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board2 - No.1368

私の創竜伝考察34 創竜伝最大の破綻・後編

投稿者:冒険風ライダー
2000年09月08日(金) 08時10分

 特集「創竜伝最大の破綻」最後の後編は「竜堂兄弟および天界の支離滅裂な思想と行動原理」について述べてみたいと思います。
 創竜伝において「主人公」の立場にある竜堂兄弟一派、そしてそれに力を貸すべき味方として設定されている仙界や天界の御歴々。創竜伝のストーリーにおいて一番救いがたい点は、本来「悪の陣営」と定義されている四人姉妹や牛種に対抗すべき彼らの思想と行動原理こそが実は一番破綻しているという事にあります。四人姉妹や牛種にまともに対抗できるアンチテーゼやアイデンティティがロクに確立されないまま、その場その場の感情に基づいて行動し、自己客観視が全くできないままに有害な社会評論を吐き散らすあの連中の思想や行動原理が破綻していないわけがないのです。
 彼らが展開している社会評論のレベルは、簡単に言えば「ちょっと適当な知識を身につけた傲慢な小学校低学年生が、無知でワガママな幼稚園児相手に威張り散らしている」程度のものでしかないにもかかわらず、その彼らが創竜伝のストーリーにおいて「聡明なる毒舌家」などと礼賛的な評価を受けているところに、創竜伝それ自体の低レベルぶりが浮き掘りになっていると言えます。
 その低レベルな社会評論を支える思想と行動原理が、創竜伝のストーリーにどれほどまでに悪影響を与えたのか、それが今回のテーマです。
 また、この特集「創竜伝最大の破綻」を展開している間に創竜伝12巻が発売されたというので早速購入して読んでみたのですが、そのストーリーを徹底検証してみた結果、今まで漠然と考えていた天界および仙界の設定破綻が確実なものとなりましたので、それについても触れてみたいと思います。せっかく続編を発売しておきながら、さらにストーリー設定破綻をより一層加速させているというのでは世話はありませんが(笑)。
 では前置きはこのぐらいにして、そろそろ評論本編に入ってみる事に致しましょうか。

1. 勤勉・努力の価値観を軽視する、自律なき竜堂兄弟一派

 文部省あたりが積極的に推奨する価値観だからなのかどうかは知りませんが、竜堂兄弟一派の御歴々はなぜか「勤勉・努力」といった価値観を徹底的に軽視しており、その代わりに「自律こそが難しい」という命題を持ち出してきています。
 その否定ぶりは次の引用に代表されるようなものです。

創竜伝1巻 P37下段~P38上段
<それまで院長室にかかっていた「自由奔放」という額がはずされ、「勤勉、至誠、努力」という現職の文部大臣の額にかえられたとき、始は、叔父の精神の卑小さに、いっそあわれみをおぼえたほどである。彼は叔父に、額を引きとる事を申しでた。最初、靖一郎は甥の要求をこばもうとしたが、さすがに自分の狭量に気がさしたか、額を始に引きわたした。それを始は持ち帰って、二階の客用和室の壁に飾っている。>

創竜伝7巻 P186上段~下段
<「自省、自律、自制。人間にとってもっとも困難なものだ。自律というのはたしか共和学院の標語にあったと聞いとるが」
「ええ、ありました。でも現在は変わってます。勤勉、努力、至誠に」
 苦々しげに続が答えた。
「勤勉に努力? そりゃまたずいぶんと楽な目標に変わったもんだて」
 黄老は笑いとばした。努力などというものは、本人が必要を感じれば、誰からいわれなくてもするようになるものだ。だが自律というものは、必要だとわかっていても、なかなかできるものではない。自律のほうが勤勉なんぞよりよほど厳しい目標だ……。それが黄老の意見だった。おそらく正しいのだろう、と、始は思う。>

 いつも思う事なのですが、この連中は自分達が展開している評論が自分達に跳ね返ってくる事を自覚した上でこんな偉そうな説教を垂れているのでしょうかね。「勤勉や努力」といった価値観を「楽な目標」などと簡単に切り捨てている割には、竜堂兄弟一派が「勤勉や努力」を積極的に行った事例を私は全く見た事がないのですけど(笑)。
 そもそも連中が「自律」という言葉の意味をキチンと理解した上で上記のような説教を述べているとは思えませんね。「自律」という言葉を国語辞典で引いてみたところ、

じ-りつ【自律】
「自分で自分のわがままをおさえ行動すること。自分の規律に従って他から支配されないこと」
(旺文社 国語辞典・改訂新版)

と書いてあるのですけど、そもそも「感情に基づいて行動する」などと自分から公言するような連中が「自分で自分のわがままをおさえ行動する」などという事がありえるわけないでしょうに(笑)。そればかりか、創竜伝のストーリー自体もまた、竜堂兄弟に全く「自律」など存在しない事を雄弁に証明しているではありませんか。
 創竜伝における竜堂兄弟は、確固たるアイデンティティもなければ一貫した行動方針もないままに、ただひたすら自己防衛本能と惰性的な反権力感情に基づいて行動しているだけです。
「権力者に攻撃されたから反撃する」
「権力側につきたくないから相手の誘いを断る」
「自分達の都合によって法律を破る」
「自分達の一時的な安全確保のために権力者を人質にし脅迫する」
「必要以上に攻撃対象をいたぶる」
これらは全て竜堂兄弟が創竜伝のストーリー中で展開した事であり、しかもそこには「長期的視野に基づく打算」だの「政治的利益の確保」といった「政治的・謀略的発想」が介在したためしがありません。竜堂兄弟はただひたすら自分達の感情にのみ忠実に行動していただけであり、自分達の個人的・短絡的なワガママを何ら抑制していないのです。つまり竜堂兄弟は「自律」が意味する第一の項目を全く満たしていない事になります。
 そして「自律」という言葉が持つもうひとつの意味についても、そもそも竜堂兄弟を守っているのは先天的に与えられている超人的な能力なのであって、これは別に竜堂兄弟が自発的に手に入れたものなどではありません。先天的に与えられた絶対的な力だけをアテにして他者の支配を寄せつけない事を、普通「自律している」とは言わないでしょう(笑)。したがってこれも全く当てはまりません。
 「自律」もなければ「勤勉・努力」さえ全く行おうとしない竜堂兄弟や、その竜堂兄弟の「先天的に与えられた超人的な力」によって助けられた毛沢東礼賛論者(笑)ごときに「自律のほうが勤勉なんぞよりよほど厳しい目標だ」などと説得力ゼロな説教をされなければならない理由はありません。少しは自分達の行動を顧みた上でモノを言ってはどうなのですかね、この連中は。
 もっとも、主人公たる竜堂兄弟一派の中で、確固たる「自律」というものを確立していたキャラクターなど、私は誰ひとりとして知らないのですけど(笑)。

