初代管理人の本論4

小説だったら許される?

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田中芳樹を撃つ!初代管理人 石井由助氏によるサイト掲載文

 はじめに

 この項に限っては評論ではなく小説である。よって、この物語はあくまでフィクションであり、現実の事件・団体・個人などとは無関係であることを、とくにお断りしておく。

 その年のその月のその日は、冬も差し迫っていながら妙に小春日和の一日だった。
 子供達が突然の暖かさに喜び、大人は出勤前にコートを着て行くか行くまいか少し悩んだりもした。
 コートを着ていくことを選んだ大人は、満員電車の中でその選択を激しく後悔することとなった。
 そんな一日、郊外にある、とある大邸宅では、数人の男が集まって白昼から生臭い話をしている最中であった。

「このたびの竜創伝最新刊の売り上げは今週のトップでございます。いやあ、さすが中先生の作品ですなぁ。勢い、いまだに衰えず、と」

 その中先生にひれ伏して感謝しているのは、竜創伝を出版している共和出版の編集者だった。
 現在、出版界でのマンガの勢いの前に、文学・小説系の編集者は社内で肩身の狭い思いを余儀なくされていた。しかし、竜創伝は小説の中でも、マンガに負けることのない数少ないドル箱であった。
 とにかく、出せば売れるのだ。もともとは文壇志望で業界に入った、この編集者は、たまに読者は中身なんか読まないでブランドで買っているのではないかという疑問を持ったことがあったが、もちろん、そんな疑問は自分の中からさっさと消してしまった。とにかく、小説の分野で他社にリードできる素材であることは間違いないのだ。

「ん、まぁねぇ。君のところはいつもコンスタントに売れてくれるからねぇ。だから、早めに書いてあげてるんだよ。わかる?」

 中がそういって笑う。

 ちっ、何言ってるんだよ。てめぇの業界随一の遅筆に泣かされて、しかもその尻拭いまでしてるのは俺なんだ。ふざけんな、バーコードハゲ!

 と、編集者は心の中で毒づいたが、さすがにドル箱の管理を会社から任されている男だった。それを表面に出すような愚かな真似はせず、とにかく顔に愛想笑いを浮かべ、必死に機嫌を伺う。

「いやぁ、今回も先生のタカ派社会に対する筆鋒は見事でございました。きっと、あの小説を買った善良なファンは感動のあまり落涙を押さえられずに読んだことでしょう」

 中は、ふんふんふんと自慢げに大きな鼻の穴を広げて笑った。作中で、彼は政治家が「先生」と呼ばれることに対し「先生と呼ばれて良いのは教師と医者だけだ!」と反発を見せていたが、教師でも医者でもない自分が「先生」と呼ばれるのには何の抵抗もないようだった。

「今回も社会批評部分には力を入れて書いたからねぇ。いやはや、我ながら、よくも毎回毎回こんなに鋭い批評が書けるのか、自分でも驚いちゃうよ」

 ふんふんふん、と、また笑う。

「そ、それでは、今度はウチで社会評論の本を出してみませんか? 新聞広告に大々的に宣伝をさせていただきます」

 と言ったのは、別の出版社の編集者だった。門倉書店といい、どちらかというと新興系の出版社であったが、マンガの分野がマニアックすぎて一般ウケせず、小説でのドル箱の重みが、共和出版よりもずっと大きかった。

「何言ってんの、君ぃ。バカじゃないのかね」
「は!?」

 唐突に否定されて、一瞬、門倉の編集者は呆気にとられた間抜けな表情を浮かべた。しかし、次の瞬間に、彼は先生の機嫌を損ねてしまったことに気づいて、血の気が引いていくのを感じた。

「評論なんて書いたらタカ派の奴らに何言われるか判ったものじゃないよ。とにかく、小説って形で書けば、余計な文句を付けてくる奴らには『お前は小説と評論の区別もつかないのか』って言ってごまかせるし、評論なんか読まないような青少年にも、小説として読ませれば抵抗なく正しい社会認識に染めることが出来る。まさに一石二鳥だよね。」

 中は、得意げに鼻をならすが、その1メートル前では門倉の編集者が必死で額を床にこすりつけていた。

「ははぁ! 私めは浅はかであったため、先生のご深慮をご推察することが出来ませんでしたぁ! 誠に、誠に申し訳ありません!」
「まったく、困るよ。そんなんじゃ、「歩くRUN戦記」の続きはしばらく先のことになるね」
「せ、先生っっっ」

 編集者は額が赤くなるほど頭をこすりつけていたが、事態がそれどころではないと知ると、もはや涙声になった悲鳴を上げた。
 何しろ、「歩くRUN戦記」は前巻の発刊からもうすぐ10年が経とうとしているのだが、いまだに新刊が出ていない。門倉書店としては、CDドラマ、アニメ、マンガとメディアミックスをして稼いでいこうと大金を投入したのに、あまりの遅筆のせいで全然うまくいっていないのだ。
 このうえ、新刊の続きが出ないのだとしたら、これは事実上の続編凍結と全く変わりがない。

