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銀英伝考察3
銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威
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No. 1886
Re:Re1854/1855/1861:まとめレス
はねだみずき 2002/05/13 21:02
はねだみずきです。しつこいようですがもう少し行ってみましょう。

<これは無理です。銀英伝5巻では、バーミリオン会戦が始まる寸前に、ガンダルヴァ星系を出発したラインハルト艦隊がバーラト星系に到達するまでの時間をヤン側が正確に捕捉している描写がありますし、そもそも銀英伝世界における艦船の航行速度は、帝国・同盟共にそれほどの格差が存在するわけでもありません。つまり、バーミリオン会戦前哨戦時の帝国側は、ヤン艦隊の行軍速度を充分に予測することができる立場にあったのであり、にもかかわらずヤン艦隊がどこにいるのかを全く捕捉できなかったのです。
 しかもあの当時の帝国軍は、ヤンが同盟領84箇所に点在する補給基地を根拠地として活動していることを承知しており、しかもその場所や航路に至るまで全て完璧に掌握していたにもかかわらず、その中からヤンが次の根拠地をどこに設定するかさえも全く予測することができなかったのです。だからこそ銀英伝本編では、あえてラインハルトの周辺を手薄にしてヤンを誘い出すという手段を取らざるをえなかったわけです。バーミリオン会戦前哨戦でこのザマでは、補給基地自体が常に移動している移動要塞を捕捉するなど夢のまた夢な話でしかないでしょう。 >

この論は私の論に対する反論としてはいささか不適切ですね。
私が言いたかったのは、「ヤン側も帝国側も相手の行動を予測するという点では互角の能力を持っていたのにもかかわらず、ヤンが帝国軍の裏をかき続ける事が出来たのは、ヤン側に何らかのアドバンテージがあり、それが『地の利』と言うものではないか」と言う事です。
冒険風ライダーさん御自身が今回の論で、
「ラインハルト艦隊がバーラト星系に到達するまでの時間をヤン側が正確に捕捉している」
と言う事と、
「バーミリオン会戦前哨戦時の帝国側は、ヤン艦隊の行軍速度を充分に予測することができる立場にあった」
と言う事、つまり両者の戦術的な相手の移動能力予測能力が互角であった事を確認されている以上、
「にもかかわらずヤン艦隊がどこにいるのかを全く捕捉できなかった」
のには何らかの理由があった事が推察される事については異存はないですね?
私がその理由として考えている「地の利」とは、例えば戦記物でも良くあるような「間道を利用しての奇襲」のように、フェザーンも知っているような正規の航路を使用せず、同盟軍にいる人間にしか知る事の出来ないような一種のバイパスのようなものを利用して、帝国の予測を越える場所に出現するような事がヤンの側には出来てもおかしくはないだろう、と言う事です。こうとでも説明しない限り、バーミリオン前哨戦においてはこの時に限ってヤンが異常に冴えていたか、帝国軍が異常にヌケていたか、どっちかの結論しか見出せませんが、それではあまりにも不自然です。
これが逆の立場になると、ヤンはイゼルローンの帝国領航路データを入手できても、「移動しない」要塞に細かな間道や脇航路の存在を記した詳細な航法システムがあるとも思えませんので(そういうデータは艦船の側にしかないでしょう)、今度は帝国軍が「地の利」を活かす事が出来るようになると思いますが、いかがでしょうか?


<しかも「襲撃目標になるほど価値のある星系は限られている」と言っても、その数はバーミリオン会戦前哨戦時に問題となった補給基地84箇所よりもはるかに大きな数字となることは確実でしょう。まず、帝国領内に点在する軍事基地はほぼ全てが襲撃対象となりえますし(これだけで100をはるかに超えるでしょう)、有人惑星も人口100万人クラス以上のものならば問題なく襲撃対象たりえますから(これは数千〜数万単位で存在しそうです)、この状況で移動要塞の襲撃対象を特定するのはほとんど不可能に近いですね。
 さらに、バーミリオン会戦前哨戦時における帝国側は、とにもかくにも84箇所の補給基地全て「攻撃」すればヤンを無力化させることができた(これですら当時の帝国軍には実行不可能な作戦だったのですが)のに対して、移動要塞戦術における帝国軍は、数千〜数万単位で存在する有人惑星&軍事基地全てを移動要塞の攻撃から「防衛」しなければならないという、あまりにも過酷な無理難題を成立させなければならないのです。ましてや相手は神出鬼没に出現し、かつ特定の根拠地を必要としないわけですから、帝国側の心理的ストレスは相当なものにならざるをえないことでしょう。
 だからこそ、帝国側が移動要塞を倒すには、万全の準備を整えた星系に移動要塞を何らかの方法で誘い出すしかないのです。これ以外の方法としては、たとえば一万光年先の敵艦隊を索敵することができるレーダーや観測装置とか、一万光年のワープ航法技術といった類の超技術でも出現させるしか手はないでしょうね。>

これもおかしな話ですね。最後に確認された相手の位置さえ分かっていれば、守らねばならないのは数千〜数万単位の軍事基地・有人惑星ではなく、「最後に敵の位置が確認された地点の周辺で、次に敵の行動範囲に捉えられるいくつかの基地・惑星」でしかありません。「有人惑星&軍事基地全てを移動要塞の攻撃範囲内に収める」などと言う、あまりにも過酷な無理難題を成立させるには、それこそ「一万光年のワープ航法技術といった類の超技術でも出現させるしか手はない」でしょうね(笑)。
細かに書くなら、イゼルローンが移動してきた時点で、標的になった地域では警報を発します。その時点で、帝国軍は直ちに隣接する星系などへ移動。イゼルローンの来た地域が破壊されている間に包囲網を敷きます。
攻撃終了後、イゼルローンが移動した先に配備されている部隊は、その足止めを図ると共に周囲に展開している部隊を呼び寄せ、包囲網を分厚くして最終的には全軍で要塞を包囲、この時点で小惑星などを持ってきて要塞にぶつけて撃破するのです。
再び「アドミラル・グラフ・シュペー」追撃戦を例に挙げますが、この時最初に「シュペー」と接触した英国艦隊は、防御、火力とも「シュペー」に遥かに劣る部隊でしたが、「シュペー」をその場に足止めしながら増援部隊を呼び寄せました。
やがて、増援部隊が到着したために勝算を失った「シュペー」は自沈を余儀なくされました。こうした戦史上の前例がある以上、帝国軍が要塞の足取りをつかんで包囲する戦法を思い付くのは容易だと思います。
とにかく冒険風ライダーさんは「神出鬼没」を強調していますが、動かない間はともかく一旦出現して基地なり惑星なりを襲えば存在が暴露されてしまい、その瞬間から移動要塞の所在を追う事は可能になるのです。第二次大戦の大西洋での諸海戦は、単独行動する通商破壊艦の限界を良く示しています。「シュペー」や「ビスマルク」などのドイツ通商破壊艦が撃破した相手の救難信号で位置を知られ、包囲撃沈に追い込まれた戦訓が実際に存在する事を考えてみて下さい。これを破るには、イゼルローンが「帝国の通信を完全に遮断」するか、「通報する暇すら与えず一瞬で基地や惑星を破壊」して、「足止めを図る部隊をそんな隙も与えず瞬時に全滅させる」能力を持たねばなりませんが、そんな事は不可能ですからね。


No. 1887
ちょっと原点に返って
はねだみずき 2002/05/13 21:03
ちょっとここで原点に帰ってみたいと思います。

そもそも「無限は質量保存の法則に反し、物理的に有り得ない」と言うのは我々の世界と銀英伝世界双方に適用されうる常識中の常識であり、私を含め皆さんが冒険風ライダーさんの主張に違和感を覚える最大のポイントもここだと思います。
そこで、原点に帰って質問をしたいのですが、冒険風ライダーさんは「要塞の無限の自給自足能力」をどのように定義しておられるのでしょうか?冒険風ライダーさんの論を見る限りでは
「要塞にはエネルギー、資源を無限に生産する魔法のようなシステムが付いている」※
と読めてしまい、ここが非常に気になる点なのです。
なお、本当に上記のようにお考えでしたら、それには反論不能なので以下の文章はお読みになる必要はありません(笑)。

私としては、要塞の持つ自給自足能力とは、「その内部に設置されたありとあらゆる種類の生産施設」なのではないかなぁ、と思います。例えば艦船、それも戦艦などの大型艦艇用の造修施設(ドック、造船所類)はそうどこにでもある物ではないでしょう。日本でも戦闘艦艇の建造ノウハウを持つ施設は限られた存在ですし。兵器の生産ラインも同様です。しかも、要塞の施設はヤン勢力の持ち物ですから、お金を払わずに使用できます。

もちろんこれらの施設を活かすには資源が必要です。イゼルローンの周りには過去数百年の戦いで撃沈破された艦船の残骸(当然良質の資材になる)がおそらく億トン単位(笑)で漂っていますから、むしろ移動せずに現地に留まった方が資源の心配をしなくて済むかもしれません。それは冗談としても、イゼルローン回廊内の資源を含む小惑星は自由に使えるでしょう。
ところが、要塞を移動してしまうと、資源の確保がやはり重要な問題になってしまいます。イゼルローン回廊以外の星域の資源は、基本的には誰かの財産ですから。艦隊放浪戦略のように完成品を買うよりは安価でしょうが、それでも資源の購入にはお金が必要になってしまいます。略奪と言う最終手段に訴える事も出来ますが、ヤンの性格的に無理ですし。
と言う訳で、私は「移動要塞の実現性」に付いては異論はないのですが、「無限の補給能力」はイゼルローン回廊と言う「自由に資源を採取できる地帯」があっての物で、両者を両立させるのは相当に難しいと考えています。

また、冒険風ライダーさんが「要塞の自給自足能力は無限」と言う根拠の第一に挙げられているユリアンとキャゼルヌの会話ですが、そもそもユリアンが要塞に最低半世紀立てこもろうと考えたのが、どんな条件下であったかを考えなければなりません。
ユリアンとキャゼルヌが会話していたのは、ヤンの死去により、ラインハルトが冷静さを取り戻して、イゼルローンに対しては「回廊の出入り口を封鎖して戦略的価値を減殺し、孤立化させる」と言う戦略を取るであろう事をユリアンが看破していた時期です。つまり、イゼルローンから仕掛けない限り武力衝突が起こる可能性は著しく低くなっていました。
また、ムライ中将が不平分子を連れて離脱した時期でもあり、500万人が居住できる要塞内の人口は89万人と著しく減っていました。それだけ備蓄物資に余裕もあったはずです。
こうした状況から考えて、ユリアンが言った「50年チャンスを待つ」とは、帝国がイゼルローンを封鎖して放置し、双方に武力衝突が起こらない状況が続く事を踏まえての発言であり、戦闘さえなければ備蓄でそのくらい長期間はやって行ける、と判断しての発言と解釈できます。
これは、ラインハルトの親征が確実視されていた「回廊の戦い」以前とは全く変化している状況下での会話であり、回廊の戦い以前の時期にそのままあてはめて読む事は出来ないものだと思います。
しかし、もっと素直な読み方も出来ます。ユリアンは「50年」と言っていますが、別にこれは何らかの根拠を持った数字ではありません。「長征1万光年」にかかった年数と言う彼らにとって「縁起の良い」数字を引き合いに出したものに過ぎません。
要するに、ユリアンの50年発言は単なる世間話であったか、あるいはせいぜい「長期戦を耐える覚悟をしよう」と言う程度の意味合いしかなかったと解釈する方が自然だと思われます。これにキャゼルヌが「50年も経ったら俺90近くだなぁ」と苦笑してみせるのも「そんなに補給が続く訳ないだろ」と親しい人間に入れるにはちょっと愛の無いツッコミを言うよりは、世間話への反応として正しいと思います。何しろ「50年持久」は正規の戦略目標ではないのですから。
ちょっと言い方は悪いですが、ユリアンとキャゼルヌの会話を「要塞の自給自足能力は無限」の根拠と捉えるのは、海水浴場にいる友人同士が
「このままアメリカまで泳いで行きたいなぁ」
「身体がふやけちゃうよ」
と言う会話をしているのを聞いて
「この会話をしている人たちはアメリカまで泳いで行ける体力があるんだ。だって泳いで行けないなんて言ってないもの」
と主張するようなちょっとヒネくれた物の見方ではないかなぁと思います(笑)。

