QLOOKアクセス解析


銀英伝考察2
ヤンが殉じたシビリアン・コントロールの実態
過去ログC


銀英伝考察2−Bへ 銀英伝考察2−Dへ

No. 1009
Re1007:政府と軍と共和主義運動
平松重之 2000/6/12 03:51:01

 冒険風ライダーさん

>  議会や言論界における多くの代弁者のために軍部の影響力が強かったのは否定しませんが、それでも軍部は地球政府の命令には従わなければならず、旧日本軍のような独走行為はできない立場にありました。実際、地球軍の植民地星系に対する弾圧は地球政府の命令によるものだったのですから、地球政府は充分に軍部を掣肘する事ができる立場にあったのです。
>  ですから、
>
> <地球軍は政府のコントロールから半ば離れた、「国家の中の国家」と化していたと言えるのではないでしょうか。>

>  というのはまず考えられません。地球政府の軍部に対するコントロール機能は失われてはいなかったと見るべきでしょう。

 自分は「半ば」軍部が政府のコントロールを離れていたのでは、と主張していたのであって、完全にコントロールを離れていたとは書いていません。軍部が政府の命令に従っていたというより、たまたま利害が一致していた結果に過ぎないと思えるのですが。そもそも、肥大化し続けている軍部を、果たして政府がいつまでも掣肘出来るものでしょうか?

>  しかしその結果、行政府が暴走してしまう可能性について考えなかったのでしょうか? 歴史的にも、アメリカのベトナム戦争では行政府が軍部に対して過剰な政治干渉を行っていた事が敗因の大きな理由のひとつとなりましたし、末期同盟においても似たような現象が見られました。いくら戦争遂行のために行政府の権限を強化したところで、それによって行政府が暴走した挙句に敗北してしまったら意味がないでしょう。「権力というものは暴走しやすいものである」という認識が同盟には必要であったはずです。
>  それにいくら戦争遂行のためとはいえ、それを理由に立法府の権限を無力に近いレベルにまで弱めたりしたら、それは議会制民主主義の否定に繋がってしまうではありませんか。「行政府のなすがままに」では帝国の専制政治を笑えませんよ。やはり立法府をきちんと機能させてこそ、民主主義国家としての存在意義があるのではないでしょうか。
>  もし同盟において議会の勢力が強かったならば、あるいは選挙目的で出兵を決定した帝国領侵攻作戦のような愚行を事前に防ぐ事ができたのかもしれないのですが、これでも立法府が行政府に歯止めをかけることは無用であるというのでしょうか?

 まああくまで非常の策、という事です。まさか150年も戦いが続くとは思っていなかったので、政治的な倦怠感や腐敗が深刻な域になる前に帝国を打倒出来ると考えていた故なのではないかとも思われます(苦しい)。まあ150年経過した時点で、何らかの改革を講じるべきだったのでしょうけど、トリューニヒトが自分にとって都合の悪い改革案(議会の権限を強める等)を推進するはずもないですし。

>  帝国と同盟の最初の大規模な会戦となったダゴン星域会戦で同盟が勝利した後、次のような記述があります。
>
> 銀英伝1巻 P17下段
> <自由惑星同盟にとっては、これが量的な膨張のきっかけとなった。帝国内に対抗する独立勢力の存在を知った帝国内の異分子たちが、安住の地を求めて大量に逃亡し、流れこんできたからである。ルドルフ大帝の死後三世紀を経て、さしも強固だった体制のたがもゆるみ、弾圧に狂奔した社会秩序維持局の威光も薄れて、帝国内には不満の声が高まっていたのだ。>
>
>  このような記述があるのですから、銀河帝国の共和主義者たちが大量に同盟に流れていった事は間違いないでしょう。
>  それに帝国内で民主運動をしたところで、待っているものは密告と弾圧だけなのですから、亡命に際して「帝国に対する愛着」なんて何の妨害にもならない思うのですけど。

 自分が主張していたのは「たがが緩んでいた帝国後期にどうして共和主義者が台頭し得なかったのか」という事についてなのですが、同盟の存在が認知されて以後、共和主義者達が大量に同盟領に流入出来た期間は、それほど長くはなかったのではないかと思われます。時間が経てば亡命を阻止する為のシステムを構築してくるでしょうし、イゼルローン回廊及びフェザーン回廊を集中して監視さえしていれば効率もよく、亡命の成功率は不可能とまでいかなくともかなり低くなるでしょう。となれば、亡命にはある程度の資金やコネも必要になってくるはずです。それを考えれば、帝国後期において帝国内の共和主義運動家が「大量に」同盟に流れ込んだという事はありえないと思うのですが。まあ、リーダーシップを持った有能な運動家は資金もコネもある程度有しているでしょうから、それを利して同盟内に流れていったとも考えられます。かくして、後期の帝国内の共和主義勢力は量はともかく質的には劣弱だったのかもしれません。また、中には郷土愛などで頑固に帝国内での運動に固執する運動家もいるでしょう。「かつて銀河連邦が存在した場所で運動する事に意義がある」という主張も一概には否定できませんし。

>  「ジークマイスターとミヒャールゼンによるスパイ網」というのは帝国政府内部に対するもので、帝国国内の共和主義者と連携を組んだものではありません。

 ミヒャールゼンはともかく、ジークマイスターは共和主義者なのではないでしょうか?それと彼が作ったスパイ網には同じ思想を持った同志もいたでしょうし、その意味で帝国国内の共和主義者との連携と言えるのではないかと思ったのですが。

>  帝国内には同盟に呼応するような内部勢力もいませんでしたし、同盟政府がそれを作ろうとした形跡も全くありませんから、結局同盟はそのような内部工作は行っていなかったのでしょう。呼応する内部勢力としては、別に共和主義者でなくとも、帝国の支配に反感をもつ傍流系の貴族などでも良かったのですが。
>  「敵の中に味方をつくる」というのは諜報・謀略構想の基礎中の基礎なのですけど、何で同盟はこの政治手法を使わなかったのでしょうか?

 ローゼンリッター連隊などは「亡命者の子弟」で構成されたという事を政治宣伝に使われていましたね。これも帝国の将兵に動揺を与える為の謀略と言えるのかも知れません。

>  しかし当時の同盟は帝国から一応の地位を保全されているとはいえ、いつ帝国に口実つけられて滅ぼされてもおかしくない立場にあり、国家体制が磐石なものであったとは到底言えない状態にあったはずです。そんな状況下で「ヤンが軍人として不必要であった」などということがありえるのでしょうか? それどころか、ヤンを殺してしまったら帝国が喜んで同盟併合に乗り出す可能性すらあるではありませんか。何しろ同盟併合を妨害すると見られる軍事的脅威のひとつが消滅してしまうのですから。

 同盟政府が真にヤンを必要だと思っていたならば、退職届を却下したはずです(現に一度却下されている)。帝国にヤンを売り渡そうとした政治家達は同盟の滅亡は必至と考えてヤンを「商品」扱いしましたし、彼らの密告を信じた(がっていた)レンネンカンプはヤンの逮捕を同盟政府に「勧告」しています。レベロはこの「勧告」はラインハルトの意思だとと信じ込み、受け入れなければ帝国に口実を与える事になる、と考えたわけです。つまる所、レンネンカンプの独断がレベロを追い詰め、ヤンを切り捨てる決断を下させたという事でしょう。レベロは「ヤンを排除しなければ帝国に口実を与える」とレンネンカンプの勧告によって思い込まされ、逆に言えばそれを受け入れさえすれば帝国に口実を与えないですむ、この場合は帝国の要求(実はレンネンカンプの独断)を受け入れ、ヤンを排除しよう、と考えたのでは?そうなれば、ラインハルトの気質では有力な敵がいなくなれば却って戦闘意欲を削がれるでしょうし、明確な大義名分がなければ彼は武力の行使をためらったでしょうから、ヤンの死についてレンネンカンプに責任が帰されるとすれば、彼の勧告を受け入れざるを得なかった弱い立場の同盟に強く責任を求める事も出来なかったでしょう。

>  ここでヤンを殺してしまったら却って逆効果になってしまう。その程度の発想すらレベロにはなかったというのでしょうか? だとしたら、レベロは能力・識見的に見ても政治家としては失格ですね。政治家には「柔軟な発想」が必要不可欠なのですから。

「ヤンを逮捕せよ」というレンネンカンプの勧告のせいで、レベロがヤンを排除する決断を下させられた訳ですから、「ここでヤンを殺してしまったら却って逆効果になってしまう」という発想は無意味なのでは?
「ここでヤンを排除しなければ帝国に口実を与えてしまう」という考えが、レベロを動かしていたのですし。問題なのは、レベロがレンネンカンプのいう事をそのまま信じてしまった事ですね。仮にも一国の元首なのですから、ラインハルトと超光速通信で会談をすればラインハルトはレンネンカンプの独走に気づき、レンネンカンプは更迭され全ては丸く治まったかもしれません。

>  上でも言いましたけど「危険だから排除する」なんて考え方自体がそもそも「危険な発想」なのですよ。排除される方にしてみれば「殺られる前に殺る」という考えにいきつくのはむしろ自然な事なのですから。あの当時の同盟の政治情勢下において、そのような内戦が発生する事がどれほど危険な事であったのかについて、レベロは考える事がなかったのでしょうか。
>  だいたい民主主義国家におけるシビリアン・コントロールの意義にしたって「危険な軍隊をいかにしてコントロールするか」ということにあるのですから、レベロのヤン排除の発想はとても民主主義国家における政治家の考え方とは思えません。これから見てもレベロは政治家失格でしょう。

 上にも書いた通り、レンネンカンプの勧告(脅迫)が、ヤンを排除する決断をさせたわけです(それまでは監視するまでにとどめていました。おそらくはこの監視自体に威圧の意味があったのだと思いますが)。ですから、好む好まないに関わらず、レベロはヤンを排除しなくてはならない、との認識にとらわれていたのでしょう。

> >共和主義者の問題
>
>  これはMerkatzさん、平松さん共に結構理のある意見を出されていますから、それらと私の意見とを全てまとめて、次のような説を作ってみました。
>
> <ルドルフの皇帝即位に伴う銀河連邦崩壊以来、その復活を願う共和主義者達は、ルドルフ崩御と同時に大同団結して帝国を打倒するための大規模な叛乱を起こした。しかしバルトバッフェル公ステファンを中心とする帝国は共和主義者の楽観的観測よりもはるかに強大で、叛乱は完全に鎮圧され、5億余人の叛乱参加者が殺され、その家族など100億人以上が農奴階級に落とされた。この失敗が民衆に与えた心理的効果は大きく、また武力の大部分をこの叛乱で失ってしまった共和主義者達は、その後の帝国が艦船建造の資源とノウハウを独占したために武力の再編を不可能にされてしまい、小規模な地下活動程度のレベルでしか活動できなくなってしまった。
>  共和主義者達は何とかして帝国に対する反撃を画策するのだが、ジギスムント痴愚帝やアウグスト流血帝などの暴政につけこもうにも、手元に武力がない状態ではまず軍事力の充実から始めなければならず、さらにようやく軍事力結集のメドが立ったあたりで帝国の皇族による簒奪によって暴政が鎮静化され、それにともなって民衆の共和主義者に対する期待感も薄れていき、運動も自然消滅するというパターンを何回も繰り返すことになった。
>  また帝国の内部攪乱に訴えようとしても、当時の帝国軍の将官クラスの高官達は全てが貴族階級で構成されており、彼らがゴールデンバウム王朝崩壊の企てに荷担するはずもなく、逆に彼ら自身が苛烈な弾圧を受けるありさまだった(ちなみに帝国軍の将官クラスの高官に平民出身者が多く出現するようになるのは宇宙歴745年、第二次ティアマト会戦によって多数の帝国軍将官が戦死し、深刻な士官の欠乏現象が生じて以降)。
>  そんな中で、アーレ・ハイネセンをはじめとする共和主義者達が宇宙船建造の難問をクリアし、50年にわたる「長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)」の末、宇宙歴527年に自由惑星同盟を建国。それから100年以上経過した宇宙歴640年、同盟はダゴン星域会戦による大勝利を収め、帝国に対抗できる民主共和勢力としての地位を確保した。その結果、帝国の支配に不満を持っていた民衆や共和主義者たちが大量に同盟に流入し、同盟は量的に膨張していく事になる。
>  特に共和主義者たちは、帝国内にいてもまともな武力が確立できない状態で自滅的な民主運動を続けるしかないため、先を争って同盟になだれ込んで行った。そのため、帝国内には同盟に亡命する行動力も財力もない共和主義者しか残らず、極めて皮肉な形で、帝国における有望な共和主義者たちはほとんど一掃される事になったのである。>
>
>  共和主義者が台頭しなかった理由としてはこんなところでしょうか。またフェザーン回廊の発見とフェザーンの建国もこの時の副産物でしょう。同盟へ亡命者を輸送していく仕事は、結構儲かる商売になったはずですから。

 内容には関係ありませんが、上のバルトバッフェル公ステファンというのはノイエ・シュタウフェン公ヨアヒムの間違いでしょう(バルトバッフェル侯(公ではない)ステファンは「敗軍帝」フリードリヒ三世の弟で、ダゴン星域会戦の作戦会議で出兵に反対して忌避を買い、不遇な晩年を過ごした人物)。それはさておき、帝国の共和主義勢力は帝国軍の実戦部隊内部にシンパを作らなかったのでしょうか。民衆革命は正規軍を味方につけない限り成功するものではないのですが(正規軍を味方につけたフランス革命、ロシア革命などは成功し、ほとんどが民衆のみで構成されたパリ・コミューンは正規軍によって鎮圧されています)。


No. 1010
Re1009:レベロの同盟に対する背信行為とその他
冒険風ライダー 2000/6/12 18:44:00
<自分は「半ば」軍部が政府のコントロールを離れていたのでは、と主張していたのであって、完全にコントロールを離れていたとは書いていません。軍部が政府の命令に従っていたというより、たまたま利害が一致していた結果に過ぎないと思えるのですが。そもそも、肥大化し続けている軍部を、果たして政府がいつまでも掣肘出来るものでしょうか?>

 それでも軍部は一応政府の命令下にあったのですから掣肘は充分に可能です。それを無視して彼らが政府に対してクーデターを起こしたり、政府に無用の圧力をかけたりしたところで国民の支持はまず得られないでしょう。政府がよほど人望を失っていない限りは。
 それに政府や議会にとっても、軍隊を増強する事によって地球資本の権益を擁護する事の方が重要であり、また植民地星系に対する蔑視感も手伝って、軍部の軍縮にはあまり熱心ではなかったのではないでしょうか。あるいは地球資本側から「自分達を守るための軍備を増強せよ」という圧力でもかかっていたのかもしれません。植民地星系に対してかなりの搾取を行っている地球資本は当然の事ながら植民地星系の住民の恨みを買っていますから、自分達の安全のためにも地球軍の庇護は欲しかったでしょうし。
 いずれにせよ、当時の地球政府が抱いていた地球資本権益擁護と植民地星系蔑視思想が、シビリアン・コントロールの過程で軍部に対する判断を狂わせたという事はあるかもしれませんが、地球軍の暴虐はあくまでも地球政府の命令によるものであり、暴虐行為もその命令の範囲内で起こったものですから、政府が軍部をコントロールできていなかったという事はありえないでしょう(健全なシビリアン・コントロールであったかどうかは疑問ですが)。その点、中央政府の命令なしで独走ばかりやっていた旧日本軍などとは違うのではないでしょうか。

<まああくまで非常の策、という事です。まさか150年も戦いが続くとは思っていなかったので、政治的な倦怠感や腐敗が深刻な域になる前に帝国を打倒出来ると考えていた故なのではないかとも思われます(苦しい)。まあ150年経過した時点で、何らかの改革を講じるべきだったのでしょうけど、トリューニヒトが自分にとって都合の悪い改革案(議会の権限を強める等)を推進するはずもないですし。>

 いえ、同盟の建国者やその子孫達も、短期間で帝国を打倒できるとは全く考えていませんでした。むしろ彼らは帝国との国力差を自覚した上での専守防衛的な政治・戦略構想を視野に入れています。ハイネセン亡き後にその意思を引き継いだグエン・キム・ホアもそういう考えを持っていましたし、ダゴン星域会戦当時における同盟政府首脳部もまた帝国との戦争が長期化する事を予見していました(銀河英雄伝説読本・ダゴン星域会戦記)。それならば専守防衛のための政治システムを作成してしまえば良いだけの事で、別に行政府が強大な権限を持って指揮しなければならないという事はありません。
 だから同盟における行政権力の強大化が「非常の策」ということはありえないのでは?

