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反銀英伝・設定検証編
12−A

自由惑星同盟の文化・歴史継承(1)


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No. 3966
同盟の歴史学とフェザーン
八木あつし 2003/04/20 21:01
最初に敢えて言います。同盟軍最高の知将ヤン・ウェンリーの歴史への興味は、フェザーン自治領の誕生がなければ生まれなかったと!

自由惑星同盟のヤン・ウェンリーは、歴史家を目指しながら図らずも軍人になってしまいました。そのためヤンは、作中でよく歴史家志望のことを口にし、過去の歴史から学んだことを考えたり、話したりしています。

銀英伝1巻 P182上段〜P183上段
<想像を絶する新兵器、などというものはまず実在しない。互いに敵対する両陣営の一方で発明され実用化された兵器は、いま一方の陣営においてもすくなくとも理論的に実現している場合がほとんどである。戦車、潜水艦、核分裂兵器、ビーム兵器などいずれもそうであるが、遅れをとった陣営の敗北感は「まさか」よりも「やはり」という形で表現されるのだ。人間の想像力は個体間では大きな格差があるが、集団としてトータルで見たとき、その差はいちじるしく縮小する。ことに新兵器の出現は技術力と経済力の集積の上に成立するもので、石器時代に飛行機が登場することはない。
 歴史的に見ても、新兵器によって勝敗が決したのは、スペイン人によるインカ侵略ていどのもので、それもインカ古来の伝説に便乗した詐術的な色彩が濃い。古代ギリシアの都市国家シラクサの住人アルキメデスは、さまざまな科学兵器を考案したものの、ローマ帝国の侵攻を防ぐことはできなかった。
 想像を絶する、という表現はむしろ用兵思想の転換に際して使われることが多い。そのなかで新兵器の発明または移入によってそれが触発される場合もたしかにある。火器の大量使用、航空戦力による海上支配、戦車と航空機のコンビネーションによる高速機動戦術など、いずれもそうだが、ハンニバルの包囲殲滅戦法、ナポレオンの各個撃破、毛沢東のゲリラ戦略、ジンギスカンの騎兵集団戦法、孫子の心理情報戦略、エパミノンダスの重装歩兵斜線陣などは、新兵器とは無縁に案出・想像されたものだ。
 帝国軍の新兵器などというものをヤンは恐れない。恐れるのはローエングラム伯ラインハルトの軍事的天才と、同盟軍自身の錯誤――帝国の人民が現実の平和と生活安定より空想上の自由と平等を求めている、という考え――であった。それは期待であって予測ではない。そのような要素を計算に入れて作戦計画を立案してよいわけがなかった。>

他にもヤンは十字軍や古代王朝など様々な歴史知識を、まるで「美味しんぼ」に登場する山岡士郎の食のうんちくの如く語っています(笑)。
しかし私はふと疑問に思いました。そもそも自由惑星同盟の成立を考えると、正しい歴史を本当にヤンが学ぶことができるのかと。

新書1巻14P
<叛徒の眷属として奴隷階級に落とされ、過酷な労働を課せられていたアルタイル星系の共和主義者たちが、自ら建造した宇宙船を使っての逃亡に成功した>

同盟の建国者たちは、銀河帝国の過酷な労働を課せられていたアルタイル星系で奴隷階級でした。ここで考えたいのはアルタイル星系の住民たちはどうのような結果、奴隷階級となり、そこにいたのかです。時は帝国歴164年。帝国成立時のようにそこら中に共和主義者がいた時代ではありません。
アルタイル星系にいる奴隷達は、その親の世代が帝国に叛乱を起こして失敗し、子供や親族が大量にアルタイル星系に奴隷として送り込まれたのか? それともまだまだ共和主義者は帝国内に多くおり、捕まったものが片っ端からアルタイル星系に送り込まれたのか? まぁもしかしたらすでに1世代どころか2〜3世代も経った、歴史ある奴隷星系かもしれませんが(笑)。
しかしアーレ・ハイネセンは、社会秩序維持局やこれまでの逃亡の失敗例を知っていることから、一時は平民階級だった可能性もありますね。
そこで問題です。アルタイル星系には奴隷たちの子供もいましたが、歴史の勉強をきちんと教えられていたでしょうか。奴隷の惑星にわざわざ歴史の勉強をさせる国はありません。せいぜい銀河帝国の輝かしい歴史だけでしょう。子供の親やアーレ・ハイネセンが子供の頃は平民だったのならば、少しは歴史を習い、幾ばくかは教えられそうですが……。果たして共和主義思想以外のことをハッキリと覚えていられるかどうか。特にあの銀英伝時代の勉強は、紙でなく光ディスクか何を端末画面に映して勉強をしています(ヤンも戦艦パトロクロスで書籍VTRを見ていましたし)。 奴隷たちが勉強用のチップやコンピュータを持ってはいないでしょうし、帝国も与えはしないでしょう。
このことから考えて、私は同盟建国時に共和主義思想(その実体は歪んだ共産主義思想?)の他には、人々の記憶からおぼろげに銀河連邦の成立、帝国の誕生などが残っているだけでしょう。頑張って覚えていたとしても銀河連邦以前の地球統一政府時代かな。ただ、叛徒となった歴史学の教授がいた可能性も捨て切れませんが……。さすがに地球重力圏内の遙か昔のことを全て覚えてはないでしょうし、教材や書籍は取り上げられていたはずです。
私としては、着の身着のままで逃亡したアルタイル星系の奴隷達が、正しい歴史、それも銀河連邦成立以前の歴史を知っていたとは思えません。普通に考えて無理だと思うのです。少なくともヤンの知っているような歴史は、まず不可能でしょう。

