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反銀英伝・人物評論編
1−F

銀英伝・新キャラクター創出論(6)


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No. 3175
宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/10/30 02:59
 先の銀河帝国軍による自由惑星同盟侵略の試みは、バーミリオン星域会戦において、ヤン・ウェンリー元帥率いる同盟軍が帝国軍を打ち破ったことによって阻止された。自由惑星同盟国防委員会はその栄誉をたたえ、ヤン元帥を同盟軍最高司令官に任命するとともに、バーミリオン星域会戦に参加したすべての将兵の階級を1階級上げることをここに決定した。
 帝国の野望は阻止されたが、帝国による同盟再侵攻の危険性は未だ去っていない。しかし、悪逆非道なる帝国軍によるハイネセン市民の虐殺などの影響で同盟軍の有能なる指揮官の多くが失われた。そこで、生き残った将兵に新たな任務を与え、同盟軍を再建することを国防委員会は決定した。同盟軍兵士諸君は、新たな任務に邁進し、帝国の再侵攻に備えてもらいたい。
 また、ハイネセン市民の身代わりとして帝国軍の銃口に前に倒れたウォルター・アイランズ前国防委員長、アレクサンドル・ビュコック元帥、チャン・ウー・チェン元帥(死後2階級特進)には「自由戦士1等勲章」が授与される。
 旧銀河帝国正統政府軍兵士諸君はバーミリオン星域会戦における抜群の働きをここに評価し、正式に同盟市民権を付与するとともに同盟軍に編入されることが決定した。諸君には、新たに同盟軍における階級が付与されるであろう。
 なお、国防委員会はロックウェル大将およびベイ少将より提出されていた辞職願いをここに了承し、退役を許可する。

同盟軍の新たな陣容
同盟軍最高司令官(統合作戦本部長兼任) ヤン・ウェンリー元帥
最高司令官主席副官 フレデリカ・グリーンヒル中佐
最高司令官次席副官 ユリアン・ミンツ大尉
統合作戦本部長代理 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将
統合作戦本部長代理副官 ベルンハルト・フォン・シュナイダー少佐
宇宙艦隊司令長官 ダスティ・アッテンボロー大将
宇宙艦隊総参謀長 エドウィン・フィッシャー大将
宇宙艦隊空挺司令官 オリビエ・ポプラン大佐
陸戦総監兼首都防衛司令官 ワルター・フォン・シェーンコップ大将
憲兵総監 ムライ大将
後方勤務本部長 アレックス・キャゼルヌ大将
第13艦隊司令官 フョードル・パトリチェフ中将
最高評議会議長警護室長 バグダッシュ准将

               宇宙暦799年6月1日
      自由惑星同盟国防委員会委員長 ホワン・ルイ


No. 3176
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
僧侶T 2002/10/30 18:39
 僧侶Tです。バーミリオン戦勝後の軍高官人事ですか。面白いのですが、1人もれている人物がいます。「豪胆な偉丈夫」カールセン提督です。彼もバーミリオン星域会戦に生き残ったつわものの一人であるからには、何らかの職務が与えられるはずです。
 が、彼はバーミリオン星域会戦時には中将なので、昇進して大将。アッテンボローが分艦隊指令官だったのに対し、彼は艦隊指令官だったのですから、序列を優先するならば、彼が宇宙艦隊司令長官になるべきなのでしょうが、そうなるとアッテンボローの職がなくなります。アッテンボローが中将のままならば、彼が第13艦隊司令官になればよいのでしょうが、彼も大将なんですよね。多分どちらかが統合作戦本部幕僚総監になればいいのでしょうが、二人とも前線指揮官タイプの人ですし。
 でもまあ、序列と「ヤンファミリーによる軍の私物化」との批判を避けることが優先されて、
 統合作戦本部幕僚総監:アッテンボロー大将
 宇宙艦隊司令長官:カールセン大将
になるかと思います。


No. 3177
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/10/30 02:59
>  僧侶Tです。バーミリオン戦勝後の軍高官人事ですか。面白いのですが、1人もれている人物がいます。「豪胆な偉丈夫」カールセン提督です。彼もバーミリオン星域会戦に生き残ったつわものの一人であるからには、何らかの職務が与えられるはずです。
>  が、彼はバーミリオン星域会戦時には中将なので、昇進して大将。アッテンボローが分艦隊指令官だったのに対し、彼は艦隊指令官だったのですから、序列を優先するならば、彼が宇宙艦隊司令長官になるべきなのでしょうが、そうなるとアッテンボローの職がなくなります。アッテンボローが中将のままならば、彼が第13艦隊司令官になればよいのでしょうが、彼も大将なんですよね。多分どちらかが統合作戦本部幕僚総監になればいいのでしょうが、二人とも前線指揮官タイプの人ですし。
>  でもまあ、序列と「ヤンファミリーによる軍の私物化」との批判を避けることが優先されて、
>  統合作戦本部幕僚総監:アッテンボロー大将
>  宇宙艦隊司令長官:カールセン大将
> になるかと思います。

ヤンとしては、自分の後継者として、アッテンボローを戦略家として育てるという考え方があるでしょうから、上記のような人事になるでしょうね。

というわけで
 同盟軍の新たな陣容
同盟軍最高司令官(統合作戦本部長兼任) ヤン・ウェンリー元帥
最高司令官首席副官 フレデリカ・グリーンヒル中佐
最高司令官次席副官 ユリアン・ミンツ大尉
統合作戦本部長代理 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将
統合作戦本部長代理副官 ベルンハルト・フォン・シュナイダー少佐
統合作戦本部幕僚総監 ダスティ・アッテンボロー大将
宇宙艦隊司令長官 ラルフ・カールセン大将
宇宙艦隊司令長官副官 スーン・スール少佐(留任)
宇宙艦隊総参謀長 エドウィン・フィッシャー大将
宇宙艦隊空挺司令官 オリビエ・ポプラン大佐
陸戦総監兼首都防衛司令官 ワルター・フォン・シェーンコップ大将
憲兵総監 ムライ大将
後方勤務本部長 アレックス・キャゼルヌ大将
第13艦隊司令官 フョードル・パトリチェフ中将
最高評議会議長警護室長 バグダッシュ准将