<同盟の存在が認知されて以後、共和主義者達が大量に同盟領に流入出来た期間は、それほど長くはなかったのではないかと思われます。時間が経てば亡命を阻止する為のシステムを構築してくるでしょうし、イゼルローン回廊及びフェザーン回廊を集中して監視さえしていれば効率もよく、亡命の成功率は不可能とまでいかなくともかなり低くなるでしょう。となれば、亡命にはある程度の資金やコネも必要になってくるはずです。それを考えれば、帝国後期において帝国内の共和主義運動家が「大量に」同盟に流れ込んだという事はありえないと思うのですが。まあ、リーダーシップを持った有能な運動家は資金もコネもある程度有しているでしょうから、それを利して同盟内に流れていったとも考えられます。かくして、後期の帝国内の共和主義勢力は量はともかく質的には劣弱だったのかもしれません。また、中には郷土愛などで頑固に帝国内での運動に固執する運動家もいるでしょう。「かつて銀河連邦が存在した場所で運動する事に意義がある」という主張も一概には否定できませんし。>

 実はこれもまたSF世界特有の艦船事情で説明は可能です。
 帝国から自由惑星同盟に亡命するとなれば、当然ながら宇宙艦船を使用する事になるのですが、その際に大量の亡命者を乗せ、その全て(もしくは組織)から亡命費用を徴収すれば、かなり安い費用で同盟への亡命は可能です。むしろ「大量に亡命」ということになれば、却って亡命にかかるコストパフォーマンス(費用対効果)は上昇し、亡命が安い費用で実現できるようになるのです。費用や居住環境にもよりますが、宇宙艦船1隻の1回の往復でおよそ500〜1000人の輸送が可能でしょう。何十隻かで船団を組んだりすればさらに1回あたりの輸送量は増大します。
 そしてそれを規制しようにも、現実問題として全ての艦船の行動を把握する事は不可能ですし、全ての輸送船の積荷を検査するというわけにもいきません。また輸送側も当然帝国の臨検などは予想できますから、亡命者を帝国の臨検から守るための対策は当然色々と考えている事でしょう(そうでないと商売にならない)。現にフェザーンには亡命者を輸送するためのプロもいたようですし。
 ましてや、ダゴン星域会戦の敗北が帝国の民衆と共和主義者に与えた影響はかなりのものであったと考えられますから、同盟に亡命したがった人間がかなりの数いた事は確実ですし、そしてそのような莫大な需要に支えられていた「亡命者輸送業」が莫大な利益をもたらすものであった事は間違いないでしょう。儲かる商売には必ず誰かが手をつけるものです。
 数が多ければ多いほど費用は却って安くなるというのは経済の基本中の基本です。大量の亡命者の問題もこれで簡単に説明できるのではないでしょうか。

<ミヒャールゼンはともかく、ジークマイスターは共和主義者なのではないでしょうか?それと彼が作ったスパイ網には同じ思想を持った同志もいたでしょうし、その意味で帝国国内の共和主義者との連携と言えるのではないかと思ったのですが。>

 「共和主義者との連携」というと、私は「反体制的な帝国政府外部の共和主義者」というものを思い浮かべるのですが。銀英伝においても「共和主義者」という言葉はそのように使われていましたし。
 「帝国政府内部の共和主義者」というのは、帝国では「開明派」と呼ばれているようです。どちらかといえば「穏健的」なもので、オイゲン・リヒターやカール・ブラッケなどがそれにあたります。そして彼らのような人間でさえ、ミヒャールゼンのような「帝国政府の要職」には、ラインハルトが台頭するまではつけなかったのですから、あの帝国中枢部に対するスパイ網をもって「帝国国内の共和主義者との連携」とは言えないのではないかと思うのですが。


>レベロとヤンの関係

 やはり出してきましたか、レンネンカンプのヤン逮捕要請の件を。実は私に言わせれば、これに対するレベロの対処法こそが「同盟の国家保全」の観点から見ても全く逆効果にしか見えないのですが。
 ではいくつか理由をあげて説明してみましょう。

 まず、レベロはレンネンカンプのヤン逮捕要請が「バーラトの和約」の条文にすら明らかに背いている事に気づいていません。「バーラトの和約」に記載されている条文の第7条に高等弁務官に関する条項があるのですが、その中でさえ、
「帝国は同盟首都ハイネセンに高等弁務官府を設置し、これを警備する軍隊を駐留せしめる権利を有する。高等弁務官は帝国主権者(皇帝)の代理として同盟政府と折衝・協議し、さらに同盟政府の諸会議を傍聴する資格を与えられる」
としか記載されていません。つまり条文を素直に読むと、すくなくとも表面的には帝国の高等弁務官が同盟の内政に干渉する権限はないと解釈できるのです。「同盟政府の諸会議を傍聴する資格を与えられる」といっても、実のところただ単に傍聴しているだけで、別に意見を言う事ができる権限が与えられているわけではありません。もちろん、あくまでも表面的な話ではあるのですが、この「表面的」というのが以外と政治の世界では重要なのです。
 だからレンネンカンプの同盟政府に対するヤン逮捕要請は「バーラトの和約」ですら何ら規定されていない同盟への露骨な内政干渉行為を行った事になり、「バーラトの和約」第7条に明白に違反した行為なのです。「バーラトの和約」は同盟に圧倒的に不利な不平等条約であるとはいえ、その条文内容は当然ながら帝国も守らなければなりません。レベロはまずこの点を突くべきだったのです。

 次にそのレンネンカンプの行動がラインハルトの意思であるのかを明確に確認する必要があります。これは仮に同盟の国家保全のためにヤンを逮捕するつもりだったとしても絶対に必要な事項です。
 というのも、ここでラインハルトの意思を確認し、かつ明確な記録を残しておかないと、いざという時に
「あのヤン逮捕要請はレンネンカンプひとりの独断によるものであり、帝国政府と皇帝のあずかり知らぬ事である」
としらを切られてしまい、ヤン逮捕の全責任をレンネンカンプと同盟政府が負わなければならなくなってしまうからです。帝国政府と皇帝もヤン逮捕要請の共犯にしなければ、却って帝国政府がヤン逮捕を口実にして攻めこんでくる可能性すら考えられるのです。最悪の場合、
「レンネンカンプと同盟政府は共謀して『バーラトの和約』に背き、せっかく築かれつつあった平和と秩序を乱した。よって両者共叛逆者とみなし討伐する」
などというムチャクチャな口実をつけられて攻めこまれる可能性だってあるのです。帝国にしてみれば、同盟に攻めこむ口実なんて何でも良いわけですから。同盟が併合できるのならば、たかがレンネンカンプ一人の命なんて安いものでしょう。そんな事にならないためにも、帝国政府とラインハルトの意思を明確な証拠つきで確認し、いざという時のための言質をとっておかなければならないのです。
 にもかかわらず、レベロは早とちりしたあげく、確認すら取らずにさっさとヤン逮捕に乗り出したのですから、その短慮かつ無思慮な思考法はホントにどうしようもないですね。それが却って民衆の感情に訴えやすく、帝国介入の口実になりやすいとは考えなかったのでしょうか。

 さらに、ヤンを本気になって逮捕しようというのであれば合法的に証拠を集めて逮捕しなければならないではありませんか。さもなければ帝国の介入は防げたとしても、同盟市民の信望を失ってしまう事になりかねませんし、最悪の場合、帝国がその「非合法性」に訴えて同盟に侵攻してくる可能性さえあります。現にラインハルトが同盟を再侵攻する口実のひとつに「ヤンに対する非合法的な逮捕」があったのですから。
 ヤンを合法的に逮捕するのは実はそんなに難しい事ではありません。ヤンはバーミリオン会戦後、戦艦・燃料・食糧・人員を隠蔽して逃し、偽の記録を同盟政府に報告しています。その記録がウソであること、具体的にはその偽の記録の中にある破壊された戦艦や戦死者たちがバーミリオン会戦後も存在していた事を立証すれば良いのです。捜査方法としては、「バーラトの和約」第5条に基づいて大々的に戦艦と宇宙空母を破壊すると秘密裏に、しかしいずれ分かるように宣伝してメルカッツ提督達をおびき出し、偽の記録に載っている乗員一人以上(生死は問わなくても良い)か戦艦一隻以上を拿捕すれば良いだけです(証言も引き出せばさらに効果大)。それでヤンを逮捕する証拠としては完璧です。
 罪状はバーミリオン会戦時における無条件停戦命令違反・国家資産の処分に関する職権濫用・背任横領罪・公文書偽造罪が適用可能です。別に事後法たる「反和平活動防止法」なんて使う必要もありません。
 本気で同盟を守るためにヤンを逮捕しようと思うのならば、もっと良い手段がいくらでもあったにもかかわらず、わざわざ事後法を使って、しかもロクに証拠もそろえずにヤン逮捕を実行するとは一体どういうことなのでしょうかね。合法的に逮捕してすら国民や帝国政府の同盟に対する目は相当に厳しいものになるだろうに、非合法的に逮捕してしまったとあっては弁護の余地がないとしか言いようがないのですけど。

 最後に、これはちょっと考えればすぐに分かる事だと思うのですが、ヤン逮捕によってヤンを仰ぐ過激派(これはヤン・ファミリーの事ですけど)がヤンを奪還しようと考え、同盟を内戦状態に陥れる可能性を少しでも考えていたのでしょうか? 実はこれこそが帝国の介入を招きかねない最大の要素なのですけど。
 ヤンが同盟市民から相当な期待をかけられていたという事は、視野狭窄に陥っていたはずのレベロですら考えついた事です。にもかかわらず、レベロがヤン逮捕によってそのような事態が発生する可能性について全く考慮していなかったというのはすこしおかしいのではないでしょうか。暴発する可能性で言えば、ヤンのような自縄自縛な思考法がない分、彼らの方が余程危険ではありませんか。
 にもかかわらず、レベロに彼らに対する備えがあったとは到底思えないのですけど。

 このような観点から見ると、レベロがレンネンカンプの独断的な命令に従ってヤン逮捕を決断した手法は、どう考えても同盟の国家保全というレベロの最高目標にも合致しないどころか、却って逆効果であるとすら言えるわけです。
 レンネンカンプがレベロにヤン逮捕を命じたとしても、そこから機転を利かせる余地はまだいくらでもあったのです。「バーラトの和約」ですら利用できたのですし。にもかかわらず、あのムチャクチャなヤン逮捕を決断した原因に、やはりヤンに対する不信感がかなりあったのではないだろうかと考えるわけです。まあレンネンカンプの恫喝によって冷静な判断力を失い、視野狭窄症になっていたのもあったのかもしれませんけど。


>共和主義者の問題

 まず、御指摘の通り、
×バルトバッフェル公ステファン ―→ ○ノイエ・シュタウフェン公ヨアヒム
ですね。これはこちらの間違いでした。お詫びして訂正いたしますm(__)m
 それと、

<帝国の共和主義勢力は帝国軍の実戦部隊内部にシンパを作らなかったのでしょうか。民衆革命は正規軍を味方につけない限り成功するものではないのですが(正規軍を味方につけたフランス革命、ロシア革命などは成功し、ほとんどが民衆のみで構成されたパリ・コミューンは正規軍によって鎮圧されています)。>

 については、私なりに理由を考えて書いていますから、そちらを読んでみてください(第二次ティアマト会戦の説明の辺りです)。それなりに筋の通った理由であるとは思うのですが。


No. 1014
Re1010:過去と現在の軍部と政府
平松重之 2000/6/13 03:28:21

冒険風ライダーさん

> <自分は「半ば」軍部が政府のコントロールを離れていたのでは、と主張していたのであって、完全にコントロールを離れていたとは書いていません。軍部が政府の命令に従っていたというより、たまたま利害が一致していた結果に過ぎないと思えるのですが。そもそも、肥大化し続けている軍部を、果たして政府がいつまでも掣肘出来るものでしょうか?>
>
>  それでも軍部は一応政府の命令下にあったのですから掣肘は充分に可能です。それを無視して彼らが政府に対してクーデターを起こしたり、政府に無用の圧力をかけたりしたところで国民の支持はまず得られないでしょう。政府がよほど人望を失っていない限りは。
>  それに政府や議会にとっても、軍隊を増強する事によって地球資本の権益を擁護する事の方が重要であり、また植民地星系に対する蔑視感も手伝って、軍部の軍縮にはあまり熱心ではなかったのではないでしょうか。あるいは地球資本側から「自分達を守るための軍備を増強せよ」という圧力でもかかっていたのかもしれません。植民地星系に対してかなりの搾取を行っている地球資本は当然の事ながら植民地星系の住民の恨みを買っていますから、自分達の安全のためにも地球軍の庇護は欲しかったでしょうし。
>  いずれにせよ、当時の地球政府が抱いていた地球資本権益擁護と植民地星系蔑視思想が、シビリアン・コントロールの過程で軍部に対する判断を狂わせたという事はあるかもしれませんが、地球軍の暴虐はあくまでも地球政府の命令によるものであり、暴虐行為もその命令の範囲内で起こったものですから、政府が軍部をコントロールできていなかったという事はありえないでしょう(健全なシビリアン・コントロールであったかどうかは疑問ですが)。その点、中央政府の命令なしで独走ばかりやっていた旧日本軍などとは違うのではないでしょうか。

 六巻を読んだ限りではどうも地球軍の暴虐に関しては地球政府の影が薄かったものですから、地球軍の独走であるとイメージがぬぐえなかったので前のように書いたのですが、どうも読み返してみても地球政府と地球軍の力関係が今一つつかめませんね。

>  いえ、同盟の建国者やその子孫達も、短期間で帝国を打倒できるとは全く考えていませんでした。むしろ彼らは帝国との国力差を自覚した上での専守防衛的な政治・戦略構想を視野に入れています。ハイネセン亡き後にその意思を引き継いだグエン・キム・ホアもそういう考えを持っていましたし、ダゴン星域会戦当時における同盟政府首脳部もまた帝国との戦争が長期化する事を予見していました(銀河英雄伝説読本・ダゴン星域会戦記)。それならば専守防衛のための政治システムを作成してしまえば良いだけの事で、別に行政府が強大な権限を持って指揮しなければならないという事はありません。
>  だから同盟における行政権力の強大化が「非常の策」ということはありえないのでは?