そしてもう一つ。
移動要塞の有効性を主張されておられますが、それは「銀英伝世界の常識」でしょうか?
「移動要塞と固定要塞が対決し、移動要塞側が戦力の9割以上を損耗する大敗北を喫した」戦いがあれば、「移動要塞は固定要塞に対して劣勢」と言う戦訓が導き出されるのが健全な軍事的常識というものではありませんか。
ラインハルトとヤンが移動要塞をその後使わなかった事は、二人の軍人としての見識を証明するものであれ、愚かさを証明する証拠とは成り得ないと私は考えます。


No. 1896
Re1886/1887:移動要塞いろいろレス
冒険風ライダー 2002/05/16 00:24
<私がその理由として考えている「地の利」とは、例えば戦記物でも良くあるような「間道を利用しての奇襲」のように、フェザーンも知っているような正規の航路を使用せず、同盟軍にいる人間にしか知る事の出来ないような一種のバイパスのようなものを利用して、帝国の予測を越える場所に出現するような事がヤンの側には出来てもおかしくはないだろう、と言う事です。こうとでも説明しない限り、バーミリオン前哨戦においてはこの時に限ってヤンが異常に冴えていたか、帝国軍が異常にヌケていたか、どっちかの結論しか見出せませんが、それではあまりにも不自然です。
これが逆の立場になると、ヤンはイゼルローンの帝国領航路データを入手できても、「移動しない」要塞に細かな間道や脇航路の存在を記した詳細な航法システムがあるとも思えませんので(そういうデータは艦船の側にしかないでしょう)、今度は帝国軍が「地の利」を活かす事が出来るようになると思いますが、いかがでしょうか?>

 これも考えられませんね。
 航路図を入手した帝国側は、同盟領内の主要航路や主要星系の情報だけでなく、航路から外れた僻地のような星系に関する情報まで掌握していました。たとえば銀英伝5巻でシュタインメッツ・レンネンカンプ両提督が敗北したライガール・トリプラ星系間は、ブラックホールが存在するためにどの主要航路からも遠く離れた星系であることを帝国側は掌握していましたし、マル・アデッタ星系のような「航路としても居住地としても全く役に立たない星系」に関する詳細な情報も航路図には存在しました。しかも、おそらく同盟側にとっては最高機密レベルであるはずのイゼルローン回廊同盟側出口付近周辺宙域(アスターテ星系やダゴン星系など)に関する情報までもがフェザーンの航路図の中には詳細に記されています。これではヤンが「間道」なるものを利用できる余地がどこにも存在しません。
 また、銀英伝5巻の中にも次のような記述が存在します↓

銀英伝5巻 P152上段〜P153上段
<「ワーレンほどの用兵巧者までしてやられるとはな」
 提督たちの声は、うめきに近かった。
「いや、用兵巧者だからこそ、してやられたのだ。その点はシュタインメッツもレンネンカンプも同様だ」
 これは彼らの負け惜しみではなかった。ワーレンが戦意だけ豊かな男であれば、コンテナなど放っておいて逃げる敵を追いかけていただろう。そうであれば、かえってヤンの詭計におちいることなくすんでいたに相違ない。その意味では、明らかに、ワーレンの理性がワーレン自身の足をからめとったのだ。だがワーレンは、敗れはしたものの、一本の麦すら収穫できなかったわけではない。彼は全面潰走の寸前で艦隊の秩序を回復させ、その一方でヤン艦隊の戦闘後の行動を偵察していたのである。その結果、タッシリ星系方面からあらわれたヤン艦隊は、そのまま戦場を通過してロフォーテン星区方面へ姿を消し去ったことが確認された。
 ヤン・ウェンリーは一戦ごとに艦隊集結地と補給地を代え、移動しつつ戦っている。
 かつてラインハルトが天才によって直感した事実が他の提督たちの目にも明らかになると、帝国軍の驍将たちは、一瞬、声がなかった。この意味するところは、ヤンが特定の根拠地を持たず、むしろそれを積極的な戦略構想として確立しつつあるということだ。
「まいったな、同盟領それ自体が奴の基地になっているというわけか」
 ファーレンハイトがあわい水色の瞳に、にがにがしさと感嘆の思いをとけあわせてつぶやいた。これはいわば正規軍のゲリラ戦というわけであり、帝国軍は本拠地を持たぬ敵を追って戦わなければならないのである。その困難さを考えると、いままで彼らが踏破してきた一万光年余の征路も、長いものと思えなくなるほどだった。
 考えてみれば、イゼルローン要塞をさえ、あっさりと放棄してのけたヤン・ウェンリーである。ハードウェアとしての根拠地に執着しないのは予測しえたが、ここまで徹底するとは、そらおそろしいほどであった。
 ミッターマイヤーが軍靴のかかとで床を蹴りつけた。
「……一個艦隊」
 低い声に、膨大な量の感情がこめられている。賞賛と屈辱、感嘆と怒り、それは熱くたぎるスープだった。
「わずか一個艦隊で、わが軍を翻弄している! 奴が、好きなときに好きな場所に出現することができるにしてもだ」
 同盟軍の補給基地が八四ヶ所にのぼることは、帝国軍の知るところだが、そのいずれをヤンがつぎの根拠地とするか。それは予測しがたいところで、この場合、知識がかえって迷いの原因となるのである。>

 この記述を見れば明らかなように、バーミリオン会戦前哨戦時におけるヤンのゲリラ戦術は、敵が容易に特定できる根拠地を持たず、常に移動を繰り返しているからこそ、帝国側はヤンの動向が全く把握できず、結果としてバーミリオン会戦のような手法を使ってヤンを誘き出さざるをえなくなったわけです。
 あのゲリラ戦を展開するに際し、ヤンには間道を使う余地も、またその必要もなかったようにしか思えないのですが。


<これもおかしな話ですね。最後に確認された相手の位置さえ分かっていれば、守らねばならないのは数千〜数万単位の軍事基地・有人惑星ではなく、「最後に敵の位置が確認された地点の周辺で、次に敵の行動範囲に捉えられるいくつかの基地・惑星」でしかありません。「有人惑星&軍事基地全てを移動要塞の攻撃範囲内に収める」などと言う、あまりにも過酷な無理難題を成立させるには、それこそ「一万光年のワープ航法技術といった類の超技術でも出現させるしか手はない」でしょうね(笑)。>
<とにかく冒険風ライダーさんは「神出鬼没」を強調していますが、動かない間はともかく一旦出現して基地なり惑星なりを襲えば存在が暴露されてしまい、その瞬間から移動要塞の所在を追う事は可能になるのです。>

 あの貧弱な索敵・観測・哨戒システムしか存在しない銀英伝世界で、一度見つけただけで移動要塞の行方を「追い続ける」事が可能であると思いますか? たった84箇所の補給基地によって支えられていたヤンのゲリラ戦でさえ、帝国側はラインハルト自身を餌にして誘き出すという方法を使わなければ、ヤンを捕捉することが不可能だったというのに。
 確かに「襲撃した瞬間」は敵側も移動要塞の所在を確認することはできます。しかし、そこから恒常的に移動要塞を捕捉し続ける為には、常に偵察部隊が移動要塞に付かず離れずしながら監視しなければならないのです。しかも銀英伝世界における索敵圏内はたかだか500〜1000光秒弱の間。そこまで近づくと、当然のことながら移動要塞側にも偵察部隊の所在がつかめてしまいますので(銀英伝の中にも、敵艦隊を発見した偵察艦が逆に敵に発見されるといった描写がいくつもあります)、逆に偵察部隊側が移動要塞側によって撃滅されてしまうのがオチなわけです。
 また、移動要塞を発見したところで、今度は帝国側の艦隊が移動する際にかかる時間と手間の問題があります。帝国領はかなり広く、たとえばガイエスブルク−オーディン間の移動には通常行程20日、フェザーン−オーディン間のそれも1ヶ月近い時間がかかってしまいます。しかも銀英伝の描写を見る限りでは、移動要塞と宇宙艦隊の航行速度にはそれほどの格差が存在しないばかりか、艦隊の隊列を維持しながら行軍する手間がない分、下手をすると移動要塞の方が速い航行速度を持つ可能性すらありえます。
 さらに「最後に敵の位置が確認された地点の周辺で、次に敵の行動範囲に捉えられるいくつかの基地・惑星」に関しても、前述のようにあの貧弱な索敵・観測・哨戒システムしか持ちえない銀英伝世界の事情を利用すれば、それらを全てすり抜けてはるか後方の目標地点を「全く発見されることなく」襲撃してしまうことだって可能でしょう。バーミリオン会戦前哨戦時も、帝国側は当時自分達が根拠地としていたガンダルヴァ星系や戦闘が行われた星系の周辺の補給基地だけでなく、同盟領全域にある補給基地全てがヤンの根拠地たりえることを憂いていたくらいなのですから。第一、移動要塞がどこを目指して移動しているのかが確認できなければ、移動要塞が使用するであろう航路を特定することも、ましてや先回りして待ち伏せすることもできません。ちょっと離れてしまっただけでたちまちのうちに敵艦隊が捕捉不能となってしまうほどに貧弱な索敵・観測・哨戒システムを使って、一体どうやってそのような芸当を可能にするのでしょうか?
 では予め戦力をあちこちに配備して移動要塞の襲撃に備えればどうなるかと言うと、今度はその分散した戦力自体が移動要塞の各個撃破の好餌となってしまいます。これまた前述のように、帝国側が移動要塞から守らなければならない基地や惑星は数千〜数万単位もの数です。これに全て戦力を分散することは現実問題として不可能ですし、また移動要塞にはヤンの直接指揮下にある総計3万隻近くの艦隊まで付随しています。戦力を分散するにしても、移動要塞と駐留艦隊を総計した戦力と対等以上に戦えるだけの戦力を各部隊に保持させなければ、移動要塞側にあっさり壊滅させられてしまうのがオチですから、戦力分散と戦力集中という二律背反の選択に、帝国側は悩み苦しめられることになってしまうでしょう。
 バーミリオン会戦前哨戦も、結局のところ上記のような論法で帝国は苦しまざるをえなかったわけです。これを考えれば、あのゲリラ戦法をはるかに強化した移動要塞戦術は、バーミリオン会戦前哨戦以上の猛威を振るうこと間違いなし(ただしNo.1814やNo.1840でも言及した「ヤン個人の謀略否定体質の問題」がなければの話ですが)と私は考えるのですが、どうでしょうか。


<そもそも「無限は質量保存の法則に反し、物理的に有り得ない」と言うのは我々の世界と銀英伝世界双方に適用されうる常識中の常識であり、私を含め皆さんが冒険風ライダーさんの主張に違和感を覚える最大のポイントもここだと思います。
そこで、原点に帰って質問をしたいのですが、冒険風ライダーさんは「要塞の無限の自給自足能力」をどのように定義しておられるのでしょうか?冒険風ライダーさんの論を見る限りでは
「要塞にはエネルギー、資源を無限に生産する魔法のようなシステムが付いている」※
と読めてしまい、ここが非常に気になる点なのです。>

 まあ仰る通りで、私は「要塞にはエネルギー、資源を無限に生産する魔法のようなシステムが付いている」と定義しています。これを立証する状況証拠は、件のユリアンとキャゼルヌの会話以外にもたくさん存在しますし、またそう考えなければ説明できなくなる描写もありますので。
 たとえば銀英伝考察3本編でも引用した、銀英伝8巻・P216上段〜P217上段でヤンが要塞奪取に代わる、より有効な戦略として提言していた「共和革命戦略」とやらを語るくだりでも、ヤンははっきりと「吾々はイゼルローン要塞にとどまっているかぎり、食糧も武器弾薬もどうにか自給自足できる」と述べていますし、「その対比として」共和革命戦略を行った際の補給問題が語られています。これもイゼルローン要塞に半永久的な自給自足能力が存在することを充分に立証するものです。
 また件のユリアンとキャゼルヌの会話は、銀英伝9巻でも繰り返し似たような戦略構想が強調されているんですよね↓

銀英伝9巻 P75下段〜P76上段
<「正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に、はじめて成立する」
 とも、ヤン・ウェンリーは言っていた。
(中略)
 したがってユリアンは、自分の思案と、補佐役たちの助言のおよぶ範囲で、より多くの情報をえるため、さまざまな手を打っていた。いつかイゼルローン回廊の両端で政治的・軍事的な変動がおとずれるだろう。いま皇帝ラインハルトは、イゼルローン回廊を無視した新しい宇宙の秩序を構築しつつある。変動は、彼の権威の華麗な甲冑に亀裂が生じたときにこそ、おとずれるにちがいない。>

