QLOOKアクセス解析


銀英伝考察2
ヤンが殉じたシビリアン・コントロールの実態
過去ログD


銀英伝考察2−Cへ 銀英伝考察2−Eへ

No. 1056
Re:1054亡命にかかる時間とコストの問題
snow-cream 2000/6/22 00:40:52
初めて書きこみさせていただきます。
よろしくお願いします。

冒険風ライダーさんは書きました

>  銀英伝世界においては、帝国から同盟まで移動するのにかかる時間が最低1ヶ月以上かかります。ということは亡命者輸送業者が亡命志望者を搭載して彼らを同盟に到着させるるまでにかかる時間は、往復で最低2ヶ月以上、場所によっては半年近くかかってしまう事もあるかもしれません。
>  これから考えると、格安で亡命志望者を大量に輸送しようとするのであれば、むしろ一度の宇宙航行で最低500〜1000人程度は輸送していかないと却って亡命者輸送の過程で損害が出てしまう可能性がありますし、そもそも供給が需要に追いつかなる事態さえ起こりえます。そうなればただでさえ高い亡命費用がますます高騰し、一般の平民が同盟に亡命する事が全くできなくなってしまうかもしれないのです。これでは亡命者輸送業が全然商売にならなくなってしまいます。
>  それに銀英伝の艦船事情からも、500〜1000人程度の人数を隠蔽することは技術的にそれほど困難なわけではないのですから、亡命者輸送業者達は採算性を取るためにも、むしろ積極的に大量亡命に荷担していったと考えるのが自然なのではないでしょうか。

ふと思ったのですが、
帝国の「亡命輸送業者」が
数百人から千人規模の亡命者を集めるさい、
いったいどのような手段を使ったのでしょうか?

帝国から同盟へ人を運ぶにしても、
それをいったんどこかの惑星で積まなければならない。
ヴェスターラントの例を持ち出すまでもなく
一般の平民が貴族領の惑星から脱出することは
まずほとんど不可能だと思いますし、
そうなると「亡命輸送業者」は各惑星を巡って
亡命希望者を拾っていかなければならない。
これはコストとリスクが大きくかさむ行為ですから
冒険風ライダーさんがおっしゃるような大量輸送には向いていません。
この点はどうお考えでしょうか?

# 貴族が運営する貴族領の「領民」と
# 帝国(皇帝)が運営する直轄地の「臣民」とでは
# 帝国内の旅行の自由に大幅な違いがあり、
# 「臣民」はわりと楽に亡命できたのかもしれませんが…。
# 銀英伝の中で貴族領の平民と直轄地の平民とで
# 待遇に格差があったという記述を見かけた記憶は
# 残念ながら無いのですけれども。


No. 1057
Re:採算性について
Merkatz 2000/6/22 11:37:06
なんだか美味しいところを摘み食いしたような気分(笑)。
これが横レスの奥義か!?

>1. ダゴン星域会戦直後の亡命事情

そうですね。
あと、私、すっかりフェザーン成立とダゴン星域会戦の順番を忘れていました。(^^;;

>2. それ以降の亡命事情

>「その時期に一斉亡命が可能であったか?」

問題が絞られてきましたね。

># 貴族が運営する貴族領の「領民」と
># 帝国(皇帝)が運営する直轄地の「臣民」とでは
># 帝国内の旅行の自由に大幅な違いがあり、
># 「臣民」はわりと楽に亡命できたのかもしれませんが…。
># 銀英伝の中で貴族領の平民と直轄地の平民とで
># 待遇に格差があったという記述を見かけた記憶は
># 残念ながら無いのですけれども。

また、初カキコの方から以上のような疑問も出ましたので、
帝国領内の移動の自由について、ちょっと推測してみたいと思います。
まず、領民と臣民で差があったかどうかは、そのような記述はなかったと私も思います。
宇宙航行が常態化した世界で、移動の禁止を前提としたというのも有り得ないと思いますので、
おそらく、帝国領内の移動は自由だったのではないでしょうか。
もし移動を禁じれば、親戚に会いに行くことすら出来なくなってしまいますから。
(同盟とフェザーンではあるが、親戚が別惑星に居住する例としてイワンとボリスのコーネフ一家の例がある)
ただ、IDカードみたいなものはあったのでは?
(アメリカとかがそうですよね?なんて言うんでしたっけ?)
自分が誰の何兵衛で、何惑星のものだという事が記載してあるカードが全帝国民必携だったとしてもおかしくありません。
それで各惑星の宇宙港におけるチェックをしていたのではないでしょうか。もちろん、それを見せて宇宙船のチケットも買うわけです。

このように、各帝国惑星間の移動が普通のことであったとするならば、
亡命業者が各惑星に亡命者を拾いに行くという事をしなくてもいいわけです。
旅行と称してフェザーンに移動すれば済むことですから。
ただ、どうしてもフェザーンへ移動できない人の為に特別に現地まで赴くことはあったでしょう。
犯罪者であるとか、大集団だとか、皇族の亡命とか。

そうすると、亡命業といっても、ほとんどフェザーン→同盟領の移動であり、
帝国内の移動はほとんど関係ないことになります。
つまり、亡命者は(旅行などを装って)フェザーンまで赴いた後、しかるべき筋を通して亡命業者と連絡。
亡命業者はある程度の人数に達したら、日時を連絡して移送、という手順を踏んだのではないでしょうか。
また、亡命業者の船が、亡命者「だけ」を載せていると考えるのは実は間違いかも知れません。
つまり、実際に荷物を積んでいれば、書類の上でも「貿易のため」とかなんとか真っ当な理由が付きますし、
万が一臨検されても、船倉に実際に荷物があるわけですから怪しまれずに済みます。
また、これなら、荷物を運ぶついでに亡命者を運ぶことになりますから、
亡命者が一人でも全然損にはなりません。

そうすると亡命業というのはかなり美味しい商売だったと言えるでしょう。
つまり、亡命者がいないときは、普通の商船として荷物の搬送にあたり、
亡命者がいるときは、プラス亡命手数料が「通常の荷物を運ぶついでに」儲かるわけです。
もちろん、違法行為ですからリスクは負いますが、当の帝国がほとんど取り締まりに関心がないものですから、
臨検されるのはかなり「運が悪い」ことだったのではないでしょうか。
また、亡命者移送業がそのように易い仕事だったからこそ、
ボリス・コーネフのような一見まともな商船ですら、ユリアン達を運ぶという仕事を引き受けたのではないでしょうか。
(少なくともまったくノウハウの無いことなら、ボリスがそのような仕事を引き受けるはずがない。
以前から亡命者を移送していたから、依頼を引き受けたのだろう)

まとめますと、2つに分かれると思います。

1.亡命者がフェザーンまで移動出来る場合

旅行としてフェザーンまで移動。しかるのち亡命業者と連絡。
業者は都合の良い日を後に連絡。
この場合、同じ客が集まるまで待つこともあり。
ただし、それでも数週間以内か?
最低一人でも移送。
表向きは貨物の運送。実際に同盟領に荷物を送り届ける。こちらは表の仕事。
亡命業者は正規の仕事料に、亡命手数料まで儲かる。
(ボリス・コーネフ等、ほとんどの業者がこれにあたると思われる。
また、このような形で亡命できる帝国人は借金問題で夜逃げとか、
家族問題で亡命を薦められたとか、
きわめて個人的問題絡みだと思われる)

2.亡命者がフェザーンまで移動出来ない場合

フェザーン商船自らが該当惑星まで移動。
やはり表向きは貨物の搬送。
ただし、当該惑星向けの貨物が都合よく有るとは限らないので、
その時々の状況によりお出迎え料金に高低あり。
後は当該帝国惑星→フェザーン→同盟領と「貨物の搬送」を装って移動。
ただし、この場合はある程度の大人数か、さもなくば大貴族で大金を出せるかでもないと、
採算に合わないだろう。
ここまでやれるのは、かなり腕に自身がある亡命業者だけだろう。
(エルウィン・ヨーゼフ二世の亡命に関わったボーメル船長は、こちらだろう。
なんとこの時はオーディンからフェザーンまで送り届けている。しかも同盟領ではなく「フェザーンまで」だったことを考えると、
実は帝国領内を移動する事の方が遥かに難しいことだったのだろう。
なぜならお出迎えパターンということは、そもそも当局にチェックされてフェザーンに自ら赴けないわけであり、
そのような人物を当局の目を盗んでフェザーンまで送り届けることは、
まさに亡命と呼ぶにふさわしい難事であったろう。
おそらく臨検とは、当局にチェックされた人物を密かに運んでいないかどうかを「帝国領内で」監視するものだったのではないか。
そしてこのようなパターンを取る亡命者とは、皇族・大貴族・犯罪者であろう)

それからひょっとしたらフェザーン回廊の臨検はまったく行なわれていなかった可能性もあります。(特に同盟側出口)
なぜなら、そもそも同盟領方向に船を動かすこと自体が理由の如何に関わらずアウトのはずです。
同盟領は、帝国の辺境でありますが帝国臣民は住んでいないからです。
叛徒しかいない辺境に、荷物だろうが何だろうが持っていくこと自体がおかしいわけですから。
それに一応、フェザーン回廊が戦場になることもないわけですから、
哨戒する必然もありませんし。


No. 1059
Re1054:亡命事情あれこれ
平松重之 2000/6/22 12:52:43

冒険風ライダーさん

>  中国などは日本に大量の不法入国者を送り込んでいる国のひとつですが、あの国が不法入国を斡旋している「蛇頭」などに対する取締りを本格的に行っているなどという話は聞いた事がありません。少数民族の反乱を弾圧したり、言論の自由が一切認められていないあの中国でさえこのありさまなのです。「蛇頭」が一体どれだけ多くの中国人たちを海外に脱出させているか、彼らが知らないはずがないにもかかわらずですよ?
>  帝国の場合もこれと同じで、自分達に反抗するのであればともかく、ただ単に逃亡していくだけであるのならば、せいぜい表面に出てきた事件を摘発してある程度の示威行為を行うだけで、それほど厳しい監視の目を向けてはいなかったのではないでしょうか。10万人クラスの大量亡命でもあればさすがに本格的に摘発せざるをえないでしょうが、1000人なんて帝国の人口比率からすれば大した人数でもないのですし。

 うーん、中国と銀河帝国では事情がまた異なるのではないでしょうか。ご存知の通り中国は人口が12億人と、地球上の全人口の5分の1を占めるほどで、一人っ子政策など人口増加の抑止に様々な手を取っていますので、むしろある程度の大量の人口流出は願ったりかなったりなのではないでしょうか。それに対し銀河帝国はかつて3000億人いた人口が9割以上も失われたのですから、おそらくは人口増加は多産少死の形態で帝国政府も人口増加を奨励していたと思われ、例え「わずか」数千〜数万人単位でも人口流出は歓迎すべき事ではなかったのでは?年に平均二回の割合の戦闘で何十万人も死んでいるという事もありますし。

>  それと「平民どもが何人逃げようが痛痒など感じないが現場の責任は問わねばならない」というのは意味がよく分かりません。帝国政府が大量亡命に何ら痛痒を感じないのであれば、そもそも現場の責任を問う必要性もまたなくなってしまうのではないかと思うのですけど、なぜこんな論法が出てくるのか説明していただけませんか?