 なるほど。では立法府の権限は、やはりごく最近に同盟の体制が「挙国一致」になった事で弱められたという事なのでしょうか。イゼルローン要塞の建設により国民が危機感を煽られた為とも考えられますね。

>  実はこれもまたSF世界特有の艦船事情で説明は可能です。
>  帝国から自由惑星同盟に亡命するとなれば、当然ながら宇宙艦船を使用する事になるのですが、その際に大量の亡命者を乗せ、その全て(もしくは組織)から亡命費用を徴収すれば、かなり安い費用で同盟への亡命は可能です。むしろ「大量に亡命」ということになれば、却って亡命にかかるコストパフォーマンス(費用対効果)は上昇し、亡命が安い費用で実現できるようになるのです。費用や居住環境にもよりますが、宇宙艦船1隻の1回の往復でおよそ500〜1000人の輸送が可能でしょう。何十隻かで船団を組んだりすればさらに1回あたりの輸送量は増大します。
>  そしてそれを規制しようにも、現実問題として全ての艦船の行動を把握する事は不可能ですし、全ての輸送船の積荷を検査するというわけにもいきません。また輸送側も当然帝国の臨検などは予想できますから、亡命者を帝国の臨検から守るための対策は当然色々と考えている事でしょう(そうでないと商売にならない)。現にフェザーンには亡命者を輸送するためのプロもいたようですし。
>  ましてや、ダゴン星域会戦の敗北が帝国の民衆と共和主義者に与えた影響はかなりのものであったと考えられますから、同盟に亡命したがった人間がかなりの数いた事は確実ですし、そしてそのような莫大な需要に支えられていた「亡命者輸送業」が莫大な利益をもたらすものであった事は間違いないでしょう。儲かる商売には必ず誰かが手をつけるものです。
>  数が多ければ多いほど費用は却って安くなるというのは経済の基本中の基本です。大量の亡命者の問題もこれで簡単に説明できるのではないでしょうか。

 ですが、いくらなんでも100人〜1000人単位の亡命者を乗せた船が横行すれば、帝国政府は当然フェザーン自治政府に対して規制するように圧力をかけるでしょう。自治政府としてはそれを少なくとも表面的には受け入れてある程度の規制や罰則を制定せざるを得ないはずです。また、五巻(トクマノベルズ)のP124には、30隻の船から200人を越す非合法の客が「神々の黄昏」作戦でフェザーンを占拠していた帝国軍に拘束されたとあり、1隻あたりに密かに乗せられる人数には限度があると思われます。船を動かす乗組員以外の余剰人員が500〜1000人を超えるとなると、かなり大きな客船でもない限り不自然でしょうし、それらの客の素性を書類操作や賄賂・演技でごまかすにしても、その様な事が度重なれば不審の目を向けられるのは確実です。500〜1000人も亡命者を無事に輸送し続けるのは無理があるのでは?

> 「共和主義者との連携」というと、私は「反体制的な帝国政府外部の共和主義者」というものを思い浮かべるのですが。銀英伝においても「共和主義者」という言葉はそのように使われていましたし。
> 「帝国政府内部の共和主義者」というのは、帝国では「開明派」と呼ばれているようです。どちらかといえば「穏健的」なもので、オイゲン・リヒターやカール・ブラッケなどがそれにあたります。そして彼らのような人間でさえ、ミヒャールゼンのような「帝国政府の要職」には、ラインハルトが台頭するまではつけなかったのですから、あの帝国中枢部に対するスパイ網をもって「帝国国内の共和主義者との連携」とは言えないのではないかと思うのですが。

 ブラッケやリヒターは開明派(門閥貴族から見れば非体制派?)でしたが、それはあくまで「君主制」の上での事ではなかったでしょうか。穏健的ではあっても共和主義の思想を声高に叫んでは社会秩序維持局が黙っているはずはないですし。おそらく彼らはゴールデンバウム朝の当時は「専制君主制」から「立憲君主制」への移行や民衆に有利な改革を主張していたぐらいで、「政府内部の共和主義者」とは認知されていなかったのでは?(当人達の内心は別として)それに対してジークマイスターは密かに民主主義に没頭し、反国家的な事をやってのけているわけですから、ブラッケやリヒターとはまた違うでしょう。
 確かにあのスパイ網は帝国政府外部の共和主義勢力とは無関係ですが、スパイ網を創設したジークマイスターが民主主義思想に強く影響されていたのは事実ですし、額面通りの「帝国内の共和主義者との連携」という意味では合っていると思うのですが。

> まず、レベロはレンネンカンプのヤン逮捕要請が「バーラトの和約」の条文にすら明らかに背いている事に気づいていません。「バーラトの和約」に記載されている条文の第7条に高等弁務官に関する条項があるのですが、その中でさえ、
「帝国は同盟首都ハイネセンに高等弁務官府を設置し、これを警備する軍隊を駐留せしめる権利を有する。高等弁務官は帝国主権者(皇帝)の代理として同盟政府と折衝・協議し、さらに同盟政府の諸会議を傍聴する資格を与えられる」
としか記載されていません。つまり条文を素直に読むと、すくなくとも表面的には帝国の高等弁務官が同盟の内政に干渉する権限はないと解釈できるのです。「同盟政府の諸会議を傍聴する資格を与えられる」といっても、実のところただ単に傍聴しているだけで、別に意見を言う事ができる権限が与えられているわけではありません。もちろん、あくまでも表面的な話ではあるのですが、この「表面的」というのが以外と政治の世界では重要なのです。
> だからレンネンカンプの同盟政府に対するヤン逮捕要請は「バーラトの和約」ですら何ら規定されていない同盟への露骨な内政干渉行為を行った事になり、「バーラトの和約」第7条に明白に違反した行為なのです。「バーラトの和約」は同盟に圧倒的に不利な不平等条約であるとはいえ、その条文内容は当然ながら帝国も守らなければなりません。レベロはまずこの点を突くべきだったのです。

 レンネンカンプはヤンの逮捕を「要請」したのではなく、「勧告」したのです(六巻P131)。勧告とは「説いて勧める事」ですから、強制ではありません(レンネンカンプにとって事実上の強制ではあったでしょうが)。ですから、内政干渉には(少なくとも表面的には)該当しないのでは?問題なのは、レベロがその「勧告」を受け入れてしまった事でしょう。表面的にはあくまで勧告なのですから、「確実な証拠がないのに逮捕は出来ない」と突っぱねれば、レンネンカンプは二の句が告げなかったはずなのですが。

> 最後に、これはちょっと考えればすぐに分かる事だと思うのですが、ヤン逮捕によってヤンを仰ぐ過激派(これはヤン・ファミリーの事ですけど)がヤンを奪還しようと考え、同盟を内戦状態に陥れる可能性を少しでも考えていたのでしょうか? 実はこれこそが帝国の介入を招きかねない最大の要素なのですけど。
> ヤンが同盟市民から相当な期待をかけられていたという事は、視野狭窄に陥っていたはずのレベロですら考えついた事です。にもかかわらず、レベロがヤン逮捕によってそのような事態が発生する可能性について全く考慮していなかったというのはすこしおかしいのではないでしょうか。暴発する可能性で言えば、ヤンのような自縄自縛な思考法がない分、彼らの方が余程危険ではありませんか。
 にもかかわらず、レベロに彼らに対する備えがあったとは到底思えないのですけど。

 一応、六巻のP142には、「ヤンの逮捕に伴い、奪還に備えヤン艦隊の旧幹部を監視せよ」と言う通達について書かれています。最小限の兵力は動員していたみたいで、シェーンコップとアッテンボローにはジャワフ大佐率いる二個中隊がロックウェル大将によって差し向けられていました。彼らを早い段階で押さえつける自信があったという事でしょう。ローゼンリッターが全員寝返ったとまでは思っていなかったので、この打算は見事に崩れましたが、それにしても一個連隊の動きに気付かなかったとは間抜けな連中ですな(^_^;)。

><帝国の共和主義勢力は帝国軍の実戦部隊内部にシンパを作らなかったのでしょうか。民衆革命は正規軍を味方につけない限り成功するものではないのですが(正規軍を味方につけたフランス革命、ロシア革命などは成功し、ほとんどが民衆のみで構成されたパリ・コミューンは正規軍によって鎮圧されています)。>

 については、私なりに理由を考えて書いていますから、そちらを読んでみてください(第二次ティアマト会戦の説明の辺りです)。それなりに筋の通った理由であるとは思うのですが。

 第二次ティアマト会戦には、貴族出身の将官だけではなく、コーゼル大将という平民出身の将官もいました。こういった平民出身の将官も皆無ではなかったと思われるので、帝国内の共和主義勢力は彼らを抱き込む政治的な活動をすべきだったのでは?


No. 1017
Re: レベロの矛盾とヤンの矛盾
Merkatz 2000/6/13 10:05:02
3巻の記述を読み返してみたら、面白い言葉が出てきました。

レベロ曰く、
「私にはわからん。ただ祈るだけだ。君が自分の身を守るためにルドルフの道をた
どらざるをえなくなる−−−そういう日が来ないことを」

かつてヤン自身にこう語った彼が、自分の行動がまさにヤンが「自分の身を守るためにルドルフの道をたどらざるをえなくなる」事だと気付かなかったのは皮肉です。

私はレベロがヤンを除こうとしたのは、ヤンの能力による危険性よりもその存在ゆえの危険性ではなかったのかと。
ヤン自身にそのつもりが無くとも、周りに担ぎ出されたらという不安。
また、ヤンが存在するだけで、今後も帝国から難癖が付けられるという不安。
それがレベロの「言い分」だったのでしょう。
しかし、彼の「ヤンの存在そのものが国家の維持に危険」という観点を押し広げてゆけば、
軍隊の存在そのものが・・・ということになりませんかね?
まあレベロは小説内でも「悲観的な男」と書かれていましたから、
やっぱり彼は厳守になるべき時期を間違えたとしか言いようがありません。

それから、当のヤンですが、
ふと思ったんですが、彼は「シャーウッドの森」をどのように活用するつもりだったのでしょうか?
同盟の存続を前提とするなら、まったくの無用の長物ですね。
むしろ実際に風聞が流れてやばくなったように、危険なだけです。
そんなことするよりは政治家と協力した方が遥かに効率が良い。
レベロは決して協力できない相手ではなかったはずです。
(もっともあの時点では誰が後継者になるかは分かりませんでしたが)
同盟の崩壊を前提とするなら、
誰をして政治の中枢に据えるつもりだったんでしょうか。
ヤン自身は頑なに政治の中枢となることを拒んでいます。
ですが、「シャーウッドの森」は民主主義の火を消さないための物であったはず。
ならば政治的求心力がなければ、単なる武力集団、それこそ海賊か何かと大差ありません。
政治的指導者がシャーウッドの森を率いてこそ、意味が出てくる。
ヤンもその下で軍事責任者という地位で手腕を振るえばよい。
ヤン自身が政治的指導者となるつもりがなかったくせに、
シャーウッドの森を民主主義の火を残す物だとは、これは酷い。
まったく粗雑な、行き当たりばったりの考えとしか思えません。

実は銀英伝って、「政治家と軍人の相互理解の欠如」という裏テーマがあったりして!?

以下、その他のこと。

>地球政府と地球軍

両者のコントロール云々よりも、
政府の考えを軍部が実行していたと見る方が自然ではないでしょうか。
つまり、政府の横暴の実行部隊が軍だったわけで、
両者は一体の関係だったわけです。
だから掣肘とか肥大とか関係なかったのでは?

>ジークマイスターのスパイ網

相棒が零落貴族のミヒャールゼンですから、「帝国国内の共和主義者との連携」とは言い切れないでしょう。
しかもスパイ網を実際に作ったのはミヒャールゼンの方ですし。
無論、思想的支柱であるジークマイスターに共鳴した人間もいたでしょうが、
寄り合い所帯であった可能性が高いですね。
発案者のジークマイスターが共和主義者で、
帝国を滅ぼし共和制によって宇宙を統一する目的で作ったものではあっても、
だからといってそれが「帝国国内の共和主義者との連携」である必要はないですね。
何故ならスパイは組織のより中枢に潜り込んでいればいるほど有利なわけで、
そのような要職に着ける、あるいは接近できるためには、
共和主義者であることの方が却って都合が悪いですね。
むしろごく普通の帝国人をスパイに仕立てた方が手っ取り早いと思います。
実際のスパイ網構築がミヒャールゼンだったということで、
なおさらそういったことが推測されます。


No. 1019
Re1014/1017:亡命問題とヤンの支離滅裂な行動
冒険風ライダー 2000/6/14 01:51:01
>平松さん
<ですが、いくらなんでも100人〜1000人単位の亡命者を乗せた船が横行すれば、帝国政府は当然フェザーン自治政府に対して規制するように圧力をかけるでしょう。自治政府としてはそれを少なくとも表面的には受け入れてある程度の規制や罰則を制定せざるを得ないはずです。また、五巻(トクマノベルズ)のP124には、30隻の船から200人を越す非合法の客が「神々の黄昏」作戦でフェザーンを占拠していた帝国軍に拘束されたとあり、1隻あたりに密かに乗せられる人数には限度があると思われます。船を動かす乗組員以外の余剰人員が500〜1000人を超えるとなると、かなり大きな客船でもない限り不自然でしょうし、それらの客の素性を書類操作や賄賂・演技でごまかすにしても、その様な事が度重なれば不審の目を向けられるのは確実です。500〜1000人も亡命者を無事に輸送し続けるのは無理があるのでは?>

 「神々の黄昏」作戦における「非合法な客の拘束」の場合は「亡命者の件」とは少し違うケースでしょう。あの時は帝国軍がフェザーンを占領していた上、そのフェザーン占領政策の必要上、フェザーンからの脱出を図ろうとする者(特に同盟政府や軍の要人)を逃がしてはならなかったため、徹底的かつ本格的に調べ上げた結果、非合法な客がアレだけ捕まったのです。
 しかし大量の亡命者が同盟に向かう際に、帝国側がそれを妨害する必然性がそもそもどこにあるというのでしょうか? 帝国政府や門閥貴族にしてみれば、共和主義者や不平分子が同盟に逃亡していってもそれほど痛痒を感じるものではないでしょうし、逃げるに任せていれば彼らを逮捕・投獄していく手間も省けますし、何もせずに危険分子が勝手に減少していく事にもなります。だから大量の亡命者の続出は、彼らの感覚では「いい厄介払い」程度にしか思っていなかったのではないでしょうか。
 それに亡命者の中には帝国の貴族や皇族なども多数存在しており、彼らが逃亡してこれる事自体、帝国側の亡命に対する監視が相当に緩やかなものであったという証明になるでしょう。逃がしたらマズイはずの彼らですら簡単に逃げてこられるのですから、共和主義者や民衆が大量に帝国側から同盟側へと亡命するのはそれほど難しいものではないように見えるのですけど。
 ちなみにこれは銀英伝2巻に書いてあったのですが、貨物船で客を「貨物」として登録・輸送すれば、客船の十分の一以下の旅費で宇宙船に乗れるのだそうです(その代わり、人命補償なども一切ありませんが)。そのようなテを使えば、値段の方もそれほどはかからなかった事でしょう。

<レンネンカンプはヤンの逮捕を「要請」したのではなく、「勧告」したのです(六巻P131)。勧告とは「説いて勧める事」ですから、強制ではありません(レンネンカンプにとって事実上の強制ではあったでしょうが)。ですから、内政干渉には(少なくとも表面的には)該当しないのでは?問題なのは、レベロがその「勧告」を受け入れてしまった事でしょう。表面的にはあくまで勧告なのですから、「確実な証拠がないのに逮捕は出来ない」と突っぱねれば、レンネンカンプは二の句が告げなかったはずなのですが。>

