三美神――亜空間跳躍航法と重力制御と慣性制御の技術>
とあります。
イオンファゼカス号にしろ一般艦船にしろ、移動化されたガイエスブルグ要塞にしろ、駆動手段は、この三美神の系列で考える必要があります。ワープエンジンや通常エンジンを備えたもの同士である、ということです。したがって、駆動手段の異なる帆船とタンカーは、基本的性質が異なるので、まったく適切な例ではありません。


No. 3775
この件については話が逆でしょうに
不沈戦艦 2003/02/25 00:53
> > >(1) イオン・ファゼカスは大質量ワープの実例ではない
>
>  繰り返しになるのですが、私がここで主張したかったのは
>
> 『時系列の関係上、イオン・ファゼカスがワープしたとすると、非常に強引な作品解釈を持ち込まないといけなくなるので、それはよほどのことがない限り避けるべきだ』
>
> ということでした。
>  はるか昔のイオン・ファゼカスが大質量ワープできたとすると、じゃあ、銀英伝3巻でシャフトがガイエスブルクのワープを新技術であるかのように自慢しているのは何故だとか、どうして同盟の面々は要塞がワープしてきた事にびっくりしてるんだ、ということになってしまうからです。
>  これを受け入れるには、文明が「健忘症」になって大質量ワープ技術のことを忘れてしまったとするしかありません。しかも、この健忘は「昔はできたことが、今はできなくなってしまいました」という軽度の健忘ではありません。「昔はできていたということそのものを忘れてしまいました」という重度の健忘です。また、大質量ワープのような「単純な」技術についてはなお苦しくなります。単純な技術は失われにくいからです。結局、この健忘(文明の衰退)という解釈は非常に受け入れ難いものになってしまいます。そのような文明の衰退があったという説明は本文中に全くないのですし。
>
>  ですから、作品を理路整然と解釈するためには、よほどのことがない限り、イオン・ファゼカスがワープしたと考えるべきではないのです。そのよほどのこととは、例えば「イオン・ファゼカスはワープした」というような直接的記述や、あるいは「イオン・ファゼカスは1年間で1光年以上を移動した」というようなワープ以外の解釈がありえないような強力な間接的記述の存在です。そのような証拠があるなら、いかに強引な作品解釈(文明の衰退)であっても、受け入れないわけにはいかないからです。
>  今のところ、そのような記述は見つかっていません。ですから、とりあえずイオン・ファゼカスはワープしなかったとみなすべきではないか……私が主張したかった事はそういうことでした。
>  ですから、私の上の主張への回答は、『いや、ここにイオン・ファゼカスがワープした証拠となる記述がある』というものや、『いや、お前の言っている論理そのものが間違っているのだ』というものだと思うのです。


 あのですね、「銀英伝世界」では「宇宙船がワープできるのは当たり前」の話ですよね?まさか、これを否定なさる方がいらっしゃるとは思えませんけど。ボリス・コーネフが使っているような小さな貨物用宇宙船ですら、ワープできるのが当然の世界なんです。

 そんな世界で「巨大なワープできない宇宙船」が存在し、しかもその宇宙船が「自由惑星同盟の建国にあたって、重要な役割を果たした」のなら、「イオン・ファゼカス号はワープできない宇宙船であったが」という記述がないと変です。本当に「ワープできない宇宙船」であったなら、作中で特筆されていなければならんでしょう。

 何か勘違いされている方が何人かいらっしゃるようですが、「記述がない」ということを根拠にすれば、何を主張しても作品論として許される、という訳ではありませんよ。「燃料補給の記述がないから、艦船の航続力は長大である」という主張には、「あれほど補給の重要性について繰り返し繰り返し強調されている作品であるにもかかわらず、有能と評されている将帥たちが、補給線寸断の危機にさらされている状況ですら、食料については心配していても、燃料について全く心配していない」からこそ、「銀英伝世界の艦船の航続力は長大であって、燃料補給の心配はあまりない」という主張が「記述がない」ことを根拠に主張できるんです。

 それと、「新技術」云々に関しては、シェーンコップが「新しい技術という訳でもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それも、どちらかというと、開いた口がふさがらないという類だ」とまとめてますよね。それに対し、「新しい技術を開発させたと見える」と言っていたムライからの反論はありませんよ。


 もう、いい加減に「反対の為の反対」は、お止めになられたらいかがですか。「イオン・ファゼカス号はワープできなかった」論には、無理がありすぎます。


No. 3776
Re:この件については話が逆でしょうに
古典SFファン 2003/02/25 04:28
>  あのですね、「銀英伝世界」では「宇宙船がワープできるのは当たり前」の話ですよね?まさか、これを否定なさる方がいらっしゃるとは思えませんけど。ボリス・コーネフが使っているような小さな貨物用宇宙船ですら、ワープできるのが当然の世界なんです。
>  そんな世界で「巨大なワープできない宇宙船」が存在し、しかもその宇宙船が「自由惑星同盟の建国にあたって、重要な役割を果たした」のなら、「イオン・ファゼカス号はワープできない宇宙船であったが」という記述がないと変です。本当に「ワープできない宇宙船」であったなら、作中で特筆されていなければならんでしょう。

横レスですが、これは、イオン・ファゼカス関連包括ですね?

はっきり申し上げますと・・。
それは、物語が書かれた前後関係で生じた破綻でしょう。
私にとっては、それを埋める試みの1つが、「イオン・ファゼカス亜光速説」である
だけです。

仮想的な問い:
「大質量ワープが3巻時点で可能になった新技術でなかったとしたら=
 イオン・ファゼカスの時代からそれが可能であったとしたら、
 何故帝国は過去それを使わなかったのか?
 何故移動要塞の大軍団が同盟領を襲わなかったのか?」

現実的な答え:
「3巻を書いた時にそう言う事まで取り繕って考えなかった。
 要塞対要塞はエンタテイメントとして面白いし、既に作中で出しているギミック
 (ワープ理論)をちょっといじくれば要塞を運べるので、やってみた。
 作中の過去にその技術が使われた場合どうなるかまで、作者は構っていな
 かった。
 それに、作者にとってはそう言う歴史を書かなければ、矛盾などは生じないので
 ある。」

読者にとっての解釈の余地:
「大質量ワープが過去から可能だったとしたら、使われなかったのは何故か?」
「忘れた」
「使えない理由が出来た」
「必要なかった」
「たまたま金がなかった」
「歴史的状況でそう言う可能性が実現化しなかった」
「実はその技術(大質量ワープ技術)は3巻時点までなかった」
etc・・。

現実的な理由から言えば、書いてないのは当然です。
3巻設定は後付けなのですからね。
1巻が書かれた当時、イオン・ファゼカスはワープ船であったかも知れません。
しかし、3巻が書かれた時点で、それでは都合が悪い事態が生じたのです。
その都合の悪さをどう解決するかについての意見の対立という事でしょう。


>  何か勘違いされている方が何人かいらっしゃるようですが、「記述がない」ということを根拠にすれば、何を主張しても作品論として許される、という訳ではありませんよ。「燃料補給の記述がないから、艦船の航続力は長大である」という主張には、「あれほど補給の重要性について繰り返し繰り返し強調されている作品であるにもかかわらず、有能と評されている将帥たちが、補給線寸断の危機にさらされている状況ですら、食料については心配していても、燃料について全く心配していない」からこそ、「銀英伝世界の艦船の航続力は長大であって、燃料補給の心配はあまりない」という主張が「記述がない」ことを根拠に主張できるんです。

それは、違います。
まず、「何を主張しても許される」などという文脈で語られるような事はやって
おりません。

3巻で大質量物体をワープさせる技術が付加されるまで、1巻でイオン・ファゼカスが
ワープ能力を持っていたのかどうかなどという問題を気にする必要はなかったのです。
記述の有無に寄らず、「ワープ能力がある」と解釈出来ていたのです。
逆に申します。
大質量のワープが特別なものであるという設定が後づけされなければ、そもそも
ワープさせる物体の質量の限界などという事を、読者は考えさえしなかったでしょう。

しかし、現実時間で言えば後で追加されたその設定によって、作中の歴史の流れに
IFが生じてしまいました。
そこで初めて、「イオン・ファゼカスに関するワープ能力の記述がない」事による
別解釈の余地が生じたのです。
作中のどこにでも、何にでも妙な設定を突っ込んだわけではありません。
「要塞の大質量ワープ」という事実の付加によって初めて、同等以上の大質量物体の
ワープが出来たのなら、何故?という謎が生じ、それを説明しえるポイントを探した
結果が「イオン・ファゼカス」にたどり着いたと言うだけの事です。

不沈戦艦さんが(前後しますが)言われる
「そんな事までしなくても説明は出来るだろう」
という趣旨のお話(だと思いますが)は分からなくもありません。
が、ガイエスブルク以前の大質量ワープの実例があるとすれば、それはイオン・ファ
ゼカスだけです。
これを切り捨てると、以後その技術が引き起こすかも知れない問題は全部消えます。
作中歴史のIFは綺麗になくなるのです。
これに取り付いて話を展開する人間が他にも居るのは、私には自明の事と思えます。

そう言うやり方自体が「認められる・認められない」というお話となると、これはもう
主観の相違です。


>  それと、「新技術」云々に関しては、シェーンコップが「新しい技術という訳でもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それも、どちらかというと、開いた口がふさがらないという類だ」とまとめてますよね。それに対し、「新しい技術を開発させたと見える」と言っていたムライからの反論はありませんよ。