 この場合は、「痛痒を感じない」というのは帝国政府の要職についている上流貴族達の心情の事を指して書いたつもりだったのですが、説明不足でした。ですが、組織的に考えれば1000人単位の大量亡命を頻繁に看過してしまうのは明らかに責任を問われるべき事であり、上層部としては、内心はともかく組織の威信と運営の為にも綱紀粛正のために現場の人間に処罰を下さざるを得ないのではないか、という事です。いわゆる「痛痒を感じないという心情」が「私」で、「現場の責任を問わざるを得ないという判断」が「公」という事です(小林よしのりみたいな論法になってしまいましたね(^^;))。

>  銀英伝世界においては、帝国から同盟まで移動するのにかかる時間が最低1ヶ月以上かかります。ということは亡命者輸送業者が亡命志望者を搭載して彼らを同盟に到着させるるまでにかかる時間は、往復で最低2ヶ月以上、場所によっては半年近くかかってしまう事もあるかもしれません。
>  これから考えると、格安で亡命志望者を大量に輸送しようとするのであれば、むしろ一度の宇宙航行で最低500〜1000人程度は輸送していかないと却って亡命者輸送の過程で損害が出てしまう可能性がありますし、そもそも供給が需要に追いつかなる事態さえ起こりえます。そうなればただでさえ高い亡命費用がますます高騰し、一般の平民が同盟に亡命する事が全くできなくなってしまうかもしれないのです。これでは亡命者輸送業が全然商売にならなくなってしまいます。
>  それに銀英伝の艦船事情からも、500〜1000人程度の人数を隠蔽することは技術的にそれほど困難なわけではないのですから、亡命者輸送業者達は採算性を取るためにも、むしろ積極的に大量亡命に荷担していったと考えるのが自然なのではないでしょうか。

 それでも頻繁に500〜1000人単位の輸送は、定員の数倍に達する数ですから、いくらなんでも無理があるでしょう。食料や酸素も大量に消費されるわけですから、わずかな日数の内に頻繁に補給を行わねばならず、それによって発覚する可能性も高まるのでは?隠し倉庫や酸素供給システムなどの設備を整えるにしても金がかかりますし、それによって臨検の目を引く可能性もあるのではないでしょうか。


No. 1061
Re1056/1057/1059:まとめてレス
冒険風ライダー 2000/6/22 23:53:00
 snow-creamさんに対する返答を考えている間に、また例によってMarketsさんに上手くまとめられてしまった(^^;;;)。そんなわけで私は少々の補足ぐらいしかする事がなくなってしまいましたが、とりあえず返答しておきましょう。


>平民階級の帝国国内移動事情

 これについては私もMarketsさんと同じ意見で、平民階級でも帝国領土内における移動すること自体は自由であったと思います。商人や輸送業者の船に乗りこんで移動する事に関してはそれほどの制約があったとは考えられませんし、そのような記述もありません。
 ただ一方で、普通の平民階級にとって宇宙船は手に届かない非常に高価なものだったでしょうし(平民が独自の宇宙船を所有しているという描写が全くない)、帝国政府もまた艦船運営のノウハウを独占して平民階級が独自に宇宙船を持つ事を制限していたでしょうから、平民が自分の力のみで惑星から脱出する事はほとんど不可能で、必然的に亡命はフェザーン商人や帝国の商人、それに「蛇頭」のような非合法的な亡命斡旋業者達の力を借りる事になります。
 ヴェスターラントのような事例では、惑星の治安の悪化を懸念した商人や業者たちが惑星から離れていたために一隻の宇宙船すら惑星上に存在せず、そのため叛乱を起こした平民階級は惑星から脱出できなかったのでしょう。


>大量亡命の事情

 亡命者輸送業の実態が従来の商売との兼業であるというMarketsさんの意見は私もその通りであると思います。エルウィン・ヨーゼフ2世を輸送したボーメル船長の場合も「貨物と四人の密航者をおろした」(銀英伝4巻 P83)という描写もありましたし。
 ただ、亡命者を亡命者輸送業者が拾っていくという事に関しては、実は惑星上の亡命者を拾い上げるために、何も亡命者輸送業者の船自らがいちいち惑星に下りる必要性もないのではないでしょうか。商船が進む航宙航路を亡命者が待っている惑星の近くを通るように設定し、惑星上から別の船に亡命者を乗せて出発させ、その船と宇宙でピンポイント会合して搭載するという手段を何回も繰り返して亡命者を集めていけば良いのです。これは「蛇頭」が不法入国者たちを日本に輸送する際によく使う「乗り換え」手段の改良版なのですけど。
 これなら惑星に散らばっている亡命者を搭載するためにいちいち惑星上に降りる手間も省けますし、リスクもかなり分散させる事ができます。ついでにその時に亡命者に対する肉体的・精神的なケアや食糧補給なども一緒に行えば一石二鳥ですね。ひとりではなく大量に亡命者を輸送するとなれば、こちらの方がはるかに効率的でしょう。そしてそのようにしてフェザーンに到着する頃には、船に搭載されている亡命者達の数が500〜1000人クラスにまで膨れ上がっているというわけです。
 あと、ひとつの惑星上で事前に何百人もの亡命志望者を(もちろん非公然に)徴募しておいて、船が惑星上に到達し、出発する頃を見計らって集合させ、一気に搭載させてしまうという手も結構使えます。特に貴族が苛烈な圧政を行っている惑星などは、一万人単位で亡命志望者がいたとしても全然不思議ではないですしね。この場合は惑星内で亡命者を集め、匿い、情報をやり取りするための組織を惑星内に常駐させておく必要がありますが、「時間厳守で船をすみやかに発進させる事ができる」という点ではかなり有効な手段です。この場合も補給などは宇宙空間における他船とのピンポイント会合にて行います。
 フェザーンまで旅行者を装って移動するという方法は私も考えたのですが、この方法はあまりにも簡単すぎると思ったので却下したんですね(^^;;)。まあこれができるのであれば大量亡命についていちいち難しく考える必要もないわけですけど。


>平松さん
<中国と銀河帝国では事情がまた異なるのではないでしょうか。ご存知の通り中国は人口が12億人と、地球上の全人口の5分の1を占めるほどで、一人っ子政策など人口増加の抑止に様々な手を取っていますので、むしろある程度の大量の人口流出は願ったりかなったりなのではないでしょうか。それに対し銀河帝国はかつて3000億人いた人口が9割以上も失われたのですから、おそらくは人口増加は多産少死の形態で帝国政府も人口増加を奨励していたと思われ、例え「わずか」数千〜数万人単位でも人口流出は歓迎すべき事ではなかったのでは?年に平均二回の割合の戦闘で何十万人も死んでいるという事もありますし。>

 実は銀河帝国における「何十万単位」という死傷者の人口比率は、日本の人口に対する交通事故死亡者率よりも少ないんですよね。はっきり言って一万分の一以下の割合でしかありません。その程度の死傷率で帝国の人口基盤を揺るがすような事態はありえないのではないでしょうか。ましてや「たかが亡命者1000人を逃す」程度では……。
 しかも亡命志望者達は帝国政府の立場から見れば「叛逆者に荷担する連中」にしか見えないでしょうから、亡命者を捕らえたところでせいぜい「見せしめのために処刑する」とか「強制労働させる」ぐらいしか使い道がないでしょう。そうなると、捕らえるだけ労力の無駄でしかありません。
 さらに帝国の犯罪者に対する刑法体系は中国のような「九族皆殺し」の方式を採用していますから、ひとりの亡命者を捕らえると、その家族や親戚などまでまとめて刑罰(場合によっては処刑)を科さなければならなくなってしまいます。「人口保全」の観点から見ればこちらの方が却ってヤバイのでは?

<それでも頻繁に500〜1000人単位の輸送は、定員の数倍に達する数ですから、いくらなんでも無理があるでしょう。食料や酸素も大量に消費されるわけですから、わずかな日数の内に頻繁に補給を行わねばならず、それによって発覚する可能性も高まるのでは?隠し倉庫や酸素供給システムなどの設備を整えるにしても金がかかりますし、それによって臨検の目を引く可能性もあるのではないでしょうか。>

 前にも言いましたが、銀英伝世界における艦船は全長400〜1000mにまで達していて、現実世界における豪華客船などよりもはるかに大きいものなのです。そのような巨大な艦船における定員がたったの100〜200人程度でしかないというのは少しおかしくはありませんか? 今時カーフェリーだって300人と20台の自動車程度は搭載できるでしょう。このような事情からすると、銀英伝世界における艦船の収容限界人数は最低でも3000〜6000前後はあるのではないでしょうか。それからいくと、1000人という数字は船の搭載量からしてもそれほど多い人数であるというわけでもないのですよ。
 それに「隠し倉庫や酸素供給システムなどの設備を整えるにしても金がかか」るというのであれば、むしろその元を取るためにも大量の亡命者を輸送しなければならないでしょう。しかも元を取ってしまったら後は儲け一辺倒ではないですか(まあ整備費用が若干かかるでしょうけど)。
 大量の亡命者を隠蔽するための技術的手段は艦船の大きさと搭載量が解決してくれるでしょう。だからその点に関してはあまり心配はいらないのでは?
 食糧補給については上の「大量亡命の事情」を見てください。


No. 1075
Re1061:亡命問題
平松重之 2000/6/24 13:10:57

冒険風ライダーさん

>  実は銀河帝国における「何十万単位」という死傷者の人口比率は、日本の人口に対する交通事故死亡者率よりも少ないんですよね。はっきり言って一万分の一以下の割合でしかありません。その程度の死傷率で帝国の人口基盤を揺るがすような事態はありえないのではないでしょうか。ましてや「たかが亡命者1000人を逃す」程度では……。

 それでも長い目で見れば亡命者の数は数十万〜数百万に達するわけですから、あまり軽視できないのでは?1000人以上の亡命が容易だという事になれば雪崩式に亡命者の数が増大してしまい、社会的な混乱を生む恐れがあるのではないでしょうか。

>  しかも亡命志望者達は帝国政府の立場から見れば「叛逆者に荷担する連中」にしか見えないでしょうから、亡命者を捕らえたところでせいぜい「見せしめのために処刑する」とか「強制労働させる」ぐらいしか使い道がないでしょう。そうなると、捕らえるだけ労力の無駄でしかありません。
>  さらに帝国の犯罪者に対する刑法体系は中国のような「九族皆殺し」の方式を採用していますから、ひとりの亡命者を捕らえると、その家族や親戚などまでまとめて刑罰(場合によっては処刑)を科さなければならなくなってしまいます。「人口保全」の観点から見ればこちらの方が却ってヤバイのでは?

 刑罰を科すとすれば、亡命未遂犯自身は処刑される可能性が高いでしょうが、大逆罪でもない限り連座制で処刑されるという事はまずないのではないでしょうか。どんなに重くても市民権を剥奪されて農奴に落とされるというくらいなのでは?
 ふと思ったのですが、帝国の平民階級の農業人口ってどのくらいの割合なのでしょうか?250億人もの人口を養う以上、かなり大きな割合を占めているのではないかと思われますが、土地に縛られているであろう彼らが土地を捨てて亡命しようと考えるとは、よくよくの事でしょうね。

>  前にも言いましたが、銀英伝世界における艦船は全長400〜1000mにまで達していて、現実世界における豪華客船などよりもはるかに大きいものなのです。そのような巨大な艦船における定員がたったの100〜200人程度でしかないというのは少しおかしくはありませんか? 今時カーフェリーだって300人と20台の自動車程度は搭載できるでしょう。このような事情からすると、銀英伝世界における艦船の収容限界人数は最低でも3000〜6000前後はあるのではないでしょうか。それからいくと、1000人という数字は船の搭載量からしてもそれほど多い人数であるというわけでもないのですよ。

 第十巻(トクマノベルズ)のP143にはシヴァ星域会戦のきっかけとなった遭遇戦でユリアン達が救出したニュー・センチュリー号の描写で「定員を超える900人以上の老若男女」というのがあります。これから考えれば、3000〜6000という数字には無理があるのでは?それに船が大きいからといって船の収容人数がそれに正比例するとは限らないでしょう。


No. 1073
Re: Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
智司 2000/6/24 04:31:13
横から突然すみません。智司といいます。
いや、参戦してみようかなと思ったので…

>冒険風ライダーさん

>民主主義国家におけるシビリアン・コントロールというものは、立法府・行政府・軍部の3つによる「相互牽制(3すくみ)」

これって、冒険風ライダーさんの個人的見解にすぎないですよ。政治学では、司法・立法・行政の三権分立によるというのが通説ですし、軍隊は行政に属します。つまり首相・大統領が、軍の最高指揮権を有するのです。さらに軍隊は、行政の有する権力の正当性確保のために有ります。いわゆる司法・立法に対するものではなく民衆に対する物理的強制力です。
すなわち軍隊は行政機関に過ぎないのであり、立法府たる議会を介して自らの要求を実現しようとするのは、行政と立法の癒着といえます。官僚が立案し議会がそれを制定する官僚政治とどこが違うのでしょうか?
したがって、

>その暴走しやすい行政府に対して、軍部が立法府を介して軍事的見地に立った意見を主張する事は、国家存続のためにも、ひいては健全な民主主義を守るためにも必要不可欠な事である

などというのは、最早、軍部が官僚に取って代わっただけの軍部政治ではないですか?

>議会が軍部の意見を採用するか、行政府の政策を支持するかは、結局のところ議会の判断に委ねられているのです。

現実の日本の政治において、エキスパートたる官僚を素人である政治家が押えられたでしょうか?