ポプランがやりにくそうですが(笑)
スール少佐はハイネセンの虐殺で殺されている可能性もありますね。


No. 3179
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
僧侶T 2002/10/31 00:22
どうも、僧侶Tです。

> スール少佐はハイネセンの虐殺で殺されている可能性もありますね。

 スール少佐は「正史」ではヤン暗殺事件の際重傷を負い、意識を失ったところを死んだと誤解されて、唯一の現場生存者となりました。今回もそうすればいいのではないでしょうか。
 というわけで、あの「生き残ってしまったよ、たった一人だけ・・・」という台詞を聞くのは、ユリアンではなくてヤンになるでしょう。いや、本当に歴史の皮肉というやつでしょうか。
 それから、細かいことですがこのときまだ彼は「スールズカリッター少佐」ではないでしょうか。まあ、生き残った後で、故ビュコック元帥との思い出を記念して(?)改名した、とすればいいでしょうが。
 余談ですが、拙僧が銀英伝で一番心に残った台詞があのスール少佐の台詞でした。ちなみに、一番好きなシーンはヤンの死後、ムライ提督がイゼルローン要塞を離脱するシーン。


No. 3180
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/10/31 02:42
>  スール少佐は「正史」ではヤン暗殺事件の際重傷を負い、意識を失ったところを死んだと誤解されて、唯一の現場生存者となりました。今回もそうすればいいのではないでしょうか。
>  というわけで、あの「生き残ってしまったよ、たった一人だけ・・・」という台詞を聞くのは、ユリアンではなくてヤンになるでしょう。いや、本当に歴史の皮肉というやつでしょうか。
>  それから、細かいことですがこのときまだ彼は「スールズカリッター少佐」ではないでしょうか。まあ、生き残った後で、故ビュコック元帥との思い出を記念して(?)改名した、とすればいいでしょうが。
>  余談ですが、拙僧が銀英伝で一番心に残った台詞があのスール少佐の台詞でした。ちなみに、一番好きなシーンはヤンの死後、ムライ提督がイゼルローン要塞を離脱するシーン。

私はスール少佐は、帝国軍が撤退して、ヤン艦隊がハイネセンに到着するまでの同盟軍の責任者として生かされる(またはビュコックに託される)可能性が高いと思って、留任説をうちだしました。スール少佐は、ビュコックの副官になったときに、改名したと思っていたのですが、公文書にはスールズカリッターと記載されるかもしれませんね。
 私が一番好きなのは、マル・アデッタ星域会戦での「民主主義に乾杯!」の場面なのですが、この場面はロイエンタール、ミッターマイヤーが銃殺を執行する前に、言ったことにすればいいですね。

 私的にはこんな最後も考えているのですが。
 ビュコックの身柄を拘束しようと帝国軍の部隊がやって来た際、ビュコックは黙って出頭しようとしたが、一部の部下たちが彼の制止にもかかわらず、抵抗した。そのため、ビュコックともども部下の兵士たちも護送車で運ばれ、銃殺されることとなった。

 整然と四列にならんだ行列が、堂々とした老人に引率されて到着した。
 「これはいったい何なのか」
 ミッターマイヤー上級大将が部下に問いただした。
 「アレクサンドル・ビュコック元帥とその配下の兵士たちであります」
 部下の一人が言った。ミッターマイヤーはその名を思い出そうと努めていた。兵士たちはその間にすでに護送車に積み込まれ始めていた。
 「この人がビュコック元帥?同盟軍の宿将として数々の戦いに参加した」
 「そうだ。そのことが、なにか、この移送と関係があるのかね」
 「いや、しかし、卿の戦いぶりは見事だった。私は士官学校を卒業して以来、卿とは随分戦ってきたものだ」
 「・・・・・・」
 「あなたは乗らずにここに残ってもよろしい」
 「それで、兵士たちは?」
 「ああ、それは、不可能だ。彼らは帝国軍に公然と反抗した。ハイネセン市民の反抗を抑えるためにも一罰百戒の見本を見せなければならない」
 ビュコックが叫んだ。
 「あなたは間違っている!まず兵士たちを-」
 彼は自ら護送車へ入っていった。

 ポーランドの教育家、ヤヌス・コルチャックの最後をモデルにしました。


No. 3183
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
僧侶T 2002/10/31 23:51
> 私はスール少佐は、帝国軍が撤退して、ヤン艦隊がハイネセンに到着するまでの同盟軍の責任者として生かされる(またはビュコックに託される)可能性が高いと思って、留任説をうちだしました。

 「ロックウェル大将とベイ少将からの辞表を許可する」というからには2人とも生き残っているはずではないでしょうか。少佐では位階が低すぎて同盟軍の責任者になれないでしょうから、彼らが同盟軍の責任者になるはずです。そもそも、「ハイネセンの虐殺」はかなり発作的な行動なのだから、(だからこそ、指導層だけ抹殺するはずが虐殺になったのですし)帝国軍は後始末のことなど考えないと思います。

 スール少佐は、ビュコックの副官になったときに、改名したと思っていたのですが、公文書にはスールズカリッターと記載されるかもしれませんね。
 文庫版第5巻のP137には、「この戦い(第1次ランテマリオ星域会戦)のとき、まだ彼はまだスーン・スールズカリッター少佐である」との記述があります。


>  私が一番好きなのは、マル・アデッタ星域会戦での「民主主義に乾杯!」の場面なのですが、この場面はロイエンタール、ミッターマイヤーが銃殺を執行する前に、言ったことにすればいいですね。