ムライが何も言わなかったのは、当然です。
シェーンコップもムライも技術者ではなく、技術論を戦わせる場所でも状況でもない
からです。
彼らが「これは新しい技術だ」「いや違う」と喧喧囂囂し、結論を出したとしても、
意味がないからです。
そもそも、作中でヤンの幕僚たちが技術論を戦わせていたケースは記憶にありません。

この一幕について事実といえるのは、「二つの意見があった」という事だけでしょう。
しかも、作中で技術者ではないと分かっている人々の。
そして、そこで明示されているのは
「ムライはガイエスブルクのワープについて、新しい技術を開発させたと判断した」
「シェーンコップはスケールを大きくしただけだと判断した」
という事だけです。

双方とも、過去に帝国あるいは同盟が同規模のワープ技術を持っていたかについて、
どちらかといえば否定的印象を、私には与えます。

シェーンコップは「スケールを大きくしただけ」と言う。
しかし、実際にはシャフトは「エンジンの同調」と言う技術を開発しています。
それなしには、要塞のワープが出来ないのは作中で明らかな事です。
つまるところ、シェーンコップには技術的に鍵となる要素が見えていないのです。
彼はワープ技術の専門と言うわけではないから、知らないのは当たり前です。
作中の前後関係からして、明らかに「そう言うことについては大して知らない」
のです。彼は。
ムライもまた、そう言う「情報の欠如」については同じ事でしょう。
しかし、彼は参謀です。
かつてそう言う技術が存在し、また運用されていたとしたら、知っていても
不思議はありません。
しかし、ムライは「知らなかった」。
だから新技術だと言ったのです。

この一幕は、3巻の時点で大質量ワープが新技術扱いされている事について
傍証は与えても、過去それが使われていたかどうかについては示唆しません。
これだけでは「あった」とも「なかった」とも言いかねるのです。

正直言って、冒頭で言ったように、大質量ワープが特別扱いされるまで、こんな
言葉尻をつつくようなぎくしゃくした解釈は一切考える必要がなく、
「あの世界の宇宙船はすべからく全部ワープ船」
で全然問題なかったのです。

しかし、この台詞以降、「大質量ワープがずっとあった」として話を進めると、
かつてそれが使われなかった理由についてのIFが生じてしまいます。
それがなかったならば生じない問題が。

「それは破綻ではない」と仰るのも、また結構な事です。
矛盾を繕う他の手段を提示してくださるのもありがたい話です。

が、「そのような補完の仕方は、作品論としては認められない」というお話
ならば、設定の風呂敷が破れたところを繕うなどという向きの話はもう作品論より
二次創作寄りでしょう。
作品そのものについての検討より、「IF」・・だったら?に踏み込んで
しまっていますから。

私自身がしているのは、作品論ではなく、設定の遊びです。
徹頭徹尾物理理論を使用した「イオン・ファゼカス亜光速説」を書いてしまった
のも、そのあたりからです。
終始「あるべき」「自然」より「可能・不可能」についてしか述べないという
態度を取っているのも、そのためです。
・・あれはあまりにやりすぎたと思ったので、ちょっと論点を引き戻して、
いま少し取り付きやすいIFを出してみたのですが。

そも、この枝が入っているイゼルローンの移動要塞化の話自体、私の目から見れば
純粋なIFであり二次創作なのです。
論者の冒険風ライダー氏自身は、別のお考えかも知れませんが、私には、あれは
設定の遊びの極地に見えます。
作中の事実という仮想から別の仮想を引き出し、その仮想からまた仮想を積み上げて
移動する無敵の巨大要塞にするという、芸術的な空中楼閣です。

・・その要塞を効果的に破壊するミサイルを設計してみたのは、ちょっと悪趣味な
遊びだったかも知れませんが。


>  もう、いい加減に「反対の為の反対」は、お止めになられたらいかがですか。「イオン・ファゼカス号はワープできなかった」論には、無理がありすぎます。

ご不快だったら申し訳ありませんしたm(__)m。
しかし、このような趣旨の発言自体が全てルール違反であり、
「観客を楽しませる架空設定の架空戦記的出し物」
としても面白くなく、認め得ざるべきものなのでしょうか?


No. 3777
Re:この件については話が逆でしょうに
Night 2003/02/25 12:53
 おおよそのことは既に古典SFファンさんがまとめてくださっていますので、私としてはそれに補足するような形になります。(度々ありがとうございます>古典SFファンさん)

 銀英伝1巻を書いた時点で、作者である田中芳樹氏の頭の中では、確かにイオン・ファゼカスはワープ船だったのだと思います。この時点から3巻の展開を思いついていたのだったら、ワープの可否について一言言及されていておかしくありませんから。そういう意味で、そもそも3巻が書かれるまでは「ワープできる質量に限界がある」という法則は銀英伝宇宙の中にはなかったのでしょう。
 ですが、3巻で「要塞対要塞」というシチュエーションを描こうと思ったとき、それに説得力を持たせるためのギミックとして、田中氏は大質量ワープを新技術という形で導入してしまいました。推測ですが、このとき、田中氏はイオン・ファゼカスの質量のことなどすっかり忘れてしまっていたか、あるいは、覚えていたとしても、それほど大きな問題ではないとして意図的に無視したのでしょう。

 現実世界の事情としては、おそらく以上のような流れによって、銀英伝の中には矛盾と思われるような相反する記述が存在する事になってしまいました。ここで、読者の側の反応としては色々とあると思うわけです。「矛盾がある、おかしい」と言って嘲笑して終わりという反応も当然ありだとは思うのですが、以前から言われているように、上級シャーロキアンとして物語の設定の矛盾をうまく解釈する、という楽しみ方も当然あると思うわけです。
 では、どうすればこの設定上の矛盾をうまく解釈する事ができるか。その為の仮説として、私は「文明の衰退」「イオン・ファゼカスはワープ船でない」という二つの仮説を挙げました。
 この内、「文明の衰退」という仮説は、誰もが真っ先に思いつく説だと思うのですが、非常に強引で無理がある仮説なので、これを使うのはできれば避けたいところです。それに対して「イオン・ファゼカスはワープ船でない」とする仮説を使うと、完全にとは言いませんが、今のところ、わりと綺麗な形で設定の矛盾を解消する事ができます(少なくとも私にはそう思えます)。であれば、作品解釈の上ではこちらを使うべきではないか。私が言いたかったのはそういうことです。また、イオン・ファゼカスが大質量ワープの実例として出される時、この時系列上の矛盾について特に問題視されている様子もなかったので、皆さんはこの辺りの問題についてどのように考えているか知りたかったこともあり、問題提起をしたつもりでした。それが反対の為の反対ととられているのでしたら、おそらく私の文章力に問題があるのでしょう。それに関してはお詫びさせていただきます。


 ここから先は、私の憶測も入るので蛇足になります。古典SFファンさんの話と重複するかも知れませんが、前から思っていたことなので書いておきたいと思います。

 色々と議論されている「要塞の無限自給自足システム」ですが、私の推測としては、これも設定ミスの一種です。本当に無から有を生み出すような便利な補給システムが要塞の中に存在すると田中氏が考えたなら、補給事情にうるさい田中氏のこと、当然、その原理なり仕組なりについてそれなりにページを割いて説明をしていると思うのです。例えば、「光速を超えられない」という物理学の常識に対してワープと言うギミックが用意されているように、「質量保存の法則」に対しても「無限生成システム」というような何らかのギミックが用意されていてしかるべきと思うのです。ですが、そのような説明は特に見当たらない。
 ここで単なる推測になるのですが、おそらく、田中氏の頭の中では、要塞は『鉱山から油田から畑、工場、倉庫まで、生活に必要なものがおおよそ一揃いそろっている城塞都市』というようなイメージになっているのではないかと思うのです。物資の貯蔵がきき、必要なものは何でも中にあるから、いざとなったら長期篭城に耐えうる堅固な城であると。
 ここで問題となるのは、地上の城塞都市が開放系であり、篭城していてもさまざまな方法で質量欠損が埋められるのに対し、宇宙の要塞は(完全ではないが)閉鎖系であるということです。イゼルローンの床を掘ったところで鉱石が湧いてくるはずがない。この辺り、理系でない田中氏は良く考えずに設定してしまったのではないか、というのが私の推測です。(あるいは、星間物質を取り入れるとか、定期的に小惑星を拾ってくるといったことを漠然と考えていたのかもしれませんが)
 この問題に関しても、「矛盾している、おかしい」で笑い飛ばして終わりにしても良いのですが、皆さんはそこから無限自給自足システムという行間を埋めうる設定を作り出して、そこからさらに移動要塞と言う形にして楽しんでいるわけですよね。やはりこれは古典SFファンさんが仰るように、IFや二次創作の類と思います。
 私が一連の流れを読んでいて気になったのは、それがIFや二次創作の範疇を超えて、作中のキャラクター批判にまで及んできたからです。仮想戦記などで「太平洋戦争でこの新兵器さえ投入していれば日本は勝てた。それに気がつかなかった首脳部は全員馬鹿だ」と言っているような構図に見えて、釈然としない気持ちになったことは確かです。それ故に感情的になっていた部分もあったと思います。それについては、お詫びしたいと思います。

 とりあえず、以上です。


No. 3780
Re:移動要塞の技術問題について
RAM 2003/02/26 00:38
こんばんわ。

遅くなりましたが、抄訳に対する意見を述べさせて頂きます。
議論の前提条件が違っていたようなので、答えるべき価値がないと判断したのでしたら
無視して頂いて結構です。