そもそも軍部の暴走を止めるのは、軍部が行政機関の一つにすぎないという事です。だからこそ首相・大統領のコントロールをうけるのです。

>アメリカなどは代表的な民主主義国家のひとつですが、あの国は政治的決断を下すスピードが非常に速いではないですか。これは行政府の権限が強いからです。
>「権力の弱い民主主義」なるシロモノの方が、却って強大な権力を行使できる独裁制を招来させる危険な体制

権限の強さではありませんよ。政治制度の違いです。大統領制と議院内閣制の違いについて勉強しましょう。大統領制と議院内閣制の行政府の権限を強さで比較する事はできません。もしできるとすれば、大統領の権限と内閣の権限の強さにすぎないですし、これは行政の一機関に過ぎないわけですから。民主主義国家の権限は、社会契約である憲法によって定まる、すなわち民衆が政府にどれだけ委任しようかといことによって決まります。
独裁政権の台頭もしかりです。なぜ、議院内閣制の後にしかファシズムは誕生しないのかという事ですね(民主主義国家の場合です)別に議院内閣制が権力の弱い民主主義だからでは有りません。議会が腐敗し支持する先を失った民衆が、一つの幻想を纏った人物を支持するがゆえに独裁者は生まれるのです。ルイ・ボナパルトもヒトラーも民主的に選ばれたのですよ。クーデターを起こしたわけでは有りません。権限の強弱なんか、関係ないのです。投票は自由意志でなされたのだから。



No. 1078
Re1073/1075:シビリアン・コントロールと亡命問題
冒険風ライダー 2000/6/25 00:37:38
>智司さん
<これって、冒険風ライダーさんの個人的見解にすぎないですよ。政治学では、司法・立法・行政の三権分立によるというのが通説ですし、軍隊は行政に属します。つまり首相・大統領が、軍の最高指揮権を有するのです。さらに軍隊は、行政の有する権力の正当性確保のために有ります。いわゆる司法・立法に対するものではなく民衆に対する物理的強制力です。
すなわち軍隊は行政機関に過ぎないのであり、立法府たる議会を介して自らの要求を実現しようとするのは、行政と立法の癒着といえます。官僚が立案し議会がそれを制定する官僚政治とどこが違うのでしょうか?>

 まず私が言及しているのが「三権分立」ではなく「シビリアン・コントロール下における国防運営」についてであるという事は分かっていただけてます? 行政の軍隊指揮に関する法の合法性を争うというのであればともかく、通常のシビリアン・コントロールの問題を論じるのに「司法」を持ち出す必要など全くないでしょう。
 それに「軍隊が行政に属する」というのもはなはだ疑問と言わざるをえませんね。確かに法律上・憲法上で「軍隊が行政権に属する」と規定している国は多いですが、実際にはそれらの国でも「軍の特殊性」というものを認めており、軍部は政府や議会に対して軍事問題に関する助言を行う権限が認められているのです。現にアメリカやEU諸国における国防運営では、立法府や行政府の中において軍人が軍事専門家としての意見を述べ、立法と行政府もまたその意見を元に政策を決定したり修正したりしています。そしてそれこそが本当に健全な国防運営というものでしょう。これって間違っているのですか?
 そもそも軍隊というものは基本的に行政法から独立した「軍法」によって律せられていますし、また「軍法会議」という独自の法廷まで持っています(日本の自衛隊は違いますが、こちらの方が異常なのです)。しかも軍隊における指揮・命令は、一般行政の集団運営と違って指揮官一人の決心による即刻命令の形で行わなければなりません。これを純粋な「行政機関の一部」というのは無理があるでしょう。軍部は行政府に対しても立法府に対しても、ある程度独自の地位を確保していると見るべきです。
 シビリアン・コントロールについて論じたいのであれば、日本における誤解だらけの「文民統制の概念」などを振りまわすのではなく、諸外国(特にアメリカ・EU諸国)において行われている国防運営を基準にして考えてみたらいかがです? 私はそれを元にしてシビリアン・コントロールの問題を論じているのですけど。

<そもそも軍部の暴走を止めるのは、軍部が行政機関の一つにすぎないという事です。だからこそ首相・大統領のコントロールをうけるのです。>

 私がいつシビリアン・コントロールにおいて行政権が軍部をコントロールする事自体を否定したというのでしょうか? それどころか、私はそれもまたシビリアン・コントロールにおける重要な一要素であると主張していたはずなのですけど。
 なぜ軍人が立法府に対して軍事専門家としての意見を述べ、行政府の政策を是正するように働きかけなければならないかというと、ただひたすら行政府に対する抑圧ばかり受け続け、行政府の不当な意見にまで黙って従わなければならないとなると、軍人の意見が全く反映されない歪んだ国防運営しかできなくなってしまい、ひいては国家の命運まで左右してしまう上、そのような環境に耐えかねた軍部が行政府と立法府に対する実力行使を行い、却って政治的に暴走してしまう可能性が高くなってしまうからです。銀英伝における同盟末期の軍部や日本の自衛隊などは、まさにそのような歪んだ「文民統制の概念」によって運営されてしまっている最悪の典型例でしょう。
 政治運営というものは「ただ抑圧すればよい」というものではないのです。その辺りがお分かりになりませんか?

<権限の強さではありませんよ。政治制度の違いです。大統領制と議院内閣制の違いについて勉強しましょう。大統領制と議院内閣制の行政府の権限を強さで比較する事はできません。もしできるとすれば、大統領の権限と内閣の権限の強さにすぎないですし、これは行政の一機関に過ぎないわけですから。民主主義国家の権限は、社会契約である憲法によって定まる、すなわち民衆が政府にどれだけ委任しようかといことによって決まります。
独裁政権の台頭もしかりです。なぜ、議院内閣制の後にしかファシズムは誕生しないのかという事ですね(民主主義国家の場合です)別に議院内閣制が権力の弱い民主主義だからでは有りません。議会が腐敗し支持する先を失った民衆が、一つの幻想を纏った人物を支持するがゆえに独裁者は生まれるのです。ルイ・ボナパルトもヒトラーも民主的に選ばれたのですよ。クーデターを起こしたわけでは有りません。権限の強弱なんか、関係ないのです。投票は自由意志でなされたのだから。>

 何か変な「切り取り引用」をやって反論していますね。あの文言は「民主制は独裁と違いどんなことでも変えるためには時間がかかるもの」という主張に対して、アメリカの例をとって反論しただけのものだったのですけど。第一「アメリカでは行政府の権限(大統領権限)が強い」というのは完全に事実でしょう。
 それにこのスレッドのNo.998でも言及しましたけど、ヒトラーやナポレオンが国民の圧倒的支持によって独裁権力を掌握した最大の理由は、当時のドイツやフランスにおける国内外の政情不安(対外戦争や世界恐慌など)に、時の政府の権限が弱かったがためにロクに対応する事ができず、それにウンザリした国民が「自分の生活のために」強大な権限を持って事態に対処してくれる独裁者を求めたことにあるのです。私はそういう意味で「民主主義国家における行政府の権限が弱いのは却って逆効果」と主張していたのですけど。
 それから「議会の腐敗」というのは一体何ですか? 定義が曖昧なままに文言だけを振りまわされても全然理解できないのですけど、もしかして「政治家が汚職にふけっていた」という意味なのでしょうか? もしそういう意味で言っているのであるならば、そんなものは「議会の腐敗」でも何でもない、とだけは明言しておきます。

 それとひとつ問いたいのですが、あなたはシビリアン・コントロール下において行政府自体が暴走してしまう可能性というものについて考えてみた事がありますか? 実は軍隊が暴走する事などよりも、こちらの方がはるかに恐ろしい事なのですけど。


>平松さん
<それでも長い目で見れば亡命者の数は数十万〜数百万に達するわけですから、あまり軽視できないのでは?1000人以上の亡命が容易だという事になれば雪崩式に亡命者の数が増大してしまい、社会的な混乱を生む恐れがあるのではないでしょうか。>

 私に言わせれば、数十万〜数百万の亡命者による人口喪失にしたところで、帝国政府は何ら痛痒を感じなかったと思いますね。彼らは平民階級を蔑視していましたし、貴族階級のためにはいくら死んでもかまわないとすら思っていたのですから。第一、帝国はダゴン星域会戦直後から10年前後における大量亡命を経験していますから、それに比べれば大した事はないと思っているのではないですか?
 それに「一度に1000人」というのは平民の感覚からしても相当に少ないですよ。何度も言うように帝国の人口は250億、その中での1000人というのはとんでもなく少ない確率です。一回の密航における中国人密航者の人数と感覚的には同じなのではないでしょうか。

<刑罰を科すとすれば、亡命未遂犯自身は処刑される可能性が高いでしょうが、大逆罪でもない限り連座制で処刑されるという事はまずないのではないでしょうか。どんなに重くても市民権を剥奪されて農奴に落とされるというくらいなのでは?>

 人口保全という観点から見れば、農奴階級に落としたら終わりではないですか。農奴階級なんて、帝国政府や貴族階級は平民階級以上に死んでもかまわないと考えているのですから。強制労働させた挙句、使い捨てていくのがオチだと思いますけど。

<ふと思ったのですが、帝国の平民階級の農業人口ってどのくらいの割合なのでしょうか?250億人もの人口を養う以上、かなり大きな割合を占めているのではないかと思われますが、土地に縛られているであろう彼らが土地を捨てて亡命しようと考えるとは、よくよくの事でしょうね。>

 惑星単位で大規模な機械化農業を行っているのではないですか? 銀英伝1巻154ページにそんな記述がありましたけど。
 そこでは「水のある惑星から大量の水(20京トン)を8つの乾燥惑星に運んで50億人分の食糧を増産する」という計画について書かれています。農業生産については農業資本が積極的に関わっていた可能性が高いですね。

<第十巻(トクマノベルズ)のP143にはシヴァ星域会戦のきっかけとなった遭遇戦でユリアン達が救出したニュー・センチュリー号の描写で「定員を超える900人以上の老若男女」というのがあります。これから考えれば、3000〜6000という数字には無理があるのでは?それに船が大きいからといって船の収容人数がそれに正比例するとは限らないでしょう。>

 私が言っているのは「定員」ではなく「収容限界人数」のことです。「収容限界人数」よりも「定員」というものは少なく定められるものです。「新世紀(ニュー・センチュリー)号」もまた「収容限界人数」は「定員」よりもまだ上の方にあったからこそ、900人以上の人数を搭載できたのでしょう。
 それに銀英伝世界においては1000万トンもの貨物を輸送できる輸送艦が存在しますし(銀英伝1巻 P190)、それから計算すれば、一般的な商船をどれだけ小さく換算してみたところで、最低50万トン程度の輸送能力はあると見るべきでしょう。またそれだけの輸送能力がなければ、銀英伝世界ではまともな通商すらできなくなるのではないかと思います。何しろ相手は全宇宙人口400億の世界なのですから。
 それだけの輸送能力があるのであれば、ちょっと貨物スペースを割いてしまえば、1000人程度の人数を隠蔽するための部屋など簡単に作れます。また艦船自体も非常に大きいですから、その秘密部屋を隠すための方法だっていくらでもあるでしょう。
 したがって、船に1000人程度を搭載する事自体はそれほど難しくはないと考えて良いのではないでしょうか。


No. 1083
Re: Re1073/1075:シビリアン・コントロールと亡命問題
智司 2000/6/25 06:01:57
>冒険風ライダーさん

>立法府や行政府の中において軍人が軍事専門家としての意見を述べ、立法と行政府もまたその意見を元に政策を決定したり修正したりしています。そしてそれこそが本当に健全な国防運営というものでしょう。
>政治運営というものは「ただ抑圧すればよい」というものではないのです。その辺りがお分かりになりませんか?