 また、ロイエンタールの叛乱後には、件のユリアンとキャゼルヌの会話が思い起こされている描写まで存在します↓

銀英伝9巻 P133上段〜下段
<ユリアンは、かつてアレックス・キャゼルヌに言明したことがあった。イゼルローン回廊の両端に、ことなる政治的・軍事的勢力が存在するときにこそ、イゼルローン要塞に戦略的価値が生じる。ただそれは半世紀ほど将来のことになるかもしれない、と。
 半世紀どころか、ヤン・ウェンリーの不慮の死から、まだ半年もたっていない。タイム・スケールは一〇〇分の一以下にまで縮小されてしまった。だが、考えてみれば、皇帝ラインハルトがローエングラム伯爵として歴史に登場してから、まる五年もたってはいないのだ。歴史はいま悠々たる大河としてではなく、万物を飲みつくす巨大な滝として姿をあらわしつつあるのだろうか。>

 これらの記述を見れば、件のユリアンとキャゼルヌの会話が決して冗談などではなく、今後自分達が取りえる超長期戦略構想として「大まじめに」語っていることは明らかでしょう。第一、はねだみずきさん自身も仰る通り、あの会話当時の政治情勢で早期の政変が発生する要素などどこにも存在しませんでしたし、ラインハルトの政権基盤も著しく安定していたわけですから、それを考えれば50年前後の「待ち」の姿勢で構えるべきというユリアンの戦略構想は、結果を見ればともかく、あの時点の判断としては情勢を見据えた極めて妥当なものだったと言わざるをえないでしょう。逆に言えば、それだけ当時のイゼルローン側にとって状況は絶望的だったわけですが。
 それにもし本当に孤立したイゼルローン要塞の補給事情が危ういというのであれば、キャゼルヌが冗談を返すよりも先に、ユリアン率いるイゼルローン陣営そのものが、ヤン暗殺と共に完全崩壊してしまっているのではありませんか? 近いうちに補給事情そのものが危なくなると分かっているというのに、あえて強大な帝国軍に、それもヤン抜きで対抗できるなどと考える酔狂な人間など存在するはずもないでしょう。ましてや、補給事情の悪化がどのような結果を招来するかを熟知しているであろうキャゼルヌであれば、「勝算なし」としてユリアンに降伏を勧めてもおかしくはありますまい。ヤン・ファミリーの面々に「自己犠牲」を美化するようなものなど存在しないのですし。
 というか、そもそもそれ以前に、ポプランやアッテンボローほどにユーモアセンスが高かったとも思えないキャゼルヌが、自分の専門分野であり、かつ今後の自分達の命運を左右する補給の話で、いくら身内でも(というよりもむしろ身内だからこそ)そのような自虐的な冗談を飛ばすとは思えないのですが。

 また、イゼルローン要塞内の備蓄物資についてですが、まず、イゼルローン要塞の備蓄能力に関して参考になる記述が銀英伝の中に存在します。1巻の帝国領侵攻作戦時の記述ですけど↓

銀英伝1巻 P190上段〜下段
<彼らは各艦隊の補給部から食糧を供出するとともに、イゼルローンの総司令部に次のようなものを要求した――五〇〇〇万人分の九〇日分の食糧、二〇〇種に上る食用植物の種子、人造蛋白製造プラント四〇、水耕プラント六〇、およびそれらを輸送する船舶。
「解放地区の住民を飢餓状態から恒久的に救うには、最低限、これだけのものが必要である。解放地区の拡大にともない、この数値は順次、大きなものとなるであろう」
 という注釈をつけた要求書を見て、遠征軍の後方主任参謀であるキャゼルヌ少将は思わずうなった。
 五〇〇〇万人の九〇日分の食糧といえば、穀物だけで五〇億トンに達するであろう。一〇〇〇万トン級の輸送船が五〇〇隻必要である。第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた。
「イゼルローンの倉庫全部を空にしても、穀物は七億トンしかありません。人造蛋白と水耕のプラントをフル回転しても……」
「足りないことは分かっている」
 部下の報告を、キャゼルヌはさえぎった。>

 この記述を見れば分かるように、イゼルローン要塞の穀物貯蔵能力は7億トン程度に過ぎず、その他諸々を合わせたところでせいぜい10億トンあるかどうかといったところでしょう。上記のキャゼルヌの試算に従えば、1億トンの穀物で100万人の90日分の食糧が確保される計算が成立し、かつユリアン率いるイゼルローン陣営の総人口が約94万人ですから、これだけの貯蔵能力では、持久戦に出たとしてもせいぜい2〜3年も持ちこたえればかなり優秀な方でしょう。しかも実際には、補給事情に不安を抱いた将兵の反乱や離反によって、これよりも早く自滅してしまう可能性が高いので、「無限の自給自足能力」なくしてイゼルローン要塞で長期にわたる持久作戦を展開するのはほとんど不可能に近いとすら言えます。
 しかも、当時のイゼルローン要塞はヤンが艦隊を率いてラインハルトと激闘を演じた直後で著しく消耗していた上、その間は外部からの補給を一切受けられる状態にはありませんでしたし、おまけにユリアンはヤン暗殺によってイゼルローンを見限った将兵達に対してこのようなことまで行っている始末です↓

銀英伝8巻 P203上段〜下段
<離脱する人々に、ユリアンが倉庫を開放して物資の搬出を許可したので、ワルター・フォン・シェーンコップが異議を申し出た。いずれそれらの物資は再生産しうるものであっても、盗賊の手に金貨の袋をにぎらせてやることはあるまい、と。若者の答えはこうであった。
「どうせ必要以上のものは置いておけない。持っていって自由に使ってもらったほうがいいですよ。給料や退職金を出せるわけでもないのですから」>

 あの当時イゼルローンから離反した将兵や民間人は最低でも300万人以上は存在したでしょうから、もし要塞内の自給自足ができない状態で彼らに要塞内の備蓄物資を給与してしまえば、その後の籠城戦に重大な支障をきたすことなど余程のバカでもない限り簡単に理解することができるはずです。もしイゼルローン要塞に無限の自給自足能力が存在しないのであれば、ユリアンの行為は自分で自分の首を絞める極めつけの愚行でしかありえないでしょう。にもかかわらず、ユリアンの態度に異議を唱えているシェーンコップの発言ですら「それらの物資を持っていかれたら、今後の持久戦略に支障が生じる」といった類の危機感に溢れた内容は全く存在せず、「盗賊の手に金貨の袋をにぎらせてやることはあるまい」などというあまりにも能天気かつ余裕に満ちたものですし、「いずれそれらの物資は再生産しうるものであっても」と要塞の自給自足能力を肯定する内容まで盛り込まれているのです。
 結局のところ、これらの記述に全て納得のいく説明を行うためには「銀英伝世界における要塞には、エネルギーや補給物資を全て自前で調達することができる無限の自給自足能力が存在する」という設定がなければ無理なわけです。上記で私が挙げた数々の事象がこれ以外の理由で全て完璧な形で説明できるのであれば、ぜひとも聞いてみたいところなのですが。


<移動要塞の有効性を主張されておられますが、それは「銀英伝世界の常識」でしょうか?
「移動要塞と固定要塞が対決し、移動要塞側が戦力の9割以上を損耗する大敗北を喫した」戦いがあれば、「移動要塞は固定要塞に対して劣勢」と言う戦訓が導き出されるのが健全な軍事的常識というものではありませんか。
ラインハルトとヤンが移動要塞をその後使わなかった事は、二人の軍人としての見識を証明するものであれ、愚かさを証明する証拠とは成り得ないと私は考えます。>

 いえ、私はそもそもシャフトから移動要塞戦術を提言された時点でその重要性に全く気づかなかったばかりか、その後は移動要塞戦術自体を「なかったこと」にしてしまったラインハルトや、移動要塞の軍事革命的要素に全く気づかずに補給の重要性をアレほどまでにしつこく説いていたヤンの思考過程こそが「銀英伝のテーマから言っても非常識である」と述べているのであって、そうでなければ、そもそも今回の議論の発端となった銀英伝考察3自体、私は投稿していなかったことでしょう。そして銀英伝3巻におけるあの要塞対要塞の戦いに関しても、私は「間違った移動要塞の運用方法が、失敗して当然の結果を生み出したに過ぎない」という程度の認識しか抱いておりません。
 そもそも銀英伝では「補給問題」というテーマがことあるごとに地の文やキャラクターによって語られていましたよね? そして銀英伝世界における要塞に無限の自給自足能力が備わっていたことを、軍の要職にあったヤンやラインハルトは当然熟知していたわけです。ならば彼らは、移動要塞戦術が提言されたり聞いたりした時点で移動要塞の重大な戦略的・政治的価値を即座に理解しなければならなかったはずですし、またそうであってこそ「戦争の天才」だの「不敗の魔術師」の面目躍如というものでしょう。
 しかもあの2人は、移動要塞戦術を使えば敵側の要塞を破壊することができるし、代換の要塞を新たに持ってくることによって、イゼルローン回廊の攻略が極めて容易になることも認識していました。そうであるならば、イゼルローン攻略側のラインハルトはそれこそ件の戦いの「戦訓」を生かして、私が考えたような「小惑星特攻」のような戦術を編み出しても良かったはずですし、防御側のヤンもそれに対処するための方法を色々と模索しなければならなかったはずです。
 にもかかわらず、たかが移動要塞の使い方を根本的に誤っていたあの戦いの「戦訓」ごときで移動要塞戦術を「なかったこと」にしてしまうのでは、彼らに与えられた名誉ある呼称である「戦争の天才」だの「不敗の魔術師」だのといった名が泣こうというものではありませんか。


No. 1897
白旗掲揚
はねだみずき 2002/05/16 21:54
う〜ん…断言されてしまいましたね。要塞には「魔法の無限自給システムがある」と(苦笑)。もしそれを確信されているなら反論不可と言ってしまった以上、反論する気はもうありません。そんな反則を認めてしまうんだったら何でもアリですからね。
何と言うか、冒険風ライダーさんと私の間には埋められない溝がある、と分かりましたので私は撤退します。意見の違いと言うよりは、「作品の設定」に対するスタンスの違いですが。
「上級のシャーロキアンは作品内の矛盾を説明する裏の設定を作り上げる」
とは1757番の書き込みで新Q太郎さんのおっしゃった事ですが、移動要塞反対論を唱えていた人々は、「なぜ移動要塞は多用されなかったか」と言う問題に付いて、この「裏の設定」を考えていたと思います。技術移植の難しさ、移動要塞にかかるであろうと容易に推察される莫大な経費、燃費問題。どれも説得力のあるもので、本編中で語られる事の無かった「移動要塞が二度と作られなかった裏の事情」として納得の行くものだったと私は思っています。
これに対し、冒険風ライダーさんの意見は「作品を読む限り」という「表の設定」を重視しておられます。これでは両者の主張が平行線を辿るのは当然と言えます。
言ってみれば、「裏の設定」を考える人たちは、「いちいち述べるまでも無いほど常識的な事」として、原作に記述されていないだけで、補給物資には食料だけでなく燃料も含まれるだろうし、巨大な要塞を動かしたら同盟の国庫が傾きかねないだろうし、要塞内で補給物資を生産するには原料がいるだろうなと思ってしまう訳です。
もちろん原作の記述と言う「表の設定」を重視する限り、これらの問題は存在しないと言うのは冒険風ライダーさんのおっしゃる通りです。しかし、「表の設定」では今のところ「移動要塞が多用されなかった理由」は説明不可ですよね。これが「原作の記述に沿って、完璧に」説明されていれば私も裏の設定をいろいろ考えなくてすんだのですが(笑)。
でも、冒険風ライダーさんにかかれば「ラインハルトやヤンが愚かだったから」で終わってしまうんでしょうか。

これ以上何か書くと単なる負け惜しみになりそうなのでもうやめにしたいと思います。お疲れ様でした。


No. 1902
Re:白旗掲揚
Zero 2002/05/18 07:24
お疲れさまでした。
色々な意味で興味深く拝見させて貰いました。

僕自身が撤退した後、再度このスレッドを読み返して感じたのは
「if(今回は移動要塞活用論)」に対する、前提条件を是とするか
否とするかで意見が分かれたわけですが、冒険風ライダーさんが
解釈自体で開きの出てしまう部分を持論に組み込まれて「前提」と
規定された事と、その論を選択しなかった作中人物批判を併用して
いる事が問題だったのではという処です。
未記載設定に対する解釈や論は基本的に自己内で完結するモノで、
それを前提に作品(や作中人物)批判とは一線を画すのではと思うからです。

もし、冒険風ライダーさんが「移動要塞に関する問題点が全てクリア
であると解釈した場合の移動要塞活用論」を提示していたのであれば、
その展開になんら異論は挟まなかったでしょう。