> > (1) イオン・ファゼカスは大質量ワープの実例ではない
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > 「イオン・ファゼカス号はワープできなかった可能性がある」とか「ワープできても
> 航続距離が極めて短かったかも知れない」ということを前提にしてそういうことを言う
> のなら、それは単に「勇気と無謀を取り違えいる」という類でしょう。「賭け」ではな
> く「自滅願望」としか言いようがありませんね
> (No.3628 不沈戦艦さんレス抜粋)
>
> > <「新しい技術と言うわけでもない。スケールを大きくしただけのことだろう。それ
> も、どちらかというと、あいた口がふさがらないという類だ」言わずもがなの異論を、
> シェーンコップが唱える>
> >
> > シェーンコップでなくても、現代の我々でも、当然の予測ですね。
> > 「艦船の移動」の証明が終わった時点で、「移動要塞」に関しても大半の証明が終わ
> っているのです。
> > そして、(質量を問わぬ)「物体の移動」に関する理論に、ガイエスブルグ要塞のよ
> うな大質量を代入してみると、この場合も成立した。つまり、「物体の移動」に関する
> 理論は、大質量の場合でも成立した、ということです。
> >
> > だから、
> > 「艦船(質量数万トン以下の構造物)」であったにせよ、「物体の移動」に関する理
> 論が構築された段階で、大質量に関しても「原理的に可能」の域に、必然的に達してし
> まうのですよ。
> > そこに、大質量の実例としての、ガイエスブルグ要塞が、ほとんど問題もなく実現さ
> れた記載が存在しています。
> > 他にも、「艦船(質量数万トン以下の構造物)」よりも大質量の例としては、例の氷
> 塊もあれば、イオンファゼカス号もありますよね。
> (No.3669 パンツァーさんレス抜粋)
>
> > また、イオンファゼカス号に関しても、Kenさんの「仮定」を用いても、少なくと
> も半光年くらいは移動したのだから、大質量体の移動が、「実際的に可能」とされた例
> となりますね。
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
>  補足しますとイオン・ファゼカス号が航行中事故死したアーレ・ハイネセン以下を除
> く第一長征世代存命中に惑星ハイネセンに到達した描写は作中にありますよ(生憎今原
> 作は手元にないのでこれは自力で探してください。作中の同盟建国史部分です)。
> 「イオン・ファゼガス号が」です
>  ワープ無しにどうやって?
>

既に古典SFファンさんと議論されており、しかも私なんぞよりよほど有意義な議論を
されているのでそちらに議論をお任せします。レスを読ませて頂いた感想では解釈には絶対
唯一となる解釈はなく記述が無い部分では解釈の幅を持つ余地があるのではないかと
思いました。

また、イオン・フォゼカスの記述について読みますと、イオンフォゼカスについては
「宇宙船」と呼び、長期間にわたって飛行が可能、その間に「恒星間宇宙船」の材料を
求めれば良い。無名の惑星で80隻の恒星間宇宙船を建造して銀河系の深奥部に歩を踏み
入れたとあります。ここで注目すべきは「宇宙船」、「恒星間宇宙船」と呼び変えて
いる事、建造した宇宙船は80隻であったことです。この事から普通に考えれば
「宇宙船」にはワープ機能は無し、イオン・フォゼカスが1隻であるのに対しワープ
機能がある恒星間宇宙船は80隻という事は大質量でのワープは出来ないと考えられます。
どちらの宇宙船もワープが出来て80隻にした理由は別にあるという解もあるでしょう。
ですが、私の解釈としては上記のように読めました。上記の意見は国語的な解釈であり
数字的な観点から解釈が可能であるならそちらの方が強力でしょう。


> > (2) 自給自足艦隊は実現できない
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > > でもそれには理由があります。今回の議論に対する私のスタンスは、「恒久移動要
> 塞が可能と断じるにも、不可能と断じるにも、銀英伝の記述は不十分」というものです
> 。これに対して、冒険風ライダーさんのスタンスは、恒久移動要塞の現実性やそのベー
> スとなる「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されている、
> というものです。冒険風ライダーさんは、銀英伝世界では、恒久移動要塞や無限の自給
> 自足システムができるかもしれないという「可能性」を指摘されたのではありません。
> それ以外に解釈のしようがない、と言われているのです。
> >
> > 1「これに対して、冒険風ライダーさんのスタンスは、恒久移動要塞の現実性やその
> ベースとなる「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されてい
> る」
> >
> > 私は今、銀英伝全10巻を読み進めているところですが、
> > 例えば、銀英伝考察3で出てきた引用も含めて、以下のような記載があります。
> >
> > A銀英伝1巻P190上段17行目
> > <第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた>
> > (生産能力を有している点に注意)
> >
> > B銀英伝2巻P161下段13行目
> > <貴族のばか息子どもが、穴のなかにひっこんでいれば長生きできるものを、わざわ
> ざ宇宙の塵となるためにでてくるとはな>
> > (穴とは、ガイエスブルグ要塞を指す)
> >
> > C銀英伝3巻P44上段10行目
> > <―かつて帝国軍が敵の勢力範囲の奥深く侵攻しえたのは、イゼルローン要塞を橋頭
> 堡として、また補給拠点として利用できたからである。>
> >
> > D銀英伝3巻P140下段7行目
> > <つまり帝国軍は、今度は艦隊を根拠地ごと、ここまで運んできたわけだな。>
> > (根拠地とは、ガイエスブルグ要塞を指す)
> >
> > A・C・Dより伺えるのは、要塞(イゼルローン要塞とガイエスブルグ要塞とを区別
> しないが)は、補給源として機能しうる、ということですね。
> > 特に、Aでは、イゼルローン要塞で負担しきれない補給を、ハイネセンに求めていま
> す。ということは、帝国軍が焦土作戦(生活物資の撤去)を取らなかった場合、同盟の
> 艦隊は補給に窮することはなかったと推測されます。
> >
> > また、Bに関連して、貴族連合軍の戦略を検討してみると、かれらは初めからオーデ
> ィンを放棄して、ガイエスブルグ要塞を根拠地としているのです。もしも、ガイエスブ
> ルグ要塞が「半永久的な」補給源として機能しないのであれば、かれらは簡単に兵糧攻
> めを受けてしまうわけで、ラインハルト軍は、黙って待っていればよい、ということに
> なります。
> >
> > 「無限の自給自足能力」は銀英伝世界において、存在が「立証」されていないとすれ
> ば、以上の「引用」と、明らかに矛盾することになります。
> > 特に、「無限の自給自足能力」がないとしたら、貴族連合軍の戦略など、まったくバ
> カですね。
> >
> > 2「銀英伝世界では、恒久移動要塞や無限の自給自足システムができるかもしれない
> という「可能性」を指摘されたのではありません。それ以外に解釈のしようがない」
> > もし、これを否定するとなると、上記4つの引用は、どのように解釈するのでしょう
> か?
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
>  何をもってこれが納得の可否を問わず回答であると解釈なさらないのか理解できま
> ん。
>
この件に関してはパンツァーさんへのレスの形でこのレスの前にさせて頂きました。
私の反論ははNo.3744にあります。


> > (3) イゼルローンを本当に移動要塞化できるのか?
> (No.3635 NIGHTさんの質問)
>
> > 1.ガイエスブルグ移動要塞は、元の位置→ヴァルハラ星系→イゼルローン要塞とい
> う移動を「作中事実」としてやってのけた。また、その歳にあれほど補給を重視するラ
> インハルトが、エンジンの同調という技術的問題について言及してはいても、移動要塞
> の補給については気にもしていない。
> > 2.重量としては、ガイエスブルグやイゼルローン以上の、「長征一万光年」のイオ
> ン・ファゼカス号のような「超巨大ドライアイス船」が、奴隷階級に落とされていたよ
> うな連中の、帝国からの脱出に使用できたという「作中事実」がある。
> >
> >  で十分でしょう。帝都からイゼルローン回廊までだって、大した距離なのです。「
> イゼルローン回廊までは、安全な帝国内の移動だったから、補給を繰り返しながら何と
> か行けただけかも知れない」って説明の「作中事実が裏打ちしている根拠」は何なので
> すか。Kenさんは、何も示していないではないですか
> (No.3611 不沈戦艦さんレス抜粋)
>
> > 銀英伝3巻P45上段13行目
> > <現在のワープエンジンの出力では、巨大な要塞を航行させることはできないので、
> 一ダースほどのエンジンを輪状にとりつけ、それを同時作動させることになる。技術上
> の問題はなく、あとは指揮官の統率力と作戦実行能力の如何による・・・。>
> >
> > これはシャフトの台詞ですが、「移動要塞論」を否定したいがために、「技術上の問
> 題はなく」という台詞を否定しますか?
> > それこそ、銀英伝の否定ですよ。
> >
> > 繰り返しますが、質量が大きくなることで、加速時間を要する、ということだけが考
> えられる問題点です。
> > 「現在のワープエンジンの出力では、巨大な要塞を航行させることはできない」
> > と書いてある所以です。
> >
> > ☆Kenさんの「帰納」法
> >
> > > 恒久移動要塞を可能と帰納するための例証は、依然としてガイエスブルグしかあり
> ません。例証が一つしかないというのは、一般則を帰納する上で、重大な障害であると
> 思います。
> >
> > 上で述べましたが、
> > 「一つの帰納」によって、「大結論」(移動要塞論)が導かれないからといって、そ
> れは「作品の仮定の証明」ができない、ということを意味しません。
> >
> >
> > 「物体の移動」に関する信頼性に値する理論が、(質量の異なる)「艦船の移動」に
> よる帰納により証明されて、存在する上であれば、
> > 既に「質量」を問わず、原理は確立しているのです。
> > 上記のシャフトの台詞「技術上の問題はなく」も、無視しますか?
> >
> > むしろ、ガイエスブルグ要塞という実例が存在することにより、「原理的に可能」が
> 「実際的に可能」の段階まで高めれているのです。
> (No.3685 パンツァーさんレス抜粋)
>
> > 同盟側は「“できるかもしれないのでやってみる価値”がある」(原作6〜8巻時点)
> が妥当な結論ですね。
>  古来の戦争のセオリーで「援軍のない篭城戦は必敗する」は例外は無かったはずでか
> つ「防御側に対して3倍以上の戦力で攻撃した場合の勝率は高い」も攻撃側に致命的な
> 錯誤がない限りおおむね通用します。
>  そして流石にラインハルトもこの点についてはほぼ戦略的失策を犯していないのでお
> そらくフィッシャー戦死後の「回廊の戦い」は「ヤン艦隊壊滅(もしくは壊滅的打撃)
> の後回廊両側面からの艦隊砲撃か漫画版
> のシトレ元帥が試みた無数の無人艦特攻などで要塞陥落」の流れに本来なっていた可能
> 性は極めて高いと思うのですが。
>  しかし逃亡できるなら話は別です。
>  この時点でヤンは「無尽蔵の補給港」を持って艦隊戦力と共に逃げてこそ無用の人死
> にを避け勝機を待つ事ができたのです。
>  これについては「駄目で元々」で移動要塞プランに着手して非難されるいわれはまず
> ありません。
>  おそらく一番あの時点で混乱が少なかったであろう「投降して帝国に釈明する」を選
> 択できなかった時点でどうあれヤンは「戦う」選択をしたのですから「100%の敗北
> 」を避けるあらゆる努力を試みるべきではなかったでしょうか。
> (No.3610 拙文より抜粋)
>
>  とりあえず最低限の範囲で以上ですが御納得いただけましたでしょうか。
>
それぞれの観点から問題点と私の意見を述べます。