2. 敵対理由が全くない、四人姉妹と竜堂兄弟との対立

 創竜伝において最大の謎のひとつとして挙げられるのが、四人姉妹と竜堂兄弟とが敵対しなければならない理由の欠如です。いくら創竜伝を読み返してみてもこの理由を挙げる事ができません。
 創竜伝1巻における船津忠義およびその手下、そして創竜伝2巻における日本の権力者達が竜堂兄弟と敵対する理由については、権力者側に「竜堂兄弟の特殊な力を得るため」という明確な目的意識があり、また常に権力者側が竜堂兄弟に対して短絡的かつ無思慮な先制攻撃を行うため、竜堂兄弟もまた迎撃せざるをえないという理由でそれなりの説明が可能なのですが、創竜伝2巻後半において竜堂兄弟と初めて接触する四人姉妹の場合、そのような事を全く行っておりません。
 四人姉妹の手下であるレディLが「四人姉妹の幹部」として竜堂兄弟と初めて接触するに先だち、彼女がどのような方法を取ったかというと、鳥羽靖一郎が学院長を勤めている共和学院に対する資金提供(マリガン財閥からの1000万ドルの寄付)を申し出る事から始めています。そしてそれに続く竜堂続との対談においても、彼女はまず自分達の素性を明らかにした上で「竜堂兄弟を仲間に引き入れる交渉」を行っているのです。裏の事情はどうであれ、すくなくとも表面的にはレディLは極めて「平和的」かつ「友好的」な手段でもって竜堂兄弟と外交交渉を行っており、竜堂兄弟が四人姉妹を敵視すべき理由が全くないのです。
 しかもレディLは「関東軍のために自らの祖母が暴行を受けた」とあえて自らの境遇まで話し、竜堂兄弟と心情的に同じ感情を持っている事もアピールしています。これも交渉技術のひとつではあるのでしょうが、レディLの言ったことは「創竜伝のストーリー設定上では」事実なのでしょうから、竜堂兄弟にとっても決してマイナス材料になるものではなく、竜堂兄弟の警戒感をやわらげるには十分なものであったのです。したがって、レディLの交渉手法には何ら非の打ちどころがなく、竜堂兄弟の敵意を誘うものでは決してなかったと言って良いでしょう。
 にもかかわらず、竜堂兄弟側の交渉役たる竜堂続は次のような支離滅裂な対応を行っているのです。

創竜伝2巻 P169下段~P170下段
<「四人姉妹の政治力、財力と、あなたがた兄弟の力とを化合させれば、恐れるものは何もないはずよ。もっとも、すでにわたしは、四人姉妹の最高意思以外、何も恐れてはいないけどね。これから、祖母と母を捨てた日本を、苦境に追いこみ、日本人から富をしぼりあげてやるための日々がはじまるのだわ」
「他の人にも言ったことがありますけどね、日本が滅びるのは、いっこうにかまいません。むしろ滅んだほうが、他の多くの国のためかもしれませんけどね」
 続の声が、一段とそっけなさを増した。
「ですが、だからといって、あなたがたと手を組まなければならない理由が、どこにあるのですか。あなたがたが、ぼくたち兄弟に対してできることといえば、ぼくたちに近づかないこと、それだけですよ」
「……南海紅竜王陛下」
 相手の言葉には答えず、そう呼びかけて、レディLはふくみ笑いした。
「四海竜王のひとりである南海紅竜王は華麗にして鋭気と烈気に富むとか。まったく、あなたそのものだわ。だけど、まあお聞きなさい。あなたたちは先だってから日本の権力集団と対立を強いられているはずでしょう。とすれば、わたしたちは力をあわせられるはずよ」
「ぼくたちはべつに日本を憎んではいません。かなり愛想をつかしてはいますけどね。同士あつかいされるのは迷惑です」>

 何ですか、この竜堂続の反応は? どう考えても竜堂続は、レディLの返答に対して、理性や政治的打算ではなく、感情と個人的プライドに基づいて返答しているようにしか見えません。このやり取りを見ている限り、竜堂続にはマトモな交渉能力など皆無であると断言せざるをえませんね。
 アレだけレディLが友好的に交渉を進め、しかも本来暴露する必要のない個人的境遇まで告白して竜堂続の共感をえようとしているにもかかわらず、竜堂続はまるで今までの会話を全然聞いていなかったかのように、
「あなたがたと手を組まなければならない理由がどこにあるのですか」
などと平気で返答する始末で、しかも、さらにそれに対してレディLが辛抱強く、
「あなたたちは日本の権力集団と対立を強いられているから、わたしたちは力を合わせられるはずよ」
と、利害関係の共有化という極めて模範的な解答を返しているにもかかわらず、
「ぼくたちはべつに日本を憎んではいません」
などと全く返答になっていないタワゴトをのたまうありさまです。あの解答でレディLが言及しているのは、
「竜堂兄弟は日本の権力集団と対立を強いられているし、自分達も奴らを敵視しているから、その一点において手を取り合う事ができる」
ということであって「日本を憎んでいる」という事とは全く関係のないことですし、第一「日本など滅んでもかまわないし、その方がむしろ多くの国のためにもなる」などと平気で公言する人間が「ぼくたちはべつに日本を憎んではいません」と言ったところで説得力などあるわけがないでしょう。こんなマトモな日本語解釈能力すら欠如しているのではないかと疑いたくなるほどの低能な竜堂続相手に、必死になって譲歩による外交交渉の成果をあげようとするレディLの涙ぐましい努力には心の底から同情の念を禁じえません(T_T)。
 レディLはその後も辛抱強く竜堂続を説得し続けるのですが、マトモな外交センスなど全くない頑迷な竜堂続相手にそんなものが通用するはずもなく、ついには「色仕掛け」によって相手をたらしこむという非常手段に訴える事になります。それで何とか強情な竜堂続を説得しようと試みるわけですが……。

創竜伝2巻 P172下段~P173下段
<「あなたは、わたしの愛にふさわしい若者だわ。わたしのパートナーになって、わたしとともに極東の支配者におなりなさい。あなたには、それができるわ」
「四人姉妹の下で?」
「こだわっているの? 四人姉妹は、いったん権限をゆだねた相手に、無用の干渉はしないわ。極東一帯で、どんなことでもできるし、世界全体を動かす事業にも参画できるのよ。それどころか、いつかはそれ以上の……」
「すいませんが、マダム……」
 首にまわされた女の両手を、続はひややかにもぎ離した。
「ぼくは面食いなんです。ですから、マダム、あなたのお誘いを受けるのは、ぼくにとって耐えられないことなのです」
 美貌を誇る女性に対して、これほど痛烈な拒絶の返答は、他にないであろう。続の美しい両眼には霜がおりていた。
 対照的に、レディLの両眼には、熱湯がわきたっていた。やがて肉感的な唇から押し出された声は、平静さをよそおおうとして失敗し、ひびわれていた。
「そう、わたしを拒絶するのね」
「ご理解いただけて光栄です。マダム」
「最高の余地はないの?」
「あなたを抱くのも、四人姉妹に抱きこまれるのも、ごめんこうむります。あなたはぼくを南海紅竜王陛下と呼んだ。陛下と呼ばれる者が、誰かにひざを屈し、飼われてこころよしとするはずがないではありませんか」
 言いすてると、立ちつくすレディLにはもはや一瞥もくれず、続は緋色の絨毯を踏んでドアにむかった。>