司法に関しては、三権分立で行政の暴走を食い止められる。したがって行政の指揮下にある軍部もコントロールできると考えて述べたのですが。
また軍部の助言(軍の特殊性)を否定しているわけではありません。軍部は行政の一組織だから政府(内閣)に意見陳述してもかまわないと思うからです。しかし軍部は、少なくとも公式的には、議会に対しては議会からの要請を受けて意見を述べるのが筋だと考えているだけです。議会に対してまで能動的に働きかける事ができるとすると、軍部が行政のコントロールから外れるという事になりませんか? アメリカやEUは、スペシャリストの判断を尊重するのが決まりごとのようになっていて、議会が国防問題に関しては、軍部に意見陳述を求めるのではないですか? もし軍部が能動的に働きかける事が認められて、軍部と議会が癒着したらどうなるのでしょうか。確か原作ではフォークがやりましたよね。

>時の政府の権限が弱かったがためにロクに対応する事ができず、それにウンザリした国民が「自分の生活のために」強大な権限を持って事態に対処してくれる独裁者を求めたことにあるのです。私はそういう意味で「民主主義国家における行政府の権限が弱いのは却って逆効果」と主張していたのですけど

権限の強弱に捕われすぎて上手く纏まらなかったので、自分の考えを中心に言い直します。まず「議会の腐敗」とは、議会内における権力闘争などにより、国民と議会(議員)が、代表されるものと代表するものの関係が崩れている状態を指します。つまり議会が国民の代表とは思えなくなっている状態です。各政党には各支持層がありますが、その支持層に入らない者は、代表するものを持たないといえます。そうしたグループが自らを代表するものとしてルイ・ボナパルトやヒトラーを求めたのです。
だから、間接的には「行政府の権限が弱い」ことが原因といえるかもしれませんが、直接の原因は、時の議会(内閣)が国民を代表していなかったことにあると言いたかったのです。
つまり行政府の権限が弱いので国内外の政情不安に対応できなかった。そのため政府は国民の信頼・支持を失った。支持する対象を失った国民は、自らを代表すると思われる人物を担ぎ上げる、という事です。だから、「行政府の権限が弱い」ことは、代表されるものと代表するものの関係が崩れる一因にすぎないのです。
なお議院内閣制だから、上記の文脈では内閣と議会は、ほぼ同義と考えています。
また大統領制も権限の強さではなく、上記の文脈で説明できます。直接投票によって選ばれた国民の代表であり、そこには確固とした代表されるものと代表するものの関係が存在するからです。だからこそファシズムは台頭しないのでしょう。
蛇足ですが、ナポレオンではなくルイを例にしたはずですし、ナポレオンの台頭とヒトラーのそれとは異なると思います。ところでナポレオンは独裁者なのでしょうか? またルイは、ナポレオンという衣装を纏っていたがゆえに、支持率90%以上で大統領・皇帝になったのです。

>それとひとつ問いたいのですが、あなたはシビリアン・コントロール下において行政府自体が暴走してしまう可能性というものについて考えてみた事がありますか?

「シビリアン・コントロール下において行政府自体が暴走」は、よく分からないのですが。シビリアン・コントロール下の軍部、あるいは三権分立での行政なら分かるのですが。軍部を掌握した独裁政権(いわゆるファシズム)の台頭と解釈してよろしいのでしょうか? 以下、これで述べます。
民主制には、大別すると大統領制と議院内閣制の二つが有りますが、大統領制からファシズムはありえないので、というよりファシズムは議院内閣制からしか発生していないので後者で考えます。行政府の暴走は、軍部によるクーデターとは異なりますし。
で、まあ上記の代表されるものと代表するものの関係でいえてしまうのですね。
ルイ・ボナパルトでいえば、上記のような状況で、国民を代表する者がいない。そこに全国民を代表するようにみえる人物が現れる。ルイは、偉大なるナポレオンの幻影を着ていたのでそのように見えた。ナポレオンは、フランス国民の英雄ですから。それでルイを選挙で、大統領に皇帝に選ぶのですよ。
要するに、代表されるものと代表するものの関係が喪失しているところに、全国民を代表するかのようなカリスマ性を備えた人物が現れたときに、行政府自体が暴走してしまう可能性があるのだと考えます。


No. 1086
Re1083:立法府と行政府の違いと政治の本質
冒険風ライダー 2000/6/26 01:50:07
<軍部の助言(軍の特殊性)を否定しているわけではありません。軍部は行政の一組織だから政府(内閣)に意見陳述してもかまわないと思うからです。しかし軍部は、少なくとも公式的には、議会に対しては議会からの要請を受けて意見を述べるのが筋だと考えているだけです。議会に対してまで能動的に働きかける事ができるとすると、軍部が行政のコントロールから外れるという事になりませんか? アメリカやEUは、スペシャリストの判断を尊重するのが決まりごとのようになっていて、議会が国防問題に関しては、軍部に意見陳述を求めるのではないですか? もし軍部が能動的に働きかける事が認められて、軍部と議会が癒着したらどうなるのでしょうか。確か原作ではフォークがやりましたよね。>

 前にも言いましたけど、軍部が議会に対して能動的に意見を述べようが受動的に対応しようが、その意見を採用するか否かについては立法府の判断に委ねられているのです。したがって、軍部の意見供述が「受動的か能動的か」などという事はシビリアン・コントロールを論じるのに何ら問題ではありません。第一、軍部が必要としている時に議会が全く意見を求めてこなかったらどうするのですか?
 そもそも一口に「立法府」と言ってもその中は政権党と野党とに分かれていますし、同じ政党の中でも様々な主張を持つグループがあるものです。仮にその中のひとつが軍部と蜜月状態になり、軍部の操り人形のごとき存在となったところで、他のグループや敵対政党、さらには立法府に対するチェックシステムたる役目を担う国民やマスメディアが黙ってはいないでしょう。何のために立法府の中において国民各層から多様な意見が汲み取られ、政策についての論議が戦われると思っているのです?
 行政府がどれほどまでに不当な政治決定を軍部に押しつけても、シビリアン・コントロール上、軍部だけでは行政府の不当な政治決定に逆らう事が不可能に近いからこそ、まともな国防運営には、行政府・軍部の関係に立法府を介した「相互牽制(3すくみ)」が必要とされるのです。これは決して「立法と行政との癒着」でも「立法府と軍部との癒着」でもありません。
 それからフォークの事例はちょっと違うでしょう。アレは「議会」ではなく「政府」に対するものですし、しかも最高評議会議長「個人」への「私的ルート」を通じて行なわれたものです。これはむしろ「『政府』と軍部とが癒着したらどうなるか」という実例ではないですか。様々な意見が交換される「議会」と同列に扱えるものではありません。
 フォークの阿呆な作戦が低次元な政治的動機に基づいて実行されるような事を防ぐためにも、立法府の行政府に対するチェックシステムは確立されるべきですし、立法府に対して軍人が自分の意見をきちんと述べることができる環境が整えられるべきなのです。第一、国防問題を論じる際に「スペシャリストの判断を尊重する」というのは当たり前の事なのですから。

<「議会の腐敗」とは、議会内における権力闘争などにより、国民と議会(議員)が、代表されるものと代表するものの関係が崩れている状態を指します。つまり議会が国民の代表とは思えなくなっている状態です。各政党には各支持層がありますが、その支持層に入らない者は、代表するものを持たないといえます。そうしたグループが自らを代表するものとしてルイ・ボナパルトやヒトラーを求めたのです。
だから、間接的には「行政府の権限が弱い」ことが原因といえるかもしれませんが、直接の原因は、時の議会(内閣)が国民を代表していなかったことにあると言いたかったのです。
つまり行政府の権限が弱いので国内外の政情不安に対応できなかった。そのため政府は国民の信頼・支持を失った。支持する対象を失った国民は、自らを代表すると思われる人物を担ぎ上げる、という事です。だから、「行政府の権限が弱い」ことは、代表されるものと代表するものの関係が崩れる一因にすぎないのです。>

 私に言わせればその「一因」こそが重要なのですけどね。その「一因」がなかったら「議会の腐敗」なるものが出現する事自体なくなってしまうわけですし。だからこそ私はこのスレッドで一貫して「行政府の権限は強くなければならない」と主張しているのです。
 第一、智司さんが言うところの「議会の腐敗」が独裁者誕生の主原因であるのならば、支持政党のない無党派層が広がっている現代日本で独裁者が出現しても全然おかしくないと思うのですが、これについてはどう考えているのでしょうか。

<大統領制も権限の強さではなく、上記の文脈で説明できます。直接投票によって選ばれた国民の代表であり、そこには確固とした代表されるものと代表するものの関係が存在するからです。だからこそファシズムは台頭しないのでしょう。>

 はじめて大統領制を導入したアメリカの建国者達はそうは考えなかったようで、彼らはとにかく「いかにしてシーザー(独裁者)の出現を食い止めるか」という事について徹底的に考えています。
 有名なのが「大統領の任期」に関するもので、初代大統領ジョージ・ワシントンが2期大統領を務め、3期目も大統領をやってほしいと請われた時、それを断ってアダムスに大統領の地位を譲っていますし、フランクリン・ルーズベルトが異例の4期大統領を務めた後には、合衆国憲法の中に「大統領の3選禁止」が入れられました。
 また、レーガン元大統領がスターウォーズ構想(戦略防衛構想=SDI)を実行しようとした時、この構想に反対する人々に対して、
「核戦争が起き、人類が絶滅するかもしれないような危機的状態になれば、民主主義に拘っているような余裕などなくなり、国民の間に広範な独裁者待望思想が生まれる事になる。そんな事があってはならないから、スターウォーズ構想を実行して民主主義を守るのだ」
と説明しています。
 民主主義なんてそんなに強固なものではありませんし、国民は「自分の生活」を犠牲にまでして「民主主義の理想」など求めてはいませんよ。国民を代表していようがしていまいが、失政をすればそっぽを向かれ、別の政治家が求められる。それが政治というものなのです。
 政治の世界において「民主主義的理想論」など通用しません。しょせん理想はそれ単体では生きられないものなのですから。


>シビリアン・コントロール下において行政府自体が暴走

 ↑これって別に独裁制のことに限定したものなかったですけどね。ここで挙げている行政府というのは「民主主義国家における行政府全般」のことです。例を挙げるのならば、末期同盟における帝国領侵攻作戦を「選挙目的」などという理由で強行した同盟政府やトリューニヒト一派の軍部支配、銀英伝6巻におけるレベロの暴走、現実世界ならばアメリカ・ベトナム戦争における大統領府の軍部に対する過剰な政治的干渉や、日本における政治家・官僚の自衛隊支配などについてのものです。彼らは別に「独裁制」とは何ら関係のないものでしょう。
 これらは全て、本来軍隊をコントロールすべき行政府自体が政治的に暴走し、国家における国防運営を著しく阻害している実例です。これらについてどのように考えているのか、そしてこれらの惨状を防ぐためにはどのようにすれば良いかについて伺いたかったのですが。


No. 1087
Re: Re1083:立法府と行政府の違いと政治の本質
智司 2000/6/26 05:01:27
>仮にその中のひとつが軍部と蜜月状態になり、軍部の操り人形のごとき存在となったところで、他のグループや敵対政党、さらには立法府に対するチェックシステムたる役目を担う国民やマスメディアが黙ってはいないでしょう。

何故、議院内閣制(代議制)からファシズムは発生したのでしょうか。ファシズムは、手続き上民主的に政権を手にしたのですよ。これは立法府が機能しなかったからであり、マスメディアも国民もそれを支持していたからですよ。つまり誰もが支持していた(黙っていた)のです。何度もいってますが、ルイもヒトラーも、まさに国民を代表するかのように見えたのですから。
そのような時に、チェックシステムは働きません。歴史が証明しています。議会が必ず国民の利益をもたらすということは言えないのです。

>フォークの阿呆な作戦が低次元な政治的動機に基づいて実行されるような事を防ぐためにも、立法府の行政府に対するチェックシステムは確立されるべきですし

まずフォークの件は、勘違いだったと申し上げておきます。しかし「立法府の行政府に対するチェックシステムは確立されるべき」という事を否定していませんし、私は肯定していますよね。違う点は、「軍部が立法府に提案する際に、能動的なのか受動的なのか」だけだと思います。冒険ライダーさんは、行政府の軍事的暴走を食い止めるために、軍部が立法府に提案するのを良しとしているのですよね。
さて議院内閣制の場合は、内閣は議会の信任を受けているし、大統領はもちろん国民が選んでいるのだから、行政府は権力の正当性を有します。立法府も同様です。しかし軍部は有しません。すなわち行政府と立法府が互いを牽制する事は、正当性があるのですが、軍部が行政府を牽制することに正当性はないのではないでしょうか。だから、立法府が行政府のやり方に疑問を持てば、軍部を呼んで説明を求めればいいのです。行政府が暴走しようが、また立法府が軍部を呼ばなくて食い止められなくても国民の意思によるものだから、軍部が立法府に訴えるのは余計なお節介だし越権行為でしょう。軍部は国民から正当性を付与されているわけではないのですから。軍部に、受動能動という選択肢があるならば、それは恣意にすぎないでしょう。
たぶんアメリカなんかだと、受動能動という観点ではなく、制度(システム? ルール?)として、確立していたような気がします。つまり軍部には立法府に説明するしないという選択肢はなく、説明しなければならないとなっていたのではないですか。