只、その論理展開上、「作中人物が自己の論を選択していないのは
おかしい」とばかりに「未記載設定」を持論に都合良く解釈した上
で、それを元に、作中「正史」否定をしている処に違和感を感じたのです。

実際に何度が意見のやり取りをさせて貰いましたがやはりその部分で
の納得は出来ませんでした。まぁ、こういう解釈論は溝が埋まらない
事の方が多いのかもしれませんが。
只、冒険風ライダーさんに言いたいのは「作品解釈」と「その解釈を
元に作中人物批判や貶めるような行為」は別といった処でしょうか。
これだけ大きなスレッドになるほどの反論が出たのは、論に対する
反論もあるかもしれませんが、あまりに作中人物を批判している
処にもあると察して欲しいのです。

ちょっと言い方が悪いかもしれませんが、作品の「正史」について
その流れに納得している身にしてみれば、「勝手な解釈を根拠に、
暴論を展開して作中人物をバカにしている」風にも見えます。
冒険風ライダーさんには冒険風ライダーさんなりの言い分がおありで
しょうが、少なくとも僕にはそう読めてしまいました。
純粋に「移動要塞活用論」のみを展開されたのでしたら、それに
付随する理論展開のお話も出来たでしょうが、論の肯定が「作中人物
批判」も容認されるようで反論のみの立場をとらせて貰いました。

ちなみに、「シャーロキアン的発想」っていうのは、作品の否定に
使用される用語なのでしょうか?
僕は、作品の整合性を繕う為に補完する発想(や設定、状況の解釈)
の事と思っていたのですが。


僕は、以下のようになる確率がかなり高いと想像して終わりにします。
〜〜〜

ヤン「よし。イゼルローン要塞、ワープ(or実験)開始!」





・・・・宇宙歴xxx年xx月xx日。
民主共和制の希望の芽は永遠に摘み取られた。

『要塞消失』

それは、ヤン・ウェンリにとって不本意ながら最後の魔術となったのである。

(銀河英雄伝説異伝 〜了〜)
〜〜〜
おそまつさま。(^^;
#僕のイメージではこんな結末しか予想できません。
 勿論、これを否定されるのが各個人のご自由なのは言うまでも
 ありません。


No. 1904
Re:白旗掲揚
Merkatz 2002/05/18 20:09
> う〜ん…断言されてしまいましたね。要塞には「魔法の無限自給システムがある」と(苦笑)。もしそれを確信されているなら反論不可と言ってしまった以上、反論する気はもうありません。そんな反則を認めてしまうんだったら何でもアリですからね。
>

もう終わりですけど、最後にちょこっと。

逆に考えればいいんです。
つまり「魔法の無限自給システムがある」と仮定して、銀英伝世界の設定に矛盾が起きないかどうか。
で、すぐに気が付くはずです。こんな設定を作ったら銀英伝は滅茶苦茶になってしまうと。
魔法の無限自給システムがあれば、焦土戦術が無効になります。
一度、後方からシステムを輸送して設置(建設)してしまえば、永久に補給問題が無くなります。
さらに物資を輸送するという描写もアウト。
どうして無限自給システムを一番に輸送しないのか。
輸送部隊の任務は無限自給システムを輸送することだけにあり、物資は運ぶ必要は無くなります。
(すなわち一回の輸送で補給のすべてが終わる)
銀英伝で設定されている補給という概念に明白に矛盾しますね。


No. 1905
Re:白旗掲揚
はねだみずき(撤退中) 2002/05/19 02:06
こんばんわ。撤退中ですが、せっかくアドバイスを頂いたので…

> 逆に考えればいいんです。
> つまり「魔法の無限自給システムがある」と仮定して、銀英伝世界の設定に矛盾が起きないかどうか。
> で、すぐに気が付くはずです。こんな設定を作ったら銀英伝は滅茶苦茶になってしまうと。
> 魔法の無限自給システムがあれば、焦土戦術が無効になります。
> 一度、後方からシステムを輸送して設置(建設)してしまえば、永久に補給問題が無くなります。
> さらに物資を輸送するという描写もアウト。
> どうして無限自給システムを一番に輸送しないのか。
> 輸送部隊の任務は無限自給システムを輸送することだけにあり、物資は運ぶ必要は無くなります。
> (すなわち一回の輸送で補給のすべてが終わる)
> 銀英伝で設定されている補給という概念に明白に矛盾しますね。

この路線での反論も一応考えたのですが、
「要塞でないと運用できない」
とか言われそうなので断念しました。


No. 1908
魔法のシステムの考察
むつのかみ 2002/05/19 19:52
2回目の書き込みになります、むつのかみです。

自分なりに「要塞あるエネルギー、資源を無限に生産する魔法のようなシステム」について考えてみました。

まず、エネルギーですがこれは要塞に核融合炉があるので、問題無く説明できると思います。
なにしろ、軍艦を数千隻単位で消滅させる主砲にエネルギーを供給するくらいですから、核融合炉なのでほぼ無尽蔵のエネルギーを供給できると思います。

次に食料についてですが、これは要塞内部に基本的な食料供給プラントがあると解釈して良いと思います。軍民あわせて五百万の人口を擁しているにしては、外伝を見ると輸送船の入港がキャゼルヌ一家が入った時以外に無い事をみれば明らかと思います。
要塞内で生産が可能であるので、離脱する人に対して供給しても惜しくはなかったのではないでしょうか。
離脱する人がミサイルなど武器を必要とするわけではなかったでしょうし。
また、生産手段が光合成を基本としたプラントであれば、要塞内部の環境浄化に役立つ事になり一石二鳥と言えるでしょう。

次に兵器類について考えてみます。
まずビームやレーザー等のエネルギー兵器ですが、これは要塞の核融合炉から供給されると考えて良いと思います。
要塞主砲もエネルギー兵器でしたから艦船に供給できないはずがありませんので。

次に実弾系の兵器についてです。
まず、レーザー水爆についてですが、これはレーザー誘導水素爆弾と解釈します。レーザー水爆ではどんな兵器か分かりませんでしたので。
まず、原料の水素ですが要塞内に水があるのでこれを加工すれば精製可能ではないでしょうか。要塞内の水には限りがあるでしょうが、不足分は星間物質がら補う事で可能かと思います。
外側のカバー部についてですが、ミサイル類と同じ金属やセラミックなどが使われるでしょう。ですのでミサイル類と一緒に考えたいと思います。

実弾系兵器に必要な主用物資としての金属、セラミック類の入手法について考えてみます。
まず第一に思いついたのは廃艦の活用です。
要塞内の工廠でも修復不可能になった艦船は、解体されミサイルなどに再利用されるという事が考えられます。
これでは限りがありますが、確実な入手法でしょう。
第二に星間物質の使用です。
可能かどうかは分かりませんが、可能性としてはありえると思います。
第三でこれが本命と考えますが、小惑星の使用があるのではないでしょうか。
近くから成分の適合した小惑星を取り寄せて、使用すれば済む事ではないでしょうか。
バーミリオンでは艦船が小惑星を引っ張って偽装した事もあるし、輸送コンテナを動かす為のユニットもあるわけで、運び込むのは難しくはないでしょう。
必要であれば艦船の主砲で砕き、要塞内部に獲りこめば良いでしょうから。
また、ニッケル隕石を輸送プラントに使用していましたので、他の種類の使用可能な小惑星は意外に多いと言えるのではないでしょうか。

余談ではありますが、有機物で武器を作るのも不可能ではないかも。
宇宙空間に出てしまえば有機物でも凍ってしまうので、強度的には問題ないのではないでしょうか。
あとは凍結による影響を排除できれば出来るかもしれませんね。

以上が私の考えた」要塞あるエネルギー、資源を無限に生産する魔法のようなシステム」の正体です。
皆様はどう思われますか?


No. 1910
Re:魔法のシステムの考察
はねだみずき 2002/05/19 22:15
長い考察お疲れ様です。
実はむつのかみさんのシステムは無限ではないんですよね。ちゃんと外からの補給を考慮してますから。
完全に無補給で、外から何も受け入れることなく、どこからとも無くエネルギーと資源が沸いて出てくるのが「魔法の無限自給システム」です。
ちなみに、小惑星の利用は1887番の書き込みで私も考えてみました。

ちなみに、レーザー水爆と言うのは核融合物質(水素)に高出力レーザーを四方八方から浴びせ、その熱と光の圧力で核融合反応をを引き起こす仕組みの水爆です。
現在の水爆は核融合反応に点火するために原爆を用いるため、強烈な放射性廃棄物が出ますが、レーザー水爆の場合はこれが非常に少ないです。


No. 1911
魔法のシステムの考察
むつのかみ 2002/05/19 22:41
> 長い考察お疲れ様です。
> 実はむつのかみさんのシステムは無限ではないんですよね。ちゃんと外からの補給を考慮してますから。
> 完全に無補給で、外から何も受け入れることなく、どこからとも無くエネルギーと資源が沸いて出てくるのが「魔法の無限自給システム」です。
> ちなみに、小惑星の利用は1887番の書き込みで私も考えてみました。


完全無限システムですか、
有機物を凍らせミサイルなどに転用する技術が開発できれば無限という事とは言えないでしょうか。
要塞内部の食料プラントで有機物を合成すれば可能では。
エネルギーは内部の核融合炉で自給可能とおもいます。
核融合炉への燃料補給は無視しても大丈夫でしょう。


No. 1912
移動要塞理論の元祖的存在「長征一万光年」
冒険風ライダー 2002/05/19 23:45
 ここ2〜3日ほど、銀英伝考察3スレッドの投稿と銀英伝の記述を読み直していたのですが、私に反論する人達が、私が提唱した移動要塞戦術&戦略構想に代わる代案として「移動要塞を使った長征一万光年」を提言していたことに対して、実はこの論自体に移動要塞技術を簡単に実現させてしまえる要素が存在するのではないかということに気づきました。銀英伝の記述を追ってみたところ、そもそもあの「長征一万光年」自体が、私の考えた要塞自給自足理論や移動要塞戦術の元祖的存在とすら言えるものであることが判明したからです。
 たとえば「長征一万光年」でアルタイル星系の脱出用宇宙船として使用されたイオン・ファゼカス号には、次のような驚くべき描写が存在します↓

銀英伝1巻 P14下段〜P15下段
<帝国暦一六四年、叛徒の眷属として奴隷階級に落とされ、過酷な労働を課せられていたアルタイル星系の共和主義者たちが、自ら建造した宇宙船を使っての逃亡に成功した。
 彼らの計画は幾世代にもわたって周到に練られたものではなかった。そのような計画は立てられた数だけ失敗に終わっていた。共和主義者の墓標が増え、挽歌に代わって社会秩序維持局の嘲笑が響き渡る。際限ない、その繰り返しだった。しかしついに彼らは成功したのだ。その計画は立案から実行までわずかに標準暦3ヶ月を要したにすぎなかった。
 発端は子供の遊びだった。酷寒のアルタイル第七惑星でモリブデンとアンチモニーの採掘に従事していた奴隷たちの子が、監視人の視線を逃れ、氷を削って作った小船を水に浮かべて遊んでいた。何気なくそれを見ていた青年アーレ・ハイネセンの脳裏に天啓が閃いたのだ。この見捨てられた惑星には、宇宙船の材料が無尽蔵にあるではないか!
 水の総量の少ない第七惑星には、氷よりも天然のドライアイスが豊富だった。ハイネセンらが選んだのは、とある渓谷をまるまる埋めつくしたドライアイスの巨大な塊で、長さ一二二キロ、幅四〇キロ、高さ三〇キロという数値であった。その中心部を刳貫いて動力部と居住部を設け、宇宙船として飛ばそうというのである。それまでの計画の難点は宇宙船の材料の入手法にあった。非合法な資材の入手には必然的に無理が生じ、それが社会秩序維持局にかぎつけられると、容赦のない弾圧と殺戮の暴風が吹き荒れることになるのだ。
 ところがここに当局の注意をひかない天然の材料がある。
 絶対零度の宇宙空間でドライアイスが気化する懸念はない。動力部や居住部からの熱を遮断させることさえできれば、かなりの長期間にわたって飛行が可能である。そしてその間に、星間物資や無人惑星に恒星間宇宙船の材料を求めればよいのだ。何も飛び立った船でそのまま飛び続ける必要はない。
 白く輝くドライアイスの宇宙船はイオン・ファゼカス号と命名された、氷の小船の製作者である少年の名である。四〇万人の男女がこの船に乗りこみ、アルタイル星系を脱出した。後世、歴史家によって「長征一万光年」と称されることになる長い旅路の、それが第一歩であった。>

