銀英伝考察3-B

銀英伝の戦争概念を覆す「要塞」の脅威

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コンテンツの総収録投稿数626件の内、20~36件目の投稿を掲載

収録投稿20件目
board4 - No.1753

考察の考察(爆)

投稿者:Merkatz
2002年04月18日(木) 21時10分

これはまた凄い指摘ですね。
補給を考えなくてよい軍隊というのは、永久機関と同じ類いの発想ですから、
これが可能な存在というのは、銀英伝が前提にしている現在の兵法の延長線上というのを覆してしまいますね。

さて、大筋においては冒険風ライダーさんの精緻な論に納得しましたが、
工事などに関してはやはり無理があると思います。

[要塞が改造されなかった理由]

・同盟側(ガイエスブルグ要塞襲撃後)
第一に経済的問題。
アムリッツァ以後崩壊した軍の建て直しに手一杯な同盟が、
余計な工事に割く人員も金も無い。
本土防衛の任務のみなら、要塞を機動化しなくとも従来のヤン艦隊+イゼルローン要塞で果たせる。
(中立地帯のフェザーンを突破してくるなど慮外のこと)
第二に時期を外したこと。
移動要塞が真に必要なとき(すなわちアムリッツァ会戦時)、まだ技術は確立されておらず、
手法が帝国によって提示されたときは、同盟が帝国領を再侵攻する可能性はゼロであり、
移動要塞の必然性が無かった。

・同盟崩壊後(エル・ファシル政権時代)
またまた第一に経済的問題。
フェザーン独立商人を通じて金策に走っていたヤンや、
格段資源も無いエル・ファシル恒星系に、
大規模工事を行う経済力はない。
第二に戦略的見地から必要性が無いこと。
ヤンがイゼルローンに立て篭もることを選択したのは、
狭い回廊で数に勝る帝国軍に不利な戦いを強いるということにあった。
ゆえに要塞が移動する必要は無い。

さらに両方に共通な事項として、技術問題。
「実現可能であることが確認されているから、その分工期を短縮させることもできる」のは帝国のみ。
同盟はそれを見たというだけで、実際のノウハウを持っていない。
帝国から技術を盗みでもしない限り、工期は同じだけかかる。
それも技術レベルがまったく同等と仮定しての話であるから、
もし戦争による疲弊により技術レベルが下がっているなら、
帝国がやったより時間がかかる可能性すらある。
例えればフェラーリもトヨタも同じ自動車メーカーだからといって、
F1でいきなり参戦一年目のトヨタが、
ワールドチャンピオンをとることは不可能なのと同じ理屈である。

・帝国側(シャフトによる提案時)
ここでラインハルトが事の重大性に気づかなかったのはまったく指摘通り。
ガイエスブルグ、レンテンベルク、ガルミッシュなどの諸要塞をすべて移動要塞化し、
一つでイゼルローンを牽制しつつ、他でフェザーンを突破すれば、
同盟軍に為す術は無い。
史実のラグナロック作戦よりずっと少ない被害で同盟を占領できたであろう。

・同盟占領後(ルッツ要塞司令官時)
移動要塞の必要性が無い。
形式的には同盟は滅び、宇宙は新帝国の統一するところとなったのだから、
移動要塞で遠征する事態などあり得ない。
バーラトの和約以後、同盟は重武装を禁じられている。
姿をくらましたヤンが再びイゼルローンを占領するなど神でもなければ分からない。
フェザーン回廊-ウルヴァシーのラインで駐留軍も存在しており、
イゼルローンを緊急に移動要塞化する必要がない。

そして最大の懸案は敵の目の前で悠長に工事ができるかということ。
イゼルローン回廊では常に哨戒任務が行われていた。
(同盟・帝国双方)
ガイエスブルグ作戦の呼び水となったのも、哨戒任務中の帝国軍と交戦したことだった。
すなわち、イゼルローン要塞がどちらの手にあろうとも、
通常の哨戒任務で様子を窺うことは常に行われており、
大規模な外装工事を始めれば確実にばれてしまうだろう。
窺うといっても別に艦隊が要塞に接近する必要は無い。
無人の強行偵察艦で遠距離から撮影すればよい。
現在のスパイ衛星すら、地表の一円玉を見つけられるというのだから、
この時代の偵察用カメラなら、要塞外装で工事が行われているかいないかくらいの判断はつくだろう。

・・・とまあ主に二点について考察してみました。
移動要塞を作らなかったヤンやラインハルトは間抜けかという点は、
シャフトに提案された時のラインハルトはそう言われても仕方ないが、
それ以外は必要性・緊急性が薄いのではないかということ。
敵の目の前で工事ができるかという点は、
偵察任務の艦隊が四六時中ウロウロしているのに完全に秘匿するのは不可能ではないかと。
しかしそうするとイゼルローン要塞が誕生しなくなる(笑)。

収録投稿21件目
board4 - No.1754

脱線です

投稿者:Merkatz
2002年04月18日(木) 21時35分

> ラインハルトについてはねぇー。
> 「人生とはなんぞや?」
> という問いと密接に結び付きますから。簡単に答えは出ないっすね。
> でも、だからと言って議論をやめてはいけない問題でもあります。
> え?
> このスレッドでやる問題じゃないって?
> まぁいいじゃないですか(笑)

(中略)

>
> さらに私の考えを言えば、人生とは「いかに楽しむか」であり、
> 「人は楽しむために生きる」
> んだと思います。
> もちろんこれは「アッハッハ」と笑う事だけじゃありませんよ。
> 夢をかなえたり、目標を達成したりという事もです。
> で、歴史って言うのは「人生」だと思ってます。
> いろんな考えがぶつかったり、楽しかったり悲しかったり。
> そう思ったとき、やっぱ歴史にはシンカイみたいな人がいるよりは、ラインハルトのようなヒーローがいてくれたほうが、楽しいのでは?
> 「確かに効率はいいかもしれないが、卑怯な手を使った人」と、「効率はよくないが、ヒーローであった人」だったら、後者のほうが歴史に必要だ、と”私は”思います。
> これは結構重要な事ではないでしょうか?
> もちろん、「楽しい」という言葉をそのまま受け取られると困りますが。
> 「楽しい歴史を作り上げる」ということは、「生きること」に匹敵すると私は思います。
> どうですか?結構内面的に深い意味を帯びていると思いません?
> その意味って何か説明せよ、っていわれるとまだ自分でもまとまってないのでこまりますが(笑)
>
> 脱線してごめんなさい。
> 要塞に関しては前半のところまでで。

tinaさん、はじめまして。

言いたいことよく分かります。
私も歴史が好きなのは、そういう人間臭さとも言うべき部分に惹かれての事ですから。(^^)
もうまったく理屈で考えると、ラインハルトのやったことは愚行でしかないと言われれば、
はいその通りですと肯くしかない。
でもやっぱり全否定はしたくないんですよね。
秦檜の選択はまったく正しかった。現実主義でつけいる隙が無い。
対して岳飛は空想的だ。軍事ロマンチシズムだ。
でもやっぱり、歴史が秦檜だけだったら?
歴史のページのどこをめくっても秦檜だけだったら、
そんな歴史は面白いだろうか?血肉の通ったものと感じられるだろうか?
色々な人間がいて、色々な悲喜劇が繰り返されるからこそ、歴史というのは興味が尽きないのではないかと、私は思っています。

まあ人物評価というのは、ほんと万人を納得させるものは無理ではないかと。
人によって物差しが違いますし、その各々の物差しも、
きちんとした基準に沿って行われているので、善悪二元論みたいな単純な比較もできませんし。
(冒険風ライダーさんのラインハルトへの評価も、私は正当であると思っています)
だからあっちが間違っていて、こっちが正しいとかではなく、
当てる光の角度によってまったく違った影ができてしまう歴史の奥深さみたいなものを、感じ取れればいいんじゃないかなと。

私も何が言いたかったのか、訳が分からなくなってきましたが。(^^;;

収録投稿22件目
board4 - No.1755

Re1749/1751/1752:今回は短レス

投稿者:冒険風ライダー
2002年04月19日(金) 01時08分

>tinaさん
 要塞関連の議論に関しては、次の投稿でMerkatzさんのNo.1753に対する反論という形で返答するという形を取らせて頂きますので、しばらくお待ちください。アレにきちんとした反論を行なうには色々考えなければならないですし、内容も結構長くなりそうなので。
 それと、後半部分の「泣き言」に等しい書き込みに関しては、私は一切取り合うつもりはありません。私の主張に対する明確な理論を伴った反論となっていない単なる個人的な感情論でしかない以上、それはあなたが「個人的に」胸の中に抱いていれば良いだけの話でしかありませんので。

>テム太郎さん
 Tomoさんの真意がどのようなものかは今のところ分かりませんが、とりあえずご説明ありがとうございます。
 ただ、どういうものなのかが具体的に分からないのでは、どう議論するにせよ結構きついですね。銀英伝でも「星間物質」に関する記述は、銀英伝1巻序盤にある「長征一万光年」の記述の中にしかありませんでしたし。

>KURさん
<あーーーー。どうして話がすれ違うのかわかりました。
すいません、説明不足でしたが私は「在日米軍基地内に居住する米国民間人」の話をしていたんです。
将兵の家族とか、軍に委託された民間施設の勤務者とか、
故郷を遠くはなれて異国の軍事基地に居住する人たちのことです。>

 それでは話が噛み合うはずもないですね。私が提唱していた問題は「ヤンがイゼルローン要塞の独裁権力者になりおおせているがために、イゼルローン住民の『地方選挙権』と『地方自治の権利』が失われてしまっている」というものだったのですから、「イゼルローンは在日米軍基地によく似ている」と言われた時、私は「在日米軍基地が存在する町民ないしは都市住民の『地方選挙権』の有無」のことかと解釈していましてね。「何でこんな簡単なことが分からないんだ? まさか在日米軍基地が日本の地方自治権を剥奪しているとでも言うのか?」と考えてしまいましたよ。

 まあそれはさておき、今度こそKURさんの意図に基づいた回答を致しますと、これまた言うまでもないことですが、在日米軍基地に在住しているアメリカ兵の家族には、日本国籍を保有していない限りは、当然ながら外国である日本の国政に参加する権利は一切存在しません。ただし、彼らがアメリカ国籍を保有している場合、アメリカ本国の国政に参加する権利は当然認められます。
 国外に移住している人が本国の選挙に参加できる制度としては「在外選挙制度」と呼ばれるものがあります。これは本国の国籍を保有する海外在住者が、予め「在外選挙人名簿」に登録しておくことで、選挙の際には在外公館などで在外投票を行うことができる制度です。日本では1999年5月より衆参両議院選挙のみに限定してこの制度が導入され、海外在住者も本国の国政に参加することができるようになっています。
 アメリカでは日本よりも早くこの制度が導入されており、在外選挙はすでに定着しているものであるそうなので、在日米軍の軍人および家族はこれを使って本国の国政に参加しているのではないでしょうか。