 と、こんなわけで、レディLの重ね重ねの外交交渉にもかかわらず、外交センスという概念を一切理解しない阿呆なる竜堂続によって、交渉は一方的に決裂へと追いこまれてしまいます。必死になって平和的な外交交渉によって味方を得ようと考えていたレディLが、何か竜堂続の一方的な被害者であるように思えてくるのは私の気のせいなのでしょうか?
 しかしこの交渉をいくら検証してみても、竜堂続が四人姉妹を拒絶しなければならない明確な理由が全く見えてきません。レディLが竜堂続に対してそれなりの利益配分や日本の権力集団に対する共闘など、決して竜堂兄弟にとっても不利益にはならない条件を提示しているのに対して、竜堂続はただひたすら「おまえらと手を組むのはイヤだ」と喚くだけで「なぜ手を組めないのか?」という肝心な理由について全く述べていないのです。決して不利益にならないレディLの申し出をあくまで拒絶するというのであれば、そのあたりの理由をきちんと名言しなければ話にならないではありませんか。
 しかも四人姉妹側の方は、この交渉決裂に至るまで竜堂兄弟に対する敵対行為や挑発行為を全く行っていないのです。竜堂兄弟の家訓あたりから言っても、四人姉妹の申し出を拒絶する理由などないでしょう。
 さらに言えば、相手が共闘の申し込みを提言しているのであれば、竜堂兄弟側の方にもそれを利用する事ができる立場にあったはずです。たとえば、四人姉妹と一時的に共闘して竜堂兄弟を執拗に追いかける日本の権力集団を一掃し、その後四人姉妹と手を切るという方法だってありますし、両者の対立を煽って竜堂兄弟が漁夫の利を得るという方法もあったはずです。竜堂兄弟の超人的な力を持ってすれば、四人姉妹の権力機構を内部から乗っ取り、自分達が四人姉妹を支配する事によって身の安全を確保するという究極の方法だって選択できるでしょう。もし四人姉妹側が約束を反故にし、竜堂兄弟を実験体にでも使おうとするのであれば、その時こそ自分達の超人的な力を徹底的に思い知らせてやれば良いだけの事です。むしろ竜堂兄弟は安心して四人姉妹側の提言を受ける事ができたはずであり、またそれを利用して自分達がそれなり利益や安全を確保する事ができる立場にもあったはずなのです。
 にもかかわらず竜堂続は、そのような自分達に充分な利益と安全をもたらすレディLの提言について全く考慮することなく、自分の反権力感情と個人的プライドを優先して一方的に拒絶してしまい、あまつさえ「陛下と呼ばれる者がどうのこうの」と訳の分からない妄言を吐き散らす始末です。そしてこの短気で無思慮で意味不明なタワゴトに基づく交渉決裂によって初めて四人姉妹と竜堂兄弟は対立する事になったのですから、この交渉における竜堂続の責任は極めて重大なものであったと言えるでしょう。
 四人姉妹と竜堂兄弟とが対立関係になるというのであれば、それなりに理論的かつ整合性のある理由を明示して欲しいものなのですが、対立の直接契機となったものが「竜堂続による問答無用の感情的な拒絶」だけでしかなく、しかもその「感情的な拒絶」にすら説得力のある明確な理由を示す事ができないというのでは「竜堂続はとんでもない阿呆であり、外交センスの全くない低能である」としか評価のしようがないでしょう。自分達がマトモな対話もできないような存在である事を積極的にアピールして一体どうしようというのでしょうかね。しかもそれによってストーリーに最も重要な要素が欠落してしまうというのですから話になりません。
 それにしても、創竜伝のストーリーを検証していけばいくほど、「聡明な毒舌家」と絶賛されているはずの竜堂続の低能なる実態が明らかになっていくというのも何だか哀れな話ですね。まあ自業自得ではあるのでしょうけど(笑)。

3. 竜堂兄弟の閉鎖的な体質

 竜堂兄弟の性格設定には色々と破綻している要素があるのですが、その中でも特に奇怪な設定のひとつとして挙げられるのが、竜堂兄弟の閉鎖的な体質です。
 それが端的によく現しているのが、下の竜堂続の言動です。

創竜伝2巻 P21上段~下段
<「きさまら、ただではおかんぞ。このまま無事にすむと思うな」
 これは慣習といっていい台詞なのだが、いちじるしく続の癇にさわった。続は男の右手の甲に足を乗せた。別に力を入れたようにも見えないが、男の手は動きを封じられた。
「権力をかさに着て他人を脅すような人間は、ぼくにどんな目にあわされてもしかたないんですよ。それに……」
 続は、さりげなく足に力をこめた。男の真赤な口が開いて、大量の空気と少量の声を吐きだす。
「ぼくに命令できるのは、この世で、ぼくの兄だけです。ぜひ憶えておいていただきましょう。竜堂家の人間に無礼な口をきくときには、家族あてに遺書を書いておくんですね」
 ラビットマンは口から赤い泡と赤い悲鳴を噴きあげて気絶した。これまで何十人もの人間に危害を加えてきた右手の骨を、踏みくだかれたのである。
 ごく幼いころから、続は、兄の始に対してしか敬意をはらわないという一面があった。
「続ちゃんは、始兄さんのいうことしかきかないのねえ」
 そう母親が苦笑し、父親が憮然として頭を振ったことがある。>

 例によって例のごとく、全然自己客観視ができていないセリフとしか言いようがないですね。「権力をかさに着て他人を脅すような人間」を、圧倒的な暴力を背景にして脅す行為も笑止な限りですが、それ以上に唖然とさせられるのは「ぼくに命令できるのは、この世で、ぼくの兄だけです」という文言です。
 もし竜堂続がこのセリフを実践しているとしたら、竜堂続は一体どうやってマトモな教育を受けてきたというのでしょうか? 教育現場においては、教師が生徒に命令したり叱ったりする事がありますが、竜堂続はこれに常に反抗してきたというのでしょうか? また竜堂続には「運転免許を持っている」という設定がありますが、それを手に入れるためには何十時間かの自動車教習を受け、運転の際には隣につき従う教官に厳しく指導されることになります。上記のような自己中心的なタワゴトを吐いているような竜堂続が、そのような事に耐える事ができるのでしょうか? まさかとは思いますが、自動車教習所の教官を暴力で脅して免許を手に入れたわけではないでしょうね(笑)。
 さらに竜堂続が社会人として一般の会社に就職したりしたらどうなるのでしょうか? まあ会社にも色々とあるものなのですが、基本的に会社には「上司と部下」の関係がありますし、会社関係などで様々な接待に付き合わなければなりません。そんな環境に竜堂続が耐えられるとは到底思えないのですけど。最悪の場合、会社は竜堂続によって倒産に追い込まれる事になるかもしれません(笑)。
 これほどまでに社会的協調性に欠けるセリフを平気で吐く事ができる竜堂続にも呆れ果てるものがありますが、さらに竜堂兄弟の常識を疑いたくなるような問答が、創竜伝10巻における、竜堂余と四人姉妹の幹部の一人・マクシェーン老人との間で展開されています。