 このイオン・ファゼカス号の大きさに注目してください、長さ122q、幅40q、高さ30qという数値から体積を算出してみると、このドライアイスの塊が何とイゼルローン要塞よりもはるかに大きな体積を保有していることが判明するのです。イゼルローン要塞とイオン・ファゼカス号の体積をそれぞれ計算してみると、

イゼルローン要塞の球体体積(単位:立方キロメートル)
 = 60 × 60 × 60 × 3.14 ÷ 6 = 11万3040
イオン・ファゼカス号の船体体積(単位:立方キロメートル)
 = 122 × 40 × 30 = 14万6400

となります。
 また、これだけ巨大な船ともなると、当然質量も巨大なものとならざるをえません。イオン・ファゼカス号の質量は、銀英伝2巻の「アルテミスの首飾り」破壊で使用された「1立方キロメートルで10億トンの氷の塊」を参考にすると、単純計算で146兆4000億トンも存在することになりますし、しかも二酸化炭素を成分としているドライアイスは、同じ体積の氷の約1.6倍の重さを持っていますので、実際の質量は実に234兆2400億トンというとんでもない数値が算出されるのです。もちろん実際には内部をくり貫いて動力部や居住区を設置するにしても、ガイエスブルク要塞40兆トンなどはるかに凌ぐ質量を保有することになってしまうのは確実でしょう。
 これほどまでの超巨大宇宙船を航行させられるだけの技術が、本来技術系出身であるはずもないアルタイル星系の無学な奴隷階級ごときの手によって確立され、しかも船体自体の問題はともかく、宇宙航行に関しては何ら問題がないらしいことを考えれば、それよりもはるかに小さな銀英伝世界の要塞クラスが宇宙を航行する技術の実用化に、実は大した障害など全く存在しなかったということがお分かり頂けるでしょう。250年近くも前にすでに確立している技術を模倣するなどそれこそ難しいことではないですし、燃料問題も質量問題も全て解決してしまいます。
 一連の議論で懸案となっていた「移動要塞技術確立の問題」はこれで全て解決しますね。

 また、アルタイル星系を脱出して後、無名の惑星の地下にて新たに建造された80隻の恒星間宇宙船に至っては、イゼルローン要塞とほぼ同レベルの「自給自足能力」を保有していた可能性が極めて高いのです。彼らは自らの根拠地を捨てて流浪しながら、50年以上にもわたって孤独な旅を続けていたわけなのですから(その点では銀英伝本編のイゼルローン陣営と同等ないしはそれ以下)、彼らの艦船自体に食糧・燃料等を全て自前でまかなえる一定規模の自給自足能力が存在しなければ、そもそも「長征一万光年」自体が補給の問題に直面して全く成り立たなくなることにすらなってしまいます。そしてこの事実は、銀英伝世界で「移動しながらの自給自足」が技術的に可能であることをも立証するのです。
 この「長征一万光年」を成功させた技術を使えば、「無限の自給自足能力を持つ移動要塞」どころか「無限の自給自足能力を持つ宇宙艦隊」さえも誕生させてしまうことが可能でしょう。しかもこれは「長征一万光年」を成功させた同盟だからこそ実現可能と言える技術です。
 こうなると「そもそもなぜ銀英伝世界で補給の問題が存在するのか」という疑問すら出てきてしまいますね。「長征一万光年」やイゼルローン要塞の事例がすでに存在するにもかかわらず、ヤンやラインハルトも含めた銀英伝世界のキャラクター全てが「軍隊は補給に頼らなければならない」という固定観念に囚われてでもいたのでしょうか。


No. 1914
Re:魔法のシステムの考察
せらぴす改 2002/05/20 04:00
> 完全無限システムですか、
> 有機物を凍らせミサイルなどに転用する技術が開発できれば無限という事とは言えないでしょうか。
> 要塞内部の食料プラントで有機物を合成すれば可能では。
> エネルギーは内部の核融合炉で自給可能とおもいます。
> 核融合炉への燃料補給は無視しても大丈夫でしょう。

その有機物を、どうやって手に入れるのかが、問題なのではないかと思います。星間物質にしろ、小惑星にしろ、要するに要塞の外から持ってくる必要があるわけですよね?つまり、外部からの補給は必要ということです。無限の補給システムとは言いがたいのではないかと。


No. 1916
幾らなんでも、その論理はおかしい
Zero 2002/05/20 22:20
冒険風ライダーさんは「長征一万光年」の件を理由に要塞移動や
それを支える無限の自給自足能力を肯定されてますが、流石に
無理を感じます。

「イオン・ファゼカス号」+「アルタイル星系を脱出後の恒星間宇宙船」
は双方併せて50年掛けて「長征」している訳ですよね。
更に付け加えるなら、その船の建造期間もあるでしょう。

まず、「イオン・ファゼカス号」に「移動要塞論」と同じエンジン
設置パターンが用いられている訳でもないです。
技術的に可能性があるのは「ワープ及び、通常航行エンジンの大質量
物体への使用」であって「複数基のエンジン同期連動使用」ではありません。
しかも「イオン・ファゼカス号」にワープ・エンジンは搭載されて
いたのでしょうか?
「イオン・ファゼカス号」の運用に問題がないのであれば、わざ
わざ「恒星間宇宙船」を造る必要がありません。また、追跡を振り
切るのに苦労した記述があることからもワープ航行したとは考え
づらいですね。
バサード・ラム・ジェット・エンジンを使って星間物質を取り込み
ながら航行したから、燃費に関しては問題がなかっただけではない
でしょうか?

只、「このエンジン技術が要塞移動に適用できるのでは」という意見
も出そうですが、このエンジン技術の特性がよく分からないし、戦艦
の通常航行エンジンに使用されていないという状況から、何かしらの
不具合(制動に問題があるとか、複数連動に問題があるとか)が考慮
されます。
可能性として高いのが「初動が遅い」のではないかと勘ぐってます。
で、「イオン・ファゼカス号」はこの対策に使い捨てロケットブース
ターか何かを使ったかと・・・

次に、「恒星間宇宙船」ですが、これは5千人乗りのかなりの大型船
ですが、「複数基のエンジン同期連動使用」したという記述はありません。
これは却って、宇宙船用大型のエンジンが存在したという仮定に繋が
ると思います。


また、<<銀英伝世界で「移動しながらの自給自足」が技術的に可能で
あることをも立証するのです>>と言う部分には同意しますが、問題点
はその規模や、消費速度と蓄積速度の比較問題ではないですか?

「再生産・蓄積速度」については、制限があると考えた方が自然です。
アルタイル星系が何処にあるかは分かりませんが辺境でしょう。
想像するなら、イゼルローン回廊に比較的近い星系だと思われます。
そこを抜け、ハイネセンに到達するまで掛かった時間「50年以上」と
いうモノを考えてみてください。勿論、帝国から隠れながらや、手探り
状態で進んだせいもあるでしょうが、ヤン達の時代における航行速度
(ハイネセン〜イゼルローンで一ヶ月程)と比較すると差がありすぎます。
これは、時代による技術の差、航行技術もですが、エネルギーの再
生産・蓄積速度の問題があったからこそではないでしょうか?
ここはまた、冒険風ライダーさんは否定されるでしょうが、大出力
エンジンであればエネルギー消費も激しいでしょう。その再蓄積に
かかった時間も加味されていると考えた方が自然ではないですか。
「長征」には確実な自給自足能力は必要ですが、極端な話し「食料生産
さえ滞る事が無ければ、その他のエネルギーは不測時(帝国に見つかる
とか、急激な隕石群の回避とか)に一気に使用できる量だけ確保し、
それ以上の蓄積にかかる時間は後回しに出来うる」と思います。

恒星間宇宙船の「40万人分の食料と航行エネルギー」の自給自足能力
を理由に、イゼルローンの「100万人弱の食料と要塞収容艦船の
エネルギーと武器弾薬」の自給自足能力(つまり、ユリアンの言う50年
の持久戦)は肯定出来ても、「イゼルローンの『移動しながら』の自給
自足」を肯定出来るとは言えないでしょう。
<<イゼルローン要塞とほぼ同レベルの「自給自足能力」を保有してい
た可能性が極めて高い>>は、イゼルローンが動かないを前提にしなけ
れば成立しませんよ。
作中はそれを前提に話が進んでいるのですから。


僕のスタンスは「必要なエネルギー類の自給自足は基本的に出来る」です。
但し、その蓄積速度にはある一定の限界があり、幾ら使っても(例えば、
要塞が主砲打ちまくるにしても、要塞を動かすにしても)あっというまに
全回復という「万能さ」は持ち合わせていないと思ってます。

自給自足用の設備の戦艦への設置に関しては、大きさの関係(戦艦レベル
の規模では「生産<消費」になって意味がないとか)で戦艦には乗せられ
ないか、高価すぎる(何時撃破されるか分からないものには搭載できない)
と言ったところでは?

「無限の自給自足能力を持つ宇宙艦隊を誕生させてしまうことは可能」
でも、
「無限の自給自足能力を持つ宇宙艦隊を維持することは経済的に却ってムダ」
という判断があるのかもしれません。


とにかく、「イオン・ファゼカス号」と「恒星間宇宙船」は分けて
考えるべきです。
「イオン・ファゼカス号」はどれ位の距離をどの航行技術でどれ位の
期間を掛けて航行したか。
「恒星間宇宙船」建造にどれ位の期間が掛かったか。
「恒星間宇宙船」はどれ位の距離をどれ位の期間を掛けて航行したか。
これらの情報がない以上、
「長征一万光年」が移動要塞論の問題解決の前提になるとは限りません。


あと、もう一点。
「奴隷階級の共和主義者」を無学と定義付けられてますが、本編に
そんな事何処にも書いていません。技術者が奴隷階級に落とされた
だけかもしれませんよ。


No. 1922
どうしても言いたかったんです。
はねだみずき 2002/05/21 23:00
え〜、いったん移動要塞談義からは撤退を表明したのですが、どうしても言いたい事ができたので発言させて頂きます。

まず、「考察シリーズ」まで書いている冒険風ライダーさんが、無限自給問題に関してだけ、やたらと「原作の記述」を重視しているのは何故ですか?
考察シリーズで「創竜伝」の記述を「現実に即して」批判しておられる貴方なら、「要塞に無限の補給能力がある」としか読めない「銀英伝」のいい加減な科学知識・描写もまた、「現実に即して」批判するべきではないですか?
現実には有り得ない「140ミリ砲搭載の戦車」や「謎のバルカン砲搭載戦闘ヘリ」がアウトなら、やはり現実には有り得ない「無限の補給能力を持つ要塞」もアウトにすべきです。「作中描写の現実に即した批判ないし批評」が「創竜伝」では良くて、「銀英伝」では駄目だと言うのは、貴方が嫌って止まない「ダブルスタンダード」ではないのですか?