技術面の問題
(1)イオン・フォゼカスの問題については先の議論結果によることになると考えます。
議論の結果により移動要塞の実現性にも陰りが出る可能性があります。

(2)作中事実に従うならガイエスブルグ以前にワープエンジンの同期技術の記述がありません。
つまり、ガイエスブルグ以前にワープエンジンの同期技術はなかったと考えられます。
エンジンの同期は発想の転換であっても同期させること自体の技術にはノウハウが必要
と考えます。シャフトがラインハルトに進言した時には思いつきだけでの発言ではな
く、基礎実験は終わっていると考えるのが自然です。技術者である以上、何も実験し
ていない内に無闇に出来るとは言わないと考えます。(もちろん終っているのは模型等
のレベルでの基礎実験で40兆トンもの大質量のワープはガイエスブルグが初めての事
だと考えます。)同盟での同期技術の実現性の問題があると考えます。

(3)質量が増える事による問題については、単純に考えれば同期させるエンジンが増加します。
同盟の場合はガイエより多いエンジンでの同期技術が可能かという問題があります。
通常航行のエンジンはほぼ正比例で考えれば良いと思いますので1.5倍(〜3倍?)程度の
エンジンの同期技術が確立できるかの問題になると思います。
私の意見としては同期技術を確立できなかったという回答でも良いのではないかと思います。
ワープエンジンについては何に依存しているのか正直分かりません。質量かもしれない
し他のものかもしれません。しかし、40兆トンという質量に対して驚愕を覚えている
描写があるので質量に依存していると考えるのが自然かもしれません。


(4)同盟の通常艦船が約4000光年を3〜4週間、ガイエが約6500光年を同程度で移動して
います。ここからワープエンジンについて技術格差があるのではないかと推測してい
ますがどうでしょう?格差があるとすれば同盟でも移動要塞をすぐに建造できるかは
疑問符が付きます。

(5)燃費の問題については議論の前提となる「記述がない部分」の扱いによると考えま
す。私としては裏設定を入れても良いと考えていましたが冒険風ライダーさんは認め
ないようです。もちろん私としても無制限に裏設定を入れても良いとは考えておりま
せん。作品内で明記されている事実に反しない範囲での事です。しかし、それを認め
ないと言う事であれば議論の前提が違うのですから納得しあえるわけがありません。
この議論の前提については重い議題ですのでここでは止めておきます。ですので、
裏設定を入れない前提においては燃費問題は解消されたと認めます。



工事面での問題
(6)慢性的に人不足な状況であって「“できるかもしれないのでやってみる価値”がある」
程度の動機で人数を割けるかという問題です。資源の集中はあらゆる面で生きてきます。
10人や20人の人数ではなく万単位の人員です。艦船の修理、弾薬の生産に人的資源を集中
したとしても不思議ではないと考えますが。

(7)イゼルローンのワープ実験についてです。同盟で初の大質量ワープにおいて500万人
の人員を乗せての初実験は現実的ではありません。必要最低人数を乗せての実験を行っ
てから本格運用に入る事でしょう。とすれば、500万人の移動に膨大な時間の浪費が発生
します。それが同盟に可能であったかという問題です。


戦略的問題
(8)イゼルローンとガイエスブルグの置かれている状況の違いがあります。ガイエは
帝国深部に位置する戦略的意義の少ない要塞です。実験失敗で失う事になっても痛手は
少ないでしょう。イゼルローンは最前線の戦略的要衝に位置する要塞です。これを
実験失敗で失う事になれば大きな痛手です。おいそれと実験は出来ないと考えます。
もっとも良い方法は同盟の安全地帯で移動要塞を建造してから動かす方法です。しかし、
それだけの資金力と時間を同盟が用意できるかどうかは検討が必要でしょう。


運用での問題
(9)少なくとも通常航行エンジンの出力と質量は依存関係にあると考えます。
ガイエは質量40兆トン、艦船は数十万トンのオーダーです。これを元に考えると、
移動要塞では1つのエンジンにつき(40兆÷数十万÷12=)数百万〜数千万倍の出力が必要に
なります。とても一朝一夕には出来る技術ではないでしょう。ですので、加速するまでに
非常に多大な時間を要すると考えられます。
そうすると亜光速ミサイル(氷塊等)が来た時の迎撃は兎も角、回避は難しいと考えます。

(10)エンジンに弱点を抱えている点があります。弱点を12箇所も抱え、亜光速ミサイルの
回避も困難となれば潰される可能性は高いでしょう。回廊のような地の利を得た場所なら
兎も角、敵地のど真ん中で足を止められた場合は防御は困難になると考えられます。


政治的問題
(11)要塞司令官が勝手に要塞を改造する権利があるのか微妙な所です。移動要塞への
改造を申請して却下されたのか申請そのものをしなかったのかは記述が無い以上判断
は出来ません。先に述べた「記述が無い部分」の扱いの問題になりますので裏設定を
容認しない前提であるならば申請・報告そのものをしなかったという解釈で結構です。


上記のような疑問点がありますが、議論の前提が違うようなので合意することは難しい
と思っています。


No. 3782
Re:移動要塞の技術問題について
古典SFファン 2003/02/26 05:39
RAMさん:

後のほうで私はネタをばらしていますが(笑)、
本来のイオン・ファゼカスは、というより3巻が書かれるまでのイオン・ファゼカスは、
ワープ船としての設定で不自然はなかったと考えています。

ワープ船の質量で技術的な限界が設けられたのは、現実時間で後の話であると言うのが、当方の推測です。
が、シリーズを通して読んでいる読者としては、世界設定を一貫して眺める時、3巻以降の設定が全篇を貫いていると考えるのか、
「仕方ないなあ」と苦笑して多少の問題には目をつぶるのかを選択しなければなりません。

証明に物理学を使ったのは、亜光速以下の航行に関する物理学は、アインシュタイン以来半世紀以上、ハードSFファンの間で
面白い遊び道具として用いられて来たものであり、私にとってはなじみの小道具であったからです。
仮想的にこれを銀英伝の世界に持ち込む時、発言中で私はよく、
「(もし)われわれの世界とあの世界の星間地図が近似しているとすれば・・・」
に代表されるような物言いをしています。
対戦相手の方々は、これを否定することが出来ますが、そのための材料が銀英伝の中から拾えないようなパラメータを、私は意図的に選んでいました。
(「そう言うことは書いていない」と言う答えが良く用いられています。)
亜光速航行に関する証明は、「工学的に核融合エンジンがまだ作れなかったり、バサード・ラムの建造に必要な強度を持つ素材が高くついたり」
している以外、実は既に数字的なスケルトンがはじき出されている事でも有名なのです。
私は、自分がそれに必要な数字を拾い出せる事を(おぼろげにですが)議論を始める前から知っていました。
それに関する議論は半世紀以上の間に世界中のハードSFファンが蓄積してきた技術的ギミックの宝庫であり、
私は、それを取り出して利用すれば良かったという事です。
われわれがやっているような議論が、当時は掲示板もなく雑誌や手紙や口頭で対話するしかなかったハードSFファンの間で喧喧囂囂行われ、
その煮詰まった結果の一部があれなのです。
(半世紀ほど先輩の議論の遺産と言う感じですね)
実際には私も、「現実にはまだ出来ていない」道具を使ったり、都合の良いパラメータを幾つか選んだりしています。
しかしその「まだ出来ていない」道具は、銀英伝の世界では既に実現されており、使っても良いと判断しての事でした。
核融合エンジンはあの世界にはもうあるし、亜光速航行自体も可能になっているし、バサード・ラムはヤンが使ったので、それ以上
それらについて考察したり、よく知られている事以外の物理的性質を詰めたりはしなかったのがその例です。