 これを実現させるために少し考えてみました。
 宇宙艦隊司令部ビルに戻ったビュコックは部下たちから逃亡を進められたがそれを拒否し、逆に部下たちに逃亡するように命じた後、チュン大将とともに執務室へと引きこもった。部下たちの多くは命じられたとおり逃亡したが、スール少佐をはじめとする部下たちは玄関ロビーなどに陣取り、帝国軍を阻止しようと試みた。
 だが完全武装の陸戦部隊にかなうはずもなく、激しいが短く一方的な戦いの後、重傷を負い意識不明となったスール少佐を除いて全員戦死を遂げる。抵抗を排除した帝国軍はロイエンタール提督(別にミッターマイヤーやヒルダでもいいですが)を先頭に執務室へとなだれ込んだ。そこではビュコックとチュンが、泰然としてブランデーを酌み交わしていた・・・。
 といったところでしょうか。


>  私的にはこんな最後も考えているのですが。
>  ビュコックの身柄を拘束しようと帝国軍の部隊がやって来た際、ビュコックは黙って出頭しようとしたが、一部の部下たちが彼の制止にもかかわらず、抵抗した。そのため、ビュコックともども部下の兵士たちも護送車で運ばれ、銃殺されることとなった。
> (中略) >  ポーランドの教育家、ヤヌス・コルチャックの最後をモデルにしました。

 ハイネセンの虐殺は同盟の軍と指導層を抹殺するために行われたものである以上、たとえ一時でもビュコックを助けよう、といった話にはならないと思います。


No. 3186
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
八木あつし 2002/11/01 00:46
イッチーさん、大変面白く読ませていただきました。
上手く当てはまっているんですが、一部について言わせてもらいます。


> 声の主は、統合作戦本部長ワルター・フォン・シェーンコップ大将であった。彼は弾劾の暴風から最高司令官を守るように、暗殺者の前に立ちはだかって言明したのである。

シェーンコップは、さすがに統合作戦本部長にはなれないと思います。同盟軍陸戦部隊に所属している彼には、軍令の参謀部は畑違いのはずですから。シェーンコップが就任するのは、同盟軍陸戦総監(憲兵総監との兼務もあり)だと思います。
新たな統合作戦本部長には、ムライが就任すると思います。ただ同盟軍最高司令官にヤンが就いたため、事実上の本部長はヤンですから本部長代理もしくは本部次長かもしれません。


>「グリーンヒル中佐」
>「はい、閣下」
>「帰らないでほしい。ここにいてくれ」
>フレデリカは即答しなかった。自分の聴覚をうたがう思いが、潮のように胸に満ち、それが心臓の位置をこえたとき、彼女は、若い最高司令官と彼女自身が一定の方向へ踏み込んだことを知った。

小さいことですが、ここは「グリーンヒル中佐」ではなく「フレデリカ」だと私は思いました。あと「閣下」ではなく「あなた」だと。バーミリオン会戦前のプロポーズからかなり時間が経っていますし、ラインハルトとヒルダよりは仲は進んでいるでしょう。
最初の受け答えは公務の間柄で。次の受け答えでは、私的な間柄の言葉遣いを変化させた方が雰囲気が出てよろしいかと。

しかし、この時に子供が出来ちゃった展開は同じですね(バカ)


No. 3187, 3190
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/11/01 01:56
>  文庫版第5巻のP137には、「この戦い(第1次ランテマリオ星域会戦)のとき、まだ彼はまだスーン・スールズカリッター少佐である」との記述があります。

そうですか。それはうっかりしていました。


>  宇宙艦隊司令部ビルに戻ったビュコックは部下たちから逃亡を進められたがそれを拒否し、逆に部下たちに逃亡するように命じた後、チュン大将とともに執務室へと引きこもった。部下たちの多くは命じられたとおり逃亡したが、スール少佐をはじめとする部下たちは玄関ロビーなどに陣取り、帝国軍を阻止しようと試みた。
>  だが完全武装の陸戦部隊にかなうはずもなく、激しいが短く一方的な戦いの後、重傷を負い意識不明となったスール少佐を除いて全員戦死を遂げる。抵抗を排除した帝国軍はロイエンタール提督(別にミッターマイヤーやヒルダでもいいですが)を先頭に執務室へとなだれ込んだ。そこではビュコックとチュンが、泰然としてブランデーを酌み交わしていた・・・。
>  といったところでしょうか。

 そういったところが妥当だと思われます。ただ、部下の一部が激しい戦闘をしている中、のんきに酒盛りをしている二人とも思えませんので、こんな感じになるでしょうか。(先のロックウェルやベイの件ですが、私は八木さまと同じで逃亡すると思います)

