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田中作品感想集
3−A

「バルト海の復讐」感想集(1)


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No. 684
最新作「バルト海の復讐」の感想☆
2001/09/05 00:00
こんばんわ、恵です☆

先日、東京書籍という出版社から、田中芳樹氏の「バルト海の復讐」(ジャンルは中世ヨーロッパの冒険活劇物?)が新刊として出版されました。田中氏の冒険活劇物、個人的には好きな作品が多いので(アップフェルランド物語、カルパチア狂奏曲、纐纈城奇譚などなど(^-^))、早速買って読んでみました。
ストーリーは、陰謀によって無実の罪を着せられた若い船長さんの主人公が、九死に一生を得た後、協力者たちの助けを借りて自分の汚名を晴らすために走り回り、徐々に陰謀の核心に近づいていく…という、なんだかハリウッドのアクション映画みたいな(笑)、わりとありがちな内容でした。
文章のテンポや人物描写は、相変わらず冴えた「田中節」のリズムで、さくさくと先を読んでいけたと思います。ただ、今回の「バルト海の復讐」、田中氏の冒険活劇物作品の中ではストーリー展開・キャラクター造形ともに、淡泊な印象を受けました。抵抗なく読めるかわりに、全体のテーマが見えにくいようにも感じたような…。(ご本人は、あとがきで「ハンザ同盟が書きたかった」と語っておられましたが、そのわりに印象に残りませんでしたね)今回、極端に個性の強いキャラクターが登場しなかったのも(わたしの主観ですけど)原因の一つかなぁ、と思います。

ところで、読んでみればはっきりわかるんですけど、田中氏の「中国礼賛病」、明らかに病状が進行・悪化していて、今回はさすがにわたしも呆れてしまいました。中国(もしくは中国人)が直接関係のないストーリー展開なのに、ヨーロッパと中国の事情を(たぶん、中国が当時、世界最先端だったからなんでしょうけど)を、ちょっとしつこいと感じる程、何度も何度も較べておられます。(以下、下記の引用をご参照ください)

(☆本文/P23より抜粋)
(前略)
この当時、ヨーロッパ人の食事は同時代の中国人に較べると、素材といい料理法といい、貧弱そのものである。

(☆本文/P66より抜粋)
(前略)
この当時、東方世界には北京や蘇州のように五十万から百万の人口を擁する巨大都市が存在した。それに較べるとヨーロッパの諸都市は規模も施設も貧弱をきわめ、ロンドンもパリも人口五万に満たない。

(☆本文/P69より抜粋)
(前略)
おなじ豪商とはいっても、遠い東方の蘇州の豪商に較べれば、衣・食・住のすべてにわたって質素で貧弱な生活だった。

言っておられることはおそらく事実なんでしょうけど、どうしてこう「貧弱、貧弱」などと連呼されるんでしょうか?f(^-^;)(まるで、『ジョジョ』のディオみたい(笑))
当時の「先進国」という理由以外に、何度も中国を引き合いに出す必然性はなかったと思います。繰り返し、「中国と較べてヨーロッパが後進地域であった」ことを強調する文章は、ヨーロッパで生まれ育ったわけでもないわたしでさえ、不快感を覚えました。同じようにヨーロッパの事情を紹介するにしても、田中氏は偉大な中国と比較する以外に方法をご存じないのでしょうか?中国出身の登場人物がいるならまだ納得できる部分もありますが、この「バルト海の復讐」にはそんな人物もいませんし、こうしつこく較べられると違和感ばかりが目立ってしまいます。
文章の隙間から、田中氏が明らかにこの時代のヨーロッパを軽蔑しているのがみてとれたのも、すごく残念です。こんなことなら(そこまで嫌いなら)、中国物の執筆だけに専念しておられればいいのに、依頼されて仕方なくヨーロッパ物を書いたのかな、とつい穿ったこと考えてしまうのが悲しかったです。
いったい、アップフェルランド物語を執筆された田中氏はどこにいってしまわれたのでしょうか?あのときは、こんな病状はまったくと言っていいほどなかったのに、本当に本当に残念です。作り手の愛情の感じられない作品って、やっぱり淡泊になってしんまうものなんですね。。。

以上、雑文の感想でした☆


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