ちょっと前になりますが、亜光速ミサイルの話をした時は、作中では問題とされていない
「光速付近では星間物質がぶつかって来る(抵抗がある)ので、ラムスクープ場が保持されていないとミサイル自体が破壊される」
「質量が小さいと使いにくい」
「助走距離が長く必要」
と言いました。
作中にそう言う事は書いていないのですが、そういう事がないと、亜光速ミサイルは万能兵器になってしまいます。
それよりは、制約があり得る事を指摘した方が、作中でそれが使われていない理由をおぼろげにでも示す事になって面白いと考えていたからです。
(この時は、レスの順序の関係で仮想設定を出したのがSAIさん、つつくのが私という格好でしたから、やり方としてもその方が順当であったかと思います)
さらにごく薄いガスにでもぶつかったら自滅しかねないと言う性質が加わると、このミサイルの使いどころは、
「大気のない衛星の上にあるなにか」「人工衛星」「要塞」
相手が主となってしまうと言うのが、私の組み立てた推論の帰結でした。
それは、計算により事実と証明する事が可能で、なおかつ銀英伝中ではそういうシチュエーションに対する解が書かれていないので、
(ヤンが使った氷塊は衝突直前まで速度を上げつづけており、つまるとところラムスクープ場が保持されていたはずなのです)
「作中事実と矛盾しない、完全な証明が可能」な事例に属します。
この証明の完全さはほぼ純粋に物理的なものですが、計算すれば誰にでも破るための数字を探す事が可能だという点では、完全に公平なものだと、私は考えています。
そもそも、私が「亜光速」関連でした発言は、
「そのような設定の取り扱い方は”あり”?」
と言う事後承諾をしていただかないと呑めない格好になっています。

私は、対象とした作品の隙間に収まり、なおかつ矛盾が起きない材料を探しました。
例えば空想科学シリーズなどでは、隙間に合わない材料を押し込んで作品を壊し、それを笑ってしまう傾向が見えます。
それはそれでいいのかも知れませんが、そういうギャグは、私の趣味ではありません。
例えば、帝国軍が「亜光速のイオン・ファゼカスを追跡する」事が可能かどうかを論じた時、私は逆に、彼らが追跡を完了させる事が可能である方法を2つ、提示しています。
十分な数の船を揃えるか、逃走方向を知っていれば、やりかた次第で、
「探知距離1000光秒」の追跡は完了し、イオン・ファゼカスはつかまってしまうのです。
同発言で「無理っぽい」と言ったのは、うまくその条件を満たすパラメータを探すのはしんどそうだと、ざっと計算した時に分かっていたからです。

イオン・ファゼカスがワープ船である方がうまく逃げられる事は言うまでもなく、私もそれは肯定しています。
が、出発点として設定のほころびがあり、それを埋めるために亜光速船説を持ち出しているのがその時の私のスタンスなので、
「ワープ船だ」という意見に転向しては話がそこで終わってしまいます。
ワープ船であるのが「自然」なのは、3巻設定が行われる前の話で、
そもそも作品世界が終始一貫していないしわよせをどこに持っていくか、
というのが「イオン・ファゼカス亜光速船説」なのです。
思うに、この件に関する説明がどれも結構ぎくしゃくしているのは、そもそも世界設定のほうがほころびているせいです。
これは特例ということであって、何にでも安易な設定を持ち出す事は、私もどうかなと思います。

私がしている「IF」は、「もし作品世界の物理が我々と同じであったら?」=「問題は消え、あの世界は安泰になる」
という回答パターンです。
逆にやると世界観を壊してしまいます。
そういうので遊ぶのも悪くないかも知れないですが、趣味ではありません。
要は方向性の問題であるというのと、何にでもそう言う事をしてはいけないというのは、(不沈戦艦さんではありませんが)私も思います。

イオン・ファゼカスが亜光速船であっても、世界設定は崩れません。
ガイエスブルクのワープと、イオン・ファゼカスは関係ないのです。
そのためには3巻設定があって、ちゃんと作者自身が説明を行っています。
イオン・ファゼカスをほっておいたほうが、3巻設定との矛盾であるというのが、当方の仮説です。
何しろあれは1隻しかありませんし、例外的に巨大だし、冒頭にしか出てこないしで、特例にするには都合よかったのです。


No. 3783
Re:移動要塞の技術問題について
古典SFファン 2003/02/26 07:48
なお、物理学的な話でなく、設定レベルにより近い当方からの
「移動要塞関連」の意見に関しては、3698をご覧ください。

(1)移動要塞は無敵ではない。亜光速ミサイルを、各恒星系に幾らかでも配備すれば足止め可能である。
足の止まった移動要塞を破壊するのは、物量を集中すれば時間の問題である。
(2)(別発言ですが)亜光速ミサイルは廃物の宇宙船を重くしてバサード・ラムをつければ出来るので、どこででも作れる
(3)静止要塞と移動要塞では、どうしてもエンジンの分移動要塞のほうが弱点が多い。
静止要塞は穴だらけにされてもそこにあれば意味はなくさないが、移動要塞はエンジンが壊されると意味が半分なくなってしまう。
足が止まった時に居る場所が戦略的に価値の低いところなら、構わず壊されてしまう可能性が高い。
(4)ゲリラ戦を戦う気なら移動要塞にしてもいいが、弱点を勘案してヤンはそうしなかった(のではないか)。
要するにオプションには入っていたはずだが、そうするデメリットも見えていたのでやめたと。
もともと、亜光速ミサイルの発想の元になっている氷塊を使ったのも、
エンジンを破壊してガイエスブルクを破った張本人もヤンですからね。
私が考えるような事は、彼なら全て考えられても不思議ありません。
(5)逃げる気なら要塞はいらない
ヤンは逃げ上手です。
つまるところ荷物を捨てて逃げるのは、彼の得意技です。
作中で艦隊が逃げ回るのはちょっと大変ですが、ばらばらに逃げるのはさほど大変ではありません。
帝国が一応封鎖していたはずなのに、ボリス・コーネフの船がヤンのところにたどり着いたりしています。
逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう。
特に移動要塞は必要ありません。というより、移動要塞に固まっていればそれを叩けば良いので、帝国に捕まったら一網打尽です。
「1個の移動要塞と1個の宇宙船」では、逃げる時要塞のほうが遥かに有利なのですが、
「1個の移動要塞と、ばらばらのグループに分かれた少数の宇宙船群」
では、逃げる時少数の宇宙船群の方が有利です。
実のところ逃げる時でも多少なりとも戦えた方がいいのですが、あの世界では逃げる宇宙船を追うのが容易でないのは、
別のレスで私は計算により確証を得ています。
探知距離1000光秒では、亜光速船でさえ追うのに散々な苦労があるのです。
ワープ船をろくに追えないのは無理もありません。
余談ですが、バーミリオン会戦で帝国軍と同盟軍が戦った時、
1000光秒を1単位とする情報システムが作られ、使われていた説明があったはずです。
他の部分と矛盾しない形でこれを説明するとすれば、まさに
「1000光秒刻みでしか確実な探知できないので、それを埋めあわせるために探知機をばら撒いて情報システムを組んだ?」
と、私には思えます。

(1)〜(5)からして、
「移動要塞を戦略地図に入れなかったのではないか」
というのが、回廊決戦時のヤンの行動の、私に納得の出来る説明です。

技術者として、私はハードウェアを信頼はします。
しかし、それを信仰はしません。
移動要塞について効果的に破壊できる手段を案出したのは、
「無敵のハードウェア」という発想に違和感があったためです。
と同時に、要塞を防御する可能性についても、亜光速ミサイルに関する議論では挙げています。
あの作品において、矛と盾の関係は暗黙に同等で、圧倒的に強力な武器は例外的なものであるというのが基本であると、私は考えているからです。

そして、作中におけるヤン・ウェンリーもまた、無敵のハードウェアに対する信仰を持たず、
その発想を逆用して間隙を衝く名人でした。


No. 3784
Re:移動要塞の技術問題について
古典SFファン 2003/02/26 08:45
あ、1つ申し上げておきます。

私はこの議論において、終始一度も
「イゼルローンの移動要塞化は実現できない」とは言っていません。
Nightさんへのレスでは、逆に
「可能」
と回答しています。
1個の実例があるからです。純粋に技術的には、帝国がやれた事は同盟にもやれる可能性があるというのは、あの作品におけるセオリーです。

質量・燃費・工数などの問題については、他のレスで純粋な工数については「1.5倍〜3倍?」とは応答しています。
しかしそれを以って不可能だとは言っていません。
「つらいかも」と言っているだけです。

私が述べたのは「ヤンがそれをしなかった理由」に対する考察です。
実際に作中でヤンはそれをしていません。
しなかった理由が十分なものであるか、そうでないかを考察する事自体は、作品を損なったりしません。
その意味では、冒険風ライダー氏と私は、方向性が逆であるだけで同じような事をしているのではないか、と私は思います。

様々な理由から、冒険風ライダー氏の移動要塞論と、その結果出て来るヤンやラインハルトへの評価には同意できないところがあります。
が、その全容を書き並べても意味はないし、分岐している各論においては私には興味のない事も多いので、
話を自分が最も得意とする事に絞っただけです。
(技術屋に数字を触らせたら、その講釈が岩をも砕くほど固くなるのは当然です)


No. 3786
Re:とりあえず数点だけ
Ken 2003/02/26 09:53
はじめに、冒険風ライダーさんの、以下の発言の解釈ですが、

<これはないでしょう。作品の外から「現代世界の物理法則に基づいた要塞の燃費問題」を持ち出してきたのであれば、その正当性や妥当性の立証責任は100%「持ち出してきた側」にあるのです。そしてその証明が「できるかもしれないし、できないかもしれない」で良いはずがないではありませんか。>