創竜伝10巻 P107上段~P108下段
<「おじいさんがどうしてここにいるの?」
 その質問には答えず、マクシェーン老人は静かに、哀しげに声を返した。
「いかんなあ、むやみに人の家にはいりこんだり、物をこわしたりしては。お前さんはいい子なのに、どうしてそんなことをするのかね」
 余は当惑した。
「ええと、それは、それはね。ごめんなさい、こわすつもりはなかったの」
 愛情表現はさまざまだが、余は兄たちの愛情と厚意を全身に受けて育ったから、他人に対してはごく自然に性善説を信奉している。だからマクシェーン老人に哀しげな表情でさとされると、困惑するしかなかった。ひたすら頭をさげる。
「もういいさ、責めとるわけではないよ、坊や」
「ごめんなさい」
「好きでやっとるわけではないんじゃな」
「うん」
「すると誰かに命令されとるのかね」
「命令ってわけじゃないけど」
「兄さんたちにかね」
 余は沈黙して答えない。諄々としてマクシェーン老人は語りかけた。
「いくら兄さんたちの命令でも、まちがっていると思ったら、したがう必要はなかろ?」
「…………」
「お前さんが素直でいい子だから、兄さん達に利用されとるのではないかね。よく考えてごらん。兄さんたちのやっていることだからといって、無批判にまねをしてはよくないだろう?」
 しばらく沈黙していた余がふたたび口を開いたとき、その台詞は老人の意表をついた。
「ぼくたち、いまこうやって話しているけど、何語で話してるんだろうね」
「……妙なことを気にするんじゃな。そんなことはどうでもよかろう?」
「気にさせたのは、おじいさんだよ」
 余の表情に怒りは薄い。むしろマクシェーン老人以上に哀しそうだった。
「失敗したね、おじいさん。竜堂家の人間には兄弟の悪口いっちゃいけないんだ。いっていいのは、おたがいと、それにもうひとりだけなんだよ」
 声の出ないマクシェーン老人を、余は深い瞳の色で見すえた。
「ぼくのことをほんとに思ってくれるなら、兄弟の間を割くようなこというはずないもの。変だな、どうしてそんなことをいうのかしら、と思ったとき、おじいさんと言葉で話してるんじゃないことに気づいたんだよ」
「かしこい子ですね、余君は」
 第三者の声がした。
「ああ、うかつに相手の目を見ないで。このおじいさんは、ナチスやソ連のスパイをつぎつぎと転向させた催眠的な説得の名人だそうですから」
 余の肩に手をおいて、続はマクシェーン老人をひややかににらみつけた。>

 これを読んで、つくづく私も悲しくなってきてしまいましたよ(笑)。一体どういう教育を受けてきたらここまで排他的に他人の意見を拒絶する事ができるのか、そして自分達が絶対的な存在であると明言している事を全く自覚せずにいられるのかと考えずにはいられませんでしかからね。いくらマクシェーン老人が四人姉妹の幹部であり、竜堂余に対する「忠告」の中に自分の利益が含まれていることを差し引いても、マクシェーン老人の「忠告」自体が竜堂兄弟に対する悪口になっているとは到底思えないのですけど。
 マクシェーン老人の竜堂余に対する忠告内容は次の2つに集約されています。

「いくら兄さんたちの命令でも、まちがっていると思ったら、したがう必要はなかろ?」
「お前さんが素直でいい子だから、兄さん達に利用されとるのではないかね。よく考えてごらん。兄さんたちのやっていることだからといって、無批判にまねをしてはよくないだろう?」

 これのどこか竜堂兄弟に対する悪口になっていると言うのでしょうか? むしろマクシェーン老人は当然の事を述べているだけではありませんか。
 いくら竜堂兄弟の兄弟としての繋がりが深いものであるとはいえ、竜堂兄弟の兄たちが常に正しい事を行っているとは限りません。それどころか、私が検証した限りにおいては竜堂兄弟の言動や行動は間違いだらけなのですけど(笑)、それはさておき、マクシェーン老人が主張している「兄たちの命令が間違っていると思ったら従う必要はない」はただ単に兄達にひたすら盲目的に従う事について注意しているだけですし、「兄たちがやっていることだからといって、無批判に真似をしてはいけない」というのも悪口でも何でもないでしょう。これは一般的な道徳論とでも言うべきシロモノであって、竜堂余に当然の事を教えているにすぎません。
 にもかかわらず、竜堂余はマクシェーン老人の「忠告」に対して、次のように主張するありさまです。

「失敗したね、おじいさん。竜堂家の人間には兄弟の悪口いっちゃいけないんだ。いっていいのは、おたがいと、それにもうひとりだけなんだよ」
「ぼくのことをほんとに思ってくれるなら、兄弟の間を割くようなこというはずないもの。変だな、どうしてそんなことをいうのかしら、と思ったとき、おじいさんと言葉で話してるんじゃないことに気づいたんだよ」

 全く竜堂兄弟が一体どんな教育を受けてきたのか思わず疑いたくなってしまうような発言ですね。恐ろしく独善的かつ排他的な反応です。
 この2つのセリフから分かる事が2つあります。ひとつは竜堂兄弟が他者からの批判を全く受けつけられない狭量な連中であり、自分達が絶対的に正しい存在であると思いこんでいる事、もうひとつは非常にねじ曲がった道徳論を植えつけられており、しかもその価値観の正しさを全く疑っていない事です。
 前述のように、マクシェーン老人の「忠告」は、たとえそれが四人姉妹の利益を含んでいるものであることを考慮しても、とても「竜堂兄弟に対する悪口」と規定できるものではありません。正直この程度の「忠告」でさえ竜堂兄弟の悪口としか聞こえないと言うのであれば、竜堂兄弟はオベッカばかり並べ立てるしか能のない人間以外とは、まともな人間関係を全く構築できないという事になってしまうではありませんか。しかも自分達以外が竜堂兄弟の悪口を言ってはイケナイと言っているのですから、連中は外からの批判を全く受けつける気がないということを自ら自白している事になるわけです。道理で連中の社会評論を語る姿勢や交友関係などが相当イビツなものになっていたわけですね。竜堂兄弟の周囲には著しく野党精神に欠けた単なるイエスマンしかいませんですし(笑)。
 そして竜堂余は「ぼくのことをほんとに思ってくれるなら、兄弟の間を割くようなこというはずないもの」などと嘆いていますが、竜堂余は「友情・信頼=礼賛」という発想以外に何も思い浮かばないとでも言うのでしょうか。むしろ逆に「竜堂余をホントに思ってくれるからこそ、あえて心を鬼にして兄弟の間を裂くような事を主張している」という事だって実はありえるのです。本当に信頼できる対人関係というものは、たとえ相手の癇にさわる事であっても、言うべき事をきちんと言える態度を貫くことによってこそ確立されていくものでしょう。たとえ一時的に相手に対して不快感を与えたとしても、後になって相手が自分の批判内容を理解し、忠告に感謝してくるという事例などいくらでもあります。逆に口先だけのオベッカを並べ立てるだけの人間が本当の意味で信頼される事はないのです。
 皮肉にもそのオベッカばかり並べ立てる人間の典型例を、第3者ヅラをして登場してきた竜堂続が証明してくれています(笑)。アレほどまでに間違った思考法を展開している竜堂余を「かしこい子ですね、余君は」などと無条件に誉めることが竜堂余のためになるわけがないでしょう。いくら竜堂余がマクシェーン老人の正体を見破る事ができたとはいえ、その間違いを見破るに至った思考法は間違ったものであり、しかもそれを竜堂余が「正しい考え方」であると信じこんでしまっている以上、それを指摘して是正させる事こそが、それこそ竜堂余の兄である竜堂続の「年長者としての義務」でしょうに。何だかこの場面における竜堂続は、わざわざマクシェーン老人の「忠告」を完全肯定するために登場してきたように思えてならないのですけど(笑)。
 これほどまでに他人の忠告や意見に一切耳を貸さないばかりか、自分達に対する批判の存在自体を許さず、その場しのぎの感情に基づいた偽善的な信頼関係しか結ぶ事ができないほどに閉鎖的な体質を持つ竜堂兄弟が、日本の権力者集団や四人姉妹・牛種の閉鎖性を批判するというのですから、何か非常に滑稽な喜劇を見せられているような気がするのは私だけなのでしょうか?

