反銀英伝・思想批判編
5−A

ヤン・ウェンリーの軍事理論(1)

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board2 - No.1151

田中流安保論の欺瞞

投稿者:デスザウラー/平成の一軍人
2000年07月11日(火) 22時28分

 銀伝三巻において、ヤンはハイネセン召還される途中の艦内で、次のように論述しています。(p115)

1 国防には二種類の途がある。相手国より強大な軍備を保有することが、その一であり、その二は、平和的手段によって相手国を無害化することである。

2 前者は単純で、しかも権力者にとって魅力的な方法であるが、軍備の増強が経済発展と反比例の関係にあることは、近代社会が形成されて以来の法則である。自国の軍備増強は、相手国においても同様の事態をまねき、ついには経済と社会のいちじるしい軍事偏重の畸形化が極限に達し、国家そのものが崩壊する。こうして、国防の意思が国家を滅亡させるという、歴史上普遍的なアイロニーが生れる。

 これらは、近現代の安全保障及び経済を見る限り、全くの誤りといえます。
 極めて単純化されたモデル上でしか成立し得ない架空の現象を、あたかも普遍的かのごとく主張している。
 以下、詳述します。

1について
 このような主張は、均質なニ大国のみが存在するという、例えばゾイドや一年戦争後のガンダム・ワールド(地球連邦及びジオン共和国)といったような架空のモデル内においてのみ、成立します。
 実際の国際関係のモデルは、これほど単純ではありません。
 まず、国際関係は複数の主権国家によって構成されています。
 また、各構成国は、それぞれ国力も地政学的条件も国民性も程度の差はあれ、異なっていることが普通です(近代欧州ではまだこの差は小さいのですが、現代の極東では全然違います)。
 仮に対立関係にある二国中、一方当事国が数値的に相手を凌駕する軍事力を備えたとしても、相手国に更に有力な同盟国があれば、簡単にこの理論は覆されます。
 第一次大戦時、独の正面戦力は仏を凌駕するものでしたが、英・米・露という同盟国をえることで仏は独に対抗し得ました。
 次に、相手国を無害化し得る「平和的手段」が何であるか、具体論がない点が、非常にずる。
 まるで、日本社会党(現在の社民党も変わらない)の主張です。
 世界の革命化を公式のテーゼとする共産国のような、国にとっては資本主義国家からの「平和的手段」とは、まさに「反革命工作」に他ならず、秘密警察をもって阻止・弾圧されたのです。
 逆に、資本主義国家を弱体化せしめるための工作としては、常套化されて来ました。
 現在でも中国や北朝鮮では、日本や韓国に対して常にこの種の工作を継続しています。
 田中氏が自信をもってこの主張を為したのであれば、中国や北朝鮮を「無害化」する「平和的手段」が何であるかを明らかにする義務があります。
 近代以降の戦争を見ると、起きた戦争のの殆ど、いえ全ては平和的手段で回避できた可能性はありません。
 現代の国際社会よりも遥かに均質的な二〇世紀初頭の欧州ですら、第一次大戦は発生してしまった。
 多くの必然性の元で発生するのが戦争であり、「平和的手段」による国防などとは、作家の夢想論に過ぎません。

2について
 まず、「前者(相手国より強大な軍備を保有すること)は単純で、しかも権力者にとって魅力的な方法である」でありましょうか? 間違いです。
 軍事力の強化は、単純どころか非常に困難な作業であり、スターリンや金親子のような民意を殆ど無視できる独裁者であればあるいは正しい。
 しかし、曲がりなりにも議会政治の存在する国であれば、洋の東西を問わず、非常に難しい。
 まず、予算を獲得できない。
 日清戦争の後ですら、帝国議会は軍事予算の増額に非常な抵抗を示し、遂には官吏の俸給を一部返上し、更には皇室から御下賜金を頂いてようやく凌いだのです。
 総理を退任後、伊藤博文公爵は政友会を設立して自ら党首に着きますが、これは予算承認権を持つ議会を掌握しない限り、いかに元老であっても国政を動かし得ないということを学んだからでしょう。
 予算を獲得しても、これを効果的に使えるかがまた問題です。
 折角作った8・8艦隊を軍縮条約で自ら放棄した大正の海軍を見れば良く分る。
 軍備は作ることも去ることながら、維持するにも非常に金がかかり、為政者としてはできるならば程々にしておきたい問題です。
 特に田中氏の憎悪する日本の権力者は、戦後徹底して低関心を装って来ました。
 そんな金があるなら、選挙民の望む高速道路や土地改良に回す方が、権力者にとっては魅力的なオプションです。
 このように、軍事力の増強は、為政者にとっては必ずしも単純もなければ、魅力的でもありません。