そもそも、要塞風ライダーさんの論の進め方はヘンですよ。「銀英伝世界において補給は必要である」と言うのは作中にも再三書かれている「定説」です。「要塞は無限に自給できる」は作中の描写を読み限り、確かにそう判断できなくも無いですが、あくまでも「仮説」に過ぎません。
そして、「仮説」が「定説」になるには、提唱者以外の人間の検証を通じて、誰もが納得できるだけの説得力を持たなければなりません。「要塞無限自給説」はいまだ定説とは言いがたいでしょう。
その「仮説」でしかないものを、最初から「定説」のごとく振りかざし、作中人物をアホだ愚かだと決め付ける冒険風ライダーさんの物の言い方は、こう言っては難がありますがまっとうな物とは思えません。「真珠湾攻撃で空母を探して撃沈すべきだった。それをしなかった日本軍は愚かだ」と事情を斟酌せずに決め付けている半端な軍事マニアと似たり寄ったりの陳腐な物言いです。
何か失敗がおきた事を検証する場合は、まず「何故その手段をと“ら”なかったのか」を批判するのではなく、「何故その手段をと“れ”なかったのか」を探る方が優先されるべきだと思います。


No. 1923
Re1916/1922:まとめてレス
冒険風ライダー 2002/05/24 00:09
>Zeroさん
<まず、「イオン・ファゼカス号」に「移動要塞論」と同じエンジン
設置パターンが用いられている訳でもないです。
技術的に可能性があるのは「ワープ及び、通常航行エンジンの大質量
物体への使用」であって「複数基のエンジン同期連動使用」ではありません。>

 こんなの作中設定から逆算して簡単に推測できるのですけどね。直径40〜45q・質量40兆トンのガイエスブルク移動要塞ですら、12基のワープエンジンおよび通常航行エンジンが必要だったのですから、それよりもはるかに巨大な体積と質量を誇るイオン・ファゼカス号には、当然その巨大な物体を推進させられるだけの超大出力エンジンないしは大多数エンジンの同期連動使用が必要になることは確実でしょう。そして、あのイオン・ファゼカス号を動かすことが可能な「超大出力エンジン」なるものが存在するのであれば、それは当然移動要塞にも応用できることになってしまい、エンジン同期連動方式を用いた移動要塞技術そのものが必要なくなり、作品設定が倒壊してしまうのですから、イオン・ファゼカス号の宇宙航行方法は必然的にエンジン同期連動方式に落ちつかざるをえなくなってしまうわけです。
 そして、シャフトの移動要塞技術もこれをヒントにして得られたものであるという裏設定でもオマケにつけておけば、銀英伝3巻でなぜ移動要塞技術がああも簡単に実用化できたのかという理由の説明にもなって一石二鳥でしょう。
 そもそも、銀英伝世界における宇宙航行事情に質量問題が存在すると述べてきたのはそちらの方でしょう、だから私は質量と体積を計算してイオン・ファゼカス号がイゼルローン要塞やガイエスブルク要塞よりもはるかに巨大な存在であることをも立証し、それが航行自体は何ら問題がなかった事実を示すことで、そちらが提示した質量問題とやらを完全に消滅させたわけです。それを無視して論を展開されては困りますな。


<しかも「イオン・ファゼカス号」にワープ・エンジンは搭載されて
いたのでしょうか?
「イオン・ファゼカス号」の運用に問題がないのであれば、わざ
わざ「恒星間宇宙船」を造る必要がありません。また、追跡を振り
切るのに苦労した記述があることからもワープ航行したとは考え
づらいですね。>

 イオン・ファゼカス号の運用問題に関しては、前回の投稿で私が引用した文章の中にきちんと説明されているではありませんか。「船体のドライアイスが長期の航行では船内内部の熱によって気化する懸念がある」って。それがイオン・ファゼカス号の限界なのであって、だからこそ件の共和主義者達は、どこぞの無名の惑星地下に身を潜めて恒星間宇宙船を建造したのです。作品中ではっきりとそう述べているのですから、素直にそれを信じたらいかがです?
 それから、仮にも「長征一万光年」を帝国暦164年〜218年の約54年で終結させたからには、たとえ旧型の短距離ワープレベルであったとしても、ワープ技術自体は搭載されていたと考えるのが自然でしょう。銀英伝2巻のバザード・ラム・ジェット・エンジンの例が示している通り、銀英伝世界における通常航行エンジンは「光速の壁」を越えることができないようですから。第一、敵側がワープを使えるのにこちらが使えないのでは、捕捉されたらその時点で一巻の終わりで、そもそも逃げ切ること自体不可能としか言いようがないと思うのですが。


<バサード・ラム・ジェット・エンジンを使って星間物質を取り込み
ながら航行したから、燃費に関しては問題がなかっただけではない
でしょうか?
只、「このエンジン技術が要塞移動に適用できるのでは」という意見
も出そうですが、このエンジン技術の特性がよく分からないし、戦艦
の通常航行エンジンに使用されていないという状況から、何かしらの
不具合(制動に問題があるとか、複数連動に問題があるとか)が考慮
されます。
可能性として高いのが「初動が遅い」のではないかと勘ぐってます。
で、「イオン・ファゼカス号」はこの対策に使い捨てロケットブース
ターか何かを使ったかと・・・>

 すいませんが、要塞よりもはるかに質量も体積も巨大なイオン・ファゼカス号を「燃費を無視して」動かせる技術が存在するのであれば、それよりも格下の存在でしかない要塞ならば、なおのこと簡単に「燃費を無視して」動かすことができるばかりか、そもそも宇宙航行に関して質量はあまり重要な問題ではなくなってしまうという論理に何故気づかないのですか? イオン・ファゼカス号の「対策」とやらは移動要塞にも当然応用できてしまいますから、この論には全く意味がありません。
 ちなみにバザード・ラム・ジェット・エンジンとは、星間宇宙船の前方に星間物質(主に水素)漏斗状収集用のフィールドを広げ、そこから入ってくる物質をすくい上げて原子力エンジンの燃料にするという方式で推進するもので、銀英伝世界では航行用エンジンのひとつとして数えられています。


<次に、「恒星間宇宙船」ですが、これは5千人乗りのかなりの大型船
ですが、「複数基のエンジン同期連動使用」したという記述はありません。
これは却って、宇宙船用大型のエンジンが存在したという仮定に繋が
ると思います。>

 イオン・ファゼカス号の超巨大性を無視して「宇宙船用大型エンジンの有無」を云々しても意味がないでしょう。第一、そのようなエンジンの存在は銀英伝の設定に抵触しかねないと前にも繰り返し述べたとおりです。
 エンジンの運用に関しては、12基とはいわないまでも2〜4基ほどの小規模な連動エンジンを使っていると考えたほうが自然でしょう。「エンジンはひとつしか使ってはいけない」という規則などどこにも存在しないのですし、「スタートレック」などには実際そういった設定もあるらしいんですよね。ガイエスブルクの12基同時稼動は、それが12基とあまりにも多かったから問題になったのであって、2〜4基クラスの同時連動であれば前例もたくさん存在していた可能性は充分に考えられることです。またこう考えれば、ガイエスブルク移動要塞のエンジン連動がそれほど技術的な困難もなく成功した理由も説明可能でしょう。それこそ「既存技術の応用」で何とかなるわけですから。
 またこれだと、1基辺りのエンジン出力を高くする必要なしに大出力を獲得することもできますから、結果的に燃費を節約できる可能性もあります。


<「再生産・蓄積速度」については、制限があると考えた方が自然です。
アルタイル星系が何処にあるかは分かりませんが辺境でしょう。
想像するなら、イゼルローン回廊に比較的近い星系だと思われます。
そこを抜け、ハイネセンに到達するまで掛かった時間「50年以上」と
いうモノを考えてみてください。勿論、帝国から隠れながらや、手探り
状態で進んだせいもあるでしょうが、ヤン達の時代における航行速度
(ハイネセン〜イゼルローンで一ヶ月程)と比較すると差がありすぎます。
これは、時代による技術の差、航行技術もですが、エネルギーの再
生産・蓄積速度の問題があったからこそではないでしょうか?
ここはまた、冒険風ライダーさんは否定されるでしょうが、大出力
エンジンであればエネルギー消費も激しいでしょう。その再蓄積に
かかった時間も加味されていると考えた方が自然ではないですか。
「長征」には確実な自給自足能力は必要ですが、極端な話し「食料生産
さえ滞る事が無ければ、その他のエネルギーは不測時(帝国に見つかる
とか、急激な隕石群の回避とか)に一気に使用できる量だけ確保し、
それ以上の蓄積にかかる時間は後回しに出来うる」と思います。>

 あの銀英伝世界の要塞より質量も体積もはるかに巨大なイオン・ファゼカス号関連で「バザード・ラム・ジェット・エンジンを使えば燃費の問題はなくなるのではないか」とまで述べていた人が、今度は一転して「大出力エンジンであればエネルギー消費も激しい」などと全く正反対な主張を展開するわけですか。自分が言っていることの支離滅裂ぶりを少しは自覚したらいかがですか?
 そもそも燃費の問題については以前にも言ったでしょう。「補給の問題についてアレほどまでに触れているキャラクターや地の文が燃費の問題に全く言及していないのは、それが銀英伝世界では全く問題にならないからである」と。アレほどしつこくクドクドと補給問題についてあれこれ言及している以上、「書かれていないだけで燃費の問題は存在する」などという論法は全く通用しません。ましてや、前にも述べたように他の田中作品では燃費関連の記述が存在する事例もあるのですからなおのことです。
 第一、現実世界ですら、アメリカの原子力空母などは何年も動力交換なしで稼動できているのですし、また銀英伝のモデルのひとつと言われている「宇宙戦艦ヤマト」などには、1年間無補給で片道14万8000光年を往復するという設定すら存在します。銀英伝の艦船描写はこの辺りがモデルのようにすら思えるのですけどね。
 それに「自給自足能力」に必要なエネルギーが、たかだか食糧生産と燃料生産だけで事足りるとでも思っているのですか? 宇宙船の中で50年以上も過ごすからには、その中で人間が居住するために必要最低限な環境を常に維持し続ける必要があるでしょう。酸素供給システム・水の精製及び上下水道整備・温度を一定に維持するための冷暖房システム・ガスや電力の供給・いざという時のための医療システムなど、エネルギーは色々なところで大量に消費せざるをえません。これらのシステムの停止は船内の人間の生死に直接かかわってくるのですから、常にエネルギーを供給し続けてシステムを維持しなければならないのです。そのエネルギーがたかだか宇宙船の燃料ごときにことごとく吸い尽くされ、エネルギーチャージに時間がかかると言うのであれば、そもそも件の共和主義者達が「長征一万光年」を生き延びた理由自体が説明不能となってしまうではありませんか。
 以上の理由から「燃費問題+エネルギーチャージ説」はありえない話です。


<恒星間宇宙船の「40万人分の食料と航行エネルギー」の自給自足能力
を理由に、イゼルローンの「100万人弱の食料と要塞収容艦船の
エネルギーと武器弾薬」の自給自足能力(つまり、ユリアンの言う50年
の持久戦)は肯定出来ても、「イゼルローンの『移動しながら』の自給
自足」を肯定出来るとは言えないでしょう。
<<イゼルローン要塞とほぼ同レベルの「自給自足能力」を保有してい
た可能性が極めて高い>>は、イゼルローンが動かないを前提にしなけ
れば成立しませんよ。
作中はそれを前提に話が進んでいるのですから。>

 すでに「長征一万光年」自体が「移動しながらの自給自足」を実現させているというのに、「イゼルローンが動かないを前提にしなければ成立しません」はないでしょうに。
 第一「作中はそれを前提に話が進んでいる」なんて描写、私は一度として見たことがないのですけどね。もし「イゼルローン要塞は恒星アルテナの周回軌道に固定されることによって初めて自給自足体制が確立される」などといった類の描写が銀英伝の作品中に存在するのであれば、ぜひその巻とページを教えてください。もしそれがあることが確認できるのであれば、私も移動要塞論を撤回しますので。


<とにかく、「イオン・ファゼカス号」と「恒星間宇宙船」は分けて
考えるべきです。
「イオン・ファゼカス号」はどれ位の距離をどの航行技術でどれ位の
期間を掛けて航行したか。
「恒星間宇宙船」建造にどれ位の期間が掛かったか。
「恒星間宇宙船」はどれ位の距離をどれ位の期間を掛けて航行したか。
これらの情報がない以上、
「長征一万光年」が移動要塞論の問題解決の前提になるとは限りません。>

 あの投稿のどこをどう読めば両者の問題を混在して述べているように見えるのでしょうかね? イオン・ファゼカス号関連は「巨大物質の移動技術」を、恒星間宇宙船は「無限の自給自足システム」をそれぞれテーマにして述べてみたのですけど、何でそれが理解できないのでしょうか? しかもイオン・ファゼカス号で「燃費の問題がなかった」と言っておきながら、恒星間宇宙船では「燃費の消費が激しい」と「両者の問題を混在させて」矛盾しまくった主張を並べているのはそちらでしょうに。
 自らの主張にすら矛盾を生じさせてしまうようでは、作品擁護論など展開することはできませんよ。作品擁護論を発表する際には、新規に作成した裏設定が従来の作品設定やテーマに全く悪影響を与えることなく綺麗に合致することを徹底的に考え抜いた上で、それでも何ら問題が生じないと確認して初めて行うべきものなのであって、それを抜きにしてただ闇雲に裏設定をでっち上げたところで、作品設定と全くミスマッチかつ矛盾に満ちたシロモノが出現するだけでしかありません。この難問があるからこそ、作品擁護論というものは作品批判論以上に難しいのです。
 今回のスレッドで私はことあるごとに何度も言っていますが、作品を擁護しようとして、更なる大きな矛盾を自分の手で作成してどうするのです? 私の主張内容にだけ反論すればそれで終わり、ではないのですよ。