4. 天界における形骸化した法治主義

 この項は創竜伝12巻における天界の描写から発生した矛盾について述べたものです。
 創竜伝12巻における天界についての描写のひとつに次のようなものがあります。

創竜伝12巻 P87上段~下段
<「唐の衰亡期から宋の天下統一にいたるまで、ざっと百年にわたって乱世がつづいた。これからほぼおなじ長さで平和が保たれる。それでこそ治乱興亡の均衡がとれる。玉帝の御意のとおりだ」
 長兄の言葉を聞いて、白竜王の双瞳に賢しげな光がきらめいた。長兄からは「もっと勉強しろ」としょっちゅうお説教されているが、もともと聡明で慧敏な性質なのだ。青竜王の顔を見て、確認するように質した。
「つまり皇帝の趙匡義も、宰相の超普も、今後百年余の平和を保つための玉帝の道具だというわけか」
「まあ、そういうことだ」
 弟を見やって、青竜王はすこし感心したような表情になった。だが口には出さない。
 白竜王はいやな気分になっていたのだ。人界の歴史に介入しないといいつつ、天界はつごうよく道具を使って人界をあやつろうとしているだけではないか。>

 この描写、特に白竜王の天界に対する嫌悪感の部分を読んで私は思わず笑ってしまいましたね。というのも、この白竜王のボヤキの内容、かつて「私の創竜伝考察26 仙界の矛盾・後編」において私が展開した仙界批判の内容そのままだったからです。
 創竜伝8巻において「仙界の連中」が辰コウと呼ばれるタイムマシンを使って殷周革命の時代に竜堂兄弟を突き落とし、自らが定めた掟であるはずの「絶対中立・不干渉主義」に背いた描写を、私は次のように評価したのです。

<さて、このタイムトラベルの事例から、「仙界の連中」の恐るべき行動原理が分かります。彼らは、自分達の利益が絡む事であるならば、自らの掟を破って自分勝手な行動に出ても良いし、タイムマシンを使って歴史に干渉してもかまわないと考えているわけです。>

 何だ、この批判、天界に対してもそっくりそのまま当てはまるではないですか(笑)。まさか私が展開している批判内容を、創竜伝の記述が100%完全肯定してくれるとは思ってもみませんでしたよ(苦笑)。しかしこれまた「私の創竜伝考察26」において述べた事なのですけど、この「自らの利益のためには自らが定めた掟にすら背く」ということを仙界や天界が行っている事を完全肯定してしまうと、創竜伝のストーリーと社会評論に致命的な悪影響を及ぼしてしまうと考えたからこそ私はあの評論を書いたのですけど、田中芳樹はそのあたりをきちんと自覚して書いているのでしょうかね?
 仙界および天界が積極的に法律違反を犯す存在だと、ストーリーの流れにどのような悪影響がもたらされるのか? ひとつは彼らが展開している人界の「法匪批判」が完全に説得力を失ってしまう事、もうひとつは、自己利益に基づく法律違反によって「自分達が実は牛種と何ら変わらない存在である」と積極的にアピールする事によって「天界も仙界も牛種も実は『同じ穴のムジナ』でしかない」という事実が暴露されてしまい、それによって「天界・仙界=善、牛種=悪」という構図が完全に崩壊し、竜堂兄弟の拠って立つ基盤がなくなってしまう事です。その事実が判明してなお竜堂兄弟が仙界・天界側に加担するというのであれば「竜堂兄弟もまた牛種の手先と同類である」と規定しなければならなくなります。アレほどまでに舌鋒鋭く「牛種の支配体制」とやらを批判している竜堂兄弟にそんなレッテルが貼りついたらマズイでしょう(笑)。
 そうそう、法律違反といえばもうひとつ、創竜伝12巻における宋の時代で、青竜王が犯した人界の歴史干渉(耶律休可の追撃を妨害して超匡義の逃走を助けた事)の件がありましたね(創竜伝12巻 P41~P43)。下に引用している白竜王との会話では、相変わらず屁理屈ばかりこねて人界の歴史干渉を正当化しようとしているようですが…………。

創竜伝12巻 P86下段
<「もちろん摩馳はやっつけるさ。それにしても、大可、人界の歴史に干渉したりしてよかったのか」
「何のことだ」
「耶律休可を妨害して趙匡義を助けてやったんだろ、高梁河でさ」
「あれは助けないとかえって歴史の流れが狂ってしまうんだ。趙匡義は生命からがら国都開封へ逃げもどる。以後は政治に専念して、世界でもっとも豊かで先進的な大国をつくりあげることになる」
「そういうもんかな」
 深く追求するのを、白竜王は避けた。>

 おいおい青竜王よ、「あれは助けないとかえって歴史の流れが狂ってしまう」からといって、天界が定めた掟である「人界の歴史には干渉・介入しない」を破ってよい理由になどなるわけがないでしょう。法治主義の観点から言えば、たとえどれほどまでに実状に合わず、かつ自分達に不利益をもたらす法律であったとしても、法律は絶対に守られなければなりません。自己利益が損なわれるからと言って法律を無視する行動に出ることは決して許される事ではないのです。
 しかも青竜王は人界の歴史干渉の件について、自らの主であるはずの玉帝の意思の確認すらとらずに独断で行動を起こしています。この行動は戦前の日本において、政府のコントロールを受けつけずに暴走した軍部や関東軍を想起させるものです(笑)。天界の統治システムに致命的な欠陥があると自ら告白するような愚行は止めておいた方が良かったと思うのですけど(笑)。
 まあ以前にも言ったように、天界や仙界の御歴々が「自分達は元々法治主義という概念など全く持たない前近代的な中国人であるから、法を守る必要などない」と考えているのであれば別に問題は生じないのですが、どうも彼らの「法匪批判」があまりにもうるさいものでしてね(笑)。せめてこれくらいの「忠告」は勘弁してくださいな。