同盟建国から113年後、帝国と同盟は開戦! 銀河を二つに分けた(最初から二つしかありませんが(笑))大戦争が始まります。そこで同盟の存在を知った帝国内の共和主義者を中心に、帝国からの亡命者が大量に流れてきます。とはいえ、私としては亡命者もまた宇宙船に身を潜める形で、こちらもアルタイルの奴隷達同様、ほとんどが着の身着のままで亡命したとしか思えません。
少なくとも同盟が望むような、歴史のソフトを大量に持って亡命はしないでしょう。このままではヤンが生まれても、歴史教育・勉強など出来ません。ヤンが歴史に興味を持たなければ、銀英伝も始まりません。

そこで登場するのが、フェザーン自治領です。当初、自治領となったフェザーンは惑星が1つあるだけで、何の資本・経済力はありません。同盟に三角貿易を持ちかけようにも、まだ何の力もありません。また当時の同盟なら、フェザーンを帝国の手先と見なして貿易などをしないはずです。しかし同盟はフェザーンと商取引をするようになり、100年後には同盟経済のかなりの部分をフェザーンが占めるようになっています。
私が思うに、同盟-フェザーンの最初の貿易品目は、地球一惑星時代から現代まで続く歴史を商品として扱ったしか思えません。そうでなければ同盟人が古代地球時代からの歴史を知るはずがありません!
古代の骨董品や書籍もそうですが、特に同盟人が全く知らない古代から現在までの通史年表だけでも、過去の歴史が分からない同盟に取ってはレアメタル以上に貴重品です。帝国では定価分しか価値がなくても、歴史の知らない同盟では1万倍以上価値があるはずです。フェザーンは幾らでも同盟にふっかけることができるはずです。フェザーンは、歴史関係のソフトやら偉人伝や軍事史やら、もしかしたら帝国の子供用歴史学習セット(笑)も高額で同盟に売りつけたでしょうね。
同盟としては、これを飲まなければ帝国を打倒しない限り、過去の歴史を知ることができなくなります。涙を飲んで、購入したのでしょう。しかしこの歴史商品貿易により、同盟は過去を知ることができました。おかげでヤンも歴史家を志すことが出来るようになったわけです(笑)。
皮肉にも、この歴史商品貿易の儲けがフェザーン最初の資本になり、同盟経済に食い込む為の原資になったのでしょう。そして同盟経済は徐々に浸食されていきます。後の歴史は、銀英伝の通りでしょうね。

以上、暇つぶし考察 終わり。


No. 3967
Re:同盟の歴史学とフェザーン
Ken 2003/04/21 21:56
八木あつしさん、

自由惑星同盟の建国者たちは、「奴隷」という言葉から私たちが想像するよりも、はるかに豊富な知識をもっていたかもしれませんよ。そのカギは八木さんの、

> 特にあの銀英伝時代の勉強は、紙でなく光ディスクか何を端末画面に映して勉強をしています
>(ヤンも戦艦パトロクロスで書籍VTRを見ていましたし)。

という指摘にあります。人類の歴史をすべて網羅した資料となると、私たちの多くは図書館の書架を埋め尽くす書籍群を想像するでしょうが、アーレ・ハイネセンの時代の人にとっては、靴のかかとに秘匿できる大きさの数個のチップかもしれないのです。すると、次のような想像が可能になりませんか?