 ラインハルト戦死の報が伝わると、ロイエンタールは同盟政府の閣僚と軍の高官の身柄を拘束し、銃殺するよう命じた。軍の一部は激昂し、ハイネセン市民の殺戮に走ったが、ロイエンタールもミッターマイヤーも積極的には止めようとせず、黙認した。
 ミッターマイヤーがビュコックとチェンらの身柄を拘束しようと同盟軍司令部に赴いたとき、スールズカリッター少佐率いる部隊の一部が激しく応戦した。しかし、応戦むなしく部隊の多くは戦死し、スール少佐も重傷を負って、意識を失って倒れた。
 「くそ!仲間の敵だ!」
 一人の兵士がスール少佐にとどめを刺そうとしたとき・・・。
 「やめてくれ・・・。私たちは逃げも隠れもしない。しかし、これ以上、部下の命を失うのだけはやめてくれ」現れたのはビュコック元帥だった。ミッターマイヤーは帝国軍兵士たちに攻撃の中止を命じた。
 「わしとチェン総参謀長は既に覚悟を決めておる。それにドーソン統合作戦本部長の3人が犠牲になれば、諸君の名目もたつじゃろう」
 「・・・」
 「しかし、条件が2つある。聞いてもらえるか」
 「条件によりますが」
 「1つは帝国軍による一般市民の殺戮を中止してもらいたいということ。軍の高官が責任をとる以上、一般市民を巻き込むことはないじゃろう」
 「・・・わかりました。確かに我々も無用な血は流したくない。各部隊に徹底させましょう」
 「そうか。そして、もう1つは・・・」
 「もう1つは?」
 「ウイスキーを1杯だけ飲ませてもらえないだろうか」
 「・・・?」
 怪訝な表情を浮かべながら、ミッターマイヤーがビュコックに後に続いて、司令長官室に入るとチェン総参謀長が1本のウイスキー瓶と2つの紙コップをかかげた。ビュコックは手を伸ばして、紙コップを受け取ると、悠然と乾杯のしぐさをしてみせた。
 「ビュコック提督。死にいたっても見事な態度。感服いたしました。出来れば、敵としてではなく、同じローエングラム候の臣下として卿とまみえたかった」
 「ローエングラム候・・・。わしは彼の才能と器量を高く評価していたつもりだ。孫を持つなら、彼のような人物を持ちたいものだ。だが、彼の臣下にはなれん」
 ビュコックは一口、ウイスキーを流し込むと、言葉を続けた。
 「なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、民主主義とは対等な友人をつくる思想であって、主従をつくる思想ではないからだ」
 ビュコックはさらにウイスキーを流し込んだ。
 「わしはよい友人がほしいし、誰かにとってよい友人でありたいと思う。だが、よい主君もよい臣下も持ちたいとは思わない。だからこそ、あなたとわしは同じ旗をあおぐことは出来なかったのだ」
 「・・・民主主義に乾杯!」
 総参謀長はコップを高く掲げると、彼もまたウイスキーを飲み干した。死を目前にして彼らは淡々とすらしていたが、老人の顔にやや照れくさげな評定がうかんでいた。柄にもない説教をしたといいたげであった。
 好意を拒絶されたにもかかわらず、ミッターマイヤーの心に怒りはなかった。わずかに存在したとしても、それを圧倒する別種の感情が、静かに、だが豊かに彼の精神の大地を浸しつつあった。つまるところ、みごとな死というものはみごとな生の帰結であって、いずれか一方だけが孤立することはないように思える。彼の主君であったローエングラム候もまたそうだったではないか。
 ビュコックとチェンは紙コップを机の上に置くと、敬礼の姿勢をとった。ミッターマイヤーは銃殺の合図をとった。彼の目の前に二人の同盟軍首脳はブラスターで全身を撃ち抜かれて、絶命した。

 スーン・スールズカリッター少佐が軍病院の一室で目を覚ましたのは、数日後のことであった。ベッドのそばには、若く美しい女性が立っていた。
 「帝国軍幕僚総監のヒルデガルド・フォン・マリーンドルフです。帝国軍は本日をもってハイネセンから撤退します。そのお知らせに参りました」
 「アレクサンドル・ビュコック元帥はどうなった!?」
 「元帥は・・・、ハイネセン市民の命の保証と引き換えに・・・お亡くなりになりました。立派なご最後でした・・・」
 「そうか・・・私だけが生き残ってしまったか・・・」
 「あなたにはヤン艦隊が帰還するまでの間、同盟軍の指揮をするという役目があります。おかしな考えをお持ちにならぬよう」
 「何を言う。私は一介の少佐だ。ほかにも高官はたくさんいるだろうに」
 「チェン中将はビュコック元帥と運命をともにされ、ドーソン元帥は自殺されました。他の高官は・・・行方不明です」
 「そうか・・・はは・・・情けないものだ」スール少佐は力なく笑った。
 「ビュコック元帥の副官であったあなたに同盟軍を託し、帝国軍は撤退します。同盟市民の安全を守るというのが、ビュコック元帥との約束でしたので、事後処理を終えた上で帝国軍は撤退したいと思います」ヒルダは敬礼した。「了解した」スール少佐も敬礼を返した。その日、帝国軍はハイネセンから撤退した。

 逃亡していた同盟軍の高官たちが姿を現したのは、ヤン艦隊が帰還した後であった。さすがに、周囲の非難に耐え切れなかったのか、ロックウェルとベイは辞表を提出した。
 生き残った同盟軍兵士たちに対して、むろんヤンは無原則に寛大であったわけではない。彼にとってその日最後の公務は、バーミリオン直後に逃亡した軍の高官たちを面接することであった。ヤン艦隊の主な幹部は市内の治安や任務引継ぎにあたっていたため、最高司令官の傍にある高級軍人は首席副官のグリーンヒル中佐とヤン艦隊到着までハイネセン警備にあたっていたスールズカリッター少佐だけであった。
 逃亡者たちに面接したヤンは、最初から侮蔑の意思をかくそうともしなかった。彼にしては珍しく、轟然と脚を組んで、ロックウェル元大将以下、11人の逃亡した士官を見下ろした。ぎこちなく敬礼した男たちに、氷点を下回る声を投じる。
 「諸君らのためにさく時間は、私には貴重すぎる。ひとつだけ聞いておこう。諸君らが逃亡をはかったとき、君たちの羞恥心はどの方角をむいていたのか」
 ロックウェル元大将は動揺と不安にサンドイッチされた顔をかろうじて若い最高司令官にむけたが静かな怒りに燃えた瞳に対抗するのは容易ではなかった。
 「我われが恥知らずな者どもだとおっしゃるのですか、閣下」
 「それ以外のことを言ったように聞こえたら、私の言い方が悪いのだろうな」
 「閣下のお側にいるスールズカリッター少佐にしても、ビュコック元帥をお守りできず、あまつさえ帝国軍に命を助けられ、その後も軍務を続けております。我われは既に責任をとって軍を退役しております。であれば我われにも寛大なご処置をたまわってもよいと思いますが」
 ヤンは冷笑で氷の竪琴をかきならした。
 「聞いたか、スールズカリッター少佐、このものたちは、自ら少佐の同類だと称しているぞ」
 「・・・まことに光栄のきわみ」
 少佐の水色の瞳が怒りの蒸気をたゆらせつつ逃亡者たちを直視した。彼はビュコック元帥から逃亡するよう求められても、ビュコックの側を離れず、死ぬ覚悟で彼の命を助けようとしたのだ。彼が未だに自殺せずにいるのは、ヤン艦隊までハイネセンの治安を守らねばならないという責任感からにほかならない。逃亡者たちから同類とみなされる不快感はたとえようもなかった。その表情を見やって、ヤンはうなずいてみせた。
 「よろしい、スールズカリッター少佐、私の心も君のそれにひとしい。本来、戦場の外で流血をなすのは君の本意ではあるまいが、とくに少佐に命じる、この薄汚い二本足のハイエナどもを処理して、せめて宇宙の一隅だけでも清潔にせよ」
 「は!この者たちを敵前逃亡および軍務放棄の容疑で軍法会議にかける。連行せよ!」
 最高司令官のことば半ばにして、すでに逃亡者たちは色を失っている。スールズカリッター少佐が片手をあげると、人の輪が11人の男たちの周囲に軍服の壁をつくった。
 「・・・法の保護を!」
 放った悲鳴はスールズカリッターの一喝にはじき返された。
 「前政権ならいざ知らず、トリューニヒト派が排除された今となっては裏切り者を保護すべき法はない。無益な哀願をするな」