 これは違います。政府の高官が他国の内政について発言すれば、たとえそれが「勧告」という形を取っていても立派に「内政干渉」とみなされます。「内政干渉」というのは要するに「一国の政治家が他国の内政について発言・干渉する」ということですから「勧告」や「忠告」という衣を纏っていても全く意味がありません。だからレンネンカンプが行った行為は立派に「内政干渉」に該当します。
 まあ平松さんの言う事にも一理ありますね。いくら内政干渉であったとはいえ、まさに「表面的」には所詮「勧告」でしかなかったのですし、そもそも「バーラトの和約」にも高等弁務官が同盟の内政に対して「勧告」する権限なんて全く明記されていなかったのですから、レベロはレンネンカンプの「勧告」なんて無視すれば良かったのですよ。相手がウダウダ言ってきたら「バーラトの和約」を持ち出せば良いだけの事だったのですし。

<一応、六巻のP142には、「ヤンの逮捕に伴い、奪還に備えヤン艦隊の旧幹部を監視せよ」と言う通達について書かれています。最小限の兵力は動員していたみたいで、シェーンコップとアッテンボローにはジャワフ大佐率いる二個中隊がロックウェル大将によって差し向けられていました。彼らを早い段階で押さえつける自信があったという事でしょう。ローゼンリッターが全員寝返ったとまでは思っていなかったので、この打算は見事に崩れましたが、それにしても一個連隊の動きに気付かなかったとは間抜けな連中ですな(^_^;)。>

 全くですね(笑)。
 しかし「ヤンの逮捕に伴い、奪還に備えヤン艦隊の旧幹部を監視せよ」とまで命令しておきながら、どうして「ローゼンリッター」が暴走する可能性を全く考慮しなかったのでしょうか? 彼らがヤンに心酔していたのは最初から分かりきっていた事だったのに。

<第二次ティアマト会戦には、貴族出身の将官だけではなく、コーゼル大将という平民出身の将官もいました。こういった平民出身の将官も皆無ではなかったと思われるので、帝国内の共和主義勢力は彼らを抱き込む政治的な活動をすべきだったのでは?>

 しかし一方では、平民階級出身だからといって帝国に対して反発しているとも限らないわけです。コーゼル大将は確かに貴族嫌いではありましたが、スパイ網の主犯格であるミヒャールゼンを逮捕しようとしていた例に見られるように、彼はゴールデンバウム王朝と帝国に対しては忠誠を誓っていたのではないでしょうか。
 むしろゴールデンバウム王朝に対して忠誠を誓っていたからこそ、それを食い荒らしているように見える貴族階級を毛嫌いしている、という事だってありえるわけです。そして帝国政府の方も、第二次ティアマト会戦あたりまでは、そういった忠誠心を持っている人間のみを優先的に昇進させていく余裕もあったのでしょう。だから共和主義者の内部分裂策もあまり成功しなかったのではないか、と私は考えるのですが。


>Merkatzさん
<私はレベロがヤンを除こうとしたのは、ヤンの能力による危険性よりもその存在ゆえの危険性ではなかったのかと。
ヤン自身にそのつもりが無くとも、周りに担ぎ出されたらという不安。
また、ヤンが存在するだけで、今後も帝国から難癖が付けられるという不安。
それがレベロの「言い分」だったのでしょう。
しかし、彼の「ヤンの存在そのものが国家の維持に危険」という観点を押し広げてゆけば、
軍隊の存在そのものが・・・ということになりませんかね?
まあレベロは小説内でも「悲観的な男」と書かれていましたから、
やっぱり彼は厳守になるべき時期を間違えたとしか言いようがありません。>

 レベロの最大の不幸は「他人を全く信頼せず、ひたすら自分ひとりで重荷を背負い込んでいた」という事にあるのではないでしょうか? 比較的親しい関係であったはずのホワンでさえ、末期には退けてしまっていますし。
 結局のところ、レベロはそもそも政治家の器ではなかったようにすら思えるのですけど。

<当のヤンですが、
ふと思ったんですが、彼は「シャーウッドの森」をどのように活用するつもりだったのでしょうか?
同盟の存続を前提とするなら、まったくの無用の長物ですね。
むしろ実際に風聞が流れてやばくなったように、危険なだけです。
そんなことするよりは政治家と協力した方が遥かに効率が良い。
レベロは決して協力できない相手ではなかったはずです。
(もっともあの時点では誰が後継者になるかは分かりませんでしたが)
同盟の崩壊を前提とするなら、
誰をして政治の中枢に据えるつもりだったんでしょうか。
ヤン自身は頑なに政治の中枢となることを拒んでいます。
ですが、「シャーウッドの森」は民主主義の火を消さないための物であったはず。
ならば政治的求心力がなければ、単なる武力集団、それこそ海賊か何かと大差ありません。
政治的指導者がシャーウッドの森を率いてこそ、意味が出てくる。
ヤンもその下で軍事責任者という地位で手腕を振るえばよい。
ヤン自身が政治的指導者となるつもりがなかったくせに、
シャーウッドの森を民主主義の火を残す物だとは、これは酷い。
まったく粗雑な、行き当たりばったりの考えとしか思えません。>

 おそらくヤンはメルカッツ提督を帝国の手から隠し、戦力を温存するという考えに固執していたあまり、政治的にどう利用するかについてまで考えが及んでいなかったのでしょう。第一、あの「シャーウッドの森」なるシロモノ自体、ヤンのシビリアン・コントロールの逸脱行為に基づいて成立したものですから「民主主義の火を残す物」としては論外なシロモノですらあるのですけど。
 さらに「シャーウッドの森」は、やっている事もまた支離滅裂ですね。彼らはユリアンを介したヤンの進言に基づいて、レサヴィク星系で破壊される予定だった1820隻の艦と4000名の乗員を奪取しましたが、こんな事をすれば、すぐにヤンに結びつかなくとも「一体誰がこんな事を企てたのだ」と同盟政府や帝国高等弁務官府に怪しまれるに決まっているではないですか。いくら戦力が欲しいからって、これは「同盟ないしは民主主義思想を保全する」という政治的観点から見ても大きなマイナスです。とりあえず同盟の国力と軍事力を再編するためにも、最低5年ほどは平穏を保っておくべきでしょう。
 ましてや、ヤンはまたしても同盟政府に無断でこんな事を画策しているのですから、ヤンのシビリアン・コントロールに対する認識と態度にはホントに疑問を覚えざるをえませんね。まさかヤンは同盟政府を「敵」と認識していたとでもいうのでしょうか。
 戦艦や宇宙母艦を秘密裏に温存するにしても、軍部の実権を掌握して同盟政府と手を組んでしまえば比較的簡単にできたのではないかと思うのですけど。実際、宇宙艦隊総参謀長でしかなかったチュン・ウー・チェンがかなりの兵力を隠蔽できていたようでしたし。


No. 1020
Re1019:亡命の看過の是非と共和主義勢力の活動
平松重之 2000/6/14 12:14:55

 冒険風ライダーさん

>  「神々の黄昏」作戦における「非合法な客の拘束」の場合は「亡命者の件」とは少し違うケースでしょう。あの時は帝国軍がフェザーンを占領していた上、そのフェザーン占領政策の必要上、フェザーンからの脱出を図ろうとする者(特に同盟政府や軍の要人)を逃がしてはならなかったため、徹底的かつ本格的に調べ上げた結果、非合法な客がアレだけ捕まったのです。

 いや、自分としてはこの場合一隻の船にどれだけ密かに亡命者を乗せられるかという事を問題にしていて、「神々の黄昏」作戦当時のフェザーンからの脱出者の例を参考までに出しただけなのですが。

>  しかし大量の亡命者が同盟に向かう際に、帝国側がそれを妨害する必然性がそもそもどこにあるというのでしょうか? 帝国政府や門閥貴族にしてみれば、共和主義者や不平分子が同盟に逃亡していってもそれほど痛痒を感じるものではないでしょうし、逃げるに任せていれば彼らを逮捕・投獄していく手間も省けますし、何もせずに危険分子が勝手に減少していく事にもなります。だから大量の亡命者の続出は、彼らの感覚では「いい厄介払い」程度にしか思っていなかったのではないでしょうか。
>  それに亡命者の中には帝国の貴族や皇族なども多数存在しており、彼らが逃亡してこれる事自体、帝国側の亡命に対する監視が相当に緩やかなものであったという証明になるでしょう。逃がしたらマズイはずの彼らですら簡単に逃げてこられるのですから、共和主義者や民衆が大量に帝国側から同盟側へと亡命するのはそれほど難しいものではないように見えるのですけど。

 それでも帝国の高級官僚達にとっては、大量の亡命者を出してしまう事自体国家の威信に関わる事でしょうし、みすみす同盟に政治的な宣伝材料を与えてしまう事になります(情報の操作や隠蔽にも限度があるでしょうし)。大量の共和主義者の亡命を許せば社会秩序維持局などにとっては自身の存在意義を疑われる事にもなりかねませんから懸命に亡命しようとする共和主義者の摘発に努めたのではないでしょうか。
 貴族や皇族などは、彼らは個人レベルで資金やコネなどの点で著しく有利な立場に置かれていたでしょうから、共和主義者と比較の対象にはならないのでは?

>  しかし一方では、平民階級出身だからといって帝国に対して反発しているとも限らないわけです。コーゼル大将は確かに貴族嫌いではありましたが、スパイ網の主犯格であるミヒャールゼンを逮捕しようとしていた例に見られるように、彼はゴールデンバウム王朝と帝国に対しては忠誠を誓っていたのではないでしょうか。
>  むしろゴールデンバウム王朝に対して忠誠を誓っていたからこそ、それを食い荒らしているように見える貴族階級を毛嫌いしている、という事だってありえるわけです。そして帝国政府の方も、第二次ティアマト会戦あたりまでは、そういった忠誠心を持っている人間のみを優先的に昇進させていく余裕もあったのでしょう。だから共和主義者の内部分裂策もあまり成功しなかったのではないか、と私は考えるのですが。

 しかしそれでも固有の武力を持てない共和主義者にとって、実戦部隊の中に政治的な同志を作る事は不可欠だったでしょう。軍の中にも、平民、貴族を問わず不平分子が存在したでしょうから、彼らを慎重に抱き込む策略を弄するべきだったでしょう。大きな武力を持てないのですから、その分だけ謀略や詐術を充分に行使すべきだったと思うのですが。


No. 1022
Re1020:亡命問題の本質
冒険風ライダー 2000/6/14 17:24:21
<自分としてはこの場合一隻の船にどれだけ密かに亡命者を乗せられるかという事を問題にしていて、「神々の黄昏」作戦当時のフェザーンからの脱出者の例を参考までに出しただけなのですが。>

 「神々の黄昏」作戦当時の脱出者の場合は「フェザーン自治政府や同盟の要人」といったような「政府高官の地位」についている人が多かったのでしょうから、一般の亡命者と並べて論じるのは少し無理があるでしょう。それにフェザーン占領行政と亡命者に対する統制とでは「有事」と「平時」の格差がありますから政策の徹底度も統制の内容も全く違いますし、第一、ゴールデンバウム王朝時代の軍隊と異なり、軍規が厳しいラインハルト率いる帝国軍は買収や賄賂がほとんど効きません。
 だから平松さんが出した例は亡命問題の比較としてはあまり参考にならないのでは?

<それでも帝国の高級官僚達にとっては、大量の亡命者を出してしまう事自体国家の威信に関わる事でしょうし、みすみす同盟に政治的な宣伝材料を与えてしまう事になります(情報の操作や隠蔽にも限度があるでしょうし)。大量の共和主義者の亡命を許せば社会秩序維持局などにとっては自身の存在意義を疑われる事にもなりかねませんから懸命に亡命しようとする共和主義者の摘発に努めたのではないでしょうか。
 貴族や皇族などは、彼らは個人レベルで資金やコネなどの点で著しく有利な立場に置かれていたでしょうから、共和主義者と比較の対象にはならないのでは?>

 共和主義者や平民階級の不平分子が亡命していく事自体は、帝国にとってもそれほどのマイナスポイントにはならないでしょう。「所詮は下賎な平民や叛逆者どもだから」と帝国の首脳部は考えるでしょうし、彼らを「処分」する手間も省けますしね。むしろ彼らが帝国内部で同盟と呼応した民主運動を展開される事のほうがはるかに危険です。だから帝国の内部を固めるためにも、不穏な分子は同盟に追いやってしまった方が却って良いと帝国政府は考えたのでしょう。ちょうど今の北朝鮮と同じような考え(国家基盤を固めるためには人口を1000万辺りまで減らす必要がある、と某首領様はのたまったとか)であったと考えれば分かりやすいでしょうか。
 むしろ「亡命を食い止めなければならない」という観点から見れば、帝国の貴族や皇族といった「帝国の支配階級者」の亡命の方がはるかに帝国の支配体制にとっては有害なものでしょう。支配階級でさえ亡命してくるという事実は、同盟側にとって帝国の支配体制が磐石なものではない事を宣伝するための絶好な好材料となりえるからです。現実世界でも、北朝鮮の政府高官や要人が外国へ亡命してくる事が話題になるたびに、北朝鮮の支配体制に対する疑問の声が出てくるという事例があります。
 亡命問題で特に重要視されるのは「亡命者の質」であって、すくなくとも逃亡される側にとって「数」は全く問題ではないのです。どれほど多くの亡命者が出たとしても、政治的に何ら影響を受けないのであれば放任されるし、逆に「一人の亡命者」が政治的に大きな影響を与えるというのであれば、たとえどんな無理をしてでも妨害しようとするでしょう。亡命問題というのはそういうものなのですよ。

<しかしそれでも固有の武力を持てない共和主義者にとって、実戦部隊の中に政治的な同志を作る事は不可欠だったでしょう。軍の中にも、平民、貴族を問わず不平分子が存在したでしょうから、彼らを慎重に抱き込む策略を弄するべきだったでしょう。大きな武力を持てないのですから、その分だけ謀略や詐術を充分に行使すべきだったと思うのですが。>

 これは全くその通りなんですけど、帝国内における共和主義者たちは常に社会秩序維持局あたりからマークされていたでしょうから、謀略や詐術がまともに使える余地があったのかどうかさえも怪しいんですよね。そもそもそんな環境下では資金集めにも相当苦労することでしょうし、まともな内部工作自体が現実問題としてできたかどうか……。
 そんな状態では、いっそ帝国にたいして忠誠を誓った方が良いと考える平民階級もいたでしょう。貴族階級に対する嫌悪感を持った人が多かったのは間違いなかったでしょうけど、そこから「帝国打倒」にまで持っていくには、相当に現実性の高い政治的構想と強大なカリスマ性をもった政治的指導者が必要です。そして共和主義者の間には、ついにそのような人物が現れる事はなかったのでしょう。


No. 1024
Re1022:亡命問題の疑問と共和主義運動の停滞
平松重之 2000/6/15 12:09:52

 冒険風ライダーさん

>  「神々の黄昏」作戦当時の脱出者の場合は「フェザーン自治政府や同盟の要人」といったような「政府高官の地位」についている人が多かったのでしょうから、一般の亡命者と並べて論じるのは少し無理があるでしょう。それにフェザーン占領行政と亡命者に対する統制とでは「有事」と「平時」の格差がありますから政策の徹底度も統制の内容も全く違いますし、第一、ゴールデンバウム王朝時代の軍隊と異なり、軍規が厳しいラインハルト率いる帝国軍は買収や賄賂がほとんど効きません。
>  だから平松さんが出した例は亡命問題の比較としてはあまり参考にならないのでは?