<「奴隷階級の共和主義者」を無学と定義付けられてますが、本編に
そんな事何処にも書いていません。技術者が奴隷階級に落とされた
だけかもしれませんよ。>

 これだって作品設定から考えれば簡単に理解できることでしょう。平民階級ですら対等の人間とはみなしていないゴールデンバウム王朝銀河帝国が、奴隷階級、それも「叛徒の眷属」である奴隷にまともな教育を与えると考える方がどうかしていますし、ましてや彼らは奴隷階級としての過酷な労働を課せられているのです。平民階級レベルの教育すらマトモに受けられたかどうか怪しいものでしょう。
 イオン・ファゼカス号を建造する際には、ひとりやふたりの技術者がいれば良いというわけではなく、奴隷階級全体の技術水準が高くなければならないわけですが、アルタイル星系の奴隷階級にはそれが成立する前提条件が致命的なまでに不足しています。そのような人々が、いくら材料が入手できたからと言って、たった3ヶ月でイオン・ファゼカス号を建造し、発進にまでこぎつけることができたというのもある意味凄まじい話なのですが、まあできてしまったものに文句を言っても仕方がありません。何かそれを可能にする条件が存在したということでしょう。実は銀英伝世界では、ごく初歩的な教育だけで艦船が簡単に建造できるような高度な教育理論が確立していたとか。
 まあこの辺りは、作者自身が何も考えずに中国共産党の「大長征」辺りから取ってきたエピソードなんでしょうけどね。



>はねだみずきさん
<まず、「考察シリーズ」まで書いている冒険風ライダーさんが、無限自給問題に関してだけ、やたらと「原作の記述」を重視しているのは何故ですか?
考察シリーズで「創竜伝」の記述を「現実に即して」批判しておられる貴方なら、「要塞に無限の補給能力がある」としか読めない「銀英伝」のいい加減な科学知識・描写もまた、「現実に即して」批判するべきではないですか?
現実には有り得ない「140ミリ砲搭載の戦車」や「謎のバルカン砲搭載戦闘ヘリ」がアウトなら、やはり現実には有り得ない「無限の補給能力を持つ要塞」もアウトにすべきです。「作中描写の現実に即した批判ないし批評」が「創竜伝」では良くて、「銀英伝」では駄目だと言うのは、貴方が嫌って止まない「ダブルスタンダード」ではないのですか?>

 ストーリーのジャンルも作品設定も、そして何より作品自体の方向性すらも全く異なる銀英伝と創竜伝を同列に並べて「同じように論じていない」などと言われるとは正直思っても見ませんでしたけどね。ちょっと考えれば、そんな批判など成立するはずもないことに気づきそうなものなのですが。
 今更確認するまでもないと思いますが、銀英伝は架空の未来SF世界を舞台にした「架空歴史小説」であり、創竜伝は現実世界そのものを舞台とした「伝奇アクション小説」です。そして銀英伝の作品設定には、ワープや恒星間航行といった、現代の科学水準では実現不能な技術が多数存在し、現実世界とは(モデルは存在しても)直接的にリンクされていないのに対して、創竜伝の作品設定は現実世界と密接に関係するばかりか、それを基にしてストーリー本編とは何ら関係がないはずの「現実世界に対する批判評論」が大量に挿入されている始末です。これほどまでに前提条件の異なる2つの作品を論じるに当たり、それぞれの作品の論じ方が異なってくるのは至極当然のことでしょう。むしろ、変わらない方がどうかしているのです。
 創竜伝に出てくる戦車やヘリの描写の場合、現実世界にモデルとなっている兵器そのものが実在するわけですから、そのような情報は少し調べればすぐ分かる類のものですし、ましてや創竜伝にはそのような描写を元にして「現実世界の」日本の国防政策を批判している箇所まで存在するからこそ、あのような描写が問題視されるわけですが、銀英伝の場合、まず物語そのものが(モデルは一応存在するにせよ)完全に架空の世界であるのに加え、現実世界の科学水準では不可能なことが、未知の未来技術で可能となっている可能性が濃厚に存在するのです。このような世界観を持つ作品に、現実世界の科学水準を元にした批判など展開しても意味がありません。未来からやってきたドラえもんが出した道具に「現代の科学水準では実現不可能」と当たり前のことを言っても意味がないのと同じことです。
 そんなものを批判するくらいならば、作中設定を全て認めたうえで、作中設定を有効活用することなく見当ハズレな戦略戦術などを説いていた作中キャラクターの「愚かさ」を追求する方がより普遍的な批判たりえますし、作品批判としても効果が高いわけです。だからこそ今回の私は作中の記述や描写に頑迷なまでにこだわるのです。
 それに私は創竜伝を批判する際にも、現実世界に向けられている社会評論関連はともかく、純然たるフィクションストーリー関連に関してはやはり同じように作中の設定にこだわって批判していますよ。仙界の人界干渉違反行為に対する批判などは作中の設定にこだわらなければ成立しないものですし、その他のストーリー批判も多かれ少なかれこの方針に基づいて行っています。ストーリー批判に関してダブルスタンダード呼ばわりされる筋合いはありませんけどね。


<そもそも、冒険風ライダーさんの論の進め方はヘンですよ。「銀英伝世界において補給は必要である」と言うのは作中にも再三書かれている「定説」です。「要塞は無限に自給できる」は作中の描写を読み限り、確かにそう判断できなくも無いですが、あくまでも「仮説」に過ぎません。
そして、「仮説」が「定説」になるには、提唱者以外の人間の検証を通じて、誰もが納得できるだけの説得力を持たなければなりません。「要塞無限自給説」はいまだ定説とは言いがたいでしょう。>

 どう読んでも「要塞には無限の自給自足能力が備わっている」としか解釈できない作中描写の数々や「長征一万光年の成功」を黙殺して「再三書かれている定説」とやらを振りかざしたところで、それは「定説」自体の自己破綻を曝け出すだけのことでしかないでしょう。作中のキャラクターにとっては作中設定や描写こそが「現実」であるというのに、それに反した「架空の定説」にすがりつくその姿は、私には非常に滑稽なものにしか見えないのですがね。
 作品の設定を語る時には、まずその作品設定や作品描写をこそ「現実」と解釈し、現実世界の科学理論や常識などを逆に「空想の産物」と据えなければなりません。そして「空想的な」現実世界の科学理論や常識がどれほどまでに普遍的な説得力を有していたとしても、それが作中設定や作中描写という「現実」に反するものであれば、その「空想」は「現実」によって排除されなければならないのです。
 銀英伝で「定説」とされている「補給の問題」も、作中ではそれがいくら普遍的な説得力に溢れていようが所詮は「空想的な」概念に過ぎず、作中世界に「現実」として存在する「無限の自給自足能力を有する要塞」や「長征一万光年の成功」の前には、何の役にも立たない「机上の空論」でしかありえないのです。その「現実」を無視した「机上の空論」を基にして補給計画を立てている銀英伝の作中人物達は「愚か者」と決めつけられても文句は言えませんよ。何しろ、補給なしで遠征や持久戦が可能な実例が「現実に」しかも「周知の事実として」存在するわけなのですからね。
 「架空の定説」よりも「現実に起こっている事実」をこそ重視しなければならない。これは作品世界だけでなく、現実世界でも当たり前の常識だと思いますけどね。もっとも、作品世界と現実世界では「架空」と「現実」の定義が完全に逆転しているのですが。


<その「仮説」でしかないものを、最初から「定説」のごとく振りかざし、作中人物をアホだ愚かだと決め付ける冒険風ライダーさんの物の言い方は、こう言っては難がありますがまっとうな物とは思えません。「真珠湾攻撃で空母を探して撃沈すべきだった。それをしなかった日本軍は愚かだ」と事情を斟酌せずに決め付けている半端な軍事マニアと似たり寄ったりの陳腐な物言いです。
何か失敗がおきた事を検証する場合は、まず「何故その手段をと“ら”なかったのか」を批判するのではなく、「何故その手段をと“れ”なかったのか」を探る方が優先されるべきだと思います。>

 現実に補給の概念を無視してきちんと稼動している要塞や「長征一万光年」の実例が目の前に存在し、しかもそのことを作中人物達はきちんと認識しているにもかかわらず、それを無視して「机上の空論」などを唱える方が愚かだとは思わないのですか? 作品世界で「補給の概念」に反した「現実」が目の前に存在する以上、銀英伝における「補給の概念」は「定説」でも何でもない、ただの「机上の空論」に過ぎません。
 しかも「銀英伝世界における要塞には無限の自給自足能力が存在する」と私が考えるに至った根拠の大半が、私が今回批判している作中人物達自身の発言や行動によるものです。つまり彼らは私が考えられたことなど充分に認識できる立場にあったわけで、真珠湾攻撃における空母撃沈云々(真珠湾攻撃当時の日本軍はアメリカ空母の所在を捕捉できる立場にはなかった、ですよね?)とは状況が異なるでしょう。これでは情状酌量の余地なく「愚か」と決めつけても問題はないと思いますけどね。


No. 1933
Re:Re1916/1922:まとめてレス
Zero 2002/05/26 23:48
色々、反論を推敲してみたのですが。

・・・やっぱり、もうやめておきます。
所詮、僕の論も冒険風ライダーさんの論も「オレ設定」なんですよ。
論としては、よっぽど変なモノでなければ「有り得る」訳ですよね。

で、双方とも自己内の「脳内オレ設定」を前提に論理展開するので、
平行線なんですよね。多分、表記していないオレ設定部分は相手に
分からないこともあるでしょう。特に異なった意見の根っこですから。
恐らく、この溝は埋まりません。

「反対意見がある」位に思っておいてくれるだけで良いです。
「自分の方が正しかった」でもいいですよ。

僕も「作中設定」として記載されていない「オレ論」は、
それを前提に「作中人物批判」出来る程のモノではない、
と評価してますので。
#結局、ここに位しかこだわりが無いわけですが・・・


最後に、
「イオン・ファゼカス号」の大質量物体移動と「恒星間宇宙船」の
自給自足の混在については、確かにこちらの読み違いでした。
個別に言いたいことは、前述した事と変わりませんが。

あと、燃費の矛盾の指摘ですが、
僕は、長征時のイオン・ファゼカス号の「バザード・ラム・ジェット
・エンジン」と作品正史時代における「通常航行エンジン」は別物と
定義している事だけ書いておきます。


No. 1939
Re「:長征一万光年」関連
平松重之 2002/05/30 01:23
 冒険風ライダーさん

<これほどまでの超巨大宇宙船を航行させられるだけの技術が、本来技術系出身であるはずもないアルタイル星系の無学な奴隷階級ごときの手によって確立され、しかも船体自体の問題はともかく、宇宙航行に関しては何ら問題がないらしいことを考えれば、それよりもはるかに小さな銀英伝世界の要塞クラスが宇宙を航行する技術の実用化に、実は大した障害など全く存在しなかったということがお分かり頂けるでしょう。250年近くも前にすでに確立している技術を模倣するなどそれこそ難しいことではないですし、燃料問題も質量問題も全て解決してしまいます。
 一連の議論で懸案となっていた「移動要塞技術確立の問題」はこれで全て解決しますね。>

「材料となったドライアイスの巨大な塊の大きさ」=「イオン・ファゼカス号の大きさ」とは必ずしも言えないでしょう。そもそも、直径60kmのイゼルローンにすら500万人以上が居住出来るのに、どうして40万人を乗せるのにそんな巨大な宇宙船が必要なのでしょうか?動力部や船体の厚みなどを考慮に入れても無駄なスペースがあり過ぎるのではないかと思います。
 3巻のP214には、

<宇宙船のエンジン推力軸は、厳密に船体の重心をつらぬいていなければならない。宇宙船の形状が円または球形を基本とし、左右・上下が対象となっているのは、そのためである。もしこの法則を守らなければ,宇宙船は進む方向を見失い、重心を中心としてスピン回転をつづけることになる。>

とありますので、第一にそのドライアイスの塊を円や球を基本として表面を加工しなければならず、これだけでもかなりの重量が削られると思われます。しかし、惑星上にいる監視者(1巻P15)の存在を考えれば、これだけの巨大な塊を加工している時点で監視者に露見する可能性が高く、そのまま加工を行なうのは無謀です。そこで、そのドライアイスの内部を掘削して空間を作り、ドライアイスの塊の外部を工事隠蔽の為のシェルターとし、その中で内部のドライアイスの塊を加工して宇宙船を作ったというのはどうでしょう?そうすればイオン・ファゼカス号それ自体の大きさは少なくとも当初の塊の半分以下にはなりますし、更に内部をくり貫き、表面を円や球を基本として削って加工すれば重量は更に軽くなります。また、40万人を一定期間居住させるだけなら、ガイエスブルクより小さくても問題はないでしょうし、「イオン・ファゼカス号はガイエスブルク要塞より遥かに小さかった」という可能性も考えられるのではないでしょうか。
 また、「無学な奴隷階級」というご意見にも、Zeroさんのおっしゃる通り疑問を感じます。1巻のP14下段には、「帝国暦一六四年、叛徒の眷属として奴隷階級に落とされ、苛酷な労働を課せられていた」とあり、彼らが一代で奴隷階級に落とされたと解釈出来ます。そうである以上,40万人の中にはかつては技術者であり、宇宙船を飛ばす高度な知識を有していた人達も相当数存在したのではないかと。第一彼らがそれ程無学なら、同盟が100年程度でダゴン星域で帝国と対峙出来るだけの科学力や国力を持っていた事の説明がつかないのでは?これらは高い教育水準を最初の市民達が有していたという証拠になるのではないでしょうか。