No. 3191
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
八木あつし 2002/11/01 03:08
イッチーさん。ここまでいってしまうと、何か独裁者ヤンになってしまうような気が……。ヾ(;´▽`A``
私としてもヤン議長よりヤン総統を期待しているのですが、さすがに今回は設定が違うので。( ̄〜 ̄;)
ウ〜ン。ラインハルトと同じセリフではなく、もう少しヤンらしいセリフに変えてみたら良かったと思います。

あと実際問題として、トリューニヒト議長が出した停戦命令にロックウェル大将は従ったはずです。そしてビュコックは会議の場で地球教徒に防がれたものの、議長に対して実力行使に出ようとしました。ヤンは、命令を無視してラインハルトを倒しました。
結果論を考えずに原則論で考えれば、民主共和制軍隊の指揮官として、国民に選ばれた元首の命令に逆らったヤンとビュコックの方が問題があるとなります。無謀な侵略を行う訳ではなく、国民の生命を守るため停戦するという大義名分もあるからです。
その部分を隠すためにも、ロックウェル大将は哀れスケープゴートになってしまった……と考えても良いかも。これじゃあ、ますます独裁者ヤンだ(笑)


No. 3192
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/11/01 03:40
> イッチーさん。ここまでいってしまうと、何か独裁者ヤンになってしまうような気が……。ヾ(;´▽`A``
> 私としてもヤン議長よりヤン総統を期待しているのですが、さすがに今回は設定が違うので。( ̄〜 ̄;)
> ウ〜ン。ラインハルトと同じセリフではなく、もう少しヤンらしいセリフに変えてみたら良かったと思います。

まあ、それだけビュコックの死に直面したヤンの怒りが大きかったということで。(笑)実際には、ヤンは憲兵総監のムライ大将に「彼らのことは任せた」とか言って、終わりにしそうですが。(笑)


> あと実際問題として、トリューニヒト議長が出した停戦命令にロックウェル大将は従ったはずです。そしてビュコックは会議の場で地球教徒に防がれたものの、議長に対して実力行使に出ようとしました。ヤンは、命令を無視してラインハルトを倒しました。
> 結果論を考えずに原則論で考えれば、民主共和制軍隊の指揮官として、国民に選ばれた元首の命令に逆らったヤンとビュコックの方が問題があるとなります。無謀な侵略を行う訳ではなく、国民の生命を守るため停戦するという大義名分もあるからです。
> その部分を隠すためにも、ロックウェル大将は哀れスケープゴートになってしまった……と考えても良いかも。これじゃあ、ますます独裁者ヤンだ(笑)

この問題をどのようにヤンが解決したかについては同盟最高裁判例をご参照ください。(笑)

 ところで考えてみたら、ハイネセンに残留していたであろう同盟軍首脳で逃亡しそうもない人にパエッタ中将がいたんですよね。帝国軍撤退後の暫定的な司令官にはパエッタが就任する可能性が高いですね。ただ、帝国軍には同盟軍の序列とかはよくわからないでしょうから、ビュコックの副官だったスール少佐に事後処理を押し付けて撤退したということで。(笑)


No. 3193
自由惑星同盟最高裁判所判例
イッチー 2002/11/01 04:08
主文
 ヨブ・トリューニヒト・ジュニア氏による「無条件停戦命令を無視したヤン・ウェンリー元帥の行動は違法で無効であり、ジョアン・レベロ政権の成立、およびロックウェル元大将・ベイ元少将らに対しておこなわれた軍法会議も無効である」という訴えはこれを棄却する。

判決理由
 自由惑星同盟の主権を売り渡し、自らの安全をはかろうとする無条件降伏を同盟議会の同意も得ずして、おこなおうとしたトリューニヒト最高評議会議長の決定は、それ自体が同盟国民の権利を踏みにじり、同盟憲章の趣旨とは到底合致し得ないものである。ヤン・ウェンリー元帥の行為はこのような同盟国民の権利の侵害に対して、同盟憲章の抵抗権規定すなわち「同盟政府が人民の権利を不当に侵害した場合は、同盟国民はこれに抵抗することが出来る」という規定にのっとり、同盟国民の権利の回復につとめたものであって、同盟軍人として当然の行為である。そもそもトリューニヒト政権の無条件停戦命令は同盟議会の同意を得ておらず、合法性に問題がある。そのうえ、同盟国民全体の利益に反し、国家の主権を売り渡そうとしていた時点で、既にトリューニヒト政権の存在自体が合法性を失っていると見なさなければならない。よって、ジョアン・レベロ氏を議長とする新政権が樹立されたのは当然の結果であって、何ら問題はない。
 ロックウェル元大将、ベイ元少将らについては、同盟軍人として同盟国民の生命安全を守る責務を有し、悪逆非道なる帝国軍によるハイネセン市民虐殺に対しては身を呈して、これを防ぐ責任があったにもかかわらず、それを怠ったことは軍法会議にかけられても当然といわざるを得ない。トリューニヒト議長の無条件停戦命令に従っただけだという訴えにも一理あるが、彼らは同盟軍司令部からも逃亡し、ハイネセン・ポリス郊外で身を隠していたことが今日、明らかになっている。これだけでも、軍務放棄と見なされても致し方ないと思われる。よって、ヤン・ウェンリー元帥およびジョアン・レベロ議長による決定はすべて合法であり、いささかも覆されることは許されないのである。

