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初代管理人の本論7
トンデモ本の世界


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初代管理人の本論7
トンデモ本の世界


「でも月にどうやって住むの? あそこには空気がなくて生物は住めないでしょ」
「そうね。月についてはいろいろな情報が公開されている。矛盾だらけの情報がね」
 瑤姫は頭のうしろで両手の指を組みあわせた。
「アメリカの航空宇宙局(NASA)が公表した奇妙な月面写真があるでしょ。月面に着陸した宇宙飛行士がアメリカの国旗を立てている。その旗が垂れさがらずに、なびいている………」
「あ、見た見た」
「これが意味するものは何だと思う?」
勢いよく、終は指を折った。
「ひとつ、月には空気がある」
「そうね。それから?」
「ひとつ、あの写真は月以外の場所で撮影された」
「それから?」
「いまのところ、この二点だけで充分じゃないかな」
すると余が異議をとなえた。
「写真自体がつくられたものかもしれないよ、何かの目的があって」
(創竜伝8巻 P170)


「ああ、そうだ、月について西王母さまの宮殿でちょっとおもしろい話を聞いた」
(中略)このとき始が語ったのは、西王母の娘で、つまり茉理の姉にあたる瑤姫から聞いた話である。アメリ力のアポロ宇宙船が月面に到着して、自分たちの領土でもないところに星条旗を立てた。その旗がはためいたので、月に空気があるとも思われたのだった。
「じゃ始さんは月に空気があると信じているの?」
「まさか」
始は苦笑して手を振った。
「あれは旗にそういう細工がしてあったんだそうだ。ただ、問題は、NASA-アメリ力航空宇宙局が情報を独占しているということなんだ。つごうのいい情報は公開し、つごうの悪い情報は隠し、ときにはデータを改変する。しかもそれを外部から検証するのはきわめて困難だからね」
「そうね、民間人が月に行って真偽を確認するわけにいかないものね。かりにその旗が博物館に陳列されたとしても、真物かどうかは証明できないし」
「だからさまざまな奇説も生まれる。まあ、それらは権威に対する反発なんだから、いくら科学的に反証されても、消えることはないだろうね。ナチス・ドイツや日本帝国やソ連みたいに、国家が嘘をついて国民をだましていたという実例はいくらでもある。NASAの管理する情報を頭から丸ごと信じこむというのも、かなりお人よしな話だな」
「世の中には、お役所にだまされたくてたまらない人たちってけっこういるものね」
(創竜伝9巻 P95)



 8巻と9巻で、どうしてこうも主張している内容が全く異なるのか。
 8巻を読んだ時点だと、「なるほど、月には空気があって、そこに天界があるのか」と思わせる展開になっている。と言うか、ここまでコロッと主張が変わるとなると、以前は作者自体が結構本気で信じていたフシもある。
 さて、どうやら8巻から9巻の間の2年に、『星条旗は針金ではためくようにされていた』という事実に気が付いたらしい。それで、微妙に軌道修正をはかったのだろう。
 しかし、本人は軌道修正をはかったつもりでも、こうやって並べてみたり、全巻を一気に通読してみたりすると、あまりにも不自然で読者は混乱する。
 間違いを正すことは、確かに美徳である。しかし、通読していてつい先程まで月に空気があることになっていたのが、急に「そんなことはない」というごくごく当たり前の一般常識に還元される。これは、作家が自分の作品に、ひいては自分の読者に対する態度として、美徳だろうか? ましてや、ここでのNASA批判に何か意味があるとは思えない。
 たかが「旗に針金細工がしてあった」という事象から、


「問題は、NASA-アメリ力航空宇宙局が情報を独占しているということだ。つごうのいい情報は公開し、つごうの悪い情報は隠し、ときにはデータを改変する。かもそれを外部から検証するのはきわめて困難」

「民間人が月に行って真偽を確認するわけにいかない。かりにその旗が博物館に陳列されたとしても、真物かどうかは証明できない」

「だからさまざまな奇説も生まれる。それらは権威に対する反発だから、いくら科学的に反証されても、消えることはない。ナチス・ドイツや日本帝国やソ連みたいに、国家が嘘をついて国民をだましていたという実例はいくらでもある。NASAの管理する情報を頭から丸ごと信じこむというのも、かなりお人よしな話だ」

「世の中には、お役所にだまされたくてたまらない人たちってけっこういる」



という壮大な結論を導き出す論理構成は相当に素晴らしい。私には、どうも自分の間違いの照れ隠しのための批判にしか思えないのだが、旗に針金を入れただけでここまで言われなければならないNASAは、本当にいい面の皮である。
 作品世界と現実世界は違う。当然で自明のことである。ならば、作品世界で月に空気があったところで、何も悪いことはないのだ。作品世界では、月面有空気説で統一し、あとがきあたりで実際の事象の話をすれば、それで良かったのではないのか? また、そのほうが誠実な態度ではないだろうか。



田中芳樹を撃つ!初代管理人 石井由助







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