5. 天界における牛種と竜種の立場的逆転関係

 創竜伝において、竜堂兄弟は自分達が「反権力・反体制派」であり、四人姉妹や牛種を「世界支配の体制派」であると考えています。しかしこの両者の関係を天界からの視点で見ると、どのような関係に写るものなのでしょうか?
 非常に支離滅裂で検証しにくい(笑)創竜伝における天界について書かれたストーリーによると、牛種は天界を脅迫し、自らが人界を支配する権利を認めさせるために3000年前の殷周革命で殷側につき、周側についた「玉皇大帝の命令を受けた竜種」と争い、さらには天界の主・玉皇大帝を拉致・幽閉して自分達が玉皇大帝の名を使って専横を振るっているのだそうです。そして牛種の最終目的は「人界の完全支配と天界の掌握」であり、天界に対する反抗心を明確にしています。
 それに対して竜種の方は一貫して「玉皇大帝の忠実な臣下」としての立場を堅持しており、天界上層部から叛逆の疑いをかけられた時や不当な処遇を受けた時でさえ、その態度を貫こうと努力しています。さらに仙界もまた中立的な立場に立ち、竜種と牛種の対立を緩和しようとしつつ、天界の支配体制を堅持しようとしています。
 これらの事実から考えると、実は牛種は「天界における反体制分子」であり、竜種や仙界は「天界における体制擁護派」であると規定する事ができるのです。つまり人界と天界とでは両者の立場が完全に逆転してしまうという現象が起こるわけです。そして人界と天界とでは人界の方が天界よりも立場が下ですから、必然的に天界における立場の方が人界におけるそれよりも優先される事になります。
 そうなると非常に面白い事が見えてきます。それは「天界における体制擁護派」である竜種や仙界が、「人界における体制擁護派」である日本の権力者集団や四人姉妹・牛種と実は全く同じ事を行っているという事実です。連中は「天界における秩序を維持するため」などと称して、前述のように「自らが定めた掟にすら背く人界に対する過剰な歴史干渉」を行ったり、天界の支配体制を転覆させようとする牛種を討伐しようとしたりしていますが、これはまさに人界において竜堂兄弟を排除しようとする日本の権力者集団や四人姉妹・牛種の行っている事と、構造的に全く同じものではありませんか。
 しかも竜種や仙界の体制擁護の対象たる天界の支配者・玉皇大帝なる人物(?)は、「4.天界における形骸化した法治主義」における引用の中で白竜王が認めているように「天界の秩序維持のため」などと称して人界を自己一身の利益のために操ろうとした張本人であり、また竜種と牛種を争わせて互いの勢力を削ろうなどと姑息なことを画策するような存在です。天界における玉皇大帝はどう見ても理想的君主などではなく、むしろ竜堂兄弟が嫌悪するような日本の権力者や四人姉妹の体質に近いものを持っているようにしか見えません。こんな奴の支配体制や権益などを擁護して一体どんな意義が見出せるというのでしょうか?
 まあそのような態度が「天界における竜種」と仙界に対してのみ限定されるものであれば、「彼らの行動は玉皇大帝に対する忠誠心の発露であるから」という理由で簡単に説明できますから別に何ら問題は生じないのですが、問題なのはそのような竜種の行動原理を「反権力・反体制思想」を持つはずの竜堂兄弟がそっくりそのまま受け継いでしまっている事です。アレほどまでに権力者というものを罵倒しているはずの竜堂兄弟が、玉皇大帝に対してはその統治責任や権力者体質などについて何ら批判した形跡がなく、しかもそのような自己矛盾に陥っている事に全く疑問を覚えないまま、牛種から天界と玉皇大帝を救おうとしているのです。これでは竜堂兄弟は、自分達が散々非難しているはずの「人界における権力者集団の犬」と何ら変わりがないではありませんか(笑)。
 「反権力・反体制思想」を基本スタンスとしている竜堂兄弟に、前世における「天界における体制擁護派」である竜種の思想は全く相容れられるものではなく、本来ならば竜堂兄弟は「前世の竜種が持つ体制擁護派思想」を完全否定しなければならないはずではありませんか。まさか連中は「中国関連であれば体制擁護でもかまわない」と本気で考えてでもいるのでしょうか?

6. 味方を全く説得できない竜堂兄弟一派の無能と低能

 竜堂兄弟の超人的な力や権力者を一方的にいたぶる描写によってすっかり隠された形になってしまっているのですが、実は権力者と対立するに際して、竜堂兄弟一派には致命的な欠陥ないし弱点があります。それは「いくら物理的な力が強くても、政治的・経済的に竜堂兄弟一派は市井の庶民と何ら異なることがない」という事実です。竜堂兄弟はただひたすら自らの感情および生存本能に従って各地で騒動を引き起こしているだけで、実は常に対抗しているはずの権力者集団に対して、政治的・経済的な影響力で勝った事はただの一度としてないのです。
 そんな連中が、ふとしたことから四人姉妹が推進しようとする人類50億人抹殺計画「染血の夢」に対抗しなければならなくなってしまいました。「染血の夢」は四人姉妹が持つ政治的・経済的影響力を最大限に行使する事によって発動される計画であり、当然の事ながらそのような影響力など全く持たない竜堂兄弟一派だけでは「染血の夢」を止めることができません。そこでストーリー構成上、連中を政治的・経済的側面から援護する存在が必要となり、様々な御都合主義が重なった結果(笑)、創竜伝6巻において、四人姉妹の経済力に何とか対抗できる組織・華僑グループが竜堂兄弟の味方につくことになったのです。
 ところがその協力体制がようやく軌道に乗り始めた矢先、創竜伝8巻において華僑グループのリーダーである黄大人が小早川奈津子に暗殺されてしまいました。その結果、華僑グループは指導者不在となってしまい、それぞれの有力者が勝手な意見を述べるようになった挙句、日本人である竜堂兄弟一派とは手を組めないとまで喚きたてる人物まで出てくる始末です。
 さてその時、竜堂兄弟一派は一体どのような行動に出るべきだったのでしょうか? すくなくとも華僑側の主張に対してこんな迎合的なタワゴトをのたまう行為に走る事などではなかったはずです。

創竜伝9巻 P134上段~下段
<シンガポールから来た張氏は席を立つとき、日本人一同に向かって言い放った――自分は幼いころ目の前で父と祖父を日本軍に殺された。日本刀で斬首された父の顔を覚えている間、とうてい日本人とは協力できない、と。日本人一同は反論できず、沈黙して見送るしかなかった。
「シンガポールの華僑虐殺がこんなところで祟るとはなあ」
 蜃海が肩を落とすと、虹川が頭を振って応じた。
「おれたちはろくに学校で教わらなかったが、被害者の方は忘れちゃくれんよなあ」>

 この描写自体がいかに内容空虚なタワゴトを述べているかについては「私の創竜伝考察27」において詳細に述べていますが、それはさておき、味方であるはずの華僑グループの有力者のひとりが、竜堂兄弟一派に対して誤解に満ちた不快感を表明した挙句「お前らなどと手は組まない」とまで主張して「竜堂兄弟一派に対する非協力」を明言しているにもかかわらず、なぜ竜堂兄弟は相手の理不尽な主張に対して全く反論しようとしないのでしょうか?
 もしここで張氏の離反を許してしまったら、竜堂兄弟一派に反感を持つ他の華僑の有力者達も離反してしまい、華僑の政治力と経済力をもって四人姉妹の「染血の夢」に対抗する計画が完全に破産してしまうという発想すら連中には全くなかったというのでしょうか? 前述のように竜堂兄弟一派は政治的・経済的には全く無力な存在でしかないのであり、四人姉妹に対抗するためには華僑の政治的・経済的影響力が必要不可欠なのです。そうであるならば、竜堂兄弟一派は華僑を「自分達の味方」として繋げておくための方法を考え、実行していかなければならないはずではありませんか。
 一番穏健な手段としては「私の創竜伝考察27」で私が行った「張氏のような日本罪悪論にきちんとした論拠で反論していく」という方法でしょう。どうしても日本罪悪論に正面きって反論できないというのであれば、あえて相手の主張を認めてみせた上で「そんな過去の歴史のいざこざに拘っている場合ではない」という論法を使っても良いでしょうし、口での説得では全く応じないというのであれば「四人姉妹が華僑を経済的に滅ぼそうとしているから、自分達と手を組まなければいずれ破滅するぞ」という脅し文句を使う手もあります。最悪、華僑達がどうしても自分達から離反しようとするのであれば、いっそ自分達で華僑達を脅し、強引に華僑グループの支配権を掌握してしまうという手段にだって訴えられるでしょう。そこまでやらなければ華僑グループの分裂と離反を招いてしまい、竜堂兄弟一派は四人姉妹が推進している「染血の夢」計画を、政治的・経済的側面から阻止するという目的を達成する事が完全に不可能になってしまうではないですか。
 にもかかわらず、竜堂兄弟一派は華僑に対する対応そっちのけで、張氏の日本非難に迎合する形でトンデモな日本断罪論を展開している始末です。連中が事態を余程楽観視しているのか、あるいは自らがおかれた深刻な状況を理解する知能が欠けているのか、はたまた全ての状況を承知の上で、それでもなおかつ「社会評論を語りたい」という誘惑を抑える事ができなかったのか(笑)、理由は知りませんが、いずれにせよ、常日頃はアレほどまでに愚劣な言動と圧倒的な暴力をかさに着て権力者達を脅迫したり圧迫したりしているくせに、肝心な時にその毒舌が全く役に立たないというのでは話になりません。竜堂兄弟一派にはまともな状況認識能力と対処能力に致命的な欠陥を抱え込んでいるのではないでしょうか(笑)。