 しかしこれって、私が問題にしている件のイゼルローン要塞の内部事情とはあまり関係がないようにしか思えないのですけどね。私が問題にしているのはあくまでもイゼルローン住民が持つべき「地方自治権」および「地方選挙権」についてですし、そもそもヤンが統治していた当時のイゼルローン要塞は、歴史が浅いとは言えれっきとした同盟領土であって、決して同盟国外に存在していたわけではありません。国外に在住している人に「現地の地方選挙権」が存在しないのはむしろ当然のことで(その国に帰化して国籍を獲得すれば話は別ですが)、元から在住している人のそれと同一に見ることはできないと思うのですが。

収録投稿23件目
board4 - No.1759

Re:考察の考察(爆)

投稿者:倉本
2002年04月19日(金) 09時27分

> しかしそうするとイゼルローン要塞が誕生しなくなる(笑)。

イゼルローン要塞は完成に予定より多くの予算と長い期間がかかったはずです。
これは同盟軍による妨害があったからと考えてはどうでしょう。
予算と工期の算出に同盟軍が妨害するということを計算に入れてなかった。
だから予定より長引いて予算も膨らんでしまった。
銀英伝の帝国貴族ならありえそうなミスだと思いませんか。

収録投稿24件目
board4 - No.1762

Re:Re1749/1751/1752:今回は短レス

投稿者:tina
2002年04月20日(土) 00時06分

>  それと、後半部分の「泣き言」に等しい書き込みに関しては、私は一切取り合うつもりはありません。私の主張に対する明確な理論を伴った反論となっていない単なる個人的な感情論でしかない以上、それはあなたが「個人的に」胸の中に抱いていれば良いだけの話でしかありませんので。

うわー、感じ悪・・・。(笑)
さて、「取り合うつもりは無い」と書かれたのでそうそう突っ込んだ議論は書きません。
ただ一つだけ。このレスだけの話ではなく、「考察シリーズ」とかも読んでみて総じて思ったことを書きますので、まぁ読んでみてください。

結局このラインハルトの問題って、「感情と理性」っていう問題を大きくはらんでるじゃないですか。
ラインハルトに限らず、歴史上の議論になってる問題って、突き詰めてゆけばこれですよね。
で、理論って言うのは「理性側」に依存していることでしょ?
例えば大きく分けて、「感情尊重側」と「理性尊重側」がいたとします。
いくら「感情側」が理論武装したとしたって、「感情」を「理性」で説明せよって言われても無理なように、やっぱりどこかで不整合ができてしまう。
結局、「明快な根拠にもとずく理論」という、完全に「理性側」の土俵で争っているわけで、これでは「感情側」の出る幕は無い。
反対に、「感情側」の土俵で争ったとして、「それは感情的に間違っているからおかしい」などといえば、すぐに「ただのワガママ」といわれてしまうわけです。

つまり何がいいたいのかというと、「理性」で「感情」を説明することも、「感情」で「理性」を感じることも、非常に難しいという事はみんなわかっている訳です。
だから、「理性」と「感情」の折り合いを見つけ、相対的に両方の立場を踏まえて議論をしていこう、という流れになるのが賢いありようというものであります。
それを冒険風ライダーさんは、「理論的に叩き潰した」だの、「全否定した」だのと勝ち誇り、感情側を「明快な理論を伴わない感情論」として一蹴する。
非常に滑稽だと思います。

人間は感情を抜きにしては生きられません。
逆に、理性を抜きにしても生きられません。
「そんなことはわかっている。」
そう、みんなわかっているのです。
それでもその折り合いが見つけられずに、我々の祖先たちは苦しみ、悩みつつ、その中で歴史を作ってきたのです。
「全否定」できるような問題だったら、答えは等に定まっている。
滑稽な態度は、自分だけでなく、これまで悩みぬいてきた全ての人類に失礼だと思いますよ。

突っ込んだことを書かない、とか言いながら長くなってしまいました。(笑)
駄文ですいません。
どうでしょう?

収録投稿25件目
board4 - No.1763

Re:移動要塞建設の問題点

投稿者:平松重之
2002年04月20日(土) 01時50分

<工事に必要な技術要員の調達に関しても、軍の工兵だけでなく民間人からもエンジン整備が可能な技術者を徴用するなりすれば、10万人ぐらいは問題なく揃えることができるでしょう。全く同じ条件ないしはそれ以上の人員を揃えて突貫工事を行っていけば、ガイエスブルクのときと同様ないしはそれ以下の工期で改造工事を終わらせることも可能です。>
<加えて、ガイエスブルク移動要塞改造の時は、それが技術的に可能であることがまだ「理論上証明されただけ」で、実行過程では様々な事態を想定して色々な回り道をしなければならなかったことにも留意する必要があるでしょう。それ以降はすでに実際的に実現可能であることが確認されているのですから、その分工期を短縮させることもできるのではないでしょうか。>

 あまり要塞の工事に技術者を振り向けると、一方で駐留艦隊の修理・整備がおろそかになってしまうのでは?要塞の工事と艦の修理・整備を並行して行なえば時間か仕事の質かどちらかを犠牲にしなければなりません。突貫工事で移動要塞が完成しても、それを守備する機動力の状態が著しく悪いままでは勝算は少ないでしょうし、そういった状態をいつまでもラインハルトが座視する訳はないと思うのですが。

<また、要塞にエンジンを設置する工事については、せっかくケンプがその身を犠牲にして実証してくれたガイエスブルク移動要塞の戦訓を生かさない手はないでしょう。すなわち、要塞移動時はエンジンを外部に出して推進させながら、停止時には要塞外壁の内部にエンジンを格納できるようにする工事も同時に行い、移動要塞の致命的な弱点となるであろうエンジンを要塞外壁で防御できるように要塞改造を行うのです。アニメ版の流体金属外壁であれば浮遊砲台が外壁の中から現れてくる描写があったくらいですから話は簡単でしょうし、四重複合装甲の外壁であっても似たようなシステムで砲台を守ってはいるでしょうから、それを応用した工事を行えば、エンジン格納工事もそれほど難しくはなさそうに思えるのですけどね。>

 それでも、やはり通常要塞との防御力への将兵の信頼の差は大きいのではないかと。例えエンジンを格納すれば防御的には問題なしと技術的に保証されたとしても、ガイエスブルクの悲劇的な最後と言う生々しい前例がある以上、将兵達の心理的抵抗は大きいでしょう。
 将兵達は義務ある軍人たる自分達だけならともかく、家族までも移動要塞に乗せるのは断固反対するのでは?

<それと情報漏洩に関しても、何年単位にも上る長期的な情報封鎖ならばともかく、せいぜい2~3ヶ月程度の間であれば、イゼルローン回廊全域を全面立入禁止宙域に指定したり、緘口令を布いたり、様々な情報操作などを行ったりしていけば、イゼルローン要塞内にスパイでもいない限りはイゼルローン回廊の内情を外部から隠蔽するなど容易なことでしょう(しかもこれらは戦時には常識的に行われていることです)。そもそも、敵が軍を率いてイゼルローン回廊に到達するだけで、宇宙航行の事情から約1ヶ月ほどは確実にかかるので、事前の防御も容易なものですよ。これもそれほど重大な脅威とまで言われるほどのものでもないかと。>

 Merkatzさんからもご指摘がありましたが、無人の強行偵察艦で遠距離から要塞外部を撮影されれば早い時期に露見してしまうのでは?要塞外部での工事はやはり隠蔽は難しいでしょう。

 ちなみに星間物質については、2巻のP187にも記載があり、バサード・ラム・ジェットエンジンは「前方に巨大なバスケット型の磁場を投射し、イオン化されて荷電した星間物質をからめとる」とあります。
星間物質は9割が水素原子ないし水素分子で、残り1割のほとんどはヘリウム原子と言われているとかいう話を何かの本で読んだ様な…。

収録投稿26件目
board4 - No.1764

Re1753:移動要塞の諸問題について

投稿者:冒険風ライダー
2002年04月20日(土) 02時12分

 今回は少し順不同で引用レスをつけていきます。
 まずは技術問題と工事の問題から始めましょうか。

>技術問題
<「実現可能であることが確認されているから、その分工期を短縮させることもできる」のは帝国のみ。
同盟はそれを見たというだけで、実際のノウハウを持っていない。
帝国から技術を盗みでもしない限り、工期は同じだけかかる。
それも技術レベルがまったく同等と仮定しての話であるから、
もし戦争による疲弊により技術レベルが下がっているなら、
帝国がやったより時間がかかる可能性すらある。
例えればフェラーリもトヨタも同じ自動車メーカーだからといって、
F1でいきなり参戦一年目のトヨタが、
ワールドチャンピオンをとることは不可能なのと同じ理屈である。>

 技術的な問題に関してはあまり考慮する必要性はないでしょう。銀英伝考察3本編でも述べた通り、移動要塞に必要な技術とは「要塞にワープエンジンと通常航行用エンジンをそれぞれ12個ずつ円状に設置し、全てを同時に稼動させる」だけのものでしかありませんし、銀英伝3巻でヤンがケンプの「要塞特攻」を、通常航行用エンジン一基を破壊することで止めたという描写は、ヤンが「移動要塞技術」の基本原理と弱点に気づいていたことを何よりも雄弁に証明するものです。しかも要塞に輪状に設置してあるワープエンジンと通常航行用エンジン自体も別に特殊な技術で開発された特注品というわけでもなく、それまでに存在した既存のエンジンを使用しただけのものでしかないのです。
 さらに、移動要塞改造工事に際して、工事の総指揮に当たっていたのはケンプとミュラーであり、ラインハルトやヒルダが「ケンプは良くやっている」などと述べている辺り(銀英伝3巻 P98~99)、軍事司令官の指揮が工事の精度を左右していることを伺わせます。ならば彼ら以上に移動要塞技術に理解と指揮官としての力量とを併せ持つヤンが工事の総指揮に当たれば、更なる工事の精度の向上と工期の短縮が容易に実現しえるはずでしょう。
 ついでに言うと、これは多分に銀英伝描写の矛盾ではないかと私は思うのですが、銀英伝3巻のガイエスブルク改造工事が2ヶ月かかったというのも、実際には工事が命令されてから、オーディンからガイエスブルク要塞のある星系まで技術者が移動しなければならず、さらに最終ワープ実験が行われた3月17日までに、今度はガイエスブルク要塞をヴァルハラ星系外縁部まで持ってこなければならないという宇宙航行事情が存在するため、実際にガイエスブルク要塞改造に費やした工期は2ヶ月よりも短くなければならないのです。そしてオーディンからガイエスブルクまで移動するのにかかる時間は片道で通常20日、いくら急いでも14~15日はかかってしまいますので、実際に要塞改造工事が行われた期間は、オーディン-ガイエスブルクの「往復航行時間」を差し引いた1ヶ月以下にまで下がってしまうのです。2月下旬頃から3月17日までの最後の20日ほどにはすでに工事自体は終了しており、ガイエスブルク要塞は最終確認テストを何度も行いながらヴァルハラ星系外縁部へと向かっていたというのが実情でしょう。
 以上のことから、移動要塞を改造するに際し、工期についても技術に関しても何ら問題は生じないと思われます。