もちろんこの発言の主旨は、パンツァーさんが言われるように、作品の外から設定を持ち込むことには重大な責任を伴うというものです。別に誤解したとは思いません。

私が言いたかったのは、冒険風ライダーさんは、「恒久的移動要塞」「無限の自給自足能力」といった、銀英伝に直接記述のない設定を持ち出したのであり、上の発言を考えると、そのことに対する立証責任があることをよく理解されたうえで、私が前回引用したような「立証した」という発言を繰り返したはずだ、ということです。つまり、自分の説が唯一の説で、他の説は成立しない、という主張です。


<イゼルローン要塞が有限の資材しか提供できないとしたら、50年という期間を区切ってみても、有限性が明らかになるのです。
50年経てば、イゼルローン要塞の提供能力の40%を消費するとか、90%であるとか、そういう次元の話になります。
キャゼルヌが「何ら懸念を抱いている様子がない」というのは、提供能力の何%を消費したとかいった計算すらしていない、ということを意味します。
これは、イゼルローン要塞が無尽蔵の生産能力を有しているから、としか考えようがないのです。>

私は今回の一連の論争を通し、主に大質量の移動に焦点を当ててきましたが、この際ですから、イゼルローン要塞の「自給能力」の正体について、考察します。はじめにユリアンとキャゼルヌの会話を引用します。

「いまイゼルローンが安泰でいられるのは、皮肉なことに、その戦略的価値を失ってしまったからです。価値が回復されるとき、つまり帝国に分裂が生じるとき、イゼルローンにとって転機がおとずれるでしょう」
「ふむ……」
「どのみち、急速に事態が変わるとは思っていません。国父アーレ・ハイネセンの長征一万光年は五〇年がかりでした。それぐらいの歳月は覚悟しておきましょうよ」
「五〇年後には、おれは九〇歳近くになってしまうな、生きていれば、だが」
(乱離篇第九章−1)

ユリアンは「いまイゼルローンが安泰」であるとし、その事態が急速に変わるとは思っていません。50年程度その状態が持続する、とは、このように帝国との戦争状態がないことを前提にしています。

ひるがえって、「無限の自給自足能力」について述べた、冒険風ライダーさんの発言は以下のとおりです。

(#1726-1727)
<この「無限の自給自足能力」が、戦術的にも戦略的にも、そして政治的・経済的にも、味方には莫大な利益を、敵には多大な脅威を与える「最強の武器」なのです。何しろ、要塞を防衛する側は、理論的には永遠に補給の心配をすることなく戦い続けることができるため、長期にわたる籠城戦が可能となるのですし、また要塞を攻撃する側は、要塞が保有する「無限の自給自足能力」のために、補給物資の欠乏を促す封鎖作戦を展開することがほぼ不可能で、まともに要塞を攻略しようとするのであれば、常に力攻めによる短期決戦を強要されることになるのです。>

このように、こちらは要塞が外敵と戦争状態にあることを想定しています。つまり、ユリアンやキャゼルヌの発言とは、前提が異なるのです。大量の物資を消費する戦争状態が「ない」場合の話を「ある」場合に適用した時点で、論理的に破綻しています。

そもそも、銀英伝の直接記述のみを問題にすると、要塞の自給自足能力を否定する記述こそ見受けられます。

純軍事的に見れば、帝国軍の回復力は無限にひとしく、ヤン・ウェンリー軍のそれはゼロに近い。(乱離篇第三章−4)

艦隊行動としては、まことに単純である。縦隊をもって突進し、集中砲火をあびせ、敵前回頭して反転しつつなおも砲撃し、後退する。第一隊が後退したとき、第二隊が前進し、集中砲火をあびせ、敵前回頭して反転しつつなおも砲撃し、後退すると、第三隊がこれにかわる。これを連鎖させて、防御陣が疲労し、消耗し、補給物資を費いはたすまでくりかえすのである。
この戦法をつづけられれば、回復力においていちじるしく劣勢なヤン艦隊は、戦力をじりじりと減殺され、削ぎおとされて痩せほそり、ついには宇宙の深淵に溶けこんでしまうであろう。(同第四章−5)

*ヤン・ウェンリー軍の回復力はゼロに近い。
*ヤン艦隊の回復力はいちじるしく劣勢。

これらは、ユリアンやキャゼルヌの台詞から間接的に推測したものなどではありません。そのものずばりの直接記述です。これらの直接記述からして、「無限の自給自足能力」など幻想の産物であることが分かります。イゼルローン要塞に無限の補給力があるなら、すくなくとも前線が「補給物資を費いはたす」ことはないでしょう。いくら使おうが、要塞から補給してやればよいのです。

こういう行き違いを生じるからこそ、「50年」を「半永久」と言い換えるようなことをしてはいけないのです。「50年」は、いくら長くても有限の数字です。有限なればこそ、戦争状態の有無のように、条件が変わることで、50年がそれよりもっと短くなりうる、という考察が可能になります。ところが、一旦、無限という設定にすりかえると、いくら物資を費消しても、尽きることがありません。


<私は、Kenさんの文章を読む限り、「無限の自給自足能力」は、静止要塞のこととしか取れないといったのです。
「無限の自給自足能力」と「エンジンの燃費の皆無」とをベースにして、「移動要塞」が出来上がる以上、このようにしか読めないではありませんか?>

分かりました。そういうことなら、パンツァーさんの発言自体は詭弁ではありません。謝罪します。


<イオンファゼカス号にしろ一般艦船にしろ、移動化されたガイエスブルグ要塞にしろ、駆動手段は、この三美神の系列で考える必要があります。ワープエンジンや通常エンジンを備えたもの同士である、ということです。したがって、駆動手段の異なる帆船とタンカーは、基本的性質が異なるので、まったく適切な例ではありません。>

イオン・ファゼカスがワープをしたかどうかは、別スレッドで論争が続いています。

ガイエスブルグはもちろんワープをしていますから、たしかに100トンの帆船と20万トンのエンジン船を持ってきただけでは、論理に不完全さが残ります。ご指摘ありがとうございます。

ただ、この件に関して、ずっと続いてきた議論は、艦船が無補給で長期間航行できる(これも、直接記述があるわけではありませんが、論点を簡略にするため、いまは「できる」ものと仮定します)ことをもって、質量がはるかに大きい要塞も同じことができるか、というものでした。銀英伝に登場する数字のみを採用する限り、要塞は艦船の2億倍の質量をもつわけです。2億倍というのは、半端な数値ではありません。ガイエスブルグが20万トンタンカーとすれば、輸送船は1キロのおもちゃの船になってしまいます。

問題になっているのは、駆動の手段そのものではなく、駆動に必要なエネルギーをどのように確保するか、という点です。同じくワープエンジンを利用するにも、帆船が風を利用するようにエネルギーを外部調達できるか、タンカーのように燃料を自分で運ばねばならないか、です。無補給航行のためには、エネルギーの外部調達が必要です。

そのようなエネルギー外部調達の実例を、「銀英伝に書かれていること」から見つけようとすると、見つかるのは一つしかありません。ヤンが氷塊の加速に利用した「バサード・ラムジェット」です。ただし、厳密な意味でのバサード・ラムジェットではワープはできません。現実世界で論じられるバサード・ラムジェットも、作品中で実現しているものも、ともに亜光速を出せるだけです。「書かれていること」しか持ち込まない、という前提に立つと、「無補給航行」はその時点でアウトになり、登場人物が艦船の燃料補給を問題にしないのは、あくまでも、数ヶ月の作戦期間(帝国領侵攻は約3ヶ月、ラグナロックは5ヶ月継続)なら、積載燃料が余裕でもつから、ということになります。また、イオン・ファゼカスも、アルタイル7で積み込んだ燃料で航行をしたことになってしまいます。

「バサード・ラムジェット」を拡大解釈し、とにかく宇宙空間から燃料を取り込むこと、とすると、どうなるでしょうか。宇宙空間から取り込んだ物質を燃料に得られるエネルギーでワープをするわけです。

この方法については、最初に観察中さんが問題を指摘し、私自身が補足説明を加えていますが、艦船が大質量になるほど、エネルギーを確保するため大量の星間物質を引っ張ってくる必要があり、引っ張ってくるのに必要なエネルギーと、引っ張ってきた物質から得られるエネルギーが、どこかで必ずクロスします。

このことから、質量が大きい物体ほど、無補給航行ができない可能性が高くなる、ことが分かります。ただし、それが20万トンの艦船と40兆トンの要塞の運命を分けるか、となると、肝腎のワープの原理が分からないので判定できません。考えられるシナリオは3つです。

1.クロスポイントは20万トンより小さい。よって艦船も要塞も無補給航行はできない。
2.クロスポイントは20万トンより大きく、40兆トンより小さい。よって艦船は無補給航行できるが、要塞はできない。
3.クロスポイントは40兆トンより大きい。よって要塞は(すくなくともガイエスブルグは)無補給航行できる。

ということになります。結論として、要塞が無補給航行できるとも。できないとも、証明することは不可能です。恒久的移動要塞の実現性を、我々読者が判断することはできないわけだから、ラインハルトやヤンのような、作中人物の判断を信用するしかなくなります。