             宇宙暦800年11月1日
     自由惑星同盟最高裁判所長官 ルイス・マックロイ

 まあ、権力を握ってしまえば、どうにでも正当化できるものです。(笑)


No. 3200
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
僧侶T 2002/11/02 01:41
 ロックウェルとベイは逃走ですか・・・。となると、ハイネセンの虐殺が起こった理由には、
 1、「解放者」ラインハルトの死の報に帝国軍の兵士や、下級幹部が理性を失った
 2、突発的に決められたことだったので、抹殺リストが整備されていなかった(だからレベロやルイといった重要政治家も、現在政府の公職についていないという理由だけで見逃された)
 のほかにも、3、軍・政府の幹部の多くが逃亡していたため、拘束に向かった帝国軍が逆上してしまった
 というものがあることになりますね。となると、結果的にせよ火に油を注いでしまったのですから、逃亡した政府の幹部は公職追放に、軍の幹部は軍事裁判にかけられても仕方ないですね。
 でも、ロックウェルはともかく議長警護室長のベイでさえ逃げられるのなら、トリューニヒトも逃げられるのではないか、と思えます。救国軍事会議のクーデターのときを思えば、トリューニヒトがおとなしく拘束されるまで待っているとは思えません。そこで、いくつかの説明を考えてみました。
 1・突然、使命感に目覚めて民衆を救うために自ら犠牲になった
 一番ありそうにない説。トリューニヒトの本質はエゴイストの怪物ですから、「私が犠牲になったからといって暴虐な帝国軍が虐殺をやめるわけがない」といって逃亡しそうです。
 2・いったんは逃亡したが、今回も頼ろうとした地球教に密告された
 地球教は救国軍事会議の際トリューニヒトを助け、今回のトリューニヒトの逆クーデターにも加担しています。しかし、地球教はこの前後、それまでの方針を変え、自らの武力をもっての宇宙再制覇へと方針を転換しています。武力育成の時間を稼ぐためには、帝国から疑惑の目を向けられるわけにはいきませんからこうするでしょう。
 この2にもそれなりの説得力がありますが、拙僧にとっての本命は次の3です。
 3・トリューニヒトが、ハイネセンの虐殺の犠牲者第1号であったことにする
 具体的には、
 まず、ハイネセンの衛星軌道上を制圧した帝国軍は、まさかと思いつつも同盟政府が救援要請を行えないよう通信封鎖を行っていた、ということにします。そのためにヤンが停戦命令を無視し、ラインハルトを戦死させたことは帝国軍しか知りえませんでした。帝国軍は、それを利用して報復のための同盟の政府、軍の指導部抹殺をたくらみます。
 「停戦命令にヤンが従ったことは確認された。われわれは、これから総司令官、ローエングラム公からの命令に従って同盟政府の降伏を受理し、それ以降、ハイネセンの治安を維持するために降陸を開始する」とでも命令文を送りつけ、軍・政府の首脳が安心してるところを急襲して一網打尽にしようとしたわけです。
 ・・・が、宇宙港に出迎えのため現れたトリューニヒトを、帝国軍の兵士の一人が「ローエングラム公の仇だ!」と叫んで射殺してしまいます。この報は、命からがら逃げ延びた随員の一人によって、トリューニヒトの逆クーデターにより、監禁されていた軍・政府の高官の元に届けられました。それによって、ヤンが停戦命令を無視したこと、帝国軍はその報復のため軍・政府の高官を抹殺しようとしている事を知った高官たちは、アイランズとドーソン、ビュコックほか数人を除いてすべて逃亡してしまいます。
 アイランズは自ら犠牲になるために、ドーソンは精神が崩壊したも同然になったために、自らそこに残りました。そしてビュコックは宇宙艦隊司令部に戻ると、中将以上の幹部たちにはこのままここにいて一般市民のために犠牲になることを求め、それ以下の部下たちには逃亡を勧めました。しかし、ロックウェル大将はそれに逆らって逃亡し、スールズカリッター少佐以下、少数の部下たちは逃亡の勧めを拒否し、ビュコックを守るために絶望的な先頭を挑むことを決意した。
 一方、計画が崩れ去った帝国軍は方向性を見失い、一般市民の虐殺に走っていた。このために軍・政府の高官のほとんどは逃亡し、「ハイネセンの虐殺」に被害者のほとんどが一般市民であるという結果を招くこととなる。
 と、こんなところでしょうか。3の欠点はトリューニヒトが射殺される際に、そばにつきしたがっていたであろうベイも一緒に射殺されるであろうことぐらいでしょうか。


No. 3201
Re:自由惑星同盟最高裁判所判例
僧侶T 2002/11/02 01:59
>  自由惑星同盟の主権を売り渡し、自らの安全をはかろうとする無条件降伏を同盟議会の同意も得ずして、おこなおうとしたトリューニヒト最高評議会議長の決定は、それ自体が同盟国民の権利を踏みにじり、同盟憲章の趣旨とは到底合致し得ないものである。

 それ以前に、無条件停戦命令は軍・政府の高官による国防調整会議においても賛成を得られなかったため、地球教徒の力を借りての逆クーデターを起こすことによってようやく出されたものです。(徳間文庫版第5巻P330〜334)である以上、
 「民主制の手続きを無視し、逆クーデターによって民主制を実質的に崩壊させた当時のトリューニヒト政権は、その存在それ自体が同盟憲章に違反していた。したがってその命令も無効である。ゆえに、ヤン提督は命令に違反したとはいえないし、本来無効である命令に従ったロックウェル大将らは、その不見識に対する批判と、無気力な行動に対する処罰とを甘受しなければならない」
 といった判決になると思います。