 さらに仙界を味方につけるために西王母や漢鐘離と論争した時も、竜堂兄弟の支離滅裂な対応ぶりには目をみはるものがあります(笑)。創竜伝8巻において「多くの動物を滅ぼしてきた人間達が、自分達は滅亡したくないからと言って仙界に救いを求めるなど思いあがりもはなはだしい」などと言って仙界の人界干渉に反対する漢鐘離に対して、反論どころか迎合すらしているというのですから。

創竜伝8巻 P161下段~P162上段
<「このごろは政治家まで環境保護を守ろうなんていいだしましたからね。利権の種でも見つけたんでしょうよ」
 漢鐘離が口を挟む。
「政治家を信用しとらんようだが、なかには国民のためにつくす政治家もおるじゃろう」
「なかには!?」
 続が冷笑をひびかせた。
「政治家は国民のためにつくすのが当たり前です。公僕なんですからね」
 続の口調は辛辣をきわめた。
「小説を書く作家もいる、とか、試合に出るプロ野球選手もいる、とかいう表現をしますか。しやしませんよ。当然の職業上の義務ですからね。政治家だけがその義務を果たさなくていいわけがありません」
「野党もだめかね」
「日本の野党は与党のおこぼれにあずかりながら、永遠に野党の地位に安住して、政策上の責任をとろうとしないんです。同罪ですね」
「ちときつすぎるのではないかな」
「とんでもない。ぼくは政治家を賞したくてしかたがないんですよ」
 続の毒舌はさらに辛辣さを加えた。
「だからすこしは賞められるようなことをしてほしいと思いますよ。裏金の受け渡しだけはどんどん巧妙になっているようだけど、そんなこと諸外国に自慢できるものでもないでしょう」
 反論があるならいってみろ。そう続は態度にあらわした。漢鐘離はすぐには反応しなかった。仙茶の碗を両手でつつみながら、髯のみごとな神仙は答えた。
「とすると、そういう連中を助けるために、仙界が動く理由などないような気がするな」
 爆発寸前の表情が、続の両目にひらめいた。
「要するに、あなたがたは何をやる気もないし、これまで三〇〇〇年間、なにもしてこなかったことに対して、責任をとる意思もないということですね」
「おい、続」
「失礼はわかっています、兄さん。でも何だってこんな老人のいやみをありがたく拝聴していなきゃならないんですか。ぼくたちが三〇〇〇年間、人類を支配して、まちがったやりかたで彼らを苦しめてしまったとしたら、そりゃあ頭をさげて、悪かった、助けてくれといいますよ。でもそうじゃない。第一、好きこのんでこんな風に生まれてきたわけじゃないんです。もうごめんですよ!」>

 仙界の八仙の一人である漢鐘離は「人間の愚かさ」だの「利権体質」だのといったものを理論的根拠にして、仙界の基本方針である「絶対中立・不干渉主義」を変更する事に反対しているというのに、わざわざ相手の理論的根拠を強化するような事を主張してどうするのですかね、竜堂続は。状況もわきまえずに、ただひたすら反体制的な毒舌を喚き散らしさえすればよいというものではないでしょうに(笑)。
 だいたい仙界の御歴々というのは、天界の特権階級としての身分を保障され、人界の水準をはるかに超えた無公害の超テクノロジーを使って生活し、自分達の利益のためならタイムマシンを使って、自らが禁じているはずの人界の歴史干渉を行う事すら辞さないような連中の集合体であるというのに、竜堂兄弟はそんな「仙界の連中」が偉そうに唱える人間蔑視論に全く反論・論破しようとしないどころか、連中の低レベルな道徳性を指摘する事すらできないというのですからね。これが指摘できただけでもずいぶんと状況は竜堂兄弟に有利となったはずなのですけど。
 華僑の時といい、仙界の時といい、竜堂兄弟一派は「味方を説得する」という、ストーリー的にも自分達の目的達成にとっても最も重要な事が全くできていないという事実について何か思うところはなかったのでしょうか。普通、味方をすら説得できないような連中が敵を圧倒する事などできるわけがないのですけど。

7. 「染血の夢」計画阻止の、破綻だらけの「プラン」と「アンチテーゼ」

 創竜伝6巻から四人姉妹が推進する人類50億人抹殺計画・通称「染血の夢」。四人姉妹がなぜこの計画を推進しようと考えたのか、その理由について語られている個所があります。

創竜伝6巻 P113上段~P115上段
<「現在の世界人口は多すぎる」
「みんなそう思っていますよ。だからといって、減らすわけにはいかないでしょう」
「減らすしかないんだ」
 タウンゼントは、むしろ合理主義的な態度で、そういってのけた。
「偽善的な近代ヒューマニズムでは、もはや地球の人口過剰を是正することはできない。真の決断と責任感によって、膿んだ患部を摘出するしかないのだ。神のメスを、誰かがふるわねばならない。人類の文明を維持し継続させ、さらに発展させるために、いくつかの国は救われねばならないんだ」
 タウンゼントによれば、「救われる」国または地域は、つぎのとおりである。
 アメリカ。ソビエト。ヨーロッパ大陸のすべての国。日本。台湾。香港。カナダ。オーストラリア。ニュージーランド。イスラエル。南アフリカ。シンガポール。アルゼンチン。チリ。ウルグアイ。
(中略)
「民族や人種ではなく、国家によって選別するには、ちゃんと理由があるのだ」
「理由ね。うかがいましょう」
「たとえば、アメリカ合衆国を救えば、多くの黒人、ヒスパニック、インディアン、その他の少数民族を救うことができる。ソ連を救えば、ロシア人だけでなく、イスラム教を信仰するトルコ系諸民族も救われる」
 台湾、香港、シンガポールに居住する中国人も助かる。イギリスに居住するインド人やパキスタン人も助かる。国家によって、助かる人間を選び出すのは、民族や人種によって選別するよりずっと公正だ。というのがタウンゼントの論法であった。
「単一民族国家などと自称する日本にも、アイヌのような独自の歴史と文化を持った民族がいるし、中国人や韓国人も居住している。絶滅する民族は、まずないはずだ」
「あなたの言い分が正しいとは思いませんが、それでどのていどの人数が助かることになるんです?」
「以上の諸国で、ざっと一三億というところか。ほんとうは一〇億まで減らしたいところだが、まあいいだろう。とにかく広大な土地が無人になるし、そこを再開発するための資金と技術は、ほとんど無傷で残るんだから」
(中略)
「自分が死なずにすむなら、人口が減少することに反対するものは誰もおらんさ。生き残って罪の意識にさいなまれるものは、勝手に自殺でもすればいい。そして……」
 タウンゼントは口元をゆがめた。いっそ挑戦的といってよいほどに、強い視線で竜堂兄弟を見わたした。
「そして、生きつづけることを選んだ人間は、すべて吾々の共犯というわけだ。吾々を責める資格はない。ひとしく罪を負って、新たな世界を建設するために協力しあうことになるだろうよ」>