ルドルフによる弾圧が始まった頃、共和主義の思想をはじめ、多くの人類の知的資産が破壊されることを予見した人が、集められる限りの資料を集めてマイクロチップ(光ディスクでも結構ですが)に記録した。

しかも、まともに記録するのではなく、巧妙に暗号化してあって、特殊なコードを入力しないで再生すると、「鋼鉄の巨人ルドルフ」を讃えるビデオが現れる仕掛けになっている。

そのメディアと暗号解除コードは親から子へと、または同志から同志へと、ひそかに伝えられていった。それを読むためのデバイスを、帝国は奴隷たちに与えなかったが、秘匿されたチップやディスクのすべては摘発できなかった。奴隷たちは「いつの日か読める時が来る」ことを信じて、秘匿し続けた。

そして奴隷たちが自由を回復したとき、ついに読むことができた。それがイオン・ファゼカス号の船内だったか、80隻の恒星間宇宙船の中だったか、それとも自由惑星同盟の建国後のことだったかまでは分からないが。

という裏設定はどうでしょうか?

これなら、アーレ・ハイネセンたち「長征一万光年」の参加者でも、その後の亡命者でも情報を持ち出せるのではないでしょうか?ポイントは、大量の情報を極小のメディアに記録する技術の存在にあります。(個人的推測ですが、現在の技術でも、銀英伝全巻をテキストファイルにしたら、FD四〜五枚に収まるのではないかと思います。通常の市立図書館にある全蔵書ならDVD十枚かな?)

とくにジークマイスター提督などは、高級軍人の特権をフル活用して集めた資料をチップに焼いて亡命したかもしれないし、亡命後もミヒャールゼンに情報を送らせたかもしれませんね。

実は、もう一つの可能性も考えたのです。それは、帝国の機密データベースをハッキングして情報を盗み出すことです。

ですが、この案は捨てました。敵のサーバへのクラックが可能なら、帝国軍にだってできるでしょうし、そうなるとフェザーンを物理的に占領しなくても、同盟領の航路図くらい盗み出せるでしょうから。

もちろん、フェザーン経由で歴史を買ったというのも、立派な仮説です。


No. 3968
Re:同盟の歴史学とフェザーン
八木あつし 2003/04/23 01:47
Kenさん、お久しぶりです。直接のレスは久々ですねぇ(^^;)

確かに、銀英伝時代の光ディスクだったら通史などは全て入りそうですね。そういえば地球教団の数百年の歴史も一枚の光ディスクに収まりましたし。
アニメ版銀英伝を見ると、帝国の領民(貴族領)はかなりレトロチックな農民でした。そして歴史の勉強も銀河帝国の歴史ぐらい教えられていないような。だったら農奴・鉱山奴隷はさらに酷いだろう、と考えた次第です。もっとも帝国歴100年前半と帝国歴400年後半では、帝国の文明が衰退・退化している可能性が高いので、何とも言えません。
とは言え、どの時代でも奴隷達に歴史の勉強はさせないでしょう。差別されているものが、過去の(栄光の)歴史を知るとロクなことを考えません。やはり扱う機械の工学知識のみ教えられるでしょう。
ただKenさんの考えられた奴隷達が歴史の光ディスクなどを隠し持っていた可能性はあります。ただアルタイル星系の環境から、最初から人が住んでいた惑星だとは思えないので、アルタイルの奴隷達は強制収容組(とその子孫)の可能性が強いです。奴隷として身体1つでアルタイル星系に強制的に送り込まれた場合は、さすがに光ディスクやチップを隠し持ってはいけないでしょう。
やはりアルタイルの奴隷達が、光ディスクを隠し持っていたと考えるのは難しい気がします。(まぁ奴隷達がドライアイスの宇宙船を造ったり、無名の一惑星で恒星間宇宙船を80隻造る方が余程おかしいのですが……)
歴史学は置いておくとしても歴史のある美術品や書物などは、フェザーン最初の対同盟貿易の筆頭商品だったでしょうね。旧地球時代からの美術品は全て帝国領内にあり、亡命者たちも大量に持ってこれはしないので。同盟の好事家たちや歴史家にとっては、垂涎の商品でしょう。
また歴史の浅い同盟にとっては、銀河連邦の後継者との自負から連邦時代の著名な美術品は必須だと思います。


No. 3984
Re:同盟の歴史学とフェザーン
Ken 2003/04/28 00:35
八木あつしさん、

>奴隷として身体1つでアルタイル星系に強制的に送り込まれた場合は、さすがに光ディスクやチップを隠し持ってはいけないでしょう。

>どの時代でも奴隷達に歴史の勉強はさせないでしょう。

たしかに可能性としては、亡命者が隠し持つよりもずっと難しいですね。それだけに実現したら、話としてはずっと面白いですが。

Herman Woukの原作でTVシリーズになった「War and Remembrance(戦争と思い出)」は第二次世界大戦を描いた大河ドラマ(フィクション)ですが、ナチの収容所に入れられたユダヤ人がカメラを隠し持っていて、収容所で行われることを密かに撮影し、仲間がフィルムをもって脱走する話が出てきます。銀英伝にもこの種の裏話があってもよいのでは、と思いました。