>工事秘匿の問題
<そして最大の懸案は敵の目の前で悠長に工事ができるかということ。
イゼルローン回廊では常に哨戒任務が行われていた。
(同盟・帝国双方)
ガイエスブルグ作戦の呼び水となったのも、哨戒任務中の帝国軍と交戦したことだった。
すなわち、イゼルローン要塞がどちらの手にあろうとも、
通常の哨戒任務で様子を窺うことは常に行われており、
大規模な外装工事を始めれば確実にばれてしまうだろう。
窺うといっても別に艦隊が要塞に接近する必要は無い。
無人の強行偵察艦で遠距離から撮影すればよい。
現在のスパイ衛星すら、地表の一円玉を見つけられるというのだから、
この時代の偵察用カメラなら、要塞外装で工事が行われているかいないかくらいの判断はつくだろう。>

 失礼ながら、上記発言は宇宙空間におけるイゼルローン要塞の大きさと、銀英伝世界における索敵・哨戒事情に対する認識不足を露呈した意見であると私は考えます。
 まず前者ですが、イゼルローン要塞の直径は約60kmで、これは確かに銀英伝世界では一番大きな要塞となっているわけですが、宇宙空間における惑星として見ると、これがまたどうしようもないほどに小さな存在でしかないのです。
 その参考として太陽系内に存在する主な惑星の赤道直径を挙げてみますと、

太陽  ―→ 約140万km
水星  ―→ 4878km
金星  ―→ 1万2103km
地球  ―→ 1万2756km
月   ―→ 3476km
火星  ―→ 6786km
木星  ―→ 14万2984km
土星  ―→ 12万0536km
天王星 ―→ 5万1118km
海王星 ―→ 4万9528km
冥王星 ―→ 2284km

 となっており、どれもイゼルローン要塞の何十~何百倍もの大きさを誇っています。
 また、火星と木星の間には、太陽系誕生の際にできた小さな欠片と言われている「小惑星帯」と呼ばれるものがありますが、この小惑星帯にさえ、イゼルローン要塞以上の大きさを持つ小惑星はたくさん存在するのです(小惑星の赤道直径の平均はだいたい100km前後。大きいものになると1000km近くも存在するものがあります)。宇宙空間の広大さの前では、イゼルローン要塞といえども芥子粒並に小さな存在でしかありえないのです。
 さらにこれに追い討ちをかけるのが、後者の銀英伝世界における索敵・哨戒事情です。銀英伝世界の単位で言えば、哨戒部隊が敵を探知できる範囲はせいぜい500~1000光秒の間が限界で、それ以上遠方の敵を探知・目視できるような技術などそもそも最初から存在しないのです。もし仮にそんなものがあったならば、銀英伝3巻冒頭にあった帝国軍と同盟軍との接近遭遇戦はありえなかったでしょう。むしろ、宇宙空間の感覚で言えば、いくら哨戒部隊といえども、たかだか500~1000光秒程度の距離しか見ることができないからこそ、あのような接近遭遇戦が発生したと考えるのが自然です。
 これではイゼルローン要塞が存在するアルテナ星系にまで進出し、さらに奥深くまで近づかければ、敵側はイゼルローン要塞を目視することすら不可能でしょう。Merkatzさんが主張している「無人の強行偵察艦で遠距離から撮影すればよい」という構想は成立のしようがありませんし、逆に防御側は宇宙空間の広大さを利用することで、星系内の事情を隠蔽することが容易に行えるわけです。
 以上のことから、要塞内部にスパイでも存在するか、敵がよほど味方の本拠地に接近してこない限りは、星系内における要塞の大規模工事を外部から隠蔽することも極めて容易な話であると思われます。また、イゼルローン要塞の建造に関しても、そのような事情があったからこそ建造可能となったのではないでしょうか。

 上記の前提を踏まえて、要塞を建造する時期に関する話題に移りますが、

>同盟側(ガイエスブルグ要塞襲撃後)
>同盟占領後(ルッツ要塞司令官時)

↑の2つに関しては私も同意しますし、

>帝国側(シャフトによる提案時)

↑に関しては私も同じ考えを持っていましたので、特に議論すべきこともないでしょう。
 時期的に私が問題だと思うのは、

>同盟崩壊後(エル・ファシル政権時代)

↑これなんですよね。この時期こそ、ヤンは移動要塞の驚くべき戦術的・戦略的価値を徹底的に活用すべきだったし、またラインハルト側も、あくまで短期決戦を行いたいのであればこの技術を見直すべきだったのです。
 まずヤン側ですが、そもそもあの当時のヤンにとってイゼルローン要塞に立て籠もって戦うことは必ずしも最善の選択ではなかったと、銀英伝考察3で引用した「共和革命戦略」とやらを語るくだりでヤン自身が明言しています。そうであるなら、移動要塞技術を駆使して「共和革命戦略」を行うという「最善の選択」を捨ててまで「次善の策」に固執しなければならない理由などどこにも存在しないでしょう。前述した時間的・技術的・秘匿などの問題が解決できるのであればなおのことです。
 また経済的な問題に関しても、一時的に大量の国債を発行して当座を凌ぎ、大戦果を挙げた上でフェザーン商人達の協力を仰ぐといった方法も使えたはずでしょう。それどころか、あの当時におけるエル・ファシル独立政府の実力と可能性が未知数であったことを考えれば、ただひたすらイゼルローン要塞に立て籠もって逼塞しているよりも、こちらの方がはるかにフェザーン商人の損得勘定に訴えることができる理に適った方法です。
 そもそも単純に考えてみても、移動要塞技術を使えば、バーミリオンの前哨戦でヤンが駆使した「正規軍によるゲリラ戦」の戦術が、より完璧な形で実現させることが可能となるではありませんか。それをひたすら駆使して帝国軍を奔走させ、補給の負担に悲鳴を上げるまで戦い続ければ、ヤンが望んだであろう帝国との和平も自分達に極めて有利な形で締結することすらもできたかもしれないのです。すくなくとも「イゼルローン回廊にひたすら立て籠もってラインハルトの個人的感情に訴える」などという、あまりにも愚劣な希望的観測に頼るよりははるかにマシな選択ではありませんか。
 結局、ヤンには移動要塞を使わなければならなかった必要性と緊急性があったにもかかわらず、ヤンもまたラインハルトと同様に、「無限の自給自足能力と強大な戦闘能力を持つ要塞」が「移動できる」事実が持つ驚異的な潜在的能力に全く気づくことがなかったわけです。「回廊の戦い」のような極めて愚かしい「子供の戦争ごっこ」は、まさにそれゆえに生まれたと言っても過言ではなかったでしょう。
 これから考えると、移動要塞の潜在的脅威に気づかなかったヤンの責任は、極めて重大であったと言わざるをえません。

 そしてヤンによるイゼルローン再占領後の帝国ですが、もしあくまでヤンがイゼルローン要塞を動かすことなく籠城戦を行う構えを見せ続けるのであれば、その時こそラインハルトは、以前に自分で考案した「要塞特攻」を敢行するべきだったのではないのですか? まあ実際には同盟領内に要塞は存在しないので、銀英伝考察3で私が提唱した「要塞特攻」の応用戦術「小惑星特攻」を行うということになるわけですが。
 慣性航行による「小惑星特攻」でイゼルローン要塞を完全破壊し、ヤンが拠って立つ補給基地を消滅させてしまえば、放っておいてもヤンは自滅してしまったはずでしょう。「短期決戦による銀河統一」というラインハルトの夢も、これで完璧にかなえられることになりますし、「戦争キチガイ」よろしくヤンとの戦いを求め続けて将兵を無為に戦没させていくよりもはるかにまともな選択肢と言えるではありませんか。しかもこちらはヤン以上に条件は恵まれていたのですし、そもそもラインハルト自身が過去に「要塞を無力化させるためなら、要塞に要塞をぶつけて破壊しても良かったのだ」と明言していたはずなのですけどね。
 これでも、イゼルローンを再占領された立場に置かれて以降のラインハルトに、移動要塞の存在意義を顧みる必要性はなかったと言えるのですか?