 タウンゼントが述べているように、四人姉妹は「過剰人口の是正」「新しい世界秩序の建設」といった明確な目的意識と自己責任を持って「染血の夢」計画を実行しようとしているのであり、いくら四人姉妹の大量虐殺的な方針が非難に値するものであったとしても、彼らがすくなくとも主観的かつ表面的には「未来志向的な建設」を目指している事は間違いないわけです。
 さて、それに対して竜堂兄弟側は一体どういう考えで「染血の夢」計画を阻止しようと考えていたのでしょうか?

創竜伝8巻 P210上段~P211上段
<始が瑤姫と漢鐘離の顔を見くらべた。
「おもしろい経験をさせていただいたが、もう充分です。そろそろ仙界の、あの時点にもどって、活動をはじめたいですね」
「活動とな、ふんふん、で、何をどうするつもりかな」
「さしあたってのことですが……」
 まず地上のことだ。四人姉妹の人類支配の中枢部をたたき、五〇億人抹殺の計画「染血の夢」をやめさせる。暗殺、細菌兵器の使用、独裁者やテロリスト・グループへの資金提供、民族間の憎悪の増幅工作などをやめさせる。「染血の夢」計画によって人類社会それ自体が巨大な暴走車と化しているが、動力源をたちきり、悪意のドライバーを運転席からひきはがすのだ。まずマイナス要因をとりのぞかなくては、何ごともはじまらない。
「そうしたところで、地上の混乱はすぐにはおさまらんぞ。国と国、民族と民族とが争い、難民は国境をこえて流浪し、土地は荒廃して食料は不足する。しばらくは苦難がつづくし、しかも結局すべて丸くおさまるとは限らん」
「それは世界各国の政府や国際連合にやってもらいましょう。無益な戦争や内乱を終わらせ、平和を回復する。これこそ政治家の仕事でしょう」
 続がぴしりといった。
「もしそれをする気がなく、どこからともなくあらわれる超人的な救世主にすべてやってもらおうというのなら、政治家も国家も存在する意味はありません。先憂後楽。それがいやなら権力を手放せばいいんです」
「人類にそれができると思うのかね」
「たぶんね」
 そう答えたのは続ではなく始である。「なるほど」と微笑をふくんで漢鐘離は二度うなずいた。竜王たちは人知れず牛種の陰謀を阻止する。仙界はそれに協力し、三〇〇〇年前に失われた天界での権利を回復する。いや、仙界が竜王を一方的に利用するようなことがあってはならないので、むしろ竜王たちに礼をつくして力を貸してもらうことになるかもしれぬ。そして人類は人類で、人類だけでなく他の生物をもおびやかす多くの現象を、ひとつひとつ解決していかねばならないだろう。何とも遠い道のりだが、バラ色の未来をてっとりばやく救世主に与えてもらう、という姿勢がどれほど多くの害毒を歴史に流したことか。それを思えば、結局、凡人たちが知恵を出しあって地を踏みかためていくしかないのである。>

 私が知っている限り、これほどまでに「無責任」という言葉を体現した「プラン」と「アンチテーゼ」を堂々と主張し、しかもそれをもって「悪の組織」に対抗しようなどと無謀な事を考えた「主人公」というのはちょっと記憶にありませんね。こんな希望的観測と感情論だけで構成したような破綻だらけの「プラン」と「アンチテーゼ」をよくぞ作成する事ができたものです。少しでもマトモな考えを持っていたらとてもできる事ではないですよ、これは。
 まず「プラン」ですけど、「四人姉妹の人類支配の中枢部をたたき、五〇億人抹殺の計画『染血の夢』をやめさせる」とありますけど、これって具体的にはどうやるのでしょうか? もし四人姉妹の中枢部を壊滅させてしまったら「染血の夢」計画を止める人がいなくなってしまいますよね? それから考えると、竜堂兄弟は四人姉妹に対して力ずくでの脅迫や実力行使といった「いつもの手段」に出る事ができません。政治的・経済的影響力を全く持たない竜堂兄弟が独力で「染血の夢」計画を阻止する事など不可能ですし、最悪の場合、四人姉妹側が自爆的な行為に走る可能性すらあります。
 となると、「染血の夢」を阻止するために竜堂兄弟に残された手段は「四人姉妹を説得する」という選択肢以外なくなってしまうのですけど、そんな事が可能だと普通は考えないでしょう。「染血の夢」を止められるか否かは全て四人姉妹の胸先三寸にあるのですから、竜堂兄弟は四人姉妹に対して圧倒的に不利な立場に立たされることになります。はっきり言って、こんな状況で竜堂兄弟が「染血の夢」計画を阻止する事ができたら奇跡以外の何物でもないはずなのです。本来ならば。
 ところが創竜伝10巻において、竜堂兄弟は自分達と四人姉妹との絶望的な政治的・経済的影響力に基づく力関係の格差もわきまえずに、四人姉妹の幹部に対してこんな高圧的な命令を下しているありさまです。

創竜伝10巻 P126上段~下段
<「五〇億人抹殺計画を撤回しろ」
 そう口まできいた。
「そうすれば、おれたちは日本に帰る」
 老ダニエルは無言のまま、へたな英語の台詞を聞いていた。
「お前たちを裁く権利なんて、おれたちにはない。その権利があるのは、お前たちの妄想によって被害を受けた国の人たちだ。お前たちの責任が明らかにされ、国際法廷が開かれて、罪にふさわしい罰が与えられるだろう。四人姉妹の支配力は、すくなくとも以前ほどではなくなる」
 老ダニエルは声ではなく表情で始に応えた。悪意に満ちた薄い笑い。とぼしくなった生命力をふるって、老ダニエルは口を開こうとしたが、出てきたのは弱々しい無力な笑声の死体だけであった。
「もしそうならならとしたら、それこそ人類は滅亡への道を歩むしかないでしょう。自分たち自身の生命や尊厳を守るシステムもつくれないくせに、宇宙への進出だ核融合だなんて笑わせるんじゃありませんよ」
 これはむろん続の声だが、そのひややかな調子が老ダニエルの力を奮いたたせた。>

 笑わせるなと言いたいのはこちらの方ですよ、