 次いで、
「軍備の増強が経済発展と反比例の関係にあることは、近代社会が形成されて以来の法則である」
 こんな法則は、実在しません。
 軍備の増強が必ずしも経済発展にとってプラスにならないことは確かです。
しかし、では逆に軍縮が必ず経済発展にプラスする(反比例関係にある)とは限りません。
軍事的負担が軽くても経済が停滞し崩壊する国もあれば、逆の例もある。
冷戦期、ワルシャワ条約機構内のソ連以外の国々は、どれも同時代の日本より、
・国防費の対GNP比
・財政支出に占める国防予算の割合
・国防予算の絶対額
 が低かったのです。
これは、東欧諸国にとっては「軽い軍事負担が経済発展にプラスしなかった」と同時に、日本にとっては「軍事負担が(今日より)重くても、高度経済成長が可能であった」という史実を裏書しています。
経済発展は、非常に多くの条件によって左右されるものであって、他の条件を考慮しないで「軍備を増強すると必ず経済がダウンする」という主張は、歴史を知らぬ者の台詞です。

 経済と軍事の関係は、専門的な研究書が非常に少ないのですが、数少ない文献としては日本評論社の『防衛の経済学』(サンドラー、ハートレー共著)があります。
第八章の「経済成長と軍事支出」によれば、

目下の研究として言えるのはせいぜい『国防が成長に与える純効果は(大きくはないが)マイナスであると結論せざるを得ない。私たちの見解では、軍事への資源再配分は、経済成長への望ましい経路ではないという結論になる』(p222)つまり、「(大きくはないが)マイナスである」程度です。

 分りやすく言えば、五代君はセコムのホームセキュリティを導入しても破産しかねませんが、面堂終太郎はF15戦闘機やレオパルド2を装備した私設軍隊を維持しても屁でもないのと同じです。
 私の対論は「反比例に似た相関関係が存在する可能性はある。しかし、多くの要因に左右されるので時には全く当てはまらない結果も発生する」
 というものです。
「自国の軍備増強は、相手国においても同様の事態をまねき、ついには経済と社会のいちじるしい軍事偏重の畸形化が極限に達し、国家そのものが崩壊する」
 確かに、ソ連は極端な軍事優先の経済体制を抱えたまま崩壊しました。
同じ道を、今北朝鮮は辿ろうとしています。
しかし、軍事支出が膨大だったのは同時代の米国においても同じであり、ソ連と同時に米国も、またその同盟国であるNATO諸国も日本も、韓国も崩壊しなくてはなりません。
しかるに、全然そんな結果にはならなかった。
現代、IT革命の効果で空前絶後の好景気を博しているのは、一体どこの国でしょうか(一方で、軍産複合体が生き残りのために見境なしになっているのも事実ですが)。
一頃、韓国もIMFショックで経済が窒息寸前でしたが、これは韓国経済の後進的体質に原因があったからです。
 ソ連や北朝鮮が崩壊するのは、過大な軍事支出も去ることながら現実と乖離した計画経済故です。
後者がエイズであれば、前者はカリニ肺炎です。

「こうして、国防の意思が国家を滅亡させるという、歴史上普遍的なアイロニーが生れる」
 この仮説が正しければ、全ての地球上の国家は滅亡を免れないことになります。
 田中氏の大好きな中華人民共和国は、さしずめその最有力候補でしょう。
 しかし、歴代支那王朝を初め、カルタゴ、ローマ帝国、更には近代のオーストリア・ハンガリー帝国、ロシア帝国、南ベトナム、更にはソ連等、滅びた国々の滅亡した原因を具体的に検討して見れば、「国防の意思」故に滅亡した国がどれだけあるか、それによって田中氏の持論が正しいか、分かるでしょう。

収録投稿2件目
board2 - No.1176

Re: 田中流安保論の欺瞞

投稿者:celetaro
2000年07月15日(土) 22時01分

はじめまして。今日はじめてこんな濃いページがあるのを知りました。

>軍備の増強が経済発展と反比例の関係にあることは、近代社会が形成されて以来の法則である。

 これはあきらかに間違いです。
 軍備の増強が経済を発展させるという事実は存在します。
 それはいわゆるケインズの『有効需要の拡大』というやつです。
 現在の日本の状態のように供給は充分期待できるのに需要が満たされないばあい、公共事業に予算を投入して経済を上向きにするという方法があります。(現在の日本の場合、国の借金が多すぎるので、これをやってもうまくいきませんが)
 日本と違って国に大きな借金がない場合、公共事業の対象となるのは、高速道路の建設や図書館などの公共施設はもちろんのこと、民間の企業に資金をばらまき連鎖的に需要を拡大するなら、軍拡による軍需でもいいわけです。
 この場合軍拡をすればするほど、経済は上向きになり上昇していきます。
 では、旧日本軍のような軍拡がなぜ経済に悪い影響を与えたかというと、経済を発展させる基盤である民需を圧迫してしまったからです。軍部が社会において限られた労働力や生産の元になる資材をとってしまう、これでは需要が拡大しても経済は発展できません。いいかえれば、社会に労働力や資材が充分にある場合、軍拡によって経済は反比例ではなく比例して発展していきます。

収録投稿3件目
board2 - No.1177

Re: 田中流安保論の欺瞞

投稿者:新Q太郎
2000年07月16日(日) 02時38分

>  軍備の増強が経済を発展させるという事実は存在します。

第二次大戦後のアジアだけでも、目ざましい発展を遂げたのは台湾、韓国ですからね

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