 なるほど。ですが30隻の中で200人が摘発されたという事は、1隻あたり6、7人ということですから、これから考えれば平時の時でも亡命の際に密かに載せられる人数もあまり大した数ではないと思いますが。いくら平時でもこの100倍以上の数を看過してしまうとは考えにくいのでは?

>  共和主義者や平民階級の不平分子が亡命していく事自体は、帝国にとってもそれほどのマイナスポイントにはならないでしょう。「所詮は下賎な平民や叛逆者どもだから」と帝国の首脳部は考えるでしょうし、彼らを「処分」する手間も省けますしね。むしろ彼らが帝国内部で同盟と呼応した民主運動を展開される事のほうがはるかに危険です。だから帝国の内部を固めるためにも、不穏な分子は同盟に追いやってしまった方が却って良いと帝国政府は考えたのでしょう。ちょうど今の北朝鮮と同じような考え(国家基盤を固めるためには人口を1000万辺りまで減らす必要がある、と某首領様はのたまったとか)であったと考えれば分かりやすいでしょうか。
>  むしろ「亡命を食い止めなければならない」という観点から見れば、帝国の貴族や皇族といった「帝国の支配階級者」の亡命の方がはるかに帝国の支配体制にとっては有害なものでしょう。支配階級でさえ亡命してくるという事実は、同盟側にとって帝国の支配体制が磐石なものではない事を宣伝するための絶好な好材料となりえるからです。現実世界でも、北朝鮮の政府高官や要人が外国へ亡命してくる事が話題になるたびに、北朝鮮の支配体制に対する疑問の声が出てくるという事例があります。
>  亡命問題で特に重要視されるのは「亡命者の質」であって、すくなくとも逃亡される側にとって「数」は全く問題ではないのです。どれほど多くの亡命者が出たとしても、政治的に何ら影響を受けないのであれば放任されるし、逆に「一人の亡命者」が政治的に大きな影響を与えるというのであれば、たとえどんな無理をしてでも妨害しようとするでしょう。亡命問題というのはそういうものなのですよ。

 それにしても、惑星上なら亡命者も散り散りになって身一つで逃げれますから、逃がした側も「やむを得ない」と諦められるでしょうが、宇宙船以外に逃亡の手段もなく、航路もある程度限定されている宇宙空間で、それだけ大量の亡命を許してしまうと言うのは、国家の税関や入国管理などのチェックシステムの衰弱・腐敗をあからさまに露呈してしまう事になりますから、少しまずいのでは?

>  これは全くその通りなんですけど、帝国内における共和主義者たちは常に社会秩序維持局あたりからマークされていたでしょうから、謀略や詐術がまともに使える余地があったのかどうかさえも怪しいんですよね。そもそもそんな環境下では資金集めにも相当苦労することでしょうし、まともな内部工作自体が現実問題としてできたかどうか……。
>  そんな状態では、いっそ帝国にたいして忠誠を誓った方が良いと考える平民階級もいたでしょう。貴族階級に対する嫌悪感を持った人が多かったのは間違いなかったでしょうけど、そこから「帝国打倒」にまで持っていくには、相当に現実性の高い政治的構想と強大なカリスマ性をもった政治的指導者が必要です。そして共和主義者の間には、ついにそのような人物が現れる事はなかったのでしょう。

 ほんとに、彼らはゴールデンバウム王朝成立以来の500年間何をしていたんでしょう?


No. 1021
Re: 銀英伝考察2 〜ヤンが殉じたシビリアン・コントロールの実態〜
小牧 哲治 2000/6/14 15:56:48
反対意見の一つとして聞き流してくれれば幸いです

シビリアンコントロールは日本語で文民統制と訳されています。
ではその文民というのは誰のことでしょうか?
政治家だけなのでしょうかそれは違うはずです。
文民というからには民衆も入ってるはずです。
となると政治の腐敗を正すには軍人でなく、政治家や民衆が
正さなくてはいけないはずです。
ではヤンウェンリーはなぜ政治に関与しなかったか。
地位と名声を得ている軍人が民衆を扇動するような行為は
かのヨブ・トリューニヒト議長となんら変わりもせず
それに軍人が政治を正すという名目で権力を握ることは
軍事独裁政治を引き起こす一因になりかねないのではないでしょうか。
あくまでも政治の腐敗は民衆が正さなくてはいけないと思います。
たとえ軍人が軍隊に関することを要求してもそれは一意見として
とれえることしかできないと思います。
軍部の要求を際限なく取り入れればそれは軍事力の肥大化となり
国家予算の大半をつぎ込むことになりしいては国家を崩壊させかねないということです。
ではなぜ政府から無謀な要求でもそれを是正できなかったかといえば
それは最高会議で決定されたことであり、そこにいたるところで
軍部が(フォーク准将が)私的ルートで要求したことを政治的
判断で決めてしまったことであり、軍部としては今更変えることが
できなかったということがあるはず。
そこでいかにヤンウェンリーであろうとも、ビュコック提督でも、出兵を
拒否することはできないはずです。
それは民意(多分に政治家の思惑があるが)が決めたことを
軍部が無視できないということです。
そこでできることは、戦場の戦術レベルで最低限の被害ですむように
しなければならなかったのにそれを怠り、あまつさえ負担ばかりを増やして
結局のところ帝国に焦土作戦を成功させた一因であるでしょう。
それにラインハルトがフェザーン回廊から攻めてくることを予測して
ビュコック提督にその旨を伝え、ユリアンに対してはフェザーンで
帝国軍がくるだろうといっていたのにもかかわらず、フェザーンの政治的思惑から
それはつぶされることになった。
それにヤン一人に責任を負わすには余りにもそれはお門違いということではないでしょうか
同盟からすればヤンは辺境の一軍人でしかないのに、しかも与えられている
権限なんてものはたかが知れている程度で、上官たる宇宙艦隊司令長官や、
統合作戦本部長以上の権限などはありはしない筈です。
政府の暴走を止める手だては軍部でなくそれは民衆でなくては
いけない筈です。出なくては民主主義ではなくなったしまいます。
軍部の暴走を止めるのは政府でなくてはいけませんが、その反対の
政府の暴走を止めるのに軍部が手を出してはいけないのです。
必ずしもヤンの行動が民主主義の行為に沿っているとは言い難い部分もありますが
それでも今ある、政治形態を守るために戦ったことは
これまた事実であります。それに同盟が崩壊した原因は何もヤン一人の
責任ではない筈。なぜならそこまでにいたる中で腐敗してきてそれに追い討ちを
かけていたのですから、民主制は独裁と違いどんなことでも変えるためには
時間がかかるものなのです。ですから一人がその国を崩壊させた
というのはあきらかに間違えではないでしょうか
独裁であれば一人の行動が国を滅ぼしたということは多々あります。
それとエル・ファシルやイゼルローン共和政府は
時間が無さすぎでした。(イゼルローンはその後がわからんが)
民主制というものは時間がかかるものなのです。自由惑星同盟でさえ
最初は、民衆の意志でなく指導者がトップに立ちました。
ですからその後民主制に移行することはできる筈です。
最初に民主制でないからといって、そこに木がないからといって緑がない
といっているのと同じではないでしょうか。
あえて言わせてもらえればヤンは矛盾の固まりの人でした
それはいろんな意味で矛盾しているとシェーンコップが
いっていたとおりです。
ですがヤンの中にいろいろな葛藤があった筈で、その中でも
シビリアンコントロールのこともあったでしょう。ですが
彼もいったとおり手の届く範囲しか人は活動できないのです。
ですから彼が軍人である以上軍人の枠を超えて政治に関与することは
絶対にしてはならないのです。


No. 1023
軍人と政治家の関係の参考として
Merkatz 2000/6/14 22:17:25
民主主義(シビリアンコントロール)とは違いますが、
軍人と政治家の在り方として、WWIIのドイツにおける、ヒトラーに対するマンシュタインの態度は興味深いものがあります。
軍の中にはナチスに傾倒するものもいましたが、
多くのドイツ軍人は職業軍人として時の政府(すなわちナチス党)に従ったまでで、
特別、ヒトラーの思想に敬服していたわけではありません。
その最たる例がマンシュタイン元帥です。
彼はプロフェッショナルとしてヒトラーに度々進言しています。
有名な「マンシュタイン作戦」(アルデンヌの森を突破しフランスを電撃的に陥落させた)にしても、
軍事的見地から「決戦を求めずに最終的勝利は得られない」と言い続け、
博打的要素を恐れるヒトラーに了承させることに成功しています。
また、対ソ戦においてもドン軍集団司令官としてその責任を全うしようと度々ヒトラーと衝突しています。
しかしヒトラーの不興を買い、解任されました。
彼の回想録を読んで印象深いのは、まず熱心に手紙を書いているという点です。
ヒトラー宛に何通も、作戦に関する自分の見識やどのようにすれば最善であるか、また、さしあたり必要な処置などを懇切丁寧に書き送っています。
さらに部下や自分自身がヒトラーの元に赴き説明をすることもしばしばで、
なんと半日もヒトラーの説得に費やすこともありました(結局、そのような説得が功を奏したことは一度とて無かったが)。
マンシュタイン自身、そのような作戦外の「手間」にウンザリしていることを書き記していますが、
それでも彼は最後まで、自分の責任を放擲することはありませんでした。

果たして、たとえ相手が独裁者と雖も自分に負わされた将兵達の運命に対して最後まで諦めなかったマンシュタインと、
民主国家の軍人でありながら、「給料分の仕事はしたさ」で簡単に諦めてしまうヤンとでは、
どちらが「与えられた責任を投げ出そうとしない」(byフレデリカ)と言えるのでしょうね。


No. 1025
Re1021/1024:民主主義国家における軍人の責務と亡命問題
冒険風ライダー 2000/6/15 16:44:14
>小牧 哲治さん
 一連の「反対意見」なるものを読んでみたのですが、どうも私の主張の内容を正確に把握してはいらっしゃらないようで、引用にも反論内容にも「?」と考えてしまう個所が多数見うけられます。
 まず、私がこのスレッドの最初でアレほどまでに強調しておいたはずの「立法府(議会)」の存在が反論文の中から完全に欠如しています。私が主張したシビリアン・コントロールの基本概念について反論するには、この「立法府」の存在を無視してもらっては困るのですけど。
 私がこのスレッドで何度も主張したように、民主主義国家におけるシビリアン・コントロールというものは、立法府・行政府・軍部の3つによる「相互牽制(3すくみ)」によって成り立っているものです。そして私は軍部以上に行政府が構造的に暴走しやすいものであるとも言ってきました。その暴走しやすい行政府に対して、軍部が立法府を介して軍事的見地に立った意見を主張する事は、国家存続のためにも、ひいては健全な民主主義を守るためにも必要不可欠な事であると述べたわけです。
 したがって、

<地位と名声を得ている軍人が民衆を扇動するような行為は
かのヨブ・トリューニヒト議長となんら変わりもせず
それに軍人が政治を正すという名目で権力を握ることは
軍事独裁政治を引き起こす一因になりかねないのではないでしょうか。>

という類のことを私は別に一言も述べていませんから、反論としては見当ハズレなシロモノですね。

<あくまでも政治の腐敗は民衆が正さなくてはいけないと思います。
たとえ軍人が軍隊に関することを要求してもそれは一意見として
とれえることしかできないと思います。
軍部の要求を際限なく取り入れればそれは軍事力の肥大化となり
国家予算の大半をつぎ込むことになりしいては国家を崩壊させかねないということです。>

 あの〜、私が言っているのは「軍部は軍事専門家として、議会に対して軍事的見地に立った意見を主張しなければならない」ということであって、それを聞いた側が軍部の意見を全面的に受けいれるべきである、とは一言も言っていないのですけど。
 議会が軍部の意見を採用するか、行政府の政策を支持するかは、結局のところ議会の判断に委ねられているのです。軍部の意見が愚かであると議会が結論づけたならば軍部の意見は却下されるでしょうし、行政府の政策の方が不当であると認識すれば軍部の意見が採用され、行政府の政策は是正される事になるのです。議会だってバカではないのですから、軍部の意見を100パーセント受けいれて行政府を掣肘するなんて事はありえないでしょう。
 ただ、行政府は構造的に強大な権力を掌握している事が多いですから、その権限を利用して軍部に対して様々な政治的介入を過剰に行う可能性が極めて高く、だからこそ、行政府の暴走を食い止め、行政府に対する軍部の反発を抑えるためにも、軍部が議会に対して軍事的見地に立った意見を述べる事が、シビリアン・コントロールの観点からも必要になってくるわけです。
 これでもまだ、軍部が国防問題に関して意見を述べる事は不当であると言うのですか?

<なぜ政府から無謀な要求でもそれを是正できなかったかといえば
それは最高会議で決定されたことであり、そこにいたるところで
軍部が(フォーク准将が)私的ルートで要求したことを政治的
判断で決めてしまったことであり、軍部としては今更変えることが
できなかったということがあるはず。
そこでいかにヤンウェンリーであろうとも、ビュコック提督でも、出兵を
拒否することはできないはずです。
それは民意(多分に政治家の思惑があるが)が決めたことを
軍部が無視できないということです。
そこでできることは、戦場の戦術レベルで最低限の被害ですむように
しなければならなかったのにそれを怠り、あまつさえ負担ばかりを増やして
結局のところ帝国に焦土作戦を成功させた一因であるでしょう。>

 この帝国領侵攻作戦こそ、行政府が何らの歯止めもなしに暴走してしまった典型例のひとつであると私は主張してきたはずなのですけど。そもそもあの帝国領侵攻作戦は「最高評議会幹部の選挙目当て」で強行されたものであり、実は何ら民意に基づいたものでもなければ、国家や国民の利益を考えて実行されたものですらないのです。それを食い止めるためにも、軍部はそのような遠征が軍事的見地からしていかに無謀なものである事を述べなければならないし、議会もまたそのような愚行を強行する行政府を掣肘しなければならなかったはずです(同盟で立法府がまともに機能していたかどうかは疑わしいものですが)。
 それに帝国領侵攻作戦においては戦術レベルの末端に至るまで政治が過剰なまでに介入していました。帝国軍が撤退した地域の住民に食糧を与えるなどという愚行は、同盟軍の軍事行動に非常に悪い意味での政治的・人道的配慮がかなり混入していた何よりの証拠です。つまり軍部は自分達が管轄しているはずの戦略・戦術レベルに至るまで軍事的利益と相反する政治的要素に束縛されていたわけで、こんな惨状では負けて当たり前ではないですか。
 これでも軍部は政府の命令に異議を唱えず、ただひたすら黙って従っていなければならないと言うのでしょうか。

<必ずしもヤンの行動が民主主義の行為に沿っているとは言い難い部分もありますが
それでも今ある、政治形態を守るために戦ったことは
これまた事実であります。それに同盟が崩壊した原因は何もヤン一人の
責任ではない筈。なぜならそこまでにいたる中で腐敗してきてそれに追い討ちを
かけていたのですから、民主制は独裁と違いどんなことでも変えるためには
時間がかかるものなのです。ですから一人がその国を崩壊させた
というのはあきらかに間違えではないでしょうか>