>私に言わせればその「一因」こそが重要なのですけどね。その「一因」がなかったら「議会の腐敗」なるものが出現する事自体なくなってしまうわけですし。

「行政府の権限の強弱」が間接的なもので、直接の原因は「代表されるものと代表するものの関係の喪失」にあるということに関しては、意見の一致をみたという事でよろしいですよね。
さて大統領制は、果たしてそんなに良いものでしょうか? アメリカは上手くいっていますが、イラクのフセインはどうでしょうか? 大統領制だからといって上手くいくとは限りません。一方、代議制はというと、政権政党の数、総政党の数等でいくつものパターンに分けられます。その中には、長期間に渡って安定政権を築くものもあるし、身近なものに55年体制の自民党があります。つまり歴史的に見れば、代議制からファシズムが発生したわけだから印象に残るのですが、大統領制も危険といえば危険なんですよ。大統領から独裁者に変質した例も数多いのだから。

>支持政党のない無党派層が広がっている現代日本で独裁者が出現しても全然おかしくないと思うのですが、これについてはどう考えているのでしょうか。

これ、説明しませんでしたか。ルイ・ボナパルトがナポレオンという衣装を纏って登場したがゆえに、フランス国民は選挙で大統領・皇帝に選出したと。つまりルイは、ナポレオンの再来というイメージがあったのです。要するにカリスマ性ですね。ヒトラーもしかりです。ルイもヒトラーもそれぞれの国民全ての層を代表するかのようなカリスマ性を有していたから、全国民が支持したわけです。
だから、もし現代日本で、そうしたカリスマ性を持った人物が現れたなら可能性があると考えています。もちろん日本固有の文化・伝統があるので一概には言えないのですが、この辺の事は、戦前の右翼を取り扱わなければならないので、とりあえず、そうしたハードルを乗り越えたらという条件付きです。

>合衆国憲法の中に「大統領の3選禁止」が入れられました。

これは、制度ですよね。まさかアメリカの大統領制以外、大統領制とは認めないなどと言いませんよね。「大統領の3選禁止」は、あくまでも制度にすぎず、「行政府の権限の強弱」とは関係ありませんよ。これがなくても大統領制というでしょう。
ここで補足しますと、大統領制は権限が強いがゆえに、その暴走を許し独裁者を生み出しかねないのです。だからアメリカは「大統領の3選禁止」を制度として取り入れたのです。冒険ライダーさんもいっているように「いかにしてシーザー(独裁者)の出現を食い止めるか」ということは、権限を強力なものにすることの危険性を示しているのではありませんか?

>「核戦争が起き、人類が絶滅するかもしれないような危機的状態になれば、民主主義に拘っているような余裕などなくなり、国民の間に広範な独裁者待望思想が生まれる事になる。そんな事があってはならないから、スターウォーズ構想を実行して民主主義を守るのだ」

何が言いたいのでしょうか? スターウォーズ構想の説得と「権力の強弱は」無関係でしょう。

>民主主義なんてそんなに強固なものではありませんし、国民は「自分の生活」を犠牲にまでして「民主主義の理想」など求めてはいませんよ。国民を代表していようがしていまいが、失政をすればそっぽを向かれ、別の政治家が求められる。それが政治というものなのです。

これは冒険ライダーさんの誤読です。ファシズムの台頭と大統領制の関係をいっている部分なのに、「民主主義の理想」を言い出すなんて訳が分かりません。原文は「直接投票によって選ばれた国民の代表であり、そこには確固とした代表されるものと代表するものの関係が存在するからです。だからこそファシズムは台頭しない」ですよ。手続き的正義上、大統領は国民を代表するのであり、国民もそれを自覚する。であるがゆえに代表の形式が同じファシズムは台頭しないという事ですよ。ところで「国民を代表していようがしていまいが」というのは、民主主義のタテマエを否定するのですか?

>本来軍隊をコントロールすべき行政府自体が政治的に暴走し、国家における国防運営を著しく阻害している実例です。これらについてどのように考えているのか、そしてこれらの惨状を防ぐためにはどのようにすれば良いか

民主制という事なので、行政・司法・立法は国民が選出した、すなわち国民の信任を受けていたが、行政が暴走したという設定で良いですか?
ま、どうしようもないですね。状況が多岐に渡るので一言で言えませんが、物理的強制力たる軍隊を有している行政の暴走は、暴走してしまったらそれまでです。そうした行政を選んだ国民が悪いというだけです。
そもそも行政が暴走する前に司法・立法が牽制して食い止めなければならないわけで、その為の方法は制度によって異なるでしょう。行政の暴走を食い止めるというだけであれば、簡単なのは行政の権限をできる限り弱くする事ですね。もっとも立法あるいは司法の権限がそれだけ強くなるわけだから、こちらが暴走する危険性があるけど。
だから三権のバランスを保ち、そして手続きを踏むことをきちんと守らせることですね。
抽象的だけど全般というのであれば、これくらいしか言えないですよ。


No. 1084
Re: Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
優馬 2000/6/25 06:58:32
智司さんへ

 元気の良い「お若い衆」の参戦ですな。歓迎します。
 でも言っておられること、少し違ってますよ。
 冒険風ライダーさんに補足する形で私からもコメントします。

>立法府・行政府・軍部の3つによる「相互牽制(3すくみ)」

という冒険風ライダーさんのご指摘は誠に正鵠を得ていると思います。特に「銀英伝」世界における「立法府の弱さ」についてのご指摘は、「目から鱗」でした。「同盟」は一見米国型民主主義の形をまといつつ、戦前日本の翼賛体制か、せいぜい社会主義国ていどの民主主義しか持っていなかったために、あのような無謀な軍事冒険主義に走り、つまるところ崩壊したのであると。「同盟の崩壊」は「ソビエト連邦の崩壊」を予見したものであったかもしれませんね。(作者にはそういうつもりは毛頭なかったでしょうけど。)

 ただ、シビリアン・コントロールを語る場合、「立法府」の話を入れてしまうと少し話しが混乱すると思うのです。米国型民主主義では、確かに「三権分立の制度を通じて」議会が軍部統制に大きな力を持っています。むしろ、大統領府よりも議会の方が専門的で軍部寄り、タカ派になっているのが現在の米国での政治状況でありますが。大統領予備選で話題になったマッケイン上院議員なんて、もと軍人(ベトナム戦争の英雄)でもあり、安全保障政策の論客で鳴らした人です。
 閑話休題。
 シビリアン・コントロールの原義は、政府(すなわち行政府)がいかに高度な専門家集団である軍部をコントロールするかという話であったと思います。行政府内部でのチェック・アンド・バランス。軍事作戦という高度に専門的な事柄に、素人の政治家が不用意に介入すると、ふつうロクなことにならない。しかし、戦争という重大きわまる「政治」を軍人にまるまんま「お任せ」というわけにはいかない。そこで「戦略」と「戦術」に分担を分けて解決するというのが古典的なシビリアン・コントロールであったと思います。
 よく例に引かれるのが普墺戦争におけるプロシアの宰相ビスマルクとモルトケ参謀総長の関係。普墺戦争に完勝したプロシア軍は破竹の勢いで進軍し、首都ウイーンの陥落も目前でした。ウイーンを落とせば完全勝利、プロシア陸軍の士気は天を衝かんばかりでした。しかしここで宰相ビスマルクは、断固進軍の停止を命じます。首都を陥落させ「城下の誓い」を強要した場合、オーストリア国民の深甚なる恨みを買い、こののちフランスとの一戦(普仏戦争)を控えているプロシアにとって利益にならない。こういう、高度に戦略的な政治判断により、ビスマルクは進軍停止を命令し、モルトケ以下の軍部もこれに従います。これが、古典的なシビリアン・コントロールです。
 ごく簡略化して言えば、戦争の「相手」と「時期」、またシミュレーション・ゲームでいうところの「勝利条件」を定めるのが「政治」の仕事であり、その戦略目標を達成するために「いかに」戦術を展開するかが「戦争のプロ」たる軍部の仕事であると言えます。もちろん、現実には選択可能な戦術は複数あり、戦略目的の達成度も異なってくるでしょう。「勝利確実であるが政治的にはあまり意味が大きくない戦闘」と「勝利はかなり困難であるが、政治的意味がたいへん大きい戦闘」をどう選択するか、ということになれぱ、「政治のプロ」と「軍事のプロ」の真剣で火花を散らす議論が行われなければなりません。ここで、「軍事のプロ」が「もう決まったことだから」とか言って議論を放棄したのでは、国を滅ぼします。それは、プロとしての基本的職業倫理に、はっきり悖る所業です。フォーク准将の阿呆な作戦を止められなかったという天で、異様に「政治」が優越している「同盟」の意志決定プロセスは、やっぱり社会主義国のソレを連想させます。

最後に。

>現実の日本の政治において、エキスパートたる官僚を素人である政治家が押>えられたでしょうか?

 おっしゃるとおり。それが日本の「現実」です。でも、それは「あるべき姿」ではなくて「病理」ですよ。「エキスパートたる官僚を素人である政治家」がコントロールすることができないでいるために、日本官僚制はすっかり無能化し腐敗しています。「官僚制の民主的統制」というのは、日本というシステムにとって喫緊の課題。今やっている総選挙の争点でも、実は、あります。民主党が「公共事業減らす」と言っているのは、「公共事業に偏重した日本の官僚システムの見直し」ということに他なりません。
 このへんの話になると、田中芳樹とほとんど関係ないので、このへんにしておきますが。


No. 1088
Re: Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
智司 2000/6/26 06:15:16
優馬さんへ

気づいたら、冒険ライダーさん以外の方のレスがあり
歓迎していただいて恐縮です

>立法府・行政府・軍部の3つによる「相互牽制(3すくみ)」という冒険風ライダーさんのご指摘誠に正鵠を得ていると思います。

これは、誤解があったようですね。冒険ライダーさんにも述べた事ですが「軍部が立法府に提案する際に、能動的なのか受動的なのか」という違いだと思っています。冒険ライダーさんは軍部が能動的に議会に意見陳述できると考えていますが、私は議会の要請あるいは制度化しているのどちらかを満たさない限り、軍部の恣意的行動にすぎないと考えます。ちなみに行政へは二人とも可としています。理由は、三権は国民の信任を受け、それぞれ権力の正当性はありますが、軍部にはないからです。だからこそ軍部はスペシャリストととしての意見を求められるだけの存在でなければならないと考えるのです。それで三権の牽制となるわけです。

>ごく簡略化して言えば、戦争の「相手」と「時期」、またシミュレーション・ゲームでいうところの「勝利条件」を定めるのが「政治」の仕事であり、その戦略目標を達成するために「いかに」戦術を展開するかが「戦争のプロ」たる軍部の仕事であると言えます。
これも当然でしょう。ですが曖昧なままに議論していたので御指摘は嬉しいです。さてこれは「軍部が立法府に提案する際に、能動的なのか受動的なのか」という問題とも絡んできます。戦争の「相手」と「時期」、「勝利条件」を定めるのだから、これを受けて「戦術を展開」するのが軍部です。ところが軍部が「能動的」に議会に意見陳述するというのであれば、「戦略→戦術」のプロセスが「戦術→戦略」になりおかしいですし、行政が戦略をたて、軍部がそれをおかしいと感じて議会に戦略を変更するように訴えるのは軍部の越権行為になります、戦術であれば、軍部の問題なのだから自己完結しなければなりません。というわけで上記になるのです。

>「銀英伝」世界における「立法府の弱さ」

これは、よく分かりません。同盟の政治体制において、三権の権限がどうなっているのでしょうか? ただ冒険ライダーさんは大統領制を良しとしているので「権限の強弱」に関していえば、立法府が弱く行政府が強い事は是とするはずなので、書き違えたのでしょうか?
蛇足ですが戦前の日本の翼賛体制は、民主主義の問題ではないでしょう。5・15事件の青年将校たちを英雄扱いした結果、天皇のためならいいんだというわけで2・26事件が起こる。同じように関東軍も天皇のためという事で前半の暴走が是認されていたがゆえにそのままいってしまったのです。つまり制度上、軍は天皇直属なのだから、「立法府の弱さ」は関係あるかもしれませんが、果たして民主制と関係あるのでしょうか? 王政下の議会といった方が近いものがあると思います。