収録投稿27件目
board4 - No.1767

個人的見解

投稿者:本ページ管理人
2002年04月20日(土) 23時50分

> うわー、感じ悪・・・。(笑)
> さて、「取り合うつもりは無い」と書かれたのでそうそう突っ込んだ議論は書きません。
> ただ一つだけ。このレスだけの話ではなく、「考察シリーズ」とかも読んでみて総じて思ったことを書きますので、まぁ読んでみてください。
> で、理論って言うのは「理性側」に依存していることでしょ?
> 例えば大きく分けて、「感情尊重側」と「理性尊重側」がいたとします。
> いくら「感情側」が理論武装したとしたって、「感情」を「理性」で説明せよって言われても無理なように、やっぱりどこかで不整合ができてしまう。
> 結局、「明快な根拠にもとずく理論」という、完全に「理性側」の土俵で争っているわけで、これでは「感情側」の出る幕は無い。
> それを冒険風ライダーさんは、「理論的に叩き潰した」だの、「全否定した」だのと勝ち誇り、感情側を「明快な理論を伴わない感情論」として一蹴する。
> 非常に滑稽だと思います。

理論だけで推し量れない感情が社会ひいては歴史に与える影響は大きいものがあります。社会や歴史が人間の集合体である以上は当然のことでしょう。

ですが、論として語る場合には理論で語るのは当然でしょう。
でなければ、たとえば極端な話、tinaさんの論に対して「うわ、何このtinaって奴、キモ」という感情「論」もアリになってしまいますよ。
人間は不条理な感情で動くものですが、その不条理さが社会や歴史に与えた影響を「理性的に」考察し、位置づける事が論の役割だと私は思います。

収録投稿28件目
board4 - No.1769

ヤンには移動要塞化できない理由がある

投稿者:テム太郎
2002年04月21日(日) 10時28分

冒険風ライダーさんの考察でなるほどなと思ってたんですが、私としては1つ腑に落ちないところがあります。
私としてはたとえ移動要塞化についてヤンが思いついていたとしても実行できないと考えます。
なぜか?それはヤンが「国家の存続」より「個人の自由・権利・生命・財産」の方が大事と考えてるからです。
要塞を恒星間移動させるにはワープさせる必要があります。
まさにここが問題なのです。
イゼルローン要塞には民間人もいます。そして、その中に何十万という人口がいる以上妊婦がいない訳がありません。
ポプランとかシェーンコップみたいなやつがいるんですよ!妊婦がいない訳ないじゃないですか!
どういう訳かこの時代でも避妊についての完璧な防護策はないようです。(カリンの存在がそれを証明している)
銀英伝の中ではワープ航法は妊婦?かもしくは胎児?に悪影響があると書いてありましたよね。(この辺記憶があいまい)
ということはイゼルローン要塞に住んでいる妊婦さんは、イゼルローン要塞が移動することはもちろんイゼルローンから出ることもできません(正確には宇宙船での恒星間移動ができない)。
話のエピソードの中で子供を生んだ直後の女性ばかりを乗せた船のエピソードはあったような気がしますが、妊婦が移動したというエピソードってありませんでしたよね?(これも記憶があいまい)
「イゼルローン要塞がワープするので母体or胎児に影響があります。妊婦の方はすみやかに降ろしてください。」という命令はヤンの性格では絶対にできない。
個人の、しかも民間人の自由・生命を政治的に奪うことになるからです。
もしこういう命令をヤンがしたとすれば、そのときからヤンの名声にはキズがつき、将兵がヤンに対する信頼を失墜させ、戦闘において大切な士気を落とすことになりかねません。
妊婦だけをその宙域に残すという手もありますが、宇宙の只中に移動もできない宇宙船がぽつんと1つ置き去りにされるという状況を民間人が許すでしょうか?
安全にワープ航法をするためにはイゼルローンに住む人に対してワープを行う11ヶ月ぐらいまえから「性行為を行う場合は完全に避妊しなければならない。もし妊娠しても軍は一切の責任を負わない」という法律?(規則?)を作らないといけません。
多分この法案?は内部から瓦解して成立できないでしょう。
銀英伝本編で行われた選択肢もある以上、この方策は取らなかったとも考えられます。
ヤンが民間人を犠牲にしてもイゼルローン要塞ワープを実施すべきだったと主張はできると思いますが、それをやったらヤン=ウェンリーじゃありません。
この時点までにヤンについてオーベルシュタイン的一面を多少なりとも書いてあれば「あり」だったかもしれませんが、ヤンの性格をそういう人ではないと書いてしまっている以上、明らかに性格とは反する行動を取ることになってしまいます。
セルバンデスの時代からキャラクターには性格があるのですからその性格に基づく行動じゃないと変になっちゃいます。
読者のヤンに対する信頼も失墜して5巻以降の売上が激減してたかもしれません。
やっぱ何だかんだいってもいろんな人の生活もかかってる商売ですから、作者みずから読者を決定的に裏切る展開にはできないでしょう!
と、私は考えますがいかがでしょう。
自分自身ではこの意見に対するいい反論が思いつきませんので、冒険風ライダーさんをはじめ皆さんの知恵でこの意見を打ち負かしてください!

でも、自分で言ってて疑問に思うことが1つ。エルファシルに妊婦はいなかったのかな・・・?

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board4 - No.1771

Re1762/1763/1769:マルチレス

投稿者:冒険風ライダー
2002年04月21日(日) 16時12分

>tinaさん
<つまり何がいいたいのかというと、「理性」で「感情」を説明することも、「感情」で「理性」を感じることも、非常に難しいという事はみんなわかっている訳です。
だから、「理性」と「感情」の折り合いを見つけ、相対的に両方の立場を踏まえて議論をしていこう、という流れになるのが賢いありようというものであります。
それを冒険風ライダーさんは、「理論的に叩き潰した」だの、「全否定した」だのと勝ち誇り、感情側を「明快な理論を伴わない感情論」として一蹴する。
非常に滑稽だと思います。>

 あのですね、銀英伝におけるヤンやラインハルトに見られる思想や行動原理のどこに「『理性』と『感情』の折り合いをつけている部分」が存在するのですか? 「より最善の方法を模索する」という「理性的な考え」を完全に放棄してしまい、「個人的な欲求を満たしたい」いう「感情論『だけ』」で「しなくても良かったはず」の戦争を頻発させ、しかもそれによって大量の将兵を「戦略的・政治的に見てもその必要がなかったにもかかわらず」戦没させてしまうという、彼らが全否定していたはずのゴールデンバウム王朝や門閥貴族らと全く同じことを「結果的に」行っていたという自己矛盾にまで陥っていたヤンやラインハルトの行動は、「『理性』と『感情』の折り合いをつける」という観点から見ても充分過ぎるほどの大問題と言えるのではないのですか?
 ましてや、ヤンやラインハルトには、将兵の犠牲を最小限に抑えて最大効率を上げるための作戦を遂行し、国民の平和と安全を守る立場と責任が存在したはずでしょう。その重大な責務を担うはずの戦争指導者が、自らの個人的感情や意地・プライドに基づいて無意味な戦いを頻発させ、将兵を無為に殺したり、国家を破滅させたりして良いわけがありません。それによって麾下の将兵や国民がどれほどまでに塗炭の苦しみを味わうことになるか、まさか理解できないわけではないでしょう。
 国家や軍の最高責任者が自らの個人的感情を最優先させて無用の犠牲を増やすことは、その責任論から言っても「愚行」を通り越して「悪行」ですらあります。そして政治というものはあくまでも「結果」のみが評価されるものですし、またそうあるべきものなのです。ヤンとラインハルトの「愚劣な子供同士の戦争ごっこ」はその基準から著しく反していたのですから、他者からどのようにボロカスに言われても仕方ありますまい。

 それとですね、人間が個人的にどのような思想や感情を抱いていようがそれ自体は個人の自由というものでしょうが、それを基に論文を公開の場で発表したり、他人と議論したりする時には、自分の言動に対する責任を取り、反対の意見を持つ人達の主張に対してすくなくともまともに対抗できる程度の「理論」を展開することが当然要求されます。
 そのような発言の場で、相手の主張に対抗できるだけの検証や反論を行うことなく「ロクな理論的根拠を持たない感情論」を唱えている者は、他者から「泣き言を並べている」などと言われても文句は言えないのですよ。公式の場における議論のルールや発言の責任とはそういうものなのです。
 もし、あくまで私の主張が不当であると思い、その主張を叩き潰したいと考えるのであれば、それこそ「ヤンやラインハルトが作中で取った行動にそれなりの理性的・感情的な整合性があった」ことを「明快な根拠」と「理論的説得力を伴った反論」で証明してみて下さい。それもできないでただ「泣き言」を並べているだけの人間と議論をするつもりなど私には毛頭ありません。
 最初のtinaさんの投稿には、すくなくとも内容の説得力はともかく「相手の主張に対して理論的に反論しよう」という姿勢自体は垣間見えることができたからこそ、私も議論に応じていたのですけどね~。

>平松さん
<あまり要塞の工事に技術者を振り向けると、一方で駐留艦隊の修理・整備がおろそかになってしまうのでは?要塞の工事と艦の修理・整備を並行して行なえば時間か仕事の質かどちらかを犠牲にしなければなりません。突貫工事で移動要塞が完成しても、それを守備する機動力の状態が著しく悪いままでは勝算は少ないでしょうし、そういった状態をいつまでもラインハルトが座視する訳はないと思うのですが。>

 まず移動要塞改造工事を突貫で行った後に、艦艇の修理・整備を行えば良いだけなのではありませんか? 移動要塞の改造さえ行ってしまえば、艦艇の修理・整備など、イゼルローン要塞内にある整備工場を駆使して、いつでもいくらでも行うことが可能なのですから。
 こんなものは懸念材料でも何でもないと思いますが。

<それでも、やはり通常要塞との防御力への将兵の信頼の差は大きいのではないかと。例えエンジンを格納すれば防御的には問題なしと技術的に保証されたとしても、ガイエスブルクの悲劇的な最後と言う生々しい前例がある以上、将兵達の心理的抵抗は大きいでしょう。
 将兵達は義務ある軍人たる自分達だけならともかく、家族までも移動要塞に乗せるのは断固反対するのでは?>

 は? ガイエスブルク移動要塞が持っていた致命的弱点を技術的に完全解決できることが立証されるのに、なぜ将兵達の移動要塞に対する心理的抵抗が問題になるのですか? 要塞外壁に対する将兵の信頼感は要塞主砲クラスの脅威でもない限り絶対のものですし、それ以上にヤンの指揮に対する絶対的かつ崇拝的な信頼というものも存在するでしょうに。一度移動要塞を短距離ワープでもさせて安全を実証してしまえば、将兵の心理的抵抗など問題にならないレベルまで雲散霧消してしまうことでしょうよ。
 しかも、要塞外部に家族を置けば、家族を外部の敵に攻撃・虐殺されたり人質に取られたりする可能性が多分に存在するのに対して(敵が将兵の家族の身元を確認して人質に取ってしまうなど容易なことです)、要塞都市の安全は余程の事態でも起こらない限りこれまた絶対のものですし、前線の将兵達にとって、常に家族と一緒に過ごせる環境は大変貴重なものです。一般将兵達にとっては、そちらの懸念と利益の方が、「安全が実証された移動要塞に対する不安」などよりもはるかに重大なものと認識されるようにすら見えるのですが。

>テム太郎さん
<イゼルローン要塞には民間人もいます。そして、その中に何十万という人口がいる以上妊婦がいない訳がありません。
ポプランとかシェーンコップみたいなやつがいるんですよ!妊婦がいない訳ないじゃないですか!
どういう訳かこの時代でも避妊についての完璧な防護策はないようです。(カリンの存在がそれを証明している)
銀英伝の中ではワープ航法は妊婦?かもしくは胎児?に悪影響があると書いてありましたよね。(この辺記憶があいまい)
ということはイゼルローン要塞に住んでいる妊婦さんは、イゼルローン要塞が移動することはもちろんイゼルローンから出ることもできません(正確には宇宙船での恒星間移動ができない)。
話のエピソードの中で子供を生んだ直後の女性ばかりを乗せた船のエピソードはあったような気がしますが、妊婦が移動したというエピソードってありませんでしたよね?(これも記憶があいまい)
「イゼルローン要塞がワープするので母体or胎児に影響があります。妊婦の方はすみやかに降ろしてください。」という命令はヤンの性格では絶対にできない。
個人の、しかも民間人の自由・生命を政治的に奪うことになるからです。
もしこういう命令をヤンがしたとすれば、そのときからヤンの名声にはキズがつき、将兵がヤンに対する信頼を失墜させ、戦闘において大切な士気を落とすことになりかねません。>

