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映画「苦役列車」感想

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映画「苦役列車」観に行ってきました。
第144回芥川賞を受賞した西村賢太の同名私小説を実写映画化した作品。
映画のタイトルに反して、作中に列車の類は一切出てきません(苦笑)。
作中には生々しい風俗関係の描写があるため、R-15指定されています。
なお今作は、熊本県では熊本シネプレックス1箇所限定での劇場公開となっていたため、そこまで足を運んでの観賞となりました。

物語の舞台は1986年。
父親が性犯罪行為で社会的に取り上げられ、一家離散を余儀なくされた挙句に中卒で働き始めた今作の主人公の北町貫多は、日雇い労働でその日暮らしの生計を立てつつも、風俗や酒に溺れる自堕落な生活を送っていました。
そんなある日のこと、いつも彼が日雇いで働いている職場に、その年から専門学校生として田舎から上京してきた日下部正二が新入り労働者としてやってきます。
北町貫多と日下部正二は仕事場で意気投合し、公私両面で行動を共にするようになります。
ちょっとしたことですぐにブチ切れる北町貫多に対し、処世術に長け世慣れた感のある日下部正二は、最初は良きコンビとして機能します。
もっとも、それは無理筋な要求ばかりする北町貫多に対し、日下部正二が困った顔をしながら受け入れていくというパターンに終始してはいたのですが……。
北町貫多には、行きつけの古本屋でバイトとして働くひとりの女性の存在が気になっていました。
自身も読書が趣味という北町貫多は、その容姿といつも読書をしているバイトの女性こと桜井康子にお近づきになりたいと願うようになっていたのでした。
北町貫多がそのことを日下部正二に話すと、彼は北町貫多を伴って古本屋へ直接乗り込み、桜井康子と直談判をすることで、2人の友人になってくれることを桜井康子に了承させることに成功するのでした。
しかし、「友達」の意味が全く分かっていない北町貫多は「友達になれる=(セックス的な意味合いで)ヤれる」と勘違いするありさま。
その様子に、日下部正二は一抹の不安を抱くのですが……。

映画「苦役列車」は、主人公の破綻だらけな性格と言動をどのように解釈するかによって、観る人次第で大きく賛否が分かれそうな作品ではありますね。
個人的には、正直「何を言いたいのか分からない」的な部分がとにかく多すぎる上、主人公の言動にはまるで共感も同情もできないというのが実情ではあったのですが。
ストーリー的に見ても、「生活破綻者が友人を得てから無くしていく過程」が延々と描かれているだけで、爽快感的なものもまるでなく、そこにどんなテーマがあるのかを見出すのにすら困難を極めるありさまでしたし。
同じ私小説でも、映画「わが母の記」などはテーマに普遍性があり感情移入もしやすかったのですが、この作品にそういう要素はまるで見出せない状態。
どちらかと言えば、映画「ラム・ダイアリー」を日本に移植してさらに劣化させた作品というのが、今作の実情に近い評価と言えるのではないかと。
作中で主人公が何の結果も出していないこととか、作中におけるヒロインの存在意義がないも同然とか、昔の特定地域の知られざる闇の雰囲気を堪能できるとか、そんな共通点が両作品共に存在するわけですし。
今年の観賞映画の中でもワーストクラスに入るであろう「ラム・ダイアリー」と作品の出来や評価までもが同じ、というのは正直どうかとは思うのですけどね(-_-;;)。