 あのですね、ヤンが同盟の軍人としての責任を果たさなかったために発生してしまった「同盟崩壊の原因」というのが結構あるのですよ(特に銀英伝6巻の騒動に至っては「ヤンの行動が全ての元凶」であると言っても過言ではない)。私はこのスレッドの最初にそれについて言及しておいたはずなのですけど、そこら辺はきちんと読んでいただけたのでしょうか?
 ヤンは自分のなすべき軍人としての義務を果たさず、そのために同盟が滅亡してしまった以上、同盟崩壊におけるヤンの責任は非常に大きなものであったという考えは別に不自然なものではないでしょう。第一、同盟崩壊の原因に「腐敗」という非常に抽象的な概念を持ち出していますが、これは一体何のことを指しているのですか? 私はこの「腐敗」についてもこのスレッドの論争で言及していたはずなのですけど。

 それに「民主制は独裁と違いどんなことでも変えるためには時間がかかるもの」というのは明らかに大ウソですね。アメリカなどは代表的な民主主義国家のひとつですが、あの国は政治的決断を下すスピードが非常に速いではないですか。これは行政府の権限が強いからです。そして「行政府の権限が強い」ということと「民主主義」とは何ら矛盾するものではありません。むしろ「権力の弱い民主主義」なるシロモノの方が、却って強大な権力を行使できる独裁制を招来させる危険な体制なのです。
 「権力が弱い=民主主義」という思想がいかに間違ったものであったか、ヤンは少し考えてみるべきだったと思うのですけど。

<エル・ファシルやイゼルローン共和政府は
時間が無さすぎでした。(イゼルローンはその後がわからんが)
民主制というものは時間がかかるものなのです。自由惑星同盟でさえ
最初は、民衆の意志でなく指導者がトップに立ちました。
ですからその後民主制に移行することはできる筈です。
最初に民主制でないからといって、そこに木がないからといって緑がない
といっているのと同じではないでしょうか。>

 ではなぜヤンは、バーミリオン会戦における同盟政府の無条件停戦命令に「政府の命令に従う事がシビリアン・コントロールだから」という理由で黙って従ってしまったのでしょうか? あの場合で選べる選択肢のひとつのしては、政府の命令にあえて背いてラインハルトを吹き飛ばし、同盟政府を解体してしまった上で一時的に独裁体制を築き上げ、然る後に「民主制」に移行するという方法だってあったはずなのですけど。
 「最後に民主制が確立すればそれで良い」というのであれば、ヤンやヤン・ファミリー一党はいくらでも非常手段が取れたはずなのですけどね〜。

 それにエル・ファシル独立政府にせよ、イゼルローン共和政府にせよ、民主主義国家として独立し、帝国と戦うというのであれば、せめてその事の是非について問う国民投票ぐらいはやっても良かったのではないですか? 特に独立問題の方は国家体制を確立するためにも非常に重要な事項ではありませんか。現実世界においても、カナダのケベック州がカナダからの分離独立の是非を、ケベック州住民による国民投票で決めたという事例があるのです(過去に2回投票が行われて2回とも独立反対派が勝利しましたが)。「民主共和政体」を自称するのであれば、せめて国家体制の確立の是非を問う国民投票ぐらいは当然行って然るべきでしょう。ましてや、わざわざ平和の道を捨ててまで独立し、帝国と対立する道を選ぶというのであればなおの事です。帝国の支配下における平和を望む人だって大勢いるのかもしれないのですから。彼らの「民意」は無視してかまわないのですか?
 イゼルローン共和政府に至っては、ヤン・ファミリーをはじめとする首脳部が帝国との戦いを継続する事を何ら民意を問わずに決めたばかりか、それに反対する連中は出ていってかまわないとまで放言する始末です。これのどこが自称「民主共和政体」のやる事なのでしょうか? 私にはイゼルローン共和政府が「排他的な独裁体制」にすら見えるのですけど。アレほどまでに「民主主義の理念」にこだわったヤンの遺志を継ぐというのであれば「民主主義的な手続き」を無視してはならないでしょう。
 「民主主義の理念」に基づいて同盟を崩壊に追いやったヤンやヤン・ファミリー一党が、「民主主義の理念」を何ら実現していないエル・ファシル独立政府やイゼルローン共和政府のために戦い、しかもその事に何ら疑問を覚えないというのは少しおかしいのではないかと思うのですけど。


>平松さん
<ですが30隻の中で200人が摘発されたという事は、1隻あたり6、7人というこ とですから、これから考えれば平時の時でも亡命の際に密かに載せられる人数もあまり大した数ではないと思いますが。いくら平時でもこの100倍以上の数を看過してしまうとは考えにくいのでは?>

 居住性をあまり考慮しないでよいのであれば、ひとつのコンテナに人をたくさん詰め込み、「貨物」になりすまして乗船するという方法もあります。これは日本に流れてくる不法入国者達がよく使う手なのだそうですけど。
 他にも船をすこし改造して亡命者を匿うための専用の部屋を作り、それに対熱・対赤外線探知装置などの防御対策を施して偽装するとか、帝国の捜査網をかいくぐる手段は結構色々とあるものです。そして帝国の方も、それほど本気になって同盟への亡命者を取り締まろうとはしなかったのでしょう。帝国軍の軍規も相当乱れていたでしょうから、賄賂や買収もかなりの効果があったでしょうし、貴族に対して反感を覚えていた平民階級の兵士や将校が亡命者を匿い、亡命に協力したという事情もあったかもしれません。
 フェザーン占領時の時は帝国軍が駐留して逃亡者が出ないよう徹底的に監視していましたから、そもそもよほどの事情がないかぎり、そんな時期にフェザーンから逃亡しようと考える人間はまずいないでしょう。フェザーンから出ていくにしても、普通はまず帝国の占領政策がそれなりに緩んでくる時期を待つはずで、だからフェザーン占領時の時はそんな余裕がなかった200人「しか」拘束されなかったのでは?

<それにしても、惑星上なら亡命者も散り散りになって身一つで逃げれますから、逃がした側も「やむを得ない」と諦められるでしょうが、宇宙船以外に逃亡の手段もなく、航路もある程度限定されている宇宙空間で、それだけ大量の亡命を許してしまうと言うのは、国家の税関や入国管理などのチェックシステムの衰弱・腐敗をあからさまに露呈してしまう事になりますから、少しまずいのでは?>

 帝国は建前上「人類社会における唯一絶対の支配国家」であると自称していますし、ダゴン星域会戦で同盟に敗北するまではその建前が完全に事実であると信じこんでいたのですから、そもそも「国家の税関」だの「入国管理などのチェックシステム」なんて存在していなかったのではないでしょうか。そして、そのような事情もあったからこそ同盟に亡命しやすかったという事情もあったのかもしれません。
 そして何よりも帝国側は亡命者の検挙にそれほど熱心ではなかった、これが大量の亡命者が同盟に逃げ込めた一番大きな理由だったでしょうね。


No. 1029
Re1025:亡命は至難か容易か?
平松重之 2000/6/16 12:20:04

冒険風ライダーさん

>  帝国は建前上「人類社会における唯一絶対の支配国家」であると自称していますし、ダゴン星域会戦で同盟に敗北するまではその建前が完全に事実であると信じこんでいたのですから、そもそも「国家の税関」だの「入国管理などのチェックシステム」なんて存在していなかったのではないでしょうか。そして、そのような事情もあったからこそ同盟に亡命しやすかったという事情もあったのかもしれません。
>  そして何よりも帝国側は亡命者の検挙にそれほど熱心ではなかった、これが大量の亡命者が同盟に逃げ込めた一番大きな理由だったでしょうね。

第四巻(トクマノベルズ)のP15には、エルウィン・ヨーゼフ二世を誘拐(救出)する為にオーディンに潜入したランズベルク伯とシューマッハ大佐がフェザーン自治政府発行の旅券と入国査証を有していた事が書かれているので、フェザーンへの入国管理や税関などのチェックシステムが存在した事は確かです。それなのに社会秩序維持局にマークされているはずの共和主義者が大量に亡命できるのでしょうか?また、同じく第四巻のP154からP155にはゴールデンバウム朝における最後の社会秩序維持局局長であったハイドリッヒ・ラングは職権を濫用して私服を肥やさなかった為に門閥貴族から変人扱いされ、「猟犬」と評されるほど職務に熱心で忠実であった事が書かれていますので、同盟に亡命する共和主義者だけを見逃していたとは考えにくいのでは?


No. 1031
Re1029:帝国の入出国事情と社会秩序維持局の活動
冒険風ライダー 2000/6/16 17:53:46
<第四巻(トクマノベルズ)のP15には、エルウィン・ヨーゼフ二世を誘拐(救出)する為にオーディンに潜入したランズベルク伯とシューマッハ大佐がフェザーン自治政府発行の旅券と入国査証を有していた事が書かれているので、フェザーンへの入国管理や税関などのチェックシステムが存在した事は確かです。それなのに社会秩序維持局にマークされているはずの共和主義者が大量に亡命できるのでしょうか?また、同じく第四巻のP154からP155にはゴールデンバウム朝における最後の社会秩序維持局局長であったハイドリッヒ・ラングは職権を濫用して私服を肥やさなかった為に門閥貴族から変人扱いされ、「猟犬」と評されるほど職務に熱心で忠実であった事が書かれていますので、同盟に亡命する共和主義者だけを見逃していたとは考えにくいのでは?>

 平松さんが挙げているのは「フェザーンへの」ではなく「帝国への」入国管理や税関ですね。これはむしろありえる事ですよ。帝国へ入りこもうとする同盟やフェザーンあたりの不穏分子やスパイなどを摘発するためにも、また帝国が掲げている単一国家としての矜持にかけても「帝国へ入る人間に対する入国管理」は厳重に行う必要性があります。そもそも帝国から出国・亡命していく者はたくさんいるでしょうが、わざわざ入国しようとするような人間は商売目的のフェザーン人以外はあまりいないでしょうから、なおのこと「帝国に入るための入国管理」は徹底しておく必要性があるわけです。
 しかし「帝国から出国する」となればそんな心配は全くないわけですし、亡命者達の件にしても、余程の事情でもない限り彼らはかつて一回入国してきたフェザーン商人の艦船に乗りこんでいるわけですから、それほどチェックも厳しくなかったのでは? あまり商人に対する監視を強化すると、フェザーン商人とフェザーン自治政府の帝国に対する態度が硬化してしまう恐れがありますから、それほどチェックを厳しくもできないのですよ。フェザーン商人と関係のある帝国内の商人や貴族からの圧力もあったでしょうしね。
 したがって、入国と出国とでは帝国の管理体制が違ったのではないでしょうか。

 それから共和主義者に対する取締りの件ですが、いくら社会秩序維持局が共和主義者を監視し、取締らなければならないとはいえ、何も全ての共和主義者を捕まえてくる必要性もないわけですよ。「処分の手間」がかかりすぎますし、そもそも現実問題としてそんな事はまず物理的に不可能ですから。
 ですから、彼らが捕まえなければならない共和主義者とは、

1. 実際に帝国に対するテロ・ゲリラ活動を行った実行犯
2. 1の実行犯に指示を下した共和主義者の教唆犯ないしは組織的リーダー格
3. 密告によって挙げられた共和主義者
4. 社会秩序維持局の捜査官にマークされた共和主義者
 (3・4には無実の人間も含まれる)

 といったところでしょう。そして必要な時期に彼らを捕まえ、社会秩序維持局の存在感をアピールすれば、それで社会秩序維持局や帝国の面目も保てますし、共和主義者に対する示威・威嚇・抑止活動としても充分な効果を発揮します。
 もちろん、上記に挙げた共和主義者たちは絶対に逃してはいけません。彼らの逃亡を許してしまったら社会秩序維持局や帝国政府の面目まる潰れですから、彼らに対しては何ら容赦なく捜査の手が加えられ、検挙されていった事でしょう(それでも逃亡に成功した者はいるかもしれませんが)。
 しかし特に前科もなく、帝国の目をはばかって自分の意見表明を何ら行っていない「隠れ共和主義者」たちや「潜在的な不満分子」には、さしもの社会秩序維持局といえども手の出しようがないでしょう。彼らを検挙する理由が全くないですし、しょっちゅうそんなことをやってるような余裕もないですからね。だからそのような人達には監視の目は緩く、したがって亡命もしやすかったというわけです。
 もっとも亡命者に対する威嚇として、時々思い出したように艦船に対する大規模かつ徹底的な臨検や共和主義者の大量検挙などがあったのかもしれません。警察の「ねずみ取り」のようなものと同じであると考えれば分かりやすいでしょうか。あまり効果があったとは思えませんけど。


No. 1035
Re1031:帝国の出国管理と社会秩序維持局の内情
平松重之 2000/6/17 15:26:33

冒険風ライダーさん

>  平松さんが挙げているのは「フェザーンへの」ではなく「帝国への」入国管理や税関ですね。これはむしろありえる事ですよ。帝国へ入りこもうとする同盟やフェザーンあたりの不穏分子やスパイなどを摘発するためにも、また帝国が掲げている単一国家としての矜持にかけても「帝国へ入る人間に対する入国管理」は厳重に行う必要性があります。そもそも帝国から出国・亡命していく者はたくさんいるでしょうが、わざわざ入国しようとするような人間は商売目的のフェザーン人以外はあまりいないでしょうから、なおのこと「帝国に入るための入国管理」は徹底しておく必要性があるわけです。
>  しかし「帝国から出国する」となればそんな心配は全くないわけですし、亡命者達の件にしても、余程の事情でもない限り彼らはかつて一回入国してきたフェザーン商人の艦船に乗りこんでいるわけですから、それほどチェックも厳しくなかったのでは? あまり商人に対する監視を強化すると、フェザーン商人とフェザーン自治政府の帝国に対する態度が硬化してしまう恐れがありますから、それほどチェックを厳しくもできないのですよ。フェザーン商人と関係のある帝国内の商人や貴族からの圧力もあったでしょうしね。
>  したがって、入国と出国とでは帝国の管理体制が違ったのではないでしょうか。

入国時のチェックが厳しいのならば、出国のチェックを厳しくした所でフェザーン側の反発が生じるとは考えにくいのでは?出国時にしても、亡命者の摘発以外にも機密漏洩の防止やスパイ網の連携への牽制など、厳重なチェックを行う大きなメリットはあると思うのですが。

>  それから共和主義者に対する取締りの件ですが、いくら社会秩序維持局が共和主義者を監視し、取締らなければならないとはいえ、何も全ての共和主義者を捕まえてくる必要性もないわけですよ。「処分の手間」がかかりすぎますし、そもそも現実問題としてそんな事はまず物理的に不可能ですから。
>  ですから、彼らが捕まえなければならない共和主義者とは、
>
> 1. 実際に帝国に対するテロ・ゲリラ活動を行った実行犯
> 2. 1の実行犯に指示を下した共和主義者の教唆犯ないしは組織的リーダー格
> 3. 密告によって挙げられた共和主義者
> 4. 社会秩序維持局の捜査官にマークされた共和主義者
>  (3・4には無実の人間も含まれる)
>
>  といったところでしょう。そして必要な時期に彼らを捕まえ、社会秩序維持局の存在感をアピールすれば、それで社会秩序維持局や帝国の面目も保てますし、共和主義者に対する示威・威嚇・抑止活動としても充分な効果を発揮します。
>  もちろん、上記に挙げた共和主義者たちは絶対に逃してはいけません。彼らの逃亡を許してしまったら社会秩序維持局や帝国政府の面目まる潰れですから、彼らに対しては何ら容赦なく捜査の手が加えられ、検挙されていった事でしょう(それでも逃亡に成功した者はいるかもしれませんが)。
>  しかし特に前科もなく、帝国の目をはばかって自分の意見表明を何ら行っていない「隠れ共和主義者」たちや「潜在的な不満分子」には、さしもの社会秩序維持局といえども手の出しようがないでしょう。彼らを検挙する理由が全くないですし、しょっちゅうそんなことをやってるような余裕もないですからね。だからそのような人達には監視の目は緩く、したがって亡命もしやすかったというわけです。
>  もっとも亡命者に対する威嚇として、時々思い出したように艦船に対する大規模かつ徹底的な臨検や共和主義者の大量検挙などがあったのかもしれません。警察の「ねずみ取り」のようなものと同じであると考えれば分かりやすいでしょうか。あまり効果があったとは思えませんけど。