最後に、現代日本の官僚制は「あるべき姿」とは考えていません。しかし政治システムの分化によるものであり、「必然」ではあると考えてえいます。この辺は、ルーマンだとか社会システム理論だとかという話になるので止めておきます。ちなみにルーマンのシステム理論は、他の社会学者のシステム理論と違うので、面白い人には面白いですが、分けがわからない人には全く分かりません。


No. 1089
Re: Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
優馬 2000/6/26 12:42:01
お若い衆(智司さん)へ

文面から考えて当方(40歳)より若い方のようであるから、こう呼ばせていただく。
貴君が議論している相手のハンドルネームは「冒険風ライダー」氏です。反論文中で繰り返し「冒険ライダーさん」と呼ばんでおられるのは、非礼です。お気をつけください。

また

>ちなみにルーマンのシステム理論は、他の社会学者のシステム理論と
>違うので、面白い人には面白いですが、分けがわからない人には全く
>分かりません。

このような書き方も「君はルーマンを知っているかい?ぼくは知っているよん。」という、結構スノビッシュな響きを伴うので、私は良い感じを持ちませんでした。
貴君が意図して「嫌味」な書き方をしているのではないと思いますので、老婆心で申し上げておきます。


No. 1093
Re: Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
智司 2000/6/27 01:11:13
優馬さんへ

確かに私の方が若いです。

>貴君が議論している相手のハンドルネームは「冒険風ライダー」氏です。

ご指摘ありがとうございます。これまで気が付かなかったのは、全くの私の不注意です。すぐに「冒険風ライダー」氏に謝罪します。

>このような書き方も「君はルーマンを知っているかい?ぼくは知っているよん。」とい>う、結構スノビッシュな響きを伴うので、私は良い感じを持ちませんでした。

自分が知らない者として、読むと嫌みな奴だなと思ってしまいました。私としては、議論する上で、社会学まで踏み込まざるをえなくなるので、これ以上は書かないという意思表示に過ぎなかったのですが。しかし意図していなくても、「意図して「嫌味」な書き方をしている」ように読めてしまいます。忠告痛み入ります。今後、難しいですが、できる限り、こういう事のないように心がけます。



No. 1091
Re: Re1083:立法府と行政府の違いと政治の本質
優馬 2000/6/26 14:30:35
冒険風ライダーさま。

智司さんにお小言を言ったから、次は、というわけではないのですが・・

「シビリアン・コントロールには立法府の役目も重要」というご指摘にはまったく異論はありません。しかし、

>行政府・軍部の関係に立法府を介した「相互牽制(3すくみ)」

という表現には、智司さんが誤解される余地があると思います。
「三すくみ」というと、軍部から立法府に対して恒常的かつ積極的働きかけを行っているというイメージになってしまいますが、それは活動的な立法府を持つ米国政治でもあまり見られないことです。軍人が「政治的関与を控える」というのは、民主主義国における一般的な軍人の職業倫理でもありますし。立法府からのチェックやコントロールは積極的にありますが、軍部からはない。「相互牽制」という表現は少し誤解を招く余地があると思います。
シビリアン・コントロールは、立法府の積極的な関与があればより効果的になるのは間違いありません。阿呆な軍事冒険主義を行政府に冒させないようにするのは、三権分立が期待する立法府の役割そのものですしね。
(リップシュタット戦役って、なんかソ連のアフガニスタン侵攻みたいな気がしている優馬です。同盟の政治過程ってソ連っぽくありません?)


No. 1094
Re: Re1083:立法府と行政府の違いと政治の本質
智司 2000/6/27 01:26:56
冒険風ライダーさんへ

まず、謝罪させて頂きます。ハンドルネームを勘違いしていたことを、優馬さんより御指摘を受けるまで気づかなかったことは、私の不注意であり、今後間違いのないように注意いたします。

先のご意見に対する私のレスは、「No. 1087」にあります。
取り急ぎ、謝罪をと思いましたので。


No. 1092
Re1083:亡命と平民に対する帝国政府の対応
平松重之 2000/6/26 17:46:26

冒険風ライダーさん

>  私に言わせれば、数十万〜数百万の亡命者による人口喪失にしたところで、帝国政府は何ら痛痒を感じなかったと思いますね。彼らは平民階級を蔑視していましたし、貴族階級のためにはいくら死んでもかまわないとすら思っていたのですから。第一、帝国はダゴン星域会戦直後から10年前後における大量亡命を経験していますから、それに比べれば大した事はないと思っているのではないですか?
>  それに「一度に1000人」というのは平民の感覚からしても相当に少ないですよ。何度も言うように帝国の人口は250億、その中での1000人というのはとんでもなく少ない確率です。一回の密航における中国人密航者の人数と感覚的には同じなのではないでしょうか。

 自分が問題にしているのは、「人口比率に比較しての1000人」ではなくて、「単純に考えた集団としての1000人」です。それだけの人数を頻繁に看過してしまうのは、現場の怠慢、ひいては上層部による綱紀粛正が充分に行われていない事が露骨に判明してしまいます。いくらたがが緩んでいた帝国末期とはいえ組織運営上問題になるでしょうし、平民にとっても帝国政府を軽んじる大きな理由になってしまうのでは?

>  人口保全という観点から見れば、農奴階級に落としたら終わりではないですか。農奴階級なんて、帝国政府や貴族階級は平民階級以上に死んでもかまわないと考えているのですから。強制労働させた挙句、使い捨てていくのがオチだと思いますけど。

 自分はあくまで「どんなに重くても」農奴階級に落とされるくらいだろうと主張していたのですが。よほど大規模な亡命集団の家族のみを農奴に落として見せしめとするくらいだったのでは?
 それと上の主張にも関わる事ですが、帝国上層部が「平民などいくら死んでも構わない」と果たしてそんな極端な事を考えていたでしょうか?銀英伝第一巻(トクマノベルズ)P149には戦没将兵遺族救済基金についての記述がありますし、P173には宰相代理兼国務尚書であったリヒテンラーデ侯が、「多少はアメもしゃぶらせてやらねばなるまい」とか「締めつけるだけで統治は出来ぬ」などと言っています。現実問題として、平民の命を露骨に軽視していては統治する側の立場としてまずいのでは?無論不輸不入の貴族の荘園などでは限度を超えた搾取を行っている所もあったでしょうが、あまりにも悪質だと帝国政府から疎外されるでしょうし、限度があったでしょう。

>  惑星単位で大規模な機械化農業を行っているのではないですか? 銀英伝1巻154ページにそんな記述がありましたけど。
>  そこでは「水のある惑星から大量の水(20京トン)を8つの乾燥惑星に運んで50億人分の食糧を増産する」という計画について書かれています。農業生産については農業資本が積極的に関わっていた可能性が高いですね。

 いくら機械化が進んでいても250億という人口を養う以上、農業人口も相当な割合を占めたと思われますが、そういった農民に居住地を選択したり恒星間航行を行ったりする自由があったのでしょうか?貴族の荘園ならなおの事無理だったのでは?(でなければ悪質な領主の領地は無人になってしまいます)

>  私が言っているのは「定員」ではなく「収容限界人数」のことです。「収容限界人数」よりも「定員」というものは少なく定められるものです。「新世紀(ニュー・センチュリー)号」もまた「収容限界人数」は「定員」よりもまだ上の方にあったからこそ、900人以上の人数を搭載できたのでしょう。
>  それに銀英伝世界においては1000万トンもの貨物を輸送できる輸送艦が存在しますし(銀英伝1巻 P190)、それから計算すれば、一般的な商船をどれだけ小さく換算してみたところで、最低50万トン程度の輸送能力はあると見るべきでしょう。またそれだけの輸送能力がなければ、銀英伝世界ではまともな通商すらできなくなるのではないかと思います。何しろ相手は全宇宙人口400億の世界なのですから。
>  それだけの輸送能力があるのであれば、ちょっと貨物スペースを割いてしまえば、1000人程度の人数を隠蔽するための部屋など簡単に作れます。また艦船自体も非常に大きいですから、その秘密部屋を隠すための方法だっていくらでもあるでしょう。
>  したがって、船に1000人程度を搭載する事自体はそれほど難しくはないと考えて良いのではないでしょうか。

 No.1061

> 前にも言いましたが、銀英伝世界における艦船は全長400〜1000mにまで達していて、現実世界における豪華客船などよりもはるかに大きいものなのです。そのような巨大な艦船における定員がたったの100〜200人程度でしかないというのは少しおかしくはありませんか? 今時カーフェリーだって300人と20台の自動車程度は搭載できるでしょう。このような事情からすると、銀英伝世界における艦船の収容限界人数は最低でも3000〜6000前後はあるのではないでしょうか。それからいくと、1000人という数字は船の搭載量からしてもそれほど多い人数であるというわけでもないのですよ。

 どうも「定員」と「収容限界人数」がごっちゃになってしまっていますね。カーフェリーでの「300人と20台」とはどちらを指しているのですか?「収容限界」なら宇宙船の「定員」と比較する事自体が間違っているのでは?どうも自分はここらあたりで少し混乱してしまいました。宇宙船の定員については、第一巻P69のアスターテ会戦の戦闘参加人員数と艦艇数を参考に挙げてみます。

 戦闘参加人員数

 帝国軍…244万8600名
 同盟軍…406万5900名

 艦艇数

 帝国軍…2万隻余
 同盟軍…4万隻余

 これから考えると,艦一隻あたりの定員は平均して100人程度という事になります(無論艦の種類によって違いはあるでしょうが)。民間船もどんなに大きくてもこれから考えれば定員が最低200人程度であってもおかしくはないでしょう。前にも言った通りいくらなんでも1000人単位の密航を頻繁に行っていてはさすがにまずいでしょうし、伝染病の蔓延や事故などの混乱が生じた場合、1000人単位も非公認の乗客がいては手に負えないのでは?1000人という集団を短い期間とはいえ管理するのも容易ではないと思いますが。


No. 1095
Re1087/1088/1091/1092:長文な色々レス
冒険風ライダー 2000/6/27 02:01:42
>智司さん
<何故、議院内閣制(代議制)からファシズムは発生したのでしょうか。ファシズムは、手続き上民主的に政権を手にしたのですよ。これは立法府が機能しなかったからであり、マスメディアも国民もそれを支持していたからですよ。つまり誰もが支持していた(黙っていた)のです。何度もいってますが、ルイもヒトラーも、まさに国民を代表するかのように見えたのですから。
そのような時に、チェックシステムは働きません。歴史が証明しています。議会が必ず国民の利益をもたらすということは言えないのです。>

 「ファシズム発生」などという特殊な事例を挙げて議会のチェックシステムに疑問を呈してどうするのですか? 私が言っているのは「民主主義国家における『通常の状態での』シビリアン・コントロールにおけるチェックシステム」についてなのですから、ファシズムなどという特殊事例を持ち出して反論するのは見当ハズレもいいところです。
 それに何度も言ったように、ヒトラー等の独裁者出現の背景には、行政権力の権力の弱さによって深刻な政情不安に対応できなかったために国民自身が独裁者の出現を望んでいたという事情があるのですから、そのような異常事態における民主主義のチェックシステムと「『通常の状態での』シビリアン・コントロールにおけるチェックシステム」とが同列に並べられるわけがないでしょう。
 後でも言いますけど、独裁制誕生の背景には極めて異常な事態が介在しているのです。その辺りはきちんと考慮していただきたいものなのですが。

<議院内閣制の場合は、内閣は議会の信任を受けているし、大統領はもちろん国民が選んでいるのだから、行政府は権力の正当性を有します。立法府も同様です。しかし軍部は有しません。すなわち行政府と立法府が互いを牽制する事は、正当性があるのですが、軍部が行政府を牽制することに正当性はないのではないでしょうか。だから、立法府が行政府のやり方に疑問を持てば、軍部を呼んで説明を求めればいいのです。行政府が暴走しようが、また立法府が軍部を呼ばなくて食い止められなくても国民の意思によるものだから、軍部が立法府に訴えるのは余計なお節介だし越権行為でしょう。軍部は国民から正当性を付与されているわけではないのですから。軍部に、受動能動という選択肢があるならば、それは恣意にすぎないでしょう。>