<ヤンが民間人を犠牲にしてもイゼルローン要塞ワープを実施すべきだったと主張はできると思いますが、それをやったらヤン=ウェンリーじゃありません。
この時点までにヤンについてオーベルシュタイン的一面を多少なりとも書いてあれば「あり」だったかもしれませんが、ヤンの性格をそういう人ではないと書いてしまっている以上、明らかに性格とは反する行動を取ることになってしまいます。>

 残念ですが、銀英伝でこの論法が成立する余地は一切存在しませんね。というのも、銀英伝5巻のイゼルローン要塞放棄の際、ヤンは要塞に居住する全ての将兵と民間人を引き連れて脱出を行っていたからです。
 将兵と民間人を合わせて500万人も存在すれば、イゼルローン要塞脱出の時点で妊娠中だった女性がひとりも存在しないわけがないでしょう。現に戦艦ユリシーズには、出産後とは言え600人もの乳児と母親が医師や看護婦と共に搭乗していたのですから(銀英伝5巻 P58)、それよりも遅れた出産直前とか妊娠3~8ヶ月ほどの妊婦が一切存在しなかったとは全く考えられません。
 にもかかわらず、ヤンはワープ航法が妊婦と胎児に与える悪影響を充分に承知・認識していながら、帝国軍のフェザーン&同盟領内侵攻に呼応して行われた「緊急的かつ受動的な脱出作戦」という、妊婦全員を出産させる時間的余裕のない状況下で、妊婦の出産事情を何ら考慮することなくイゼルローン要塞放棄と脱出を行っていたわけなのですから、これはヤンがイゼルローン要塞放棄と妊婦&胎児の生命を天秤にかけ、前者に軍配を上げていた何よりの証拠でしょう(ちなみにその判断は正しかったと私も考えています)。
 しかも移動要塞戦術を行う際には、イゼルローン要塞放棄と違って時間的・行動的な自由がある程度は存在するわけなのですから、事前の対策を練ることも容易に行うことができます(これに関しては下で後述)。過去の自分の「前科」を無視し、「事前の対策措置」を取ることなく、ヤンが「妊婦と胎児の生命」を根拠にイゼルローン要塞改造を決断しないのは、第一に怠慢であり、第二にとんでもない偽善行為そのものではありませんか。

<妊婦だけをその宙域に残すという手もありますが、宇宙の只中に移動もできない宇宙船がぽつんと1つ置き去りにされるという状況を民間人が許すでしょうか?
安全にワープ航法をするためにはイゼルローンに住む人に対してワープを行う11ヶ月ぐらいまえから「性行為を行う場合は完全に避妊しなければならない。もし妊娠しても軍は一切の責任を負わない」という法律?(規則?)を作らないといけません。
多分この法案?は内部から瓦解して成立できないでしょう。>

 ↑これって軍の中では何ら非常識な法律ではないのですけどね。性病対策の観点から、軍が将兵の性行為に関する規則を作成したり、慰安所の設置を設けたりするのは常識ですし、イゼルローン要塞内部の男性の大半が軍に所属しているわけでしょう。上記のような法律ないしは軍規を徹底させるのは別に難しいことでも何でもないことのように思えるのですけど。
 もし何らかの事情でどうしても出産しなければならない事情が存在するというのであれば、どこか適当な惑星に近づき、ワープを使わない宇宙船を使って妊婦を下ろし、民間の産婦人科の病院などで安全に出産させた後、また改めて要塞に搭乗させるといった処置を「特例で」認めてやれば良いだけの話でしかありません。
 上記に見られるような対策措置を事前に行うことが可能である以上、要塞内に居住する妊婦&胎児の存在は、移動要塞戦術を実行するに際して何ら障害となることはありえないのです。

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board4 - No.1772

Re:Re1753:移動要塞の諸問題について

投稿者:Merkatz
2002年04月21日(日) 22時54分

> >技術問題

「技術」という言葉を使っていますが、ちょっと不適切だったかもしれません。
運用面でのノウハウ、それが兵器としての機能を果たすための信頼性とでも言えばいいのでしょうか。
例えば稼働率と言いますよね。どんなに強力な新兵器でも、稼働率が低ければ役に立ちません。
ですから現場の兵士には実績の無い新兵器より、信頼性の高い旧兵器が好まれるという傾向があります。
こういう部分を指して「技術」と称したんですが、やや混乱させてしまったようです。

おっしゃる通り、シャフトの提案はハードウェア面で革新的技術は要りません。
だからハードウェアについては同盟側もほぼハンディキャップは無いでしょう。
しかし、運用面は?
12基のワープエンジンの完全な同調から始まって、安全・確実にワープできることや、通常航行の安定性など、検証すべきことはたくさんあります。
ガイエスブルグ作戦で行われた工事とは、もちろんエンジンを取り付けるという物理的作業(ハードウェア)もあるでしょうが、
果たして理屈どおり動くのかという検証実験(ソフトウェア)の方がウェイトが高かったのではないでしょうか。

日本の工業製品について思い浮かべれば分かりやすいでしょう。
メイドインジャパンが優れていると評される所以は、故障しないことにあります。
それはハードウェア的優秀さのみから生まれるものではありません。
ユーザーからの意見を聞いたり、生産ラインの改善、部品の厳しい選別など、そういうソフトウェア的な部分によって実現されています。
そういったものも含めての技術立国であることは誰しも認めるところです。

このことを示す発言をラインハルトはしています。
「・・・・・・この計画の困難は発案より実行にあるのだ。」(3巻、98P)
兵器が兵器として機能するためのノウハウの蓄積。
これが同盟側に欠けていることが私の指摘する「技術問題」なのです。

>ついでに言うと、これは多分に銀英伝描写の矛盾・・・・・・(中略)・・・・・・
>工期についても技術に関しても何ら問題は生じないと思われます。

実はこの指摘は冒険風ライダーさんにとってはついでであっても、
私にとってはすごく重要な点なんです。
実質工期が1ヶ月以下だとしたら、いったい検証実験はどのくらい費やされたのか?
一週間や二週間のテストで、戦場で故障も無く動いたというのは驚異的です。
(実験環境より戦場の方が過酷な動作環境であることは言うまでも無い)
私から見ればこちらの方が「大きな穴」ですね。(^^;;

> >工事秘匿の問題

銀英伝における偵察の描写があったかどうか、記憶が定かではなかったのでアニメ版を思い浮かべながら書いたんですが、
原作の相当部分を探してみてびっくりしました。
ほとんど偵察に関する描写が無いんです。
かろうじてバーミリオン会戦時に「先行偵察衛星からの映像と哨戒小集団からの報告」という表現がありました。(5巻、176P)
一応アニメ版ですと、無人の強行偵察艦や強行偵察用スパルタニアンというものが出てきます。

さて、実在の惑星との比較をしてもらって、イゼルローン要塞が意外と小さいものだとは分かりました。
しかし、小さいから隠蔽可能などというのなら、艦船はどうなります?
最大の大きさの旗艦レベルで全長1000m程度です。
索敵だけで戦争が終わるという間抜けな話になりませんか?
広大な宇宙空間に比べれば、豆粒以下でしかない艦船でも、きちんと相手を見つけられるのですから、
艦船よりはるかに巨大な人工天体が見つけられないということはあり得ないでしょう。
ましてやイゼルローン要塞は場所が分かっているのです。
原作の記述に従うなら、先行偵察衛星を飛ばしてイゼルローン要塞を撮影させればいい。
映像は超高速通信で送ればよいから、衛星本体を回収する必要も無い。
哨戒部隊が目視できる距離まで近づく必要はありません。

さらに要塞の工事が簡単に隠蔽できるのなら、以下のラインハルトの発言と矛盾します。
「構想としては悪くないが、成功するにはひとつ条件が必要だな」
「それは?」
「わが軍がそれを構築する間、同盟軍の奴らがだまってそれを見物し、けっして妨害しない、という条件だ」(3巻、41P)
つまり、索敵技術としてその程度は確立しているということです。

>  上記の前提を踏まえて、要塞を建造する時期に関する話題に移りますが、
>

これはもう技術と工事(隠蔽)に対する評価が私と冒険風ライダーさんとで180度違うのですから、
自ずと結論も変わってくるわけです。
冒険風ライダーさんから見れば、簡単にできる事をしなかったから馬鹿だということになり、
私から見れば、ハードルが高いから無理をしてまでやるべきことではないとなる。
ということで、移動要塞を作らなかったヤンやラインハルトは間抜けかという点に関しては、いったん保留ということでよろしいでしょうか?

>  そしてヤンによるイゼルローン再占領後の帝国ですが、
(中略)
>  これでも、イゼルローンを再占領された立場に置かれて以降のラインハルトに、
>移動要塞の存在意義を顧みる必要性はなかったと言えるのですか?