 第六巻のP195ではブルームハルトが「祖父は単なる不平屋だったのに、共和主義思想家という事にされ帝国内務省に捕らわれて獄死した」と言っていますので、内務省内の社会秩序維持局は結構節操なく、証拠もなしに「共和主義者」を摘発していたのではないでしょうか。そもそも他者を監視し、抑圧する事を目的として設立された組織が些細な事例でそんな慎重に共和主義者の摘発にあたっていたでしょうか?充分な証拠もなく他者に罪を着せるのこういった組織(特高やゲシュタポなど)ではよくある事なのでは?むしろノルマ達成のために偏執的に共和主義者を摘発していた可能性が高く、ささやかな情報にも過敏になっていたと思うのですが(でなければ密告を奨励している意味がない)。


No. 1037
Re1035:亡命問題いろいろ
冒険風ライダー 2000/6/18 01:24:35
<入国時のチェックが厳しいのならば、出国のチェックを厳しくした所でフェザーン側の反発が生じるとは考えにくいのでは?出国時にしても、亡命者の摘発以外にも機密漏洩の防止やスパイ網の連携への牽制など、厳重なチェックを行う大きなメリットはあると思うのですが。>

 それだと帝国の貴族や皇族までが亡命できている事の説明がつかないのですよ。特に「機密漏洩の防止」という点では、彼らが亡命する事の方がよっぽど帝国にとって深刻な事態を招来させてしまうではないですか。何しろ彼らはかつて「帝国の中枢」にいて、帝国の内情についての詳細な情報を握っているはずなのですから。その彼らが大量に亡命できている事自体、帝国の出国チェックがそれほど厳しくなかった(あるいは「臨検側の規律が緩かったために相当に手が抜かれていた」)という何よりの証明でしょう。
 それに亡命者を輸送する立場にある亡命者輸送業者達(よく考えてみたら、これは何もフェザーン商人だけであるとは限りませんね。帝国内の商人や亡命者を斡旋する「蛇頭」のような非合法的組織などもあったでしょうし)も帝国の臨検や捜索に対する対処のノウハウぐらいは身につけているでしょうし、臨検する側も亡命者輸送業者達からの賄賂や贈与に相当な期待をかけていたはずです。まあこんな事を期待する事自体、帝国政府や帝国軍の規律が相当に緩んでいる証明なのですけど、こんな事情があれば、余程重大な非常事態(重大事件の指名手配犯が逃走中で、彼らを逃すと自分たちの責任が問われかねないとか)でもない限り、出国に関しては臨検がおざなりで、そこを亡命者輸送業者達に巧妙に突かれてしまうために、大量の亡命者が出た可能性が高いのではないでしょうか。その程度の才幹を亡命者輸送業者達に期待しても良いはずです(でないと商売になりません)。
 表面だけは厳しいように見えるが実態はいくつもの抜け道がある、というのはよくある事です。帝国の亡命者取締りの事例もそれに当てはまるのではないでしょうか。

<第六巻のP195ではブルームハルトが「祖父は単なる不平屋だったのに、共和主義思想家という事にされ帝国内務省に捕らわれて獄死した」と言っていますので、内務省内の社会秩序維持局は結構節操なく、証拠もなしに「共和主義者」を摘発していたのではないでしょうか。そもそも他者を監視し、抑圧する事を目的として設立された組織が些細な事例でそんな慎重に共和主義者の摘発にあたっていたでしょうか?充分な証拠もなく他者に罪を着せるのこういった組織(特高やゲシュタポなど)ではよくある事なのでは?むしろノルマ達成のために偏執的に共和主義者を摘発していた可能性が高く、ささやかな情報にも過敏になっていたと思うのですが(でなければ密告を奨励している意味がない)。>

 私が言っているのが「全ての共和主義者を摘発するのは物理的に不可能である」という事にあるのは分かっていただけているのでしょうか? それに私は「隠れ共和主義者」とか「潜在的な不満分子」といった言葉を使っていたではないですか。公然と運動していたり、あるいは密告や社会秩序維持局に何らかの形でマークされているような人間であればともかく、そうでない者が自分の正体を隠すのはそれほど困難な事ではありません。ましてや、言論の自由がない帝国では「表面的には帝国に忠誠を誓っているフリをして実は……」という処世術を身につけていた人間も多かったでしょうしね。人間の内心なんてそんな簡単に分かるものでもないでしょう。
 いくら社会秩序維持局が辣腕を振るったところで、彼らのような人間を全部監視・摘発するのは現実的にも物理的にも不可能です。彼らにできる事は、それがどのような形であれ(もちろんこれは「密告や捜査員の主観に基づいた摘発」も含まれます)、あくまでも「表面に出てきた容疑者」を監視・摘発する事だけなのですよ。そして、その辺りの隙を突いて「隠れ共和主義者」や「潜在的な不満分子」達が大量に同盟に亡命していったと私は考えているのですが。


No. 1042
Re1037:一斉亡命は可能か?
平松重之 2000/6/19 02:15:03

冒険風ライダーさん

>  それだと帝国の貴族や皇族までが亡命できている事の説明がつかないのですよ。特に「機密漏洩の防止」という点では、彼らが亡命する事の方がよっぽど帝国にとって深刻な事態を招来させてしまうではないですか。何しろ彼らはかつて「帝国の中枢」にいて、帝国の内情についての詳細な情報を握っているはずなのですから。その彼らが大量に亡命できている事自体、帝国の出国チェックがそれほど厳しくなかった(あるいは「臨検側の規律が緩かったために相当に手が抜かれていた」)という何よりの証明でしょう。

 果たして亡命者の中に機密を握っている皇族や貴族がどれだけいたのでしょうか?エルウィン・ヨーゼフ二世やマンフレート亡命帝は亡命時は幼少で自由意志で亡命した訳ではありませんし、門閥貴族で亡命にフェザーン経由で亡命した人物についての記述は記憶にありません。フリードリヒ四世の弟であるクレメンツは長兄であるリヒャルト皇太子を冤罪に陥れたのが発覚した為、同盟に亡命しようとしましたが、途中「偶然の事故」で死亡しています(おそらく謀殺)。おそらくは「帝国の中枢」にいた帝位継承権の高い皇族や門閥貴族の亡命の成功率は低かったでしょうが、皇族の庶流や中級以下の貴族は、平民と大して変わらない確率で亡命出来たのでは?むしろ資金やつてなどで、平民よりも有利であったとも考えられます。シェーンコップの祖父母は男爵家の傍流で、友人の借金の保証人になって破産してしまい亡命したのですが、その時も親戚が旅費を提供していますし。

>  それに亡命者を輸送する立場にある亡命者輸送業者達(よく考えてみたら、これは何もフェザーン商人だけであるとは限りませんね。帝国内の商人や亡命者を斡旋する「蛇頭」のような非合法的組織などもあったでしょうし)も帝国の臨検や捜索に対する対処のノウハウぐらいは身につけているでしょうし、臨検する側も亡命者輸送業者達からの賄賂や贈与に相当な期待をかけていたはずです。まあこんな事を期待する事自体、帝国政府や帝国軍の規律が相当に緩んでいる証明なのですけど、こんな事情があれば、余程重大な非常事態(重大事件の指名手配犯が逃走中で、彼らを逃すと自分たちの責任が問われかねないとか)でもない限り、出国に関しては臨検がおざなりで、そこを亡命者輸送業者達に巧妙に突かれてしまうために、大量の亡命者が出た可能性が高いのではないでしょうか。その程度の才幹を亡命者輸送業者達に期待しても良いはずです(でないと商売になりません)。
>  表面だけは厳しいように見えるが実態はいくつもの抜け道がある、というのはよくある事です。帝国の亡命者取締りの事例もそれに当てはまるのではないでしょうか。

 わずかずつの人数での亡命ならともかくとして、100〜1000人単位の大量亡命の成功率はそれほど高くないのではないかと思うのですが。それだけの大量亡命を頻繁に許してしまう時点で、臨検する側の責任がいつかは厳しく問われてしまうのでは?

>  私が言っているのが「全ての共和主義者を摘発するのは物理的に不可能である」という事にあるのは分かっていただけているのでしょうか? それに私は「隠れ共和主義者」とか「潜在的な不満分子」といった言葉を使っていたではないですか。公然と運動していたり、あるいは密告や社会秩序維持局に何らかの形でマークされているような人間であればともかく、そうでない者が自分の正体を隠すのはそれほど困難な事ではありません。ましてや、言論の自由がない帝国では「表面的には帝国に忠誠を誓っているフリをして実は……」という処世術を身につけていた人間も多かったでしょうしね。人間の内心なんてそんな簡単に分かるものでもないでしょう。
>  いくら社会秩序維持局が辣腕を振るったところで、彼らのような人間を全部監視・摘発するのは現実的にも物理的にも不可能です。彼らにできる事は、それがどのような形であれ(もちろんこれは「密告や捜査員の主観に基づいた摘発」も含まれます)、あくまでも「表面に出てきた容疑者」を監視・摘発する事だけなのですよ。そして、その辺りの隙を突いて「隠れ共和主義者」や「潜在的な不満分子」達が大量に同盟に亡命していったと私は考えているのですが。

 無論、全ての共和主義者を逮捕・監視するのが物理的に不可能だという事は承知しています。にしても、「隠れ共和主義者」や「潜在的な不満分子」は、いかに内心を秘めていても他の一般市民よりも挙動や発言の違いが微妙に生じてくるでしょうし、完全に他者の不審の目から正体を隠し通せる程の演技力を保ち続ける事が出来るでしょうか?出来る人物がいたとしてもありふれてはいないでしょう。自分が先に示したブルームハルトの祖父の例に見られる社会秩序維持局の偏執ぶりや密告が奨励されていた事を考えれば、「隠れ共和主義者」や「潜在的な不満分子」が、わずかな尻尾を見せただけでも反応を示しそうに思うのですが…。
 そもそも「隠れ共和主義者」や「潜在的な不満分子」といった人々が「一斉に」亡命しようという動きを起こした時点で社会秩序維持局にマークされてしまうのではないでしょうか。


No. 1044
Re: 帝国本土と自治領の関係を踏まえた亡命に関する考察
Merkatz 2000/6/19 07:43:39
お二人の亡命問題に関する議論に私も参戦(笑)。

まず、出入国といいますが、基本的に帝国は他の国を認めていません。
同盟はあくまで「帝国内の叛乱勢力」ですし、
フェザーンも「帝国内自治領」です。
さらにフェザーンに駐在するのが「高等弁務官」であるのも注目すべきです。
もともと弁務官は自治領や保護国に対して置かれるものです。
大使とは違います。大使(特命全権大使)は外交使節ですが、
弁務官は自治領の政治・外交を指導する役人なのです。
これらのことから、帝国がフェザーンとの人の行き来をどう捉えていたかはおおよそ想像できると思います(これはかつての大英帝国とその自治領との行き来と同様なものではないでしょうか)。
ですから、外国に対するような出入国管理が行なわれていたかは疑問です。

次に亡命者の流れですが、
まず、帝国内の諸惑星→フェザーンへの移動が一点目。
次にフェザーン→同盟領への移動が二点目。
一点目ですが、チェックポイントは二つ。
フェザーンに入国するときのフェザーン宇宙港。
次に、フェザーン行きの船に乗り込むときの諸惑星の宇宙港。
前者はフェザーン自治政府の管轄ですから、
帝国政府自らが手を出すことは出来ませんので、
厳しい管理はそもそも無理です。
後者は上段理由により、厳しい管理にも限度があります。
さらに、もともと「他国」が存在し得ないのですから、
各宇宙港の管理室は国内の犯罪者の移動を防ぐために設置されたものと見るのが妥当でしょう。
したがって、最初から対亡命者としての機能が無く、
帝国本土と自治領の関係から、フェザーン政府発行の正式旅券などがあり、かつ指名手配でもされてなければ、それ以上の審査は不可能でしょう。

二点目は航路の臨検以外手がありませんが、
それほど熱心だったとは思えません。
フェザーンの裏の副業として亡命者移送業の他に三角貿易があります。
もし、帝国が本気でこれら人とモノの流れを止めたいと思うなら、
フェザーン回廊同盟側出口の航路を臨検すればよく(航路なんて決まり切っているから容易なはず)、
大量に捕捉できたはずです(のちに明らかになりますがフェザーン回廊は非武装中立という明文はない)。
したがって、フェザーン→同盟領への移動は、
帝国内の諸惑星→フェザーンへの移動よりなお簡単だったのではないでしょうか。

また、フェザーンの存在自体が、帝国の建前論の隙間に立脚し、
その立場を利用して暴利を得ていたことに注意すべきです。
帝国本土へのその手の働きかけ(臨検等を厳しくしないよう根回しするとか)も当然行なわれていたでしょう。

以上の理由から、私は亡命は比較的容易であったと考えます。
また、一斉亡命の件も帝国内の諸惑星→フェザーンは大人数では無理があるでしょうが、
一度フェザーンに到達してしまえば、フェザーン→同盟領はまとめて移送することも可能だったのではと思います(臨検の有様については、ユリアンが地球に赴くときに書類を見るだけで立ち入り検査をしない情景がありました。おそらく、フェザーン回廊内の臨検もあのような体たらくだったと思われます)。
もっともそれでも千人単位は無理があるように思いますが。

問題は帝国政府の亡命者に対する態度です。
これは帝国内共和主義者の活動とも関連するのですが、
帝国末期において亡命者は犯罪者・没落貴族の占める割合が高く、
まともに取り締まる気を起こさせなかったのではないでしょうか。
共和主義者を逃がしたとあれば、同盟を利するだけですが、
犯罪者・没落貴族ならせいぜい厄介者払いができたという認識で済むでしょう。
(情報の漏洩に関しては、平松さんの言うとおりだと思います。
貴族といっても全てが要職に付いているわけではありません。
帝国軍三長官とかの要職にでも付いていなければ、亡命者一人が持っている情報量にも限度があります。
ましてや平民、あるいは平民に近いレベルならまったく痛痒を感じないでしょう)
おそらく真の共和主義者はルドルフ死後の叛乱失敗と、
ダゴン星域会戦直後の大量亡命でほとんどいなくなり、
末期の帝国内の共和主義者とは、共和主義に名を借りた犯罪組織か似非アングラ組織しかなかったのではないでしょうか。
(なお、大量亡命はダゴン直後にのみ可能だったと思われます。
この時まで帝国は同盟の存在を知らなかったわけですから、止める手立てがないです)
ですから社会秩序維持局も、単なる不平屋を共和主義者だといって捕まえなければならないほどだったのでは?
だからこそ社会秩序維持局に対する憎悪が高かったのでは?
(まともに共和主義者を摘発していたのなら、どうしてリヒターやブラッケのような開明派が非難するのでしょうか。ラングの「職務に忠実」とは、社会秩序維持局という組織を維持する職務という意味だったのでは?)