<また、アルタイル星系を脱出して後、無名の惑星の地下にて新たに建造された80隻の恒星間宇宙船に至っては、イゼルローン要塞とほぼ同レベルの「自給自足能力」を保有していた可能性が極めて高いのです。彼らは自らの根拠地を捨てて流浪しながら、50年以上にもわたって孤独な旅を続けていたわけなのですから(その点では銀英伝本編のイゼルローン陣営と同等ないしはそれ以下)、彼らの艦船自体に食糧・燃料等を全て自前でまかなえる一定規模の自給自足能力が存在しなければ、そもそも「長征一万光年」自体が補給の問題に直面して全く成り立たなくなることにすらなってしまいます。そしてこの事実は、銀英伝世界で「移動しながらの自給自足」が技術的に可能であることをも立証するのです。>

 実際50年後に彼らが新天地に到達した時、彼らは当初の四割に過ぎない16万人にまで減少しています(1巻P16下段)。この人口減少の原因としては、事故や老衰、連続してワープせざるを得ない環境下での出生率の低下の他に、食料の確保困難による栄養失調も大きな理由だったとは考えられないでしょうか。
 詳しい記述がない以上、「長征一万光年」における自給自足体制が万全なものだったと断定するのは早計で、要塞のそれと安易に比較は出来ないのではないかと。

Zeroさん

<アルタイル星系が何処にあるかは分かりませんが辺境でしょう。
想像するなら、イゼルローン回廊に比較的近い星系だと思われます。>

 アルタイルは実在する恒星で、わし座の一等星で日本では彦星と呼ばれています。地球からの距離は16〜17光年ですので、銀英伝の艦船事情からすればすぐ近くと考えていいでしょう。オーディン=地球間の距離は、七月一〇日に地球教討伐に向かったワーレン率いる高速艦隊が太陽系外縁部に到達したのが二四日ですので(6巻P158下段)、およそ2週間程度ということになります。ハイネセン=イゼルローン間の距離は約4000光年で(3巻P129上段)、ヤンが査問会出頭時に乗った巡航艦レダUで3〜4週間程度(3巻P115上段)必要でしたので、オーディン=アルタイル間は2000光年前後と推定出来ます(実際は「航路=星系間の直線距離」という訳ではないので多少なりとも誤差はあるでしょうが)。そしてオーディン=イゼルローン間は約6250光年(1巻P113)であり、これから考えればアルタイル=イゼルローン間は最低でも直線距離で4000光年近く離れていると考えられますので、アルタイル星系がイゼルローン回廊に近いという可能性はないかと(もっとも、作中のアルタイル星系が、名前が同じなだけで実在のアルタイルとは全く別な恒星系だという可能性もありますけど)。

 それにしても「長征一万光年」についての記述は至って少ないですね。この少ない記述のみを元にして仮説を立てても、強い説得力を持たせるのは難しいのではないでしょうか(自分の説もそうですが)。


No. 1941
Re1939:船体の謎と自給自足体制
冒険風ライダー 2002/05/31 00:37
>平松さん
<「材料となったドライアイスの巨大な塊の大きさ」=「イオン・ファゼカス号の大きさ」とは必ずしも言えないでしょう。そもそも、直径60kmのイゼルローンにすら500万人以上が居住出来るのに、どうして40万人を乗せるのにそんな巨大な宇宙船が必要なのでしょうか?動力部や船体の厚みなどを考慮に入れても無駄なスペースがあり過ぎるのではないかと思います。>

 そりゃ純粋に居住部と動力部のスペースのみを考慮すれば確かにイオン・ファゼカス号の大きさは無駄もいいところでしょうが、しかし「船体の維持」という観点から見ると、あの巨大さは決して無駄と呼べるようなものではありません。
 そもそもドライアイスは二酸化炭素を圧縮して固体化したものであり、冷却材などによく使われる物質であるわけですが、そのドライアイスが固体から気化する際の「昇華温度」は何とマイナス78.9℃と非常に低いため、その維持には氷と比べても絶対的に低い温度を必要とするのです。
 こんな絶望的な条件を満たすことが果たしてできますかね? 確かに作中でも言われている通り、常に絶対零度を維持している船体外側に関しては何の問題も生じないでしょうが、絶対的に熱を必要とする動力部と居住部でマイナス80℃以下などという「バナナで釘が打てる酷寒の世界」を維持できるはずもないでしょう。特に動力部などは周辺に放つ熱だけでも数千〜数万度もの高い温度が存在することは疑いありません。また作中でも「『動力部や居住部からの熱を遮断させることさえできれば』、かなりの長期間にわたって飛行が可能である」という『』の条件付きで航行が可能と明記されており、「そしてその間に、星間物資や無人惑星に恒星間宇宙船の材料を求めればよいのだ」と述べている辺り、『』内の条件を永続させることは銀英伝世界でも不可能であることを逆に物語っています。単純に考えても、居住部の居住環境の維持と動力部から発生する熱だけでドライアイスの維持に必要な温度を簡単に上回ってしまうわけですから、短期的にはともかく、長期的には船体の維持が困難な話であることは想像に難くありません。
 これから考えれば、なぜイオン・ファゼカス号があれほどまでに巨大な図体を誇っていたかの理由も説明できるでしょう。あの巨大な船体は、内部に物資を格納するためのものではなく、船体の維持それ自体が目的であるわけです。また建造者達も、このことを想定したからこそあえて巨大なドライアイスの塊などを宇宙船の材料として選択したのでしょう。ドライアイスの特性から、イオン・ファゼカス号は航行するにしたがってドライアイスの体積&質量の絶対量が減少していきますので、その辺りも考慮した上で船体の建造を行わなければならないわけです。
 これでイオン・ファゼカス号の巨体の謎についての説明はつくのではないでしょうか。


<第一にそのドライアイスの塊を円や球を基本として表面を加工しなければならず、これだけでもかなりの重量が削られると思われます。しかし、惑星上にいる監視者(1巻P15)の存在を考えれば、これだけの巨大な塊を加工している時点で監視者に露見する可能性が高く、そのまま加工を行なうのは無謀です。そこで、そのドライアイスの内部を掘削して空間を作り、ドライアイスの塊の外部を工事隠蔽の為のシェルターとし、その中で内部のドライアイスの塊を加工して宇宙船を作ったというのはどうでしょう?そうすればイオン・ファゼカス号それ自体の大きさは少なくとも当初の塊の半分以下にはなりますし、更に内部をくり貫き、表面を円や球を基本として削って加工すれば重量は更に軽くなります。また、40万人を一定期間居住させるだけなら、ガイエスブルクより小さくても問題はないでしょうし、「イオン・ファゼカス号はガイエスブルク要塞より遥かに小さかった」という可能性も考えられるのではないでしょうか。>

 こんなことをするくらいならば、そもそも最初から件の巨大なドライアイスよりも体積&質量の小さなドライアイスなり氷なりの塊を船体に選んで宇宙船を建造する方がはるかに手っ取り早いですよ。その方が掘削の手間も大幅に省けますし、全体的な工期もはるかに短くて済みますから。第一、件のドライアイスに関しては「その中心部を刳貫いて動力部と居住部を設け、宇宙船として飛ばそうというのである」とはっきり書かれていますので、平松さんの仰るような拡張解釈は不可能なのではないかと。
 それに惑星上なり衛星軌道上なりに敵の監視の目が光っており、その監視下の元で奴隷労働に従事しなければならない状態で、しかもたった3ヶ月ほどで、イオン・ファゼカス号ほどの巨大な宇宙船が建造できるわけがないでしょう。それにシェルターなどを使ったところで、ドライアイス以外の莫大な物資の搬入や人員の移動などは絶対に必要不可欠ですから、それが惑星上の監視員なり空からの監視なりに捕捉されたら一巻の終わりです。敵の監視下にある場所で巨大な宇宙船建造などという大規模工事を行っているのに、たかだかシェルターごときでそれを完全に隠蔽することができると考える方がどうかしているでしょう。
 あの奴隷階級の面々がイオン・ファゼカス号を建造するためには、一時的にせよ惑星上から帝国側の勢力を完全に駆逐ないしは無力化させ、しかもそのことを外部に一切悟られないようにするしかないでしょう。少しでも計画が敵側に露見すれば、奴隷階級にとってはそれで全てが終わるのですから。


<また、「無学な奴隷階級」というご意見にも、Zeroさんのおっしゃる通り疑問を感じます。1巻のP14下段には、「帝国暦一六四年、叛徒の眷属として奴隷階級に落とされ、苛酷な労働を課せられていた」とあり、彼らが一代で奴隷階級に落とされたと解釈出来ます。そうである以上,40万人の中にはかつては技術者であり、宇宙船を飛ばす高度な知識を有していた人達も相当数存在したのではないかと。第一彼らがそれ程無学なら、同盟が100年程度でダゴン星域で帝国と対峙出来るだけの科学力や国力を持っていた事の説明がつかないのでは?これらは高い教育水準を最初の市民達が有していたという証拠になるのではないでしょうか。>

 あの記述の後に、

銀英伝1巻 P15上段〜下段
<彼らの計画は幾世代にもわたって周到に練られたものではなかった。そのような計画は立てられた数だけ失敗に終わっていた。共和主義者の墓標が増え、挽歌に代わって社会秩序維持局の嘲笑が響き渡る。際限ない、その繰り返しだった。>
<それまでの計画の難点は宇宙船の材料の入手法にあった。非合法な資材の入手には必然的に無理が生じ、それが社会秩序維持局にかぎつけられると、容赦のない弾圧と殺戮の暴風が吹き荒れることになるのだ。>

 という、いかにも「昔から現地の奴隷階級の間ではそのようなことが頻繁に画策されていた」と言わんばかりの記述があったので、彼らは「ルドルフの死後の叛乱で農奴階級に突き落とされた共和主義者の末裔」であると私は解釈したわけですが、この辺りは解釈の違いでしょうね。
 まあこの主張に関しては、別に平松さんの主張に沿った内容でも別に私も異論はないですよ。別にそれで作品設定に抵触するわけでもありませんし、彼らが宇宙船を建造できた理由がとにもかくにも説明できるわけですから。
 ただ、彼らが奴隷階級であるが故の不利というものは相変わらず存在するでしょう。たとえば宇宙航行技術を生かすための道具や設備の問題とか。奴隷階級しか存在しない資源採掘目的の惑星に、削岩系の道具ならともかく、たとえばエンジン開発のための設備や環境といったものがあの惑星上に存在するようにも思えないですしね〜。


<実際50年後に彼らが新天地に到達した時、彼らは当初の四割に過ぎない16万人にまで減少しています(1巻P16下段)。この人口減少の原因としては、事故や老衰、連続してワープせざるを得ない環境下での出生率の低下の他に、食料の確保困難による栄養失調も大きな理由だったとは考えられないでしょうか。
 詳しい記述がない以上、「長征一万光年」における自給自足体制が万全なものだったと断定するのは早計で、要塞のそれと安易に比較は出来ないのではないかと。>

 そんな問題が存在するのであれば、そもそも「長征一万光年」が成功する事自体、全くもって奇怪な話と言わなければならないでしょう。いつ終わるとも知れない長征を行うというのに補給の問題が全く考慮されないなどということはありえないですし、補給も自給自足も満足にできない状態では、件の共和主義者達の間で同士討ちや内乱・敵との密通などが生じてもおかしくありません。補給問題ほど、人間の士気を下げてしまうものはないのですから。
 人口減少の原因としては、平松さんが提言している「事故や老衰、連続してワープせざるを得ない環境下での出生率の低下」だけで充分に説明できるのではないのですか? 何しろ、彼らの恒星間宇宙船1隻につき単純計算で約5000人が搭乗しており、それが大事故に巻き込まれれば搭乗している人間のほとんどが死亡するわけですし、「宇宙の墓場(サルガッソ・スペース)」内の航行は事故率も相当高かったことでしょうしね。
 こんな過酷な「長征一万光年」が成功するためには、最低でも「万全な自給自足体制の確立」くらいは必要不可欠ですし、またそうでなければ「長征一万光年」がとにもかくにも成功してしまうこと自体、疑問視せざるをえなくなるのではありませんか?


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