今回の投稿は以上です。


No. 3787
Re3783:索敵の実態と移動要塞論の本質
冒険風ライダー 2003/02/26 20:28
<(5)逃げる気なら要塞はいらない
ヤンは逃げ上手です。
つまるところ荷物を捨てて逃げるのは、彼の得意技です。
作中で艦隊が逃げ回るのはちょっと大変ですが、ばらばらに逃げるのはさほど大変ではありません。
帝国が一応封鎖していたはずなのに、ボリス・コーネフの船がヤンのところにたどり着いたりしています。
逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう。
特に移動要塞は必要ありません。というより、移動要塞に固まっていればそれを叩けば良いので、帝国に捕まったら一網打尽です。
「1個の移動要塞と1個の宇宙船」では、逃げる時要塞のほうが遥かに有利なのですが、
「1個の移動要塞と、ばらばらのグループに分かれた少数の宇宙船群」
では、逃げる時少数の宇宙船群の方が有利です。>

 こんな方法が行えるくらいならば、そもそも最初から「要塞に立て籠もって戦う」などという「100%必敗確実の方針」など取らずに、イゼルローン要塞を放棄して戦力そのものをも各地に分散させてしまった方が却って良かったのではありませんか? それこそ私が最初に引用した、ヤンがユリアンに語っている「人民の海」作戦の戦力分散版でも行っていけば、ヤン自身がはっきりと認めているように、それこそが「ベター」な策であったことはまず間違いないのですし↓

銀英伝8巻 P216上段〜P217上段
<さらには、「共和革命戦略」についても、ヤンは語ったことがある。イゼルローンを再占拠した後の一日である。
「吾々は、イゼルローン要塞を占拠するという道を選んだが、ほんとうはもうひとつ選択肢がなかったわけじゃないんだ」
 それは、革命軍の移動する先々に、共和主義の政治組織を遺してゆくというやりかたである。あえて単一の根拠地にこだわらず、広大な宇宙それ自体を移動基地にして、「人民の海」を泳ぎまわるのである。
「むしろそのほうがよかったのかもしれないな。イゼルローンの幻影に固執していたのは、私のほうだったかもしれない、帝国軍の連中ではなくて」
 後悔というほどの強烈な思いではないにしろ、ヤンには残念に思う気分があるようであった。ヤン家の一員になって以来何千杯めかの紅茶を彼の前に差しだしながら、ユリアンは当然すぎるほどの質問をした。
「どうしてそれが不可能だったのです?」
 ヤンの戦略構想が無に帰し、次善をとらざるをえなかった理由を、ユリアンは知りたかった。可能であれば、最善の途をヤンはとったにちがいないのだから。
「資金がなかったからだよ」
 即答してヤンは苦笑した。
「笑うしかない事実、とはこれだな。吾々はイゼルローン要塞にとどまっているかぎり、食糧も武器弾薬もどうにか自給自足できる。ところが……」
 ところが、イゼルローンを離れて行動すれば、定期的な補給が必要不可欠になる。バーミリオン会戦のときには、同盟軍の補給基地が利用できたが、今回はそうはいかない。物資の提供に対しては金銭で酬いねばならないが、資金がなかった。掠奪は絶対に許されない立場である。自給自足できる根拠地にたてこもらざるをえなかった。最初に充分な兵力があれば、ガンダルヴァの帝国軍基地を急襲し、その物資をえた後に方向を転じる方法もとりえたが、それがヤンに備わったのはイゼルローン占拠後のことだ。
「戦術は戦略に従属し、戦略は政治に、政治は経済に従属するというわけさ」>

 しかし、上記でもはっきりと語られているように、「無限の自給自足システム」が搭載されているイゼルローン要塞に拠らなければ、ヤン側には常に「定期的な補給」の問題が付きまとうことになるのですよ。「逃げて民主主義を守るつもりなら、ばらばらに逃げれば済む事でしょう」って、「あの」ヤンでさえも言及している「定期的な補給」の問題は一体どうするつもりなのでしょうか? まさか帝国に追われながら宇宙海賊にでもなって「義賊」として活躍する、という類の「夢物語」でも実行するという話なのですか?
 どうもこの辺りの考え方がよく分からないのですよ。勝算のない戦いでわざわざ大きな損害を出した後に将来性のない逃亡を行う戦略的・政治的意義や、逃亡した後に一体どうなるのかという構想自体が全く見えてこないのですから。この辺りは本当に典型的な「反対の為の反対」に陥っているのではありませんか?


<実のところ逃げる時でも多少なりとも戦えた方がいいのですが、あの世界では逃げる宇宙船を追うのが容易でないのは、
別のレスで私は計算により確証を得ています。
探知距離1000光秒では、亜光速船でさえ追うのに散々な苦労があるのです。
ワープ船をろくに追えないのは無理もありません。
余談ですが、バーミリオン会戦で帝国軍と同盟軍が戦った時、
1000光秒を1単位とする情報システムが作られ、使われていた説明があったはずです。
他の部分と矛盾しない形でこれを説明するとすれば、まさに
「1000光秒刻みでしか確実な探知できないので、それを埋めあわせるために探知機をばら撒いて情報システムを組んだ?」
と、私には思えます。>

 観測・索敵における有効探知距離500〜1000光秒というのは、以前の移動要塞関連議論で「要塞を光年単位の遠距離から『観測』することはできない」という主張の根拠として私が作中記述から引っ張り出してきたものですが、実のところ、観測という要素を外して純粋に「索敵」という観点で考えると、ただこれだけの要素で銀英伝世界における「索敵」というあり方が成立しているようには思えません。
 たとえば銀英伝では、広大な宇宙空間の中で単独かつ独自に行動している宇宙船が臨検を受けたり、敵味方に分かれている艦隊が特定の星系で遭遇したりするといった描写が多数存在します。しかし、艦艇の所在を把握するに際して、有効探知距離500〜1000光秒にのみ依存しているというのであれば、宇宙船が臨検の目を掻い潜ったり、敵が迎撃に向かってくる艦隊を避けて首都や戦略拠点を攻略したりすることが極めて容易に行えるはずであり、銀英伝の戦争概念自体もまた大きく変わってしまっているはずです。いや、それどころか、索敵の網の目がそこまで穴だらけであるというのであれば、宇宙海賊のような武装集団が各地に乱立して跳梁跋扈するような事態すらも招きかねず、そもそも銀英伝世界における恒星間国家が光年単位の広大な宇宙空間を実効支配していること自体、極めておかしな話であると言わざるをえなくなってしまいます。
 極端なところ、イゼルローン要塞のような「固定された拠点」を巡る戦いを除けば、銀英伝世界における艦隊決戦のほとんど全てが、広大な宇宙空間における特定の星系で、敵味方に分かれた艦隊同士が接近遭遇して戦われているわけなのですから、それを可能にする技術なり何なりが存在すると考えるのが自然というものでしょう。ヴァンフリート、ティアマト、アスターテ、アムリッツァ、アルテナ、キフォイザー、ドーリア、ランテマリオ、バーミリオン……銀英伝の作中で会戦が行われているこれらの星系における、最初の段階では最低でも数百〜数千光年単位で離れている敵艦隊同士の接近遭遇および会戦を、たかだか有効探知距離500〜1000光秒レベルの観測・索敵だけで、一体どうやって実現させることができるというのでしょうか?
 また臨検に関しては、銀英伝2巻P100〜P101で、ボリス・コーネフの貨物用宇宙船が、辺境星系に向かっていたキルヒアイス艦隊と接近遭遇し、臨検を受けるというエピソードが存在しますし、銀英伝6巻P88〜P89では、ボリス・コーネフの輸送船「親不孝号」で地球に出発したユリアン達一行が、出発第1日目も終わらないうちに帝国軍駆逐艦の臨検を受けています。そして銀英伝7巻P59には、同盟政府から逃亡したヤンの「不正規隊」を、巡視中の同盟軍艦艇が発見するエピソードまでもが存在するのです。今更言うまでもないと思いますけど、これらの事例は全て「ワープが使える艦船」を前提として発生している話なのですよ?
 さらに銀英伝5巻では、ブラックホールが存在するためにいかなる航路からも大きく外れているはずのライガール・トリプラ星系間に存在するヤン艦隊が、シュタインメッツ艦隊に発見されるという描写が存在しますし、銀英伝7巻では、戦略的要地であるランテマリオ星系から6.5光年の「近距離」にある、どう考えても航路としては全く向かないであろうマル・アデッタ星系に存在するビュコック艦隊を帝国軍は発見しています。これらのことから、索敵に際しては必ずしも限定的な航路を当てにする必要もない、ということが判明するのです。
 これらのことから、たとえ光年単位の距離においても、宇宙船や艦隊の所在をおぼろげながらでも推測・確認できる手段自体が、銀英伝世界にも一応は存在していることがお分かり頂けるでしょう。有効探知距離500〜1000光秒レベルの観測・索敵というのは、おぼろげながら把握されている敵の所在を、遭遇予測星系で座標単位&目視レベルで把握・最終確認するといったような「索敵活動における最後の詰め」を行うためのものである、と考えた方が、作品世界を破綻させない設定としては妥当なものであると言えます。
 このような世界で、たかだか1年間に進める距離が1光年以下などという「恐ろしく鈍行な」亜光速航行しか行えず、しかも要塞よりもはるかに図体の大きなドライアイスの塊を探し出すことが困難である、という説がまかり通る方がおかしいでしょう。あくまでも「亜光速航行を行っている艦艇は全く捕捉できない」と主張するのであれば、上記で挙げた「広大な宇宙空間における宇宙船および艦隊の接近遭遇が発生する謎」をも全て解消する形で証明を行って頂きたく思います。

 それから「移動要塞技術は新技術か?」については、件のムライとシェーンコップの会話以外にも、移動要塞の話を聞いたヤン自身が次のような述懐している描写が存在します。

銀英伝3巻 P158上段
<要塞をして要塞に対抗させる。要塞に推進装置をとりつけて航行させる。それは大鑑巨砲主義の一変種であり、見た目ほどに衝撃的な新戦法というわけではないが、同盟の権力者たちに甚大な精神的ショックを与え、ついでにヤンを茶番劇から解放してくれたのは事実だ。>