以下、冒険風ライダーさんの意見に対して少し。

>ちなみにこれは銀英伝2巻に書いてあったのですが、貨物船で客を「貨物」として登録・輸送すれば、
>客船の十分の一以下の旅費で宇宙船に乗れるのだそうです(その代わり、人命補償なども一切ありませんが)。
>そのようなテを使えば、値段の方もそれほどはかからなかった事でしょう。

あれは地球に向かう巡礼団とか、帝国領内の移動に関する話ではなかったですか?
亡命にそのまま適用できるとは思えません。
それなりに容易であったとはいえ、やはりリスクを伴うのですから(やはり非合法行為なのですから)、
高額な手数料を取ったと思います。
ただ、輸送形態に伴う若干の上下(隠し部屋で一人を運ぶのとコンテナにすし詰めにするのでは違うでしょうね)はあったと思いますが、
格安になることはなかったでしょう(現実にコンテナすし詰めの密入国者は結構な手数料取られています)。

>それに亡命者を輸送する立場にある亡命者輸送業者達(よく考えてみたら、
>これは何もフェザーン商人だけであるとは限りませんね。帝国内の商人や
>亡命者を斡旋する「蛇頭」のような非合法的組織などもあったでしょうし)

帝国内の諸惑星→フェザーンへは競合する商人や組織があったと思いますが、
ことフェザーン→同盟領へはただフェザーン商人のみが移動可能です。
ですからその点においてフェザーンは暴利を得ることが可能ではないでしょうか。


No. 1046
Re1042/1044:帝国の人口から見た「1000人」という数字
冒険風ライダー 2000/6/19 17:57:13
 う〜ん、Merkatzさんに亡命問題の大半がうまくまとめられてしまった(^^;;)。
 帝国・フェザーン・同盟の入出国事情と社会秩序維持局の事情に関しては異論はありません。それらについてはMerkatzさんの意見が一番筋が通っているように思われます。
 ところで、この論争の過程ですっかり区別が曖昧になってしまっていたのですが、一口に「亡命問題」といっても「ダゴン星域会戦直後」と「それ以降」とでは亡命の実情が全然違うでしょうから、この2つは別々に論じる必要性がありますね。
 そんなわけで、それぞれ場合分けして論じてみる事にしましょう。


1. ダゴン星域会戦直後の亡命事情

 この時期はダゴン星域会戦による帝国軍の敗北によって帝国内の共和主義者の亡命気運が活発になっていて、帝国内の不平分子も含めてかなりの数の亡命志望者が存在していたものと思われます。
 また当時の帝国内では、極めて短期間にマクシミリアン・ヨーゼフ一世・グスタフ「百日帝」と2人もたて続けに皇帝が入れ替わった事に象徴されるように、ダゴン星域会戦の敗北による影響と宮廷内の皇位争いによって内政的にもかなり混乱しており、この時期は同盟への亡命者に対する対処などまともに講じる余裕などなかったのではないかと思われます。
 このような事情から、当時の帝国では亡命者輸送業を商売とする組織が乱立し、多くの亡命者を大量に輸送しつつ、帝国軍に監視されているイゼルローン回廊を使わずに同盟に辿り着ける回廊探しのために様々な試行錯誤が繰り返されたものと考えられます。フェザーン回廊が発見されたのもその時の副産物でしょう。
 ダゴン星域会戦当時はまだフェザーン自治領は存在しておりません。フェザーン自治領が成立したのは、帝国の支配体制がとりあえず安定し、同盟に対して一度も軍事侵攻を行うことがなかったマクシミリアン・ヨーゼフ2世の時代であると考えられます(銀英伝の中でも「フェザーンの歴史は100年そこそこ」と言われていましたから、時期的にもちょうど一致します)。
 マクシミリアン・ヨーゼフ2世の時代の後半あたりになると帝国の支配体制も次第に安定していき、また大量亡命者対策がある程度整備された事や平民階級に対する善政が行われた事もあって、帝国内における亡命気運も次第に下火になっていったものと思われます。
 したがって、ダゴン星域会戦直後からマクシミリアン・ヨーゼフ2世の統治時代の半ば辺りの頃までが同盟への大量亡命が可能であった時期であり(だいたい約10年ぐらいでしょうか)、この時期に帝国内の大半の共和主義者や不平分子が同盟に亡命していったと考えられます。


2. それ以降の亡命事情

 帝国の支配体制がとりあえず安定し、また大半の共和主義者たちが初期のラッシュ時に同盟へ亡命していったものの、まだまだ帝国内には慢性的に共和主義者や不平分子が発生する余地が充分過ぎるほどにあります。何しろ平民階級は常に貴族階級に対する不満を抱えていましたし、貴族階級はその平民階級に対する苛烈な圧政を展開していましたから、貴族の圧政に耐えかねた平民階級から同盟への亡命志望者が発生する余地はいくらでもあったわけです。
 また下級・中級クラスの貴族階級もまた、様々な事情から同盟への亡命を希望する者も多かった事でしょう。あるいは帝国政府から指名手配された犯罪者が亡命を希望するケースもあったかもしれません(もっとも、そのような人物はさすがにマークされていたでしょうけど)。したがって、亡命に対する需要はかつてのピーク時ほどではないにせよ、まだまだ充分にあったと見るべきです。
 亡命についての入出国事情等についてはMerkatzさんの説明で充分だと思いますので、問題なのは「その時期に一斉亡命が可能であったか?」という事だけですね。これについては、

1. 銀英伝世界における艦船はかなり大きく(全長400〜1000mくらい?)、
  艦内に隠蔽工作のための仕掛けが施しやすいこと
2. 銀河帝国全体の人口(約250億)からすれば、500〜1000名クラスの
  集団亡命はあまり大したものでないと考えられていた事

 で説明できるのではないでしょうか。
 日本の不法入国者の入国手口について少し調べてみたのですが、一隻の漁船や貨物船の中に50〜100人ほどの密航者が潜伏していて、しかも彼らは巧妙に隠された船内の隠し部屋等に隠蔽されているというケースも多いそうです。そうであるのならば、それよりもはるかに大きい銀英伝世界の艦船で、500〜1000人くらいの人間を隠すための仕掛けを施すことは技術的にはそれほど難しいことでもないでしょう。
 また、銀河帝国の人口250億の観点から見ると、500〜1000というクラスの集団はそれほど脅威にも映らないのではないでしょうか。500〜1000という数字は、現代からするとかなりの集団であるように見えますが、全人口400億で、それもたった3つの国家しかなく、しかも大きな宇宙艦船が飛び交っている銀英伝世界においてはそれほど多い人数であるとも思われず、「たかが500〜1000」と帝国側が考えたとしても別におかしくないのでは?
 また、これは以前にも言った事ですが、一回の航行で多くの亡命志望者達を乗せたほうがコストパフォーマンスも上昇し、乗せる側にとっても効率が良くなるという要素もあります。むしろ少ない人数の方が却って効率が悪く、亡命者輸送業者にとって大損になってしまう可能性が高いのではないでしょうか。


<あれは地球に向かう巡礼団とか、帝国領内の移動に関する話ではなかったですか?
亡命にそのまま適用できるとは思えません。
それなりに容易であったとはいえ、やはりリスクを伴うのですから(やはり非合法行為なのですから)、
高額な手数料を取ったと思います。
ただ、輸送形態に伴う若干の上下(隠し部屋で一人を運ぶのとコンテナにすし詰めにするのでは違うでしょうね)はあったと思いますが、
格安になることはなかったでしょう(現実にコンテナすし詰めの密入国者は結構な手数料取られています)。>

 私は単純に「居住空間」のみを問題にしていましたから「非合法的行為に基づく手数料」という要素は入れ忘れていました。確かにこれを入れるとそれなりの高額になってしまいますね。
 ただそれでも、亡命者を大量に輸送する事によって一人当たりのコストをある程度下げる事は可能であると思いますが。


No. 1048
Re1046:亡命に関わる人々の思惑
平松重之 2000/6/20 14:11:23

冒険風ライダーさん

>  う〜ん、Merkatzさんに亡命問題の大半がうまくまとめられてしまった(^^;;)。
>  帝国・フェザーン・同盟の入出国事情と社会秩序維持局の事情に関しては異論はありません。それらについてはMerkatzさんの意見が一番筋が通っているように思われます。

 同感です(^^;;;)。Merkatzさんにうまくまとめて頂けましたね。

> 1. ダゴン星域会戦直後の亡命事情

 については、充分に蓋然性がある説明だと思いますので特に異論はありません。

> 2. それ以降の亡命事情

>  帝国の支配体制がとりあえず安定し、また大半の共和主義者たちが初期のラッシュ時に同盟へ亡命していったものの、まだまだ帝国内には慢性的に共和主義者や不平分子が発生する余地が充分過ぎるほどにあります。何しろ平民階級は常に貴族階級に対する不満を抱えていましたし、貴族階級はその平民階級に対する苛烈な圧政を展開していましたから、貴族の圧政に耐えかねた平民階級から同盟への亡命志望者が発生する余地はいくらでもあったわけです。
>  また下級・中級クラスの貴族階級もまた、様々な事情から同盟への亡命を希望する者も多かった事でしょう。あるいは帝国政府から指名手配された犯罪者が亡命を希望するケースもあったかもしれません(もっとも、そのような人物はさすがにマークされていたでしょうけど)。したがって、亡命に対する需要はかつてのピーク時ほどではないにせよ、まだまだ充分にあったと見るべきです。
>  亡命についての入出国事情等についてはMerkatzさんの説明で充分だと思いますので、問題なのは「その時期に一斉亡命が可能であったか?」という事だけですね。これについては、
>
> 1. 銀英伝世界における艦船はかなり大きく(全長400〜1000mくらい?)、
>   艦内に隠蔽工作のための仕掛けが施しやすいこと
> 2. 銀河帝国全体の人口(約250億)からすれば、500〜1000名クラスの
>   集団亡命はあまり大したものでないと考えられていた事
>
>  で説明できるのではないでしょうか。
>  日本の不法入国者の入国手口について少し調べてみたのですが、一隻の漁船や貨物船の中に50〜100人ほどの密航者が潜伏していて、しかも彼らは巧妙に隠された船内の隠し部屋等に隠蔽されているというケースも多いそうです。そうであるのならば、それよりもはるかに大きい銀英伝世界の艦船で、500〜1000人くらいの人間を隠すための仕掛けを施すことは技術的にはそれほど難しいことでもないでしょう。
>  また、銀河帝国の人口250億の観点から見ると、500〜1000というクラスの集団はそれほど脅威にも映らないのではないでしょうか。500〜1000という数字は、現代からするとかなりの集団であるように見えますが、全人口400億で、それもたった3つの国家しかなく、しかも大きな宇宙艦船が飛び交っている銀英伝世界においてはそれほど多い人数であるとも思われず、「たかが500〜1000」と帝国側が考えたとしても別におかしくないのでは?

 確かに250億人という人口から考えれば、1000人という数は大した事はないでしょうけど、それでも単純に考えれば1000人という数は大きく、前にも言った様に頻繁に見逃してしまうとなれば臨検する現場の人間が帝国の上層部から「平民どもが何人逃げようが痛痒など感じないが現場の責任は問わねばならない」という論法でいつかは責任を取らされるでしょうから、むしろ帝国の上層部よりも臨検を行う現場の人間が大量亡命の阻止に懸命だったかもしれません。

>また、これは以前にも言った事ですが、一回の航行で多くの亡命志望者達を乗せたほうがコストパフォーマンスも上昇し、乗せる側にとっても効率が良くなるという要素もあります。むしろ少ない人数の方が却って効率が悪く、亡命者輸送業者にとって大損になってしまう可能性が高いのではないでしょうか。

 いくらコストパフォーマンスを高めるためとはいえ、500〜1000人以上も乗せてはリスクが大きすぎるでしょう。せいぜい100人ぐらいなら利益も充分でしょうし、リスクもそこそこで済むでしょうから、乗せる側としては利益の際限ない拡大よりも、慎重に自らの保身を優先させたのでは?でなければ長い期間無事に亡命者運送業なんて商売を続けられるはずもありませんし。


No. 1054
Re1048:亡命にかかる時間とコストの問題
冒険風ライダー 2000/6/21 18:53:54
<確かに250億人という人口から考えれば、1000人という数は大した事はないでしょうけど、それでも単純に考えれば1000人という数は大きく、前にも言った様に頻繁に見逃してしまうとなれば臨検する現場の人間が帝国の上層部から「平民どもが何人逃げようが痛痒など感じないが現場の責任は問わねばならない」という論法でいつかは責任を取らされるでしょうから、むしろ帝国の上層部よりも臨検を行う現場の人間が大量亡命の阻止に懸命だったかもしれません。>

 中国などは日本に大量の不法入国者を送り込んでいる国のひとつですが、あの国が不法入国を斡旋している「蛇頭」などに対する取締りを本格的に行っているなどという話は聞いた事がありません。少数民族の反乱を弾圧したり、言論の自由が一切認められていないあの中国でさえこのありさまなのです。「蛇頭」が一体どれだけ多くの中国人たちを海外に脱出させているか、彼らが知らないはずがないにもかかわらずですよ?
 帝国の場合もこれと同じで、自分達に反抗するのであればともかく、ただ単に逃亡していくだけであるのならば、せいぜい表面に出てきた事件を摘発してある程度の示威行為を行うだけで、それほど厳しい監視の目を向けてはいなかったのではないでしょうか。10万人クラスの大量亡命でもあればさすがに本格的に摘発せざるをえないでしょうが、1000人なんて帝国の人口比率からすれば大した人数でもないのですし。
 それと「平民どもが何人逃げようが痛痒など感じないが現場の責任は問わねばならない」というのは意味がよく分かりません。帝国政府が大量亡命に何ら痛痒を感じないのであれば、そもそも現場の責任を問う必要性もまたなくなってしまうのではないかと思うのですけど、なぜこんな論法が出てくるのか説明していただけませんか?

<いくらコストパフォーマンスを高めるためとはいえ、500〜1000人以上も乗せてはリスクが大きすぎるでしょう。せいぜい100人ぐらいなら利益も充分でしょうし、リスクもそこそこで済むでしょうから、乗せる側としては利益の際限ない拡大よりも、慎重に自らの保身を優先させたのでは?でなければ長い期間無事に亡命者運送業なんて商売を続けられるはずもありませんし。>

 銀英伝世界においては、帝国から同盟まで移動するのにかかる時間が最低1ヶ月以上かかります。ということは亡命者輸送業者が亡命志望者を搭載して彼らを同盟に到着させるるまでにかかる時間は、往復で最低2ヶ月以上、場所によっては半年近くかかってしまう事もあるかもしれません。
 これから考えると、格安で亡命志望者を大量に輸送しようとするのであれば、むしろ一度の宇宙航行で最低500〜1000人程度は輸送していかないと却って亡命者輸送の過程で損害が出てしまう可能性がありますし、そもそも供給が需要に追いつかなる事態さえ起こりえます。そうなればただでさえ高い亡命費用がますます高騰し、一般の平民が同盟に亡命する事が全くできなくなってしまうかもしれないのです。これでは亡命者輸送業が全然商売にならなくなってしまいます。
 それに銀英伝の艦船事情からも、500〜1000人程度の人数を隠蔽することは技術的にそれほど困難なわけではないのですから、亡命者輸送業者達は採算性を取るためにも、むしろ積極的に大量亡命に荷担していったと考えるのが自然なのではないでしょうか。


銀英伝考察2−Bへ 銀英伝考察2−Dへ

トップページへ 考察シリーズ
全一覧ページへ
ザ・ベスト一覧へ