No. 3202
Re:宇宙暦799年6月1日付 自由惑星同盟国防委員会辞令
イッチー 2002/11/02 03:15
僧侶Tさんの3の設定が一番ありそうな「ハイネセンの虐殺」の過程だと思います。


> 3の欠点はトリューニヒトが射殺される際に、そばにつきしたがっていたであろうベイも一緒に射殺されるであろうことぐらいでしょうか。

警護室長はいつも議長の側にいるわけではないでしょう。いつも議長の側にいるのは部下のSPで、自分は執務室でふんぞり返っていると思います。3の場合、空港の入り口で帝国軍幹部と一緒に出てくるであろう議長を待っていたベイが、逃げ出してきた随員からことの顛末を聞き、無線または携帯電話で仲間の軍の高官に逃げるよう伝えて、自分も逃げたということにすればよいのではないでしょうか。(SPは全員殉職)


No. 3203
Re:自由惑星同盟最高裁判所判例
イッチー 2002/11/02 03:18
>  「民主制の手続きを無視し、逆クーデターによって民主制を実質的に崩壊させた当時のトリューニヒト政権は、その存在それ自体が同盟憲章に違反していた。したがってその命令も無効である。ゆえに、ヤン提督は命令に違反したとはいえないし、本来無効である命令に従ったロックウェル大将らは、その不見識に対する批判と、無気力な行動に対する処罰とを甘受しなければならない」

すばらしい文章ですね。こちらのほうが最高裁判決にふさわしいと思います。


No. 3204-3205
ハイネセンの虐殺、その後
イッチー 2002/11/02 03:50
 アレクサンドル・ビュコックとチャン・ウー・チェンがハイネセン市民の身代わりに帝国軍の銃口に倒れたとき、第一艦隊司令官パエッタ中将は市民の殺戮を食い止めるため、寡兵ながらも帝国軍に戦いを挑んでいた。パエッタは旗艦に攻撃を食らって重傷を負い、戦死を遂げるのは時間の問題だったが、ミッターマイヤー提督より市民の殺戮禁止の厳命が出たために帝国軍が攻撃を中止し、パエッタは死を免れた。視野の狭さをとかく指摘されるパエッタであったが、軍人という職務に対しては盲目的に忠実だったのである。
 パエッタのような例は同盟軍高官のなかでは特異なものである。高官の多くは同盟政府首脳とともに逃亡し、市民の安全のために立ち上がった者の多くはスールズカリッター少佐のような下級将校や名もなき兵士や警察官、そして中下級の官僚であった。
 ハイネセン首都政庁の参事官、ビジアス・アドーラは「ローエングラム公の復讐」を叫ぶ帝国軍兵士たちに対して、「ローエングラム公とは誰のことか。自由惑星同盟では人民は法の下に平等であり、公爵なる身分は存在しない。よって、我われはローエングラム公なる者の死の責任を問われる筋合いはない」と叫び、激昂する帝国軍兵士によって撲殺された。
 財政委員会事務局国庫課長のクロード・モンテイユは、財政委員会に侵入してきた帝国軍兵士の前に立ちふさがり、女性職員を裏口から逃がした。「私はじつのところこわい。生命が惜しい。しかし、ひとたび公僕となったからには市民の安全のために立ち上がらざるを得ない」と部下に語ったと伝えられている。彼は帝国軍兵士によって射殺された。
 最高評議会書記局の二等書記官グレアム・エバート・ノエルベーカーは最高評議会への帝国軍兵士の侵入を「自由惑星同盟の国民以外はこの建物に入る資格はない」と阻止しようとして、帝国軍兵士によって射殺された。

 後に報告を聞いたヤンは「りっぱな男たちだ。そのような者たちが中堅以下の地位にとどまっているようだから、同盟は今日のような危機を迎えたのだ。彼らの家族には十分な補償をしなくてはならないな」と述べた。実際、ハイネセンの虐殺の具体的な犠牲者リストが作成されてみると、被害者のほとんどが名もなき一般市民や警官・兵士であった。政府・軍の高官で被害者リストに載っているのは、トリューニヒト議長・アイランズ国防委員長・ドーソン統合作戦本部長・ビュコック宇宙艦隊司令長官・チェン宇宙艦隊参謀長ぐらいのものであった。同盟軍の高官にいたっては市民の代わりとなるため、中将以上は司令部に残るようビュコック元帥から厳命されていたにもかかわらず、パエッタ中将以外、逃亡するていたいらくであった。さすがに温厚で知られるヤン元帥もこの被害者リストを見たときには、厳しい表情をしていたと言われる。のちにユリアンは「私はヤン提督がここまで激しく怒った顔をみたことがなかった。それは心底からの情けなさとか弱い市民を見捨てて逃亡した軍首脳に対する憎悪がないまぜになっているように思われた」と回想している。  ヤンは「ビュコック元帥をお守り出来なかった」としてスールズカリッター少佐から提出されていた辞表の受け取りを拒否し、引き続き新任の宇宙艦隊司令長官の副官をつとめるよう命じた。「それがビュコック元帥の恩に報いる唯一の道だと思う」そう語るヤンの言葉にスールズカリッターは涙した。
 生き残った兵士たちに対して、ヤンは無原則に寛大であったわけではない。彼にとってその日最後の公務は、バーミリオン直後に逃亡し、その後退役を申し出た軍の高官たちを面接することであった。ヤン艦隊の幹部の多くが新たに同盟軍の要職に任命され、任務引継ぎに忙殺されていたため、ヤンの傍にある軍最高首脳は第一艦隊司令官の留任が決まったパエッタ中将だけであった。
 逃亡者たちに面接したヤンは、最初から侮蔑の意思を隠そうともせず、頭のベレー帽さえ脱ごうとはなく、逃亡した高官たちを見下した。ぎこちなく敬礼した男たちに、氷点をはるかに下まわる声を投じる。
 「私はこう見えても忙しい身でね。あなたがたに割く時間も実は惜しいのですよ。ひとつだけ聞いておきます。みなさんが逃亡をはかったとき、みなさんの羞恥心はどちらの方角を向いておられたのですか」
 ロックウェル大将は動揺と不安にサンドイッチされた顔をかろうじて若い最高司令官にむけたが、怒りに燃えるその瞳に対抗するのは容易ではなかった。
 「我われが恥知らずとでも言うのですか、元帥」
 「それ以外のことを言ったように聞こえたのなら、私の言い方が悪いのでしょうな」
 「元帥のお側に控えているパエッタ中将にしても、ハイネセンの虐殺を食い止められず、あまつさえ帝国軍に命を救われ、軍務を続けている。私たちは責任を感じて辞表を提出した。寛大な処置があってもいいと思うのだが」
 ヤンは冷笑で氷の竪琴をかきならした。
 「聞きましたか、パエッタ中将。このひとたちは自ら中将の同類だと称していますよ」
 「・・・まことに光栄のきわみだな」
 かねてより勇将の名をほしいままにし、ハイネセン市民の安全のために身を呈して戦ったパエッタが、今日までおめおめと生き続けたのは、ヤン艦隊到着までハイネセンの治安を維持するためにほかならなかった。逃亡者たちから同類とみなされる不快感はたとえようもない。その表情をみやって、ヤンはうなづいてみせた。
 「本来は憲兵総監のムライ大将の仕事なのでしょうが・・・。今回は同盟軍最高司令官として、このひとたちの処遇を中将に一任します」
 「うむ。敵前逃亡および軍務放棄の疑いでこのものたちを軍法会議にかける。連行せよ!」
 最高司令官のことば半ばにして、すでに逃亡者たちは色を失って立ち上がっている。パエッタが片手をあげると、人の輪が逃亡者たちの周囲に軍服の壁をつくった。
 「・・・法の保護を!」
 放った悲鳴はパエッタの一喝にはじきかえされた。
 「前政権ならいざ知らず、トリューニヒト派が排除された今となっては卑怯者を保護すべき法はない。無益な哀願をするな」