それでも無理に今作のハイライトを見出すとしたら、一度険悪な雰囲気になってしまった北町貫多と桜井康子が日下部正二の仲介で和解した後、3人で海に入って仲良くじゃれあう光景でしょうか。
個人的には、ここで映画そのものを終了しておいた方が、却って作品の評価は上がったのではないかと思えてならないですね。
ここからストーリーをさらに展開していくとしたら、友情に目覚めた北町貫多が真人間になっていく過程を描くというパターンが理想的なわけなのですが、実際にはこれ以降の北町貫多の性格破綻ぶりはますます悪化の一途を辿り、全ての人間関係を破局へと追い込むことになってしまうのですから。
作中の北町貫多は、中卒であることや家庭問題などで少なからぬコンプレックスを抱え込んでいるのは良いにしても、破滅願望でも抱いているようにしか思えない言動に終始し過ぎていて、とても感情移入できるようなシロモノではありませんでしたし。
物語の終盤近くで、日下部正二と彼の恋人?に対し、東京と映画について何やら偉そうに御高説を垂れていた場面でも、主張内容の是非以前に「そんなことをしたらせっかくの友人関係が確実に破綻するだろ」としか評しようがありませんでしたし。
作中の北町貫多って、対人コミュニケーション面で何らかの障害でも抱え込んでいる狂人の類にしか見えなかったのですが、こんな人物のどこに人間的な普遍性や魅力といったものが存在するのかと。
まあ原作からしてそういうキャラだったのかもしれませんし、そういうキャラクター性を100%出し切っていたであろう俳優さんは、それはそれで評価に値するのかもしれないのですが……。

最初から最後まで「救い」とか「明るさ」とかいった要素がまるで期待できない作品なので、エンターテイメント的な面白さや感動的な人間ドラマのようなものが観たいという方にはあまりオススメできるものではないですね。


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投稿者:葵猫 2012年07月16日(月)11時53分 編集・削除

う~ん、私は原作から読みたいと思えないかんじでしたからね、多分映画も観ないと思います(DVDになっても)
感情移入しにくい話、共感出来ない話は観るの辛い、というのは確かにあります。
でもまあ、役者次第で変わる、というのはあります。
昨日観てきた2人芝居もそうです。
役者2人とピアノの伴奏のみのミュージカルですが、何十年か前の実際の殺人事件を元にした話です。
犯人2人は裕福な家の子息で、頭脳も優秀で同性愛の関係にあり(歪みや屈折ありで対等とは言い難い)、非常に身勝手な理由で罪なき子供を殺します。
情状酌量の余地なし、全く共感も同情もできません。
贔屓さん初の悪役で楽しみにしてまして、見ごたえはありましたが、連れの友人曰く「明るいうちから観る演目じゃない」、ヘビーで内容をかみ砕くのに時間がかかりそうで、観た人は皆そういう感想のようです。
でも、満席でした。
日本人三組、韓流一組(ただし片方が徴兵忌避の疑いで審議中、来日が危ういという事態…もう日がないのに)のキャストが競い演じる、という面白さ、それぞれの解釈の違いなど、お客へのアピールの仕方は色々あるとは思います。

この映画も造りやキャスト次第では、何かしらそういう要素も持てたのでは、と思えます。

投稿者:冒険風ライダー(管理人) 2012年07月17日(火)00時47分 編集・削除

>葵猫さん
今作の場合、原作からして主人公はダメ人間とのことなので、よほどに上手く表現しないと感情移入しにくいものは確かにあるでしょうね。
Wikipediaに掲載されていた作者本人の映画評によれば、主人公を演じていた俳優さんの努力には頭が下がるが、喋り方が江戸っ子的でなく、コミュニケーション障害にしか見えない点が不満であるのだそうで。
私もこの評には全面的に同感で、実際主人公がただの狂人にしか見えなかったのが何とも言えなかったところでして(-_-;;)。
独特の発想をするが故に奇矯な人格かつ嫌われ者、というのであれば、映画「ソーシャル・ネットワーク」のマーク・ザッカーバーグみたいな「好きにはなれないけどどこか憎めないし共感もできなくはない天才肌かつ孤独な人物」的な表現も可能だったのではないかと思いますし。

いくら私小説と言っても、ある程度は他者が共感できる普遍的なテーマや問い掛けなどがないと観客受けするものにはならないだろう、というのが、今作で得られた個人的な収穫と言えるものになるでしょうか。

http://www.tanautsu.net/

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