 冗談じゃありません。いくら「国民の意思」が誤っているからといって、それを「国民の意思だから」と諦めて行政府の暴走を放置するのは政治に携わる政治家としても国防を担う軍人としても最低ですし、優馬さんがNo.1084で仰ったようにプロとしての基本的職業倫理に悖ります。政治はあくまでも結果が全てなのであり、それは民主主義国家においても例外ではありません。政治の道筋が誤ったものであるならそれを是正していく事こそが、民主主義国家に限らず、政治や国防に携わるものとしての当然の責務ではありませんか。
 銀英伝1巻における帝国領侵攻作戦やアメリカのベトナム戦争においては、行政府の暴走に基づいて多くの犠牲者と著しい国力の浪費を国家にもたらす事になりましたが、そのような愚行は全て「国民の意思に基づいたものだから」などという理由で諦めなければならないというのですか? だとしたら、民主主義というシロモノは為政者にとってなんと都合の良い政治形態でしょうか。たとえどれほどまでに為政者が失政をやらかしたとしても「それは全て国民の意思に基づくものですから」などという言い訳で全て正当化できるわけですからね。こんなものは最低最悪の「無責任体制」でしかありません。
 国民の生活を守り、国家を安定させるためにも、行政府にはまともな政治を行ってもらわなければならないし、立法府と軍部はそれぞれの専門分野において行政府の間違った政策を是正していかなければならないのです。
 それから行政府と軍部との関係は、指揮・命令系統上から言ってもシビリアン・コントロールからしても、立場的には行政府の方が軍部の上に立ちますから(地位的には違いますが)、軍部だけが行政府の政策に対して意義申し立てをしたところで、行政府が余程の軍部に対する理解者でもない限り却下される可能性が極めて高く、だからこそ、行政府が誤った軍事政策を軍部に押しつけようとした時には立法府の力を借りる必要があるのです。そして何度も言うように、普通の民主主義国家においては軍部と立法府とが協力しあって行政府の政策を是正する事がきちんと認められているのです。例外は日本ぐらいのものでしょう。
 いくら民主主義国家であっても、民意に基づいて国民に害を与え、国を滅ぼすなど論外です。民主主義の理想を唱える前に、現実の政治が倒れれば全ては終わりなのだという事実をどうか直視していただきたいものですね。

<たぶんアメリカなんかだと、受動能動という観点ではなく、制度(システム? ルール?)として、確立していたような気がします。つまり軍部には立法府に説明するしないという選択肢はなく、説明しなければならないとなっていたのではないですか。>

 基本的に、まず行政府の政策決定に対する軍部の反応があり、それを議会が確認して軍首脳に証言の機会を与え、軍首脳が軍事的見地に立った証言を議会において行い、議会はそれを元にして行政府の政策を是正させるという形を取っています。また、行政府の軍部に対する過剰な政治的干渉(特に人事問題)が行われると、議会が主導してそれをやめさせるように行政府に働きかけています。
 つまり軍部は立法府に対して受動的であったり能動的であったりと、その時その時で対応は様々で、一概にどちらであるかと決められるものではないのです。そしてどちらであろうとシビリアン・コントロールには全く関係のない事です。しょせんは議会が全ての主導権を握っているのですから。


<「行政府の権限の強弱」が間接的なもので、直接の原因は「代表されるものと代表するものの関係の喪失」にあるということに関しては、意見の一致をみたという事でよろしいですよね。>

 確かに独裁制が確立する過程についてはほぼ意見は同じみたいですけど、上記の意見に関しては否です。私は「代表されるものと代表するものの関係の喪失」という原因など全く信じていません。しょせん人間は「民主主義の理念」などよりも「自分の生活」の方が大事なのです。自分の生活が危ういという時に、いちいち「民主主義の理念」に拘る人間なんて余程の教条主義者以外、まずいませんよ。
 銀英伝においてもその事を露骨に示している描写があります。

銀英伝1巻 P189下段
<「我々は解放軍だ」
 取り残された農民や鉱夫たちの群に、同盟軍の宣撫士官はそう語りかけた。
「我々は君たちに自由と平等を約束する。もう専制主義の圧政に苦しむことはないのだ。あらゆる政治上の権利が君たちには与えられ、自由な市民としての新たな生活がはじまるだろう」
 彼らが落胆したことに、彼らを迎えたのは熱烈な歓呼の叫びではなかった。おもしろくもなさそうに宣撫士官の情熱的な能弁を聞き流すと、農民の代表は言ったのだ。
「政治的な権利とやらよりも先に、生きる権利を与えてほしいもんだね。食糧がないんだ。赤ん坊のミルクもない。軍隊がみんな持っていってしまった。自由や平等より先に、パンやミルクを約束してくれんかね」>

 どうです? これが人間というものなのです。自分の生活が困窮している時に一体誰が「民主主義の理念」などに拘るというのでしょうか。自分たちの生活を保障してくれるのであれば、たとえ相手が独裁者であろうと庇護を求めようとするのは、人間としての生存本能的な当然の行為ですらあるのです。だからこそ民主主義というものは極めて貴重な政治形態なのであって、スターウォーズ構想におけるレーガン元大統領の説明も、これを前提として出してみたのですけどね。
 ヒトラーなどの独裁者誕生にも「国民生活の困窮」という全く同じ背景があったのです。対外的な政情不安や世界恐慌による大量失業者の続出などで国民に全く余裕がなかったというのに、そのような中で政治に対するまともなチェックシステムが働くはずがありません。このような事態を発生させないためにも、行政府は強大な権限を持つべきなのです。
 だから私は独裁制誕生の原因に「代表されるものと代表するものの関係の喪失」などという原因を挙げるような考え方を「民主主義的理想論」と規定したのです。人間というものはそこまで理想に殉じる事ができるような生物ではないのですよ。そのあたりをどうか直視していただきたいところなのですが。


<民主制という事なので、行政・司法・立法は国民が選出した、すなわち国民の信任を受けていたが、行政が暴走したという設定で良いですか?
ま、どうしようもないですね。状況が多岐に渡るので一言で言えませんが、物理的強制力たる軍隊を有している行政の暴走は、暴走してしまったらそれまでです。そうした行政を選んだ国民が悪いというだけです。
そもそも行政が暴走する前に司法・立法が牽制して食い止めなければならないわけで、その為の方法は制度によって異なるでしょう。行政の暴走を食い止めるというだけであれば、簡単なのは行政の権限をできる限り弱くする事ですね。もっとも立法あるいは司法の権限がそれだけ強くなるわけだから、こちらが暴走する危険性があるけど。
だから三権のバランスを保ち、そして手続きを踏むことをきちんと守らせることですね。
抽象的だけど全般というのであれば、これくらいしか言えないですよ。>

 いえ、これで結構です。これでだいたい智司さんの考え方が理解できましたので。
 はっきり言いますと、智司さんってずいぶんと諦めの早い人なのですね。「行政の暴走は、暴走してしまったらそれまでです」って、そこまで簡単に諦めてしまったら国民が害を蒙りますし、国家だって簡単に滅亡してしまうではないですか。そもそも民主主義という政治形態はそのような「行政府の暴走」を止める事ができるところにこそ、本当の意義があるのではないのですか?
 もちろん、行政府の暴走を事前に食い止めるための方策も重要ですが、それと同時に、万が一行政府が政治的に暴走してしまった時にその暴走を食い止めるための努力を、国民や政治家は行わなければなりません。そして民主主義国家では、そのためにこそ立法府があり、言論の自由を謳歌するマスメディアがあり、国民の権利を守るための司法などといった様々なチェックシステムがあるのではないですか。そして最終的に行政府の暴走を食い止めるための責任もまた、全ての国民が負わなければならないのです。それこそが本当の民主主義というものでしょう。
 民主主義という政治形態は、ただ維持していくだけでも膨大な労力と責任感がいるものなのです。そのような民主主義の中において、たかが行政府が暴走した程度で「暴走したらそれまでです」などとあっさり諦めてしまうくらいであれば、さっさと民主主義などやめて専制政治の時代に戻ってしまった方が良いですね。そのような似非民主主義に存在価値など一切ありません。
 私の主張は暴論に聞こえるかもしれませんが、これが民主主義の厳しい現実であるという事は覚えておいていただきたいものですね。

<これは「軍部が立法府に提案する際に、能動的なのか受動的なのか」という問題とも絡んできます。戦争の「相手」と「時期」、「勝利条件」を定めるのだから、これを受けて「戦術を展開」するのが軍部です。ところが軍部が「能動的」に議会に意見陳述するというのであれば、「戦略→戦術」のプロセスが「戦術→戦略」になりおかしいですし、行政が戦略をたて、軍部がそれをおかしいと感じて議会に戦略を変更するように訴えるのは軍部の越権行為になります、戦術であれば、軍部の問題なのだから自己完結しなければなりません。というわけで上記になるのです。>

 軍部が議会に対して意見陳述するその内容は戦略でも戦術でもありません。それよりもさらに上位に位置する「政治」、特に「予算・人事問題」です。というのも、これらは「政治」であるにもかかわらず、軍隊指揮・統率・管理にも重大な影響を与えるからです。
 たとえば国家の軍事予算が激減すれば、当然の事ながら軍は縮小せざるをえず、導入予定の兵器が調達できなくなったりしてしまい、ひいては軍の軍事行動等も著しく制限されてしまいますし、軍部の人事権を全て行政府に握られてしまうと、軍人が行政府に対する心理的圧迫を覚え、軍部が行政府の政策にひたすら盲従するようになってしまうのです。
 実際、アメリカのベトナム戦争においては、このような行政府の軍部に対する過剰な政治的干渉がアメリカ軍の軍事行動の末端に至るまで悪影響を与え、これがベトナム戦争の決定的な敗北原因となってしまったのです。
 このように「行政府の政策や政治的行為が軍部の軍事行動に悪影響を与える事がある」という事実が厳然として存在する以上、行政府の政策が不当であると認識したならば、軍部は議会に対して軍事的見地に立った意見を述べ、行政府の不当な政策を是正するように働きかけなければならないわけです。もちろん、そうでない場合には行政府の命令に黙って従うのが当たり前ですし、自分の意見が通らないからといって暴力で解決しようというのは明白な違反行為ですが。

<同盟の政治体制において、三権の権限がどうなっているのでしょうか? ただ冒険ライダーさんは大統領制を良しとしているので「権限の強弱」に関していえば、立法府が弱く行政府が強い事は是とするはずなので、書き違えたのでしょうか?>

 ???私がいつ「立法府が弱く行政府が強い事は是とする」なんて事を言いました? 「行政権力は強くなければならないからこそ、立法府のチェックシステムは確立されるべきである」とは言いましたけど。そして私のこの考えを一番理想的に実行している実例が「たまたま」アメリカ大統領制だっただけなのであって、アメリカ大統領制をよく取り上げているのは別にそれ以上の意味は持っていません。行政権力が強く、かつ立法府のチェックシステムが完璧に確立されてさえいれば、政治形態は大統領制だろうが議院内閣制だろうが別に何でも良いのですけどね。だからこそ私は政治形態にはあまり拘らなかったのですけど。
 それから「銀英伝世界における立法府の弱さ」については、このスレッドの一番最初の投稿を読んでみてください。そこにちゃんと書いてありますから。ついでにこのスレッドにおける議論の流れも全て読んでいただければ、私としてもありがたいのですけど。



>優馬さん
<「三すくみ」というと、軍部から立法府に対して恒常的かつ積極的働きかけを行っているというイメージになってしまいますが、それは活動的な立法府を持つ米国政治でもあまり見られないことです。軍人が「政治的関与を控える」というのは、民主主義国における一般的な軍人の職業倫理でもありますし。立法府からのチェックやコントロールは積極的にありますが、軍部からはない。「相互牽制」という表現は少し誤解を招く余地があると思います。>

 「相互牽制」という言葉は「まあ一応軍部は立法府に対して意見を述べているのだし、最初の投稿に『3すくみ』の具体的内容について書いているのだからこれで良いか」と思って書いた言葉だったのですが、確かにやや誤解を招く言葉ではあったかもしれません。
 不幸にも表現能力の貧しさで、立法府・行政府・軍部の3つの関係を表す言葉がこれぐらいしか思い浮かばなかったのですが、もちろん「相互牽制(3すくみ)」というのは「軍部から立法府に対して恒常的かつ積極的働きかけを行っている」という意味で書いたわけではない事はここで宣言しておきます。
 優馬さん、御指摘ありがとうございます。m(__)m



>平松さん
 申し訳ありませんが、前半の2つについてはパスさせてください。ちょっと同じ事の繰り返しになってしまっているような気がしますので。
 というわけで、農業事情と艦船事情について述べます。