 歴史家志望であり、過去の歴史や戦史に精通しているであろうヤンが、移動要塞戦術を指して「見た目ほどに衝撃的な新戦法というわけではないが」と評しているわけです。件の会話でムライがシェーンコップの主張に反論して移動要塞関連の話をまとめている箇所とイオン・ファゼカスの件、銀英伝世界で「宇宙船がワープできるのは当たり前」という常識、そして上記のヤンの述懐から考えてみれば、やはり移動要塞技術は「銀英伝3巻の時点でも斬新な新技術などではなかった」と見るのが妥当でしょう。
 というわけで、私も不沈戦艦さんと同様、「イオン・ファゼカス号はワープできなかった」論には相当な無理があると考えます。


<技術者として、私はハードウェアを信頼はします。
しかし、それを信仰はしません。
移動要塞について効果的に破壊できる手段を案出したのは、
「無敵のハードウェア」という発想に違和感があったためです。
と同時に、要塞を防御する可能性についても、亜光速ミサイルに関する議論では挙げています。
あの作品において、矛と盾の関係は暗黙に同等で、圧倒的に強力な武器は例外的なものであるというのが基本であると、私は考えているからです。>

 すいませんが、私が一連の移動要塞論を提唱する際に、いつどこで「移動要塞は【純軍事的に無敵のハードウェア】である」などという主張を展開していたというのでしょうか? 私はそんなことを述べた覚えなど一度もないのですけど。
 最初から一貫して私が主張しているテーマは、「『無限の自給自足システム』こそが、主砲や外壁など足元にも及ばない『銀英伝世界における要塞が保有する【最強の武器】』であり、これがあれば銀英伝の戦争概念や、作品テーマである『補給の問題』を全て崩壊させることができる」というものであり、だからこそ、その結果として「『アレほどまでに補給の重要性を説いていた』にもかかわらず、その偉大なる可能性に気づきすらしなかったヤンとラインハルトは愚か者である」という結論が出てくるのです。
 そして私は、移動要塞の欠陥である「エンジンの弱点」や、「消費が生産を一時的にせよ上回る物量・長期戦」などに要塞および艦隊が耐えられないことをも知っていたからこそ、「その【最強の武器】を生かす最も効果的な戦法『のひとつ』として『戦いを避けて逃げ続けるゲリラ戦』が考えられるし、それはすくなくとも、かの愚劣な『回廊の戦い』における他者依存戦略などよりもはるかに勝利の可能性を模索することができる戦法ではあるだろう」と、私はヤン関連の議論では主張しているわけです。
 これは、作中でヤンが否定していたような「ハードウェア信仰」の類などではありません。「ハードウェア信仰」とは、たとえば銀英伝2巻における救国軍事会議クーデターの面々が、自分達の敗勢が一目瞭然であるにもかかわらず、「アルテミスの首飾りさえあれば首都は防衛できる」などと主張して「ハードウェアの攻撃力と防御力」にただひたすら盲目的な期待と依存心を抱いていたような状態のことを指すのです。「兵器の限界」をわきまえつつ、その長所を生かして短所を修正しながら、その最も効果的な戦略戦術や使用方法を模索する行為は「ハードウェア信仰」などではなく「ハードウェアの信頼」に属するものでしょう。
 そしてヤン自身もまた、「ハードウェア信仰」に関しては全否定していても、「ハードウェアの信頼」まで完全に放棄しているわけではないのです。それは以下の記述にもはっきりと表れています↓

銀英伝1巻 P182上段〜P183上段
<想像を絶する新兵器、などというものはまず実在しない。互いに敵対する両陣営の一方で発明され実用化された兵器は、いま一方の陣営においてもすくなくとも理論的に実現している場合がほとんどである。戦車、潜水艦、核分裂兵器、ビーム兵器などいずれもそうであるが、遅れをとった陣営の敗北感は「まさか」よりも「やはり」という形で表現されるのだ。人間の想像力は個体間では大きな格差があるが、集団としてトータルで見たとき、その差はいちじるしく縮小する。ことに新兵器の出現は技術力と経済力の集積の上に成立するもので、石器時代に飛行機が登場することはない。
 歴史的に見ても、新兵器によって勝敗が決したのは、スペイン人によるインカ侵略ていどのもので、それもインカ古来の伝説に便乗した詐術的な色彩が濃い。古代ギリシアの都市国家シラクサの住人アルキメデスは、さまざまな科学兵器を考案したものの、ローマ帝国の侵攻を防ぐことはできなかった。
 想像を絶する、という表現はむしろ用兵思想の転換に際して使われることが多い。そのなかで新兵器の発明または移入によってそれが触発される場合もたしかにある。火器の大量使用、航空戦力による海上支配、戦車と航空機のコンビネーションによる高速機動戦術など、いずれもそうだが、ハンニバルの包囲殲滅戦法、ナポレオンの各個撃破、毛沢東のゲリラ戦略、ジンギスカンの騎兵集団戦法、孫子の心理情報戦略、エパミノンダスの重装歩兵斜線陣などは、新兵器とは無縁に案出・想像されたものだ。
 帝国軍の新兵器などというものをヤンは恐れない。恐れるのはローエングラム伯ラインハルトの軍事的天才と、同盟軍自身の錯誤――帝国の人民が現実の平和と生活安定より空想上の自由と平等を求めている、という考え――であった。それは期待であって予測ではない。そのような要素を計算に入れて作戦計画を立案してよいわけがなかった。>

 このようにヤンは、「想像を絶する新兵器」なるものの存在や「ハードウェア信仰」などは全否定しても、「新兵器の発明または移入による用兵思想の転換」というものまで否定してなどいないわけです。そして移動要塞がもたらす可能性とは、まさに銀英伝の戦争概念をも覆す「新兵器の発明または移入による用兵思想の転換」に他ならないのであり、「アレほどまでに補給の重要性を説いていた」ヤンやラインハルトの性格ならば、「兵器としての限界」を考慮に入れてもなお、積極的に活用しない方がおかしいのです。
 また、銀英伝本編においても、アムリッツァ会戦で同盟軍が後方に敷設していた機雷原が、指向性ゼッフル粒子という「新兵器を使った戦術」によっていとも簡単に無力化されたことによって、同盟軍が後背を突かれて瓦解したという事例が立派に存在するのですし、また銀英伝3巻でも、ガイエスブルク移動要塞の話を聞いたヤンが、「要塞特攻を行ってイゼルローン要塞を破壊した後、代替の要塞を改めて持ってくれば良い」などという「ハードウェア的技術を使った『戦略』」さえ考案している描写が存在するのです。
 兵器の長所と短所の双方を知り尽くした上で、長所を生かした戦法を考案し、実行に移す。銀英伝作中で展開されているその実例の数々さえもが「ハードウェア信仰」として全面的に否定されなければならないものなのでしょうか? すくなくとも「回廊の戦い」などでラインハルトの胸先三寸に勝算の全てを依存するという、ある意味「ハードウェア信仰」よりもはるかにタチの悪い「根拠のない勘に基づいた【期待であって予測ではない】ラインハルト信仰」などをベースにするよりは、はるかに勝算の高い賢明な戦い方だと私は思うのですけどね。

 それと、いい加減に気づいてほしいのですけど、私があたかも「移動要塞の『戦闘力』は絶大である」とでも言っているかのような前提条件を基にして「移動要塞は無敵ではない」といった類の反論を繰り出すのは止めてもらえません? そりゃ確かに私は移動要塞を実際に戦闘に参加させる可能性を否定はしませんし、技術改良や戦術次第では有用性はあるだろうとも考えてはいますけど、それは私の主張の根幹を成す「『無限の自給自足システム』こそが、主砲や外壁など足元にも及ばない『銀英伝世界における要塞が保有する【最強の武器】』であり、これがあれば銀英伝の戦争概念や、作品テーマである『補給の問題』を全て崩壊させることができる」というテーマに比べれば、あくまでも「本体から派生した枝葉」、つまり二義的ないしは補足的なものであるに過ぎないのです。
 私の主張は、そんな「枝葉」を全て削除して「移動要塞は一切戦いには参加させない」と仮定したとしても充分に成立しえるのですから、移動要塞の有用性を否定するのであれば、本体である「無限の自給自足システム」そのものに的を絞らないと、効果的な反論になどなりえないはずなのですが。



P.S.
 それと、余計な誤解などされるのは迷惑極まりないので、この際はっきりと言っておきますが、この移動要塞論に限らず、考察シリーズ全般で基本的に私が行っていることは「作品検証に基づいた作品批判&擁護論」であり、そのテーマは「作品テーマの破綻の立証」および「作品世界設定の補完および擁護」です。それは田中作品をベースとした「2次派生作品」ではあっても、2次小説や同人誌などのような「それ自体が独立した2次創作」などでは決してありえませんし、そこで時々行っているIFシミュレーションの類も、IFシミュレーション自体がテーマと醍醐味である「反銀英伝 思考実験編」などと違って、単に自説を補強するために行っている程度のシロモノでしかありません。考察シリーズの主体はあくまでも「作品検証に基づいた作品批判&擁護論」だけなのです。
 そして、私がなぜキャラクター批判を執拗に展開するのかについても、前回の移動要塞関連議論の教訓から設置した「考察シリーズFAQ」にはっきり書いています。それについてどのような感想や感情を抱こうが読んだ人の勝手ですが、すくなくとも私の論の意図とテーマそのものを捻じ曲げた主張を行うのだけは止めて頂きたいものですね。


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