No. 3214
Re:ハイネセンの虐殺、その後
僧侶T 2002/11/02 22:37
>  「・・・法の保護を!」
>  放った悲鳴はパエッタの一喝にはじきかえされた。
>  「前政権ならいざ知らず、トリューニヒト派が排除された今となっては卑怯者を保護すべき法はない。無益な哀願をするな」

パエッタは、むしろトリューニヒトにおもねっていた人であったように記憶していますが。
 ・・・などという以前の問題として、そもそもラインハルトのために作られたエピソードを、ヤンのためのエピソードに作り変える、という試みがそもそも無茶だと思います。あれほどにも個性の異なる2人の立場は、入れ替えができるようなものとは思えません。この「ヤン卑怯者を裁く」のくだりは、無理に作ろうとすべきではない、と拙僧は思います。


No. 3218
Re:ハイネセンの虐殺、その後
イッチー 2002/11/03 01:48
> そもそもラインハルトのために作られたエピソードを、ヤンのためのエピソードに作り変える、という試みがそもそも無茶だと思います。あれほどにも個性の異なる2人の立場は、入れ替えができるようなものとは思えません。この「ヤン卑怯者を裁く」のくだりは、無理に作ろうとすべきではない、と拙僧は思います。

 ラインハルトのエピソードがどこまでヤンに当てはめることが出来るのか、という一種のお遊びなのですが、いけませんかね?(苦笑)


No. 3221
Re:ハイネセンの虐殺、その後
僧侶T 2002/11/03 19:46
>  ラインハルトのエピソードがどこまでヤンに当てはめることが出来るのか、という一種のお遊びなのですが、いけませんかね?(苦笑)

 いや、もちろん拙僧としても「お遊びだからだめだ」だなんて矛盾したことは言いませんが、先述したように、ヤンとラインハルトとはその個性が違いすぎるので、同じ状況におかれても、似たような行動をとるはずがないと思っています。
 ですから、「暗殺未遂事件」のときのような、彼らが受動的な立場に立っているエピソードならともかく、この「卑怯者を裁く」のような、能動的に動いているエピソードにおいては、台詞を少々変えるだけでなく、筋書き自体も大幅に変えなければならないだろう、と思っています。


No. 3226
Re:ハイネセンの虐殺、その後
八木あつし 2002/11/04 01:50
またも出遅れてしまいました。

今回のイッチーさんのIFに付いての感想を。
パエッタは最後までパエッタでいて欲しい、でした。
この場合は前に書かれたスールズカリッターの方が、話的にも合っていたと思います。
私は架空戦記やタイムマシンもので、歴史の改編に対する歴史の復元力という設定が好きなんです。
せっかく未来を変えようと思ったのに、最終的にはあまり変わらなかった。もしくは、結局元に戻ってしまった。
そのためパエッタ提督には、原作10巻と同じように運悪く死んでもらいたいなと思いました。


No. 3228
Re:ハイネセンの虐殺、その後
イッチー 2002/11/03 01:48
>僧侶Tさま
 ヤンだったら、「退役して責任をとったんだから、いいじゃないか。私にも責任があるし」というか、「憲兵総監のムライ大将に任せた」というかのどちらかでしょうね。ハイネセンの惨状を見たら、ヤンは自責の念にかられそうな気がします。内罰的な性格ですから。

>八木あつしさま
 銀英伝劇場版の「吾が征くは星の大海」について書き込んだとき、「パエッタは頑固だけれども、話のわかる、軍人として一本筋の通った人間だ」というレスが多かったような気がしたのですが、人によってパエッタ像というのは違うということがわかりました。少佐では階級が低すぎると思って、パエッタに代えてみたのですが、なかなかうまくいかないものですね。
 史実に似たような展開を考えると、オーベルシュタインの草刈に相当するハイネセンの虐殺で、パエッタは艦隊司令部にとどまって帝国軍に射殺されるというものでしょうか。


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