<いくら機械化が進んでいても250億という人口を養う以上、農業人口も相当な割合を占めたと思われますが、そういった農民に居住地を選択したり恒星間航行を行ったりする自由があったのでしょうか?貴族の荘園ならなおの事無理だったのでは?(でなければ悪質な領主の領地は無人になってしまいます)>

 これは例の惑星単位での大規模な食糧生産を行った後、商船が食糧を各惑星に輸送するシステムが整備されていたのではないでしょうか。また惑星規模となると当然ながら大規模な機械化が進んでいたでしょうし、また現代の技術をはるかに上回るコンピュータ中央制御システムなども整備されていた事でしょう。銀英伝1巻における食糧増産計画では「8つの惑星で50億人分の食糧を増産する」という事になっていますし。
 したがって、農業生産は農業資本によって極めて集中的かつ効率的に運営されており、それほどまでに農業人口は必要というわけでもなかった、という事で良いのではないでしょうか。


>艦船事情

 どうも私のミスで混乱を招いてしまっているようで申し訳ありません。m(__)m
 実は艦船事情については私なりの裏設定を考えており、それに基づいていろいろと述べていたのですが、どうも上手くいかなかったようです。そこで今回は少し銀英伝世界における艦船事情について少し説明してみる事に致しましょう。

 まず、銀英伝世界における艦船の全長はだいたい400〜1000mほどもあります。にもかかわらず、定員がたったの100〜200しかいない。この大矛盾をどのように整合すれば良いのかについて、私なりに答えを出してみました。
 まず、商船・軍艦問わず、次のような共通した事情があります。

1. 動力部(核融合炉)の占める割合が大きい
2. 艦船システムの大半が自動化されている

 次に商船・軍艦にはそれぞれ次のような事情があります。

商船:大量の貨物を積載するために大部分のスペースが割かれている
軍艦:装甲と兵器やレーザーエネルギーの貯蔵庫、および兵器発射装置に
   大部分のスペースが割かれている

 このような事情から、銀英伝世界における艦船はその大きさにもかかわらず、定員がたったの100〜200までに制限されているわけです。
 で、この「定員」と「収容限界人数」をごちゃ混ぜにしてしまった事が混乱を招いてしまったわけですが、私はこの貨物スペースに人間を搭載すれば「定員」の何十倍もの人数を船に乗せる事ができるし、貨物スペースを少し割いてしまえばたちまち大量の亡命者を匿える秘密部屋を作る事ができると考えたわけです。何しろ商船の貨物輸送量は最低でも50万トン以上ですから、人間を乗せる余地も、それを隠す仕掛けを施す余地もいくらでもあります。ついでに衛生上の処置を施す余裕だってあるでしょう。
 また集団にすると危険と言うのであれば、50〜100人ずつの小集団に分けて匿ったり、隠し部屋の扉が外部からしか開ける事ができないとかいった手段が使えます。また、いざという時に隠し部屋の部分を商船から切り離し、亡命者を「処分」してしまうという方法も安全を確保する手段としては結構使えます。まあこれは「最悪の手段」ではありますが。
 従って私は、商船に大量の人間を搭載する事はそれほど困難でもないと考えたわけです。御理解いただけたでしょうか?

 ところで、どうもこのままだと永遠に2人で亡命問題についての論争が続いてしまいそうな気がしますので(^^;)、ここらへんで逆に私が質問してみる事に致しましょう。
 平松さんは帝国から同盟へと向かう亡命者が年間どれくらいの人数いて、また一回あたりの輸送で運べる亡命者の人数はどのくらいだと考えていらっしゃるのでしょうか?


No. 1097
Re1095:食糧問題と亡命問題
平松重之 2000/6/27 13:17:30

冒険風ライダーさん

>  申し訳ありませんが、前半の2つについてはパスさせてください。ちょっと同じ事の繰り返しになってしまっているような気がしますので。

確かに同じ事の繰り返しになっていましたね。まあ、無理に結論を出す必要もありませんし。

>  これは例の惑星単位での大規模な食糧生産を行った後、商船が食糧を各惑星に輸送するシステムが整備されていたのではないでしょうか。また惑星規模となると当然ながら大規模な機械化が進んでいたでしょうし、また現代の技術をはるかに上回るコンピュータ中央制御システムなども整備されていた事でしょう。銀英伝1巻における食糧増産計画では「8つの惑星で50億人分の食糧を増産する」という事になっていますし。
>  したがって、農業生産は農業資本によって極めて集中的かつ効率的に運営されており、それほどまでに農業人口は必要というわけでもなかった、という事で良いのではないでしょうか。

 「50億人分の食糧」と言うのは1年間に50億人を養えるだけの量という意味なのでしょうか?だとすれば、年間の帝国の全人口の5分の1の食料をフェザーン資本が握っているという事になりますが、ダミーとはいえ、たった3つの民間企業にそれだけの食糧増産計画を任せたりするでしょうか?「50億人分の食糧」と言われてもどのくらいの期間食べられる量なのかよく分かりませんが、これも解釈が分かれる所でしょう。

> >艦船事情
>
>  どうも私のミスで混乱を招いてしまっているようで申し訳ありません。m(__)m

 ご丁寧にありがとうございます。こちらこそいささか読解力を欠いていたかも知れません。m(__)m

>  実は艦船事情については私なりの裏設定を考えており、それに基づいていろいろと述べていたのですが、どうも上手くいかなかったようです。そこで今回は少し銀英伝世界における艦船事情について少し説明してみる事に致しましょう。
>
>  まず、銀英伝世界における艦船の全長はだいたい400〜1000mほどもあります。にもかかわらず、定員がたったの100〜200しかいない。この大矛盾をどのように整合すれば良いのかについて、私なりに答えを出してみました。
>  まず、商船・軍艦問わず、次のような共通した事情があります。
>
> 1. 動力部(核融合炉)の占める割合が大きい
> 2. 艦船システムの大半が自動化されている
>
>  次に商船・軍艦にはそれぞれ次のような事情があります。
>
> 商船:大量の貨物を積載するために大部分のスペースが割かれている
> 軍艦:装甲と兵器やレーザーエネルギーの貯蔵庫、および兵器発射装置に
>    大部分のスペースが割かれている
>
>  このような事情から、銀英伝世界における艦船はその大きさにもかかわらず、定員がたったの100〜200までに制限されているわけです。
>  で、この「定員」と「収容限界人数」をごちゃ混ぜにしてしまった事が混乱を招いてしまったわけですが、私はこの貨物スペースに人間を搭載すれば「定員」の何十倍もの人数を船に乗せる事ができるし、貨物スペースを少し割いてしまえばたちまち大量の亡命者を匿える秘密部屋を作る事ができると考えたわけです。何しろ商船の貨物輸送量は最低でも50万トン以上ですから、人間を乗せる余地も、それを隠す仕掛けを施す余地もいくらでもあります。ついでに衛生上の処置を施す余裕だってあるでしょう。
>  また集団にすると危険と言うのであれば、50〜100人ずつの小集団に分けて匿ったり、隠し部屋の扉が外部からしか開ける事ができないとかいった手段が使えます。また、いざという時に隠し部屋の部分を商船から切り離し、亡命者を「処分」してしまうという方法も安全を確保する手段としては結構使えます。まあこれは「最悪の手段」ではありますが。
>  従って私は、商船に大量の人間を搭載する事はそれほど困難でもないと考えたわけです。御理解いただけたでしょうか?

 技術的には問題がない事は理解出来ました。ですが、定員が200人程度なら、自分達の数倍の居候を密かに管理するのはやはり難しいのでは?前にも書きましたが、仮に事故による混乱や暴動などが起こったら手がつけられないでしょうし、万一伝染病などが蔓延したら船医だけでは手が足りなくなるでしょう。通常の客船なら近くの惑星に寄港するか当局に連絡すればいいでしょうが、亡命者を大量に輸送していてはそうもいきません。この意味でも亡命者は少数の方が管理・統制しやすいのでは?

>  ところで、どうもこのままだと永遠に2人で亡命問題についての論争が続いてしまいそうな気がしますので(^^;)、ここらへんで逆に私が質問してみる事に致しましょう。
>  平松さんは帝国から同盟へと向かう亡命者が年間どれくらいの人数いて、また一回あたりの輸送で運べる亡命者の人数はどのくらいだと考えていらっしゃるのでしょうか?

 自分としては一回あたりで運べるのは普通の民間船で多くて50人から100人が限度だと考えています。これが200人の定員で無難に管理出来るギリギリの数字でしょう。年間の亡命者数は…うーん、これは帝国内の非合法の亡命者輸送業者及び亡命者輸送を兼業としている帝国・フェザーンの商船の数及び規模が分からないので何とも言えません。彼らも年がら年中亡命者の輸送ばかりを行っている訳でもないでしょうから、大した数ではないのでは?


No. 1098
もうひとつの「三すくみ」
優馬 2000/6/27 17:00:59
冒険風ライダーさんの議論に触発されて、もう一つの「三すくみ」について書きたくなりました。退屈かもしれませんがシビリアン・コントロールにも多少関係がありますので、ご容赦を。
この「三すくみ」は、政府の民主的統制に関するものです。
民主主義国家においては、「国民」と「政治家」と「官僚(もちろん軍部を含む)」は、相互牽制する「三すくみ」になっていないといけません。

「国民」は、「官僚」には弱く、「政治家」には強い。
(国民は法律制度の適用を受ける立場であり、権限を持つ官僚には弱い。しかし政治家に対しては投票行動や陳情を通じてコントロールすることができる。)

「官僚」は「政治家」に弱く、「国民」に強い。
(選挙で選ばれた政治家は、官僚を人事や予算を通じてコントロールすることができる。)

「政治家」は「国民」に弱く、「官僚」に強い。

この「三すくみ」が健全に成り立っているとき、政府は民意を反映してちゃんと機能します。
昨今の日本政府の機能不全は、この「三すくみ」の機能不全と捉えることができます。「三すくみ」の相互作用がどこかで断絶しているのです。
「官僚」は国民をしっかり統制しています。
「国民」は政治家に要望を伝えています。(日本の政治家は卑屈なくらい「民意」を気にする)
「政治家」は官僚を・・・コントロールできていません。
「官僚」の独立性と割拠性があまりに強く、政治家を通じての民主的コントロールが効いていないところが問題なのです。(「経済成長」という「国家目標」のコンセンサスがあり、全体のパイが拡大して分配の問題がシリアスでなかった時代には「政治」の判断は重要ではなかったのですが、今や時代は変わりました。)
人事も予算も、官僚組織内部で決めたものを形式的・象徴的に政治家に承認してもらうということが今でも行われています。人事・予算に対して政治家が「国民から負託された仕事」として本格的に関与しようとすると、たいへんな抵抗があります。
一方で、「政治家は狡くて汚く、清潔な官僚のように国のために私心のない貢献ができない」という誤ったイメージが広く流布されていました。しかし実際の話は、どうしようもない例外を除いて、日本の政治家のレベルはそう悪くないのです。今回の総選挙で若返ったこともあり、代議士の質は向上しています。
にもかかわらず、現実に日本の政治の「成果」は貧困です。それは実は、政治家の無能ではなくて、官僚組織の側の機能不全だと私は考えています。官僚組織の現状を変更しなければならない「公約」については、それを実行する能力が、現在の日本の官僚機構にはないのです。それは「統帥権の不可侵」を掲げて暴走した戦前の軍部と同様のシステム的欠陥です。

軍部官僚への「政治」の関与手段があまりにも乏しかった戦前日本は、亡国の憂き目を見ました。ベトナム戦争では、誤った「政治」の介入が、正当な軍事的判断(戦争のプロとしての冷徹な判断)を狂わせました。
 官僚組織は、政治にチェックされなければならない。(官僚組織は暴走する。)
 しかし行政府だけのチェックでは「チェック」そのものの信頼性が十分でない。(行政府も暴走する。)
 そこで立法府をもチェックに参画させ、チェック&バランスの質の向上を図る。(立法府まで暴走するということも、それは理論的にはありうる。しかし、確率は激減する。なぜなら多数の目に晒される公開の場での討論は、ニセモノを看破する力があるから。) ・・・米国の知恵には、学ぶところ多そうですね。


銀英伝考察2−Cへ 銀英伝考察2−Eへ

トップページへ 考察シリーズ
全一覧ページへ
ザ・ベスト一覧へ