私の考察ではこのパターンが抜けていましたね。
帝国側(ヤンによるイゼルローン再占領後)ですが、これは冒険風ライダーさんに同意です。
ガイエスブルグの実績があるのですから、小惑星特攻くらい簡単でしょう。
もっともそれだと見せ場も無く物語りが終わってしまう(笑)。

ちょっと思ったんですが、移動要塞って本当に無敵なんでしょうか?
例えば移動中に捕捉されたら?
周りに障害物の無い空間で、10万隻くらいの艦艇に取り囲まれたら、
いかに強固な防御力といえども、もたないような気がします。
なぜなら、過去に幾度か要塞主砲の死角から、火力をもって外壁に穴をうがつという戦法を同盟軍は披露しており(第6次イゼルローン攻防戦のホーランドなど)、
もし艦隊を展開するに何の制約も無い空間なら、数個艦隊で一点集中砲火も可能かと思います。
しかも要塞主砲が一度撃つとエネルギー充填に時間がかかるという特性をもっているのですから尚更です。
(ワープして逃げる、といっても以前にもどなたかが銀英伝世界におけるワープ技術について論じていましたが、それが可能ならどうして戦闘中にワープしないのか?とかワープ爆弾がないのは何故?とかありますから、取り囲まれてもワープで逃げればよいというのは、とりあえずできないと仮定してよいかと)

収録投稿31件目
board4 - No.1774

Re:Re1762/1763/1769:マルチレス

投稿者:テム太郎
2002年04月22日(月) 19時18分

冒険風ライダーさん

回答ありがとうございます。
しかし、5巻でのイゼルローン脱出の件は忘れてるってのはどうかしてますね。私(^_^;)

ということは、少なくとも本編の内容では状況証拠ではあるもののヤンも秦檜のような「無実の人を犠牲にして多数の人命を救う」ということをしてるということですね。
なんか、結構皮肉なことですね。

収録投稿32件目
board4 - No.1775

Re1772:それは全然違います

投稿者:冒険風ライダー
2002年04月23日(火) 00時40分

>技術問題
 これに関しては、帝国・同盟両国の技術水準に関する資料が少なすぎて、これ以上論じることが難しいですね。一応「同盟側も移動要塞を建造することが可能」と私が断定した根拠としては、

1.帝国と同盟の技術水準に明確な格差が存在しない
2.移動要塞の技術自体が今までのワープ・航行エンジン技術の応用で開発できる
3.ヤン自身が移動要塞の秘密を完全に掌握できている(これが銀英伝3巻のあの戦術につながった)

といったものなのですけどね。まあ移動要塞技術が基本的に既存のワープ・宇宙航行技術の応用に過ぎず、しかも「移動要塞の実際の工期がたったの1ヶ月弱」では、仮にMerkatzさんの運用面云々の懸念が的中したとしても、2度目のイゼルローン奪取後のヤンがイゼルローン要塞を移動要塞に改造するのは不可能でも困難でもないですよ。運用やテストなども、基本的には今までの応用で使用できるわけですし、理論自体もヤン自身が完全に掌握しているわけなのですから。
 それから、もしあくまでもイゼルローン要塞の改造に時間がかかると言うのであれば、かつて私が「銀英伝考察1」のスレッドで論じたように、ヤンが時間稼ぎのための対外外交・謀略活動を帝国に対して行っていけば良いだけの話でしょう。後述するように、イゼルローン回廊の内部事情を隠蔽するのは比較的容易ですし、何よりもあの当時は帝国政府と帝国軍の間でも非戦論がささやかながらも公然と唱えられていたわけですから、成功する確率は充分すぎるほどに存在したと思いますけどね~。

>工事秘匿の問題
<さて、実在の惑星との比較をしてもらって、イゼルローン要塞が意外と小さいものだとは分かりました。
しかし、小さいから隠蔽可能などというのなら、艦船はどうなります?
最大の大きさの旗艦レベルで全長1000m程度です。
索敵だけで戦争が終わるという間抜けな話になりませんか?
広大な宇宙空間に比べれば、豆粒以下でしかない艦船でも、きちんと相手を見つけられるのですから、
艦船よりはるかに巨大な人工天体が見つけられないということはあり得ないでしょう。
ましてやイゼルローン要塞は場所が分かっているのです。
原作の記述に従うなら、先行偵察衛星を飛ばしてイゼルローン要塞を撮影させればいい。
映像は超高速通信で送ればよいから、衛星本体を回収する必要も無い。
哨戒部隊が目視できる距離まで近づく必要はありません。>

 すいませんが上記の主張、私が意図していたこととは全く違った解釈に基づいて反論していますね。私が言いたかったことは「哨戒部隊の索敵範囲ですらあれほどまでに小さすぎるくらいなのに、イゼルローン要塞を『遠距離から』しかも『詳細に』撮影することができるような技術など、銀英伝世界にはそもそも最初から存在しない」であって、別に「哨戒部隊は敵を索敵することができない」とは書いていませんよ。
 私はNo.1764の投稿で「哨戒部隊が敵を探知できる範囲はせいぜい500~1000光秒の間が限界」と書きましたけど、これが宇宙空間と比較してどれほどまでに小さな範囲であるか検証してみましょうか? また例によって太陽系を取り上げてみますけど、この太陽系で太陽から一番離れている惑星は冥王星です。まあこの惑星は他の惑星とは少し違った軌道を描いて太陽の周りを周回していますので、時々天王星より近くなることもありますが、それはさておき、この冥王星が太陽から一番離れた時の距離が約59億1352万kmで、これを銀英伝世界の宇宙単位である「光秒」(ちなみに1光秒=30万kmです)に換算してみると、

5913520000 ÷ 300000 = 19711.73・・・

となります。つまりこれは、太陽系の「半径」だけで2万光秒近くも存在することを意味しているわけです。たったひとつの恒星系だけでもこれほどまでに広大な宇宙空間で、たかだか500~1000光秒程度の索敵機能を使って、一体どうやってイゼルローン要塞を「遠距離」から、しかも「要塞外面の詳細」を撮影することができるわけなのですか?
 そりゃこれでも「通常の」哨戒任務ならば艦艇を発見したりすることもできますよ。敵があらかじめ通ってくるであろう航路や自軍の周囲を警戒して哨戒網の網を予め張っておけば良いだけなのですから。しかしMerkatzさんが仰っていることは、結果的には「イゼルローン要塞と駐留艦隊が哨戒網の網を張っているアルテナ星系の奥深くに、それも一隻の偵察艦だけを使って進入し、敵に全く発見されることなくイゼルローン要塞を詳細に撮影することなど容易にできるから、要塞の内情を隠蔽するのは不可能」などという、成功率ゼロの無謀極まりないことを言っているも同然なのですよ。もちろん現実には、派遣した先行偵察衛星なり強行偵察艦なりは、アルテナ星系に到達するどころか、その遥か手前で要塞側の哨戒部隊に捕捉され、撃滅されてしまうのがオチでしょう。大規模な艦隊派遣でもあれば話は別ですが。
 そして要塞は宇宙空間の広さに比してあまりにも小さすぎ、とても「安全な遠距離」から「詳細に観察」できるようなシロモノではないのです。イゼルローン回廊帝国側出口付近を守備していた帝国軍の哨戒部隊も、イゼルローン要塞を監視するというよりも、むしろ駐留部隊がこちら側に向かってくることを想定した哨戒活動を行っていたわけで、だからこそ、銀英伝3巻冒頭の遭遇戦などが起こりえたわけですよ。もし、イゼルローン回廊出口付近から直接イゼルローン要塞や駐留艦隊の内情などが正確に掌握できるのであれば、あのような偶発的な接近遭遇戦が発生する道理がそもそも存在しえないではありませんか。
 これが私が本当に言いたかったことなのですけど、お分かりいただけましたか?

 それとラインハルトのこのセリフですけどね↓

銀英伝3巻 P40下段~P41上段
<「……つまり、イゼルローン要塞の前面に、それに対抗するための拠点となるわが軍の要塞を構築するというのか」
「さようです、閣下」
 重々しく、科学技術総監はうなづいた。あきらかに賞賛を期待していたが、彼が若い帝国宰相の秀麗な顔に見出したものは、にがにがしい失望の色であった。わずか15分でも、時間を浪費したと言いたげなラインハルトである。
「構想としては悪くないが、成功するにはひとつ条件が必要だな」
「それは?」
「わが軍がそれを構築する間、同盟軍の奴らがだまってそれを見物し、けっして妨害しない、という条件だ」>

↑私が新たに引用してきた文章をよく見てください。ラインハルトはシャフトの言を「イゼルローン要塞の『前面に』『それに対抗するための拠点』となるわが軍の要塞を構築する」と言ったのですよね? このシャフトの言動を移動要塞の要素を抜きにして普通に解釈すると「イゼルローン要塞および駐留艦隊の索敵圏内、下手をすると主砲射程圏内で要塞の建造を始める」と言っているようにしか聞こえないのですけどね。シャフトは「要塞の火力と装甲をもって要塞に当たらせる」と言っているのですからなおさらのことです。そしてそれに対するラインハルトの主張は「こんなバカバカしいことを敵の眼前で行って素直に見逃してもらえるはずがないだろう、この度し難い愚か者が」という類の本音を、せいぜい穏やかな口調で吐露したものでしかありえないわけです。
 だからこれは索敵云々とは何ら関係ないどころか、むしろ私が主張している「イゼルローン要塞に接近してその様子を詳細に撮影するのは無理」の補強にしかなりません。

<私の考察ではこのパターンが抜けていましたね。
帝国側(ヤンによるイゼルローン再占領後)ですが、これは冒険風ライダーさんに同意です。
ガイエスブルグの実績があるのですから、小惑星特攻くらい簡単でしょう。
もっともそれだと見せ場も無く物語りが終わってしまう(笑)。>

 さらにこれに付け加えますと、このような可能性がありえることをも考慮した上でも、ヤンは移動要塞建造に着手するべきだったのですよ。銀英伝考察3でも引用しましたが、ヤンは3巻の「要塞特攻」を語るくだりで「今後は破壊を目的とした攻撃を、帝国軍はイゼルローン要塞にたいしてかけることができる」と考えていたわけですから、イゼルローン要塞を再度奪取したヤンは、過去の思考過程から言っても、当然ラインハルトがそのような戦術を再度行う可能性を考慮する必要性があったはずです。
 何しろ、あのような作戦を取られてしまったら、要塞に立て籠もった持久作戦など全く無意味となってしまうのですからね。「回廊の戦い」の際に、敵が以前の「要塞特攻」の焼き直し的な作戦を再度取るかもしれないことをヤンが一切考慮していなかったとしたら、ヤンは重度の「健忘症」を患っているとしか思えないのですが。

<ちょっと思ったんですが、移動要塞って本当に無敵なんでしょうか?
例えば移動中に捕捉されたら?
周りに障害物の無い空間で、10万隻くらいの艦艇に取り囲まれたら、
いかに強固な防御力といえども、もたないような気がします。
なぜなら、過去に幾度か要塞主砲の死角から、火力をもって外壁に穴をうがつという戦法を同盟軍は披露しており(第6次イゼルローン攻防戦のホーランドなど)、
もし艦隊を展開するに何の制約も無い空間なら、数個艦隊で一点集中砲火も可能かと思います。
しかも要塞主砲が一度撃つとエネルギー充填に時間がかかるという特性をもっているのですから尚更です。>

 すいませんが、私が以前に書いた「要塞が持つ最強の武器とは『無限の自給自足能力』にある」という話をすっかり忘れてしまっているのではありませんか? 私は一度たりとも「『要塞主砲』と『要塞外壁』が『絶対的な力を保有した万能の武器である』」などと書いた覚えはありませんが。
 そして私はNo.1736でも「敵に無制限の持久戦を強いること」が要塞の持つ最強の武器であり、要塞主砲も要塞外壁もそのためのサポート機能(絶大な攻撃力と防御力による敵に対する威嚇と抑止力)として活用することこそが一番有効な使い道とも書いているのですが、そこは読んでいただけなかったので?

収録投稿33件目
board4 - No.1776

Re:移動要塞諸事情についての考察

投稿者:平松重之
2002年04月23日(火) 03時08分

 冒険風ライダーさん

<まず移動要塞改造工事を突貫で行った後に、艦艇の修理・整備を行えば良いだけなのではありませんか? 移動要塞の改造さえ行ってしまえば、艦艇の修理・整備など、イゼルローン要塞内にある整備工場を駆使して、いつでもいくらでも行うことが可能なのですから。
 こんなものは懸念材料でも何でもないと思いますが。>

 ですから、要塞工事を突貫で行なった後で、その後に艦艇の修理・整備を行なえば時間も余計にかかるでしょうし、要塞改造と整備が終わるまでラインハルトが待ってくれると考えるのは楽天的に過ぎるのではないか、と言いたかったのですが。
 また、8巻のP28で4月20日におけるヤン艦隊の艦艇数は28840隻で、その内3割弱(約8000隻)が修理・整備を必要としていたとあります。その10日ほど後の回廊の戦いの序盤においての全戦力は「20000隻以上」(P59)とありますから、10日程度ではほとんど損傷・老朽艦艇の修理・整備が出来なかった事が分かります。これから考えて、イゼルローンは工兵や民間から重用された技術者の数ないし経験が絶対的に不足していたのではないかと考えられ(そう考えないと余りにも修理のペースが遅すぎる)、移動要塞改造に余力を傾ける余裕などなかったでしょうし、仮に数ヶ月要塞改造に工兵や技術者を投入したとすれば、前述の修理・整備のペースから考えて工事も遅れるでしょうし、工事終了後に艦隊の修理・整備を行なえば更に時間がかかり、帝国軍が進入してくるであろう5月初頭に間に合うとは到底思えないのですが。要するに、イゼルローンやエル・ファシルには要塞改造を行なうには熟練の工兵や技術者、及びその絶対数が決定的に不足していたのではないかと。

<は? ガイエスブルク移動要塞が持っていた致命的弱点を技術的に完全解決できることが立証されるのに、なぜ将兵達の移動要塞に対する心理的抵抗が問題になるのですか? 要塞外壁に対する将兵の信頼感は要塞主砲クラスの脅威でもない限り絶対のものですし、それ以上にヤンの指揮に対する絶対的かつ崇拝的な信頼というものも存在するでしょうに。一度移動要塞を短距離ワープでもさせて安全を実証してしまえば、将兵の心理的抵抗など問題にならないレベルまで雲散霧消してしまうことでしょうよ。
 しかも、要塞外部に家族を置けば、家族を外部の敵に攻撃・虐殺されたり人質に取られたりする可能性が多分に存在するのに対して(敵が将兵の家族の身元を確認して人質に取ってしまうなど容易なことです)、要塞都市の安全は余程の事態でも起こらない限りこれまた絶対のものですし、前線の将兵達にとって、常に家族と一緒に過ごせる環境は大変貴重なものです。一般将兵達にとっては、そちらの懸念と利益の方が、「安全が実証された移動要塞に対する不安」などよりもはるかに重大なものと認識されるようにすら見えるのですが。>

 理屈では安全と分かっていても、やはりガイエスブルクの悲劇的な最期は感情的に尾を引き、万一の事を考えればやはり将兵は家族を居住させるのはためらうのではないかと個人的には思うのですが、まあ、この辺りは認識の違いでしょう。
 それと「家族と一緒に過ごせる環境」についてですが、家族と一緒に過ごせるのはエル・ファシル出身の兵士だけで、他の星系の兵士達の家族は帝国に生殺与奪を握られているので、全体的に見てあまり意味がないのでは?ラインハルトが人質をとるなどという卑劣な真似をするはずがないという信頼感もあるでしょうし。
 また、移動要塞に改造した以上、当然政治的にも、自給自足の強化のためにも、エル・ファシルから大量に住民を移住させなければなりませんが、果たしてそれを帝国軍が看過し、かつ要塞の改造や艦隊の修理・整備が間に合うでしょうか?移動要塞をエル・ファシルにワープさせ、民間人をシャトルや民間船で搭乗させるとして、その途中を急襲されたらひとたまりもないのでは?民主主義の軍隊が民間人を放り出して逃げるなど論外ですし、民間人を守りつつ応戦するのも困難と言わねばなりません。
 それとイゼルローンを「安全な遠距離から監視」するのは不可能ではないらしく、10巻のP46で旧同盟領に常駐していたワーレンは「イゼルローン要塞に不穏の動きあり」と、要塞の動向を察知していますし、P48で索敵艦隊は逆方向の帝国本土に進撃を開始したイゼルローン軍の動きを捉えてもいます。これを考えれば、銀英伝における索敵技術は冒険風ライダーさんのお考えよりもかなり優れていると言えるのでは?

収録投稿34件目
board4 - No.1777

Re:移動要塞諸事情についての考察

投稿者:Zero
2002年04月23日(火) 07時54分

横合いから失礼します。
僕も、移動要塞には比較的否定の立場です。

> <まず移動要塞改造工事を突貫で行った後に、艦艇の修理・整備を行えば良いだけなのではありませんか? 移動要塞の改造さえ行ってしまえば、艦艇の修理・整備など、イゼルローン要塞内にある整備工場を駆使して、いつでもいくらでも行うことが可能なのですから。
>  こんなものは懸念材料でも何でもないと思いますが。>

>
>  ですから、要塞工事を突貫で行なった後で、その後に艦艇の修理・整備を行なえば時間も余計にかかるでしょうし、要塞改造と整備が終わるまでラインハルトが待ってくれると考えるのは楽天的に過ぎるのではないか、と言いたかったのですが。
<<中略>>
要するに、イゼルローンやエル・ファシルには要塞改造を行なうには熟練の工兵や技術者、及びその絶対数が決定的に不足していたのではないかと。

そうですね。
それに、いくら帝国側で一度上手くいった方法と言えど、
それが無理なく再現し続けられる保証も無いですし・・・
何せ、当の発案者のシャフトでさえ実験時に要塞に乗り込むのを
嫌がってましたしね(^^;

完全にエンジンを連動させる、またそれをさせ続ける運用をしなくては
ならないというシビアな選択をヤンがするかなぁとか思います。
たった一つの「要塞」を実験には使えないでしょう。
やっぱり、あれはいくつも持っている帝国だからこそ打てた手では?

> <は? ガイエスブルク移動要塞が持っていた致命的弱点を技術的に完全解決できることが立証されるのに、なぜ将兵達の移動要塞に対する心理的抵抗が問題になるのですか? 要塞外壁に対する将兵の信頼感は要塞主砲クラスの脅威でもない限り絶対のものですし、それ以上にヤンの指揮に対する絶対的かつ崇拝的な信頼というものも存在するでしょうに。一度移動要塞を短距離ワープでもさせて安全を実証してしまえば、将兵の心理的抵抗など問題にならないレベルまで雲散霧消してしまうことでしょうよ。
>
>  理屈では安全と分かっていても、やはりガイエスブルクの悲劇的な最期は感情的に尾を引き、万一の事を考えればやはり将兵は家族を居住させるのはためらうのではないかと個人的には思うのですが、まあ、この辺りは認識の違いでしょう。

僕もそう思います。
我々は、「飛行機が安全に飛ぶ」と言うことを理論的には知って
いますが、目の前でそれが落ちる所を目撃した人などは、すぐに
飛行機に乗ることをためらいはしないでしょうか?

特に同盟の方は、「要塞が移動してきた」事は知っていますが、
見たのは一度で、さらにその要塞は、消滅しました。
実用面での危険度は刷り込まれたと思います。

それに、イゼルローンの利点はやはり回廊外縁部を利用することで
相手の攻撃の幅を制限する所にある気もします。
たとえ、回廊両端を押さえられたとしても。

あと、気になったのが「永久機関」と言えど、大出力のエネルギー消費
をすれば、流石にその補充に時間が必要なのではないかという事。
それがどの程度かは不明ですが。
作中の「永久」の前提は「ちびちび使って、その分は補充」だと思います。

どうでしょうか?

収録投稿35件目
board4 - No.1779

Re:Re1772:それは全然違います

投稿者:陵雲
2002年04月23日(火) 15時52分

 横入り失礼します。
あの・・・もしかして「索敵」と「観測」を一緒にしておられるのでは・・・?
「索敵」はレーダー等を使って未確認の相手を探知すること。
「観測」は望遠鏡等を使って場所があらかじめ分かっている物を見ることで、
比べるのが馬鹿馬鹿しいほど有効範囲が違いますけど・・・

収録投稿36件目
board4 - No.1782

Re1776/1777/1779:移動要塞関連諸々

投稿者:冒険風ライダー
2002年04月24日(水) 01時10分

>平松さん
<また、8巻のP28で4月20日におけるヤン艦隊の艦艇数は28840隻で、その内3割弱(約8000隻)が修理・整備を必要としていたとあります。その10日ほど後の回廊の戦いの序盤においての全戦力は「20000隻以上」(P59)とありますから、10日程度ではほとんど損傷・老朽艦艇の修理・整備が出来なかった事が分かります。これから考えて、イゼルローンは工兵や民間から重用された技術者の数ないし経験が絶対的に不足していたのではないかと考えられ(そう考えないと余りにも修理のペースが遅すぎる)、移動要塞改造に余力を傾ける余裕などなかったでしょうし、仮に数ヶ月要塞改造に工兵や技術者を投入したとすれば、前述の修理・整備のペースから考えて工事も遅れるでしょうし、工事終了後に艦隊の修理・整備を行なえば更に時間がかかり、帝国軍が進入してくるであろう5月初頭に間に合うとは到底思えないのですが。要するに、イゼルローンやエル・ファシルには要塞改造を行なうには熟練の工兵や技術者、及びその絶対数が決定的に不足していたのではないかと。>

 当時のイゼルローン軍の全戦力が2万隻弱でしかなかったのは、艦艇の整備事情だけが理由ではないでしょう。件の記述を完全に引用してみますと、

銀英伝8巻 P28下段~P29上段
<四月二〇日現在で、ヤン・ウェンリーの麾下に集った反帝国陣営の兵力は、艦艇二万八八四〇隻、将兵二五四万七四〇〇名であった。数量だけが問題であるならば、この数字はヤンがこれまで指揮統率してきた兵力のうち最大級のものであった。だが、艦艇は三割弱が修理や整備を必要としており、人員の二割強は同盟政府の末期に徴収された、あるいは志願した新兵たちで、訓練なしに銃をとらせることはできなかった。さらには、エル・ファシル革命政府と合体した後の戦力の急膨張は、軍組織の再編成を不可欠としていた。>

 これを見れば、艦艇の整備事情だけでなく、2割強も存在する新兵の存在と、急激に膨張した軍組織の混雑振りが、戦力編成の著しい妨げとなっていたことが判明するではありませんか。特に「新兵の練度を高める」というのは、艦艇の整備などよりもはるかに時間がかかるものです。言うまでもないことですが、そのような事情を無視して艦艇の整備のみをひたすら最優先して行っても意味がありません。
 むしろ、戦力の充実を図るというのであれば、全技術力を全て移動要塞改造に投入し、工事の完成と要塞の宇宙航行の安全が確認された時点でイゼルローン回廊を離脱して、敵を無制限の持久戦に引きずりこんだ方がはるかに懸命な選択だったことでしょう。新兵の訓練も艦艇の整備もその過程でゆっくりと行うことができますしね。
 そしてこれはMerkatzさん宛てのレスNo.1775でも述べたことですけど、あくまでもイゼルローン要塞改造に時間がかかると言うのであれば、ヤンは自分達の陣営を有利にするためにも、外交や謀略を巧みに駆使した徹底的な時間稼ぎ戦法に打って出るべきだったのではないのですか? あの当時帝国内でイゼルローン遠征をひたすら訴えていたのはラインハルトひとりだけで、しかも穏健派の大半は回廊封鎖を基本とした持久作戦ばかり訴えていたわけですから、ヤンが本気でやろうと思えば簡単に行えたはずでしょう。地球教などとも手を組んで帝国の後方を効果的に揺さぶってしまえばさらに貴重な時間を大いに稼ぐ事すらも可能だったはずです。
 あの当時のヤンがイゼルローン回廊に立て籠もって戦っていれば、余程の奇跡でも起こらない限り、ほぼ確実に敗北することは最初から目に見えていましたし、現にラインハルトの病がなかったら本当にそうなっていたはずでしょう。絶望的なまでに全く勝算のないイゼルローン回廊籠城戦などよりも、イゼルローン要塞を移動要塞に改造して無限の持久作戦を全宇宙規模で展開した方が、ヤンにとっても大きな可能性があったと思うのですけどね~。

<それと「家族と一緒に過ごせる環境」についてですが、家族と一緒に過ごせるのはエル・ファシル出身の兵士だけで、他の星系の兵士達の家族は帝国に生殺与奪を握られているので、全体的に見てあまり意味がないのでは?ラインハルトが人質をとるなどという卑劣な真似をするはずがないという信頼感もあるでしょうし。>

 仮にラインハルト個人が信用できたとしても、帝国全体としてはそれほど信用できるものでもないですよ。帝国内にはオーベルシュタインもいるのですし、また「反逆者の家族」というだけで周囲の社会から排斥されてしまう可能性だって存在します。これでは外部の家族が危険であることに変わりはありません。
 まあ、将兵達の家族は「エル・ファシル政権に自分達の家族の一員(父親とか息子とか)が参加した」と聞いただけで、家族に会いたい一心からも自分達の身の安全のためにも、自分達の方から積極的にイゼルローン回廊へとやって来ざるをえないことでしょうから、将兵の家族に関してはあまり問題は生じないようには思いますけど。

<また、移動要塞に改造した以上、当然政治的にも、自給自足の強化のためにも、エル・ファシルから大量に住民を移住させなければなりませんが、果たしてそれを帝国軍が看過し、かつ要塞の改造や艦隊の修理・整備が間に合うでしょうか?移動要塞をエル・ファシルにワープさせ、民間人をシャトルや民間船で搭乗させるとして、その途中を急襲されたらひとたまりもないのでは?民主主義の軍隊が民間人を放り出して逃げるなど論外ですし、民間人を守りつつ応戦するのも困難と言わねばなりません。>

 エル・ファシルからイゼルローンへの大量移民は、本来ならば移動要塞の有無にかかわらず行われていなければならないことなのですけどね。もし帝国軍が無防備宣言を行っていたエル・ファシルを無血占領したり、完全包囲下に置いたりしたら、ヤンはどうするつもりだったのでしょうか? どう考えてもヤンはエル・ファシルを救援するためにイゼルローン回廊から出撃してこざるをえず、イゼルローン回廊に立て籠もって戦うというヤンの戦略自体が根本から崩れ去ってしまった可能性が極めて高かったのですが。
 それに、民間人の大量移民なんてそんなに難しいことでも何でもないでしょう。すでに銀英伝5巻におけるイゼルローン要塞放棄に伴う500万人もの脱出劇という前例が存在するのですし、第一、仮に帝国側が大量移民を察知したところで、すぐさま帝国軍が妨害しにやってこられるわけでもありません。帝国軍が現場に駆けつけてきたときには、すでに大量移民作業が終了してしまった後でしかないしょう。エル・ファシルの人口は、過去にヤンが引き連れていた民間人の総数から推察して約300万人弱でしょうから、脱出も楽なものですよ。
 これもヤンの軍事行動の際の障害となる可能性はありません。

<それとイゼルローンを「安全な遠距離から監視」するのは不可能ではないらしく、10巻のP46で旧同盟領に常駐していたワーレンは「イゼルローン要塞に不穏の動きあり」と、要塞の動向を察知していますし、P48で索敵艦隊は逆方向の帝国本土に進撃を開始したイゼルローン軍の動きを捉えてもいます。これを考えれば、銀英伝における索敵技術は冒険風ライダーさんのお考えよりもかなり優れていると言えるのでは?>

>陵雲さん
<あの・・・もしかして「索敵」と「観測」を一緒にしておられるのでは・・・?
「索敵」はレーダー等を使って未確認の相手を探知すること。
「観測」は望遠鏡等を使って場所があらかじめ分かっている物を見ることで、
比べるのが馬鹿馬鹿しいほど有効範囲が違いますけど・・・>

 どうも索敵の一切合財を全てまとめて「索敵能力の限界」を語っていることがかなりの混乱を呼んでいるようですので、ここでひとつ銀英伝における「索敵方法」が書かれてある記述を引用してみましょうか。

銀英伝1巻 P22下段~P23上段
<反重力磁場システムをはじめとする各種のレーダー透過装置や妨害電波などの発達、さらにレーダーを無力化する材料の出現により、レーダーが索敵能力として用をなさなくなって数世紀が経過している。索敵は有人偵察機や監視衛星など、古典的な手段に頼るしかない。それらによってえられた情報に、時差や距離的要素を加算して敵の位置を知る。これに熱量や質量の測定を加えれば、不完全ながらも一定の索敵が可能となるのだ。>

 で、私はこの記述を基にして「有人偵察機や監視衛星などの古典的な手段」が持つ「観測能力」を使った索敵圏内を検証し、それが宇宙空間の広大さに比してあまりにも貧弱であると判断した上で、回廊内の内部事情を外部から隠蔽するのは比較的容易であるという結論に至ったわけです。レーダーはあまり役には立たないと言っているですから、索敵に重要となるのは必然的に「観測能力」となってしまうわけです。
 もし、イゼルローン要塞をはるか遠方から監視することができるとなった場合、回廊出口に陣取っている軍は、回廊出口付近にイゼルローン要塞を監視できる観測装置を100台ほども設置して要塞をひたすら監視してさえいれば、常に要塞及び駐留艦隊の動向を把握することが可能となるわけですが、それだと銀英伝3巻冒頭の接近遭遇戦に見られるような、こちらに近づいてきた敵の存在にすら接近するまで気づかないほど「役立たず」な哨戒部隊が何故に存在するのかという疑問がありますし、また、観測装置がイゼルローンのような小惑星クラスの小さな要塞をすらはるか遠方から捕捉する能力を持つのであれば、索敵があくまでも「観測能力重視」である以上、それを宇宙船に積み込んでしまえば、はるかに長射程の索敵圏内を持つ偵察艦を作り出すことも可能となってしまいます。そしてそれは移動要塞と同様、銀英伝の戦争概念を根本から覆してしまいかねないほどに脅威なシロモノです。
 これが私が「要塞の動向を遠方から監視するのは不可能」と述べた理由なのですが、お分かり頂けましたか?

 それで、件の銀英伝10間の話ですけど、元々あの当時のイゼルローン陣営があえて出撃した目的は「帝国軍と一戦して勝利する」ことにあったのですから、自軍に有利なイゼルローン回廊内に敵を引きずりこんで戦うために、あえて「不穏な様子」やら「出撃」やらを敵に見せびらかしていた可能性の方が高いでしょう。
 それに「不穏な様子」と言っても、基本的には出撃の兆候となるような現象は全て「不穏な様子」とみなされるわけですから、たとえばイゼルローン周辺宙域の哨戒活動が活発になってきたとか、大規模な艦隊演習が繰り返されるようになってきたとかいった内容でも、帝国側にとっては充分に「不穏な様子」とみなすことができるわけです。そしてそれに警戒心を抱いた帝国側が哨戒活動を活発に行いだしたところで、これみよがしに「出撃」を見せつけ、帝国側の出動を促したというわけです。
 こんなところで大体の説明はできるのではないでしょうか。

> Zeroさん
<完全にエンジンを連動させる、またそれをさせ続ける運用をしなくては
ならないというシビアな選択をヤンがするかなぁとか思います。
たった一つの「要塞」を実験には使えないでしょう。
やっぱり、あれはいくつも持っている帝国だからこそ打てた手では?>

 その帝国にしてからがその後全く使用してはいないのですけどね。使いどころは非常にたくさん存在したはずなのですが。
 それから平松さんにもMerkatzさんにも述べましたけど、あの銀英伝7巻当時のヤンに、自分達が生き延びるための選択の余地など本来存在しなかったはずなのですよ。あのまま要塞に立て籠もって戦っていたら100%必敗確実なのですから。多少の危険や無理を押してでも、ヤンは移動要塞の無限の可能性に賭けるしかなかったのです。そして失敗したら要塞と共に心中するというほどの「覚悟」がなければ、戦力で圧倒的に劣る自分達が帝国に勝てるわけもないでしょう。
 「使えない」のではなく、たとえどんなに無理をしてでも「使わなければならない」。これがあの当時におけるヤンを取り巻く境遇なのです。

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