なによりも、八木さんが言われるとおり、ドライアイスを宇宙船にする程度の「自由」を持っていた奴隷たちなら、光ディスクを隠すくらいできるだろうと思います。

美術品のたぐいははるかに難しいですね。ヤン・タイロンが、

エトルリアの壺とやらも、ロココ様式の肖像画とやらも、漢帝国の銅馬とやら(黎明篇第一章−4)

の贋作を買わされたのも、そもそも同盟には本物がないから、タイロンほどの収集家にも判別できなかった、というのが妥当な解釈かもしれません。

自由惑星同盟に渡った「本物」の美術品の出所は、帝国の没落貴族というのが、最もありそうな話ではないかと思います。ロイエンタールの母親の実家の伯爵家に関する記述がありましたね。

銀河帝国において名門貴族は政治的にも経済的にも手厚く保護されているが、それでも落ちこぼれが出るのは避けられない。マールバッハ家は二代つづきで放蕩家の主人が出ており、広大な荘園と別邸のことごとくを手放したばかりか、ゴールデンバウム帝室から下賜された生活安定のための高利率の債券まで売りはらうありさまだった。
(雌伏篇第二章−4)

その挙句に娘を身分違いのロイエンタール家にやったわけですが、そこまでやる前に荘園や別邸だけでなく、秘蔵の美術品などもすべて売り払っていたでしょう。

ところで資本のないフェザーンがどうやって経済力を蓄えたかという話ですが、アニメ銀英伝では、シリウス戦役の時に隠された地球の資産が使用された、という設定になっていなかったでしょうか?


No. 3988
Re:同盟の歴史学とフェザーン
八木あつし 2003/04/28 10:54
> なによりも、八木さんが言われるとおり、ドライアイスを宇宙船にする程度の「自由」を持っていた奴隷たちなら、光ディスクを隠すくらいできるだろうと思います。

そうですよねぇ。この奴隷達は、かなりの技術力を持っています。無名の一惑星の鉱物資源だけで、造船工場もなく宇宙船を80隻も造ったのですから(笑)。もしかしたらドライアイスの宇宙船にアルタイルの機械やプラントを積んでいったのかもしれませが・・・。こんな奴隷達なら、やはり過去の歴史の光ディスクを隠し持てるかも。


> 美術品のたぐいははるかに難しいですね。ヤン・タイロンが、
>
> エトルリアの壺とやらも、ロココ様式の肖像画とやらも、漢帝国の銅馬とやら(黎明篇第一章−4)
>
> の贋作を買わされたのも、そもそも同盟には本物がないから、タイロンほどの収集家にも判別できなかった、というのが妥当な解釈かもしれません。

この同盟に美術品鑑定士がいること自体が、少々おかしいと思いました。高々100年程度で古美術の鑑定士が生まれるものなのかなぁ、と。まぁ未来だったら、成分分析装置があってもおかしくはないのですがねぇ。


> 自由惑星同盟に渡った「本物」の美術品の出所は、帝国の没落貴族というのが、最もありそうな話ではないかと思います。ロイエンタールの母親の実家の伯爵家に関する記述がありましたね。
>
> 銀河帝国において名門貴族は政治的にも経済的にも手厚く保護されているが、それでも落ちこぼれが出るのは避けられない。マールバッハ家は二代つづきで放蕩家の主人が出ており、広大な荘園と別邸のことごとくを手放したばかりか、ゴールデンバウム帝室から下賜された生活安定のための高利率の債券まで売りはらうありさまだった。
> (雌伏篇第二章−4)
>
> その挙句に娘を身分違いのロイエンタール家にやったわけですが、そこまでやる前に荘園や別邸だけでなく、秘蔵の美術品などもすべて売り払っていたでしょう。

そうですねぇ。当時は銀河帝国の上流階級のみが、美術品を持っていたと思われます。ということは同盟にきた美術品は、亡命貴族が持ってきたものか、帝国で生活に困った貴族が売り払った美術品がフェザーン経由で流れたのでしょう。


> ところで資本のないフェザーンがどうやって経済力を蓄えたかという話ですが、アニメ銀英伝では、シリウス戦役の時に隠された地球の資産が使用された、という設定になっていなかったでしょうか?

そうでしたっけ? アニメ版を現在見返すことが出来ないので、ちょっと確認できません。どうだったかなぁ。
フェザーン設立の資金源は、隠していた地球資産だったはずです。ただその後、人を集めたり船を造ったり、経済ネットワークを作る部分は、本編から省かれていますから・・・。何とも言えませんね。


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