「せ、先生! たしか、先生は中国ものの小説を書きたいとおっしゃられていたはず。へ、弊社にて是非とも先生の中国傑作小説を発刊させていただきたいと存じます。もちろん、広告は大々的にさせていただき、もちろんハードカバーのみならず、文庫、ノベルズの全ての形で発刊させていただきます!」

 中は、再び、ふんふんふん、と鼻を鳴らした。機嫌が戻ったのだった。

「うんうん。僕も中国ものを書きたいと思っていたからね。そこまでしてくれるのだったら、君のところで書いてあげてもいいね。ついでに「歩くRUN戦記」も書こうかな」

「ははぁ。ありがたき幸せに存じます」

 今度は、喜びのあまり編集者は額をこすりつけた。
 とても、小説中で民主主義を声高に唱える作家の光景とは思えない、異様な光景だった。その異様な光景をみていた共和出版の編集者は、その光景を見ても異常とは思えないくらい、感覚が麻痺していた。そのかわり、彼はこんな事を考えていた。

「ちくしょう。あの野郎、巧いことやりやがって。同じ小説をハードカバー、文庫、ノベルスと形態を変えて出して、儲けるのはウチのやり方なのに」

 同じ小説を、形態を変えて出す。
 もちろん、同じ小説なのだから、中身は同じである。そこで、中は一計を案じた。その方法とは、あとがきのようなちょっとした文を書き換えて出すのである。

「いやぁ、このあとがきには力を込めて書いたからねぇ。堂竜兄弟の掛け合いなんか最高だよ。いやぁ、これは売れるね。ノベルス版を持っている僕のファンはまた欲しくなるよ」

 そのとき、中は自信満々でそういい放った。原稿用紙にしてたかだか数枚の「玉稿」を受け取りながら、編集者は、さすがに読者もそこまでバカじゃないだろう、と思っていた。彼自身、今はともかく昔は文学青年だったから、そんなことで本を買うことがなかったのである。
 ところが、ふたを開けてみたら、売り上げトップテンに名を連ねるほどの売り上げである。一応念のために人気の漫画家をイラストレーターに使ったとはいえ、新たな読者層を開拓したとは思えなかった。買ったのはリピーターである。
 そうか、読者はバカなんだ。
 そのとき、編集者は思った。主人公達のミニドラマ的なあとがきのような「ファングッズ」をつけて、今までの作品を形を変えて出す。それだけで、売れてしまうのだ。中が、思い上がるのも当然だった。ファンは、自分で自分の首を絞めて喜んでいるのだから。

「あ、君ね」

 編集者は、中に声をかけられたのに気づいて、我に返った。

「は、はい? 何でございましょう?」
「竜創伝はウサ晴らしに書くのにちょうどいいから、特別にはやく書くよ。そうだね、5年くらいで新刊が出るんじゃないかな。まぁ、今回のあとがきにもちゃんと「作者をあてにするのはまちがいで〜す」って書いておいたから、読者も待ってくれるだろう。君、これが責任ある態度ってものだよ。わかる?」

 とてもプロの責任ある言動とは思えないことをあとがきに書いておいて、それを誇らしげに自慢しながら、中は鼻を鳴らした。

「だから、ちゃんと今までのノベルスの作品を文庫になおして売ってくれよ。仕事しないで、大金が入ってくる。いやぁ、作家はやめられないねぇ。これで、僕も安心して中国の研究が出来るってものだ。持つべきものはファンだね。ふんふんふん」

 編集者は、言葉では美辞麗句で飾り立てて中を誉めながら、こんな事を考えていた。
 そうだ。バカなファンを引きつければ、儲かるな、と。

 小説の中にわかりやすくした社会批評をいれて、社会について考えたいけど考えられない読者の劣等感を煽る。
 中身を変えないで、目先だけ変えて、まったく同じ物を売りつける。

「いずれもバカじゃなかったら成り立たないよな」

 中の邸宅から退去する帰り道、共和出版の編集者は、門倉出版の編集者に話しかけた。彼らはビジネス上は敵であったが、中の身勝手に振り回されているという意味では同志という、極めて複雑な関係にあった。

「無邪気なもんだよねぇ、ファンも」
「読者は無邪気でバカで素直なのが一番だよ。批判ばかりするファンなんて中先生には必要ないよ」

 とまあ、くだらない小説を書いてみた。田中芳樹ファンの方は中傷と感じなかっただろうか?
 創竜伝のやり方を、田中芳樹自身を題材に書いてみたのだが、オリジナルが容易に推察出来るように書いた架空の人物の批判ってのは、ある意味直接の批判よりもずっとひどいかも知れない。なにしろ、あくまでも対象は架空の人物で、責任なんかに躊躇せず、好き勝手に書けるのだから。
 それにしても、相手をわざと異常に卑小評価して、「卑小な奴らはいけないし、卑小な奴らの言っていることはいけないんだ」っていわれてもねぇ。と、立場が変わると思うんでないの? ファンのみなさん。

田中芳樹を撃つ!初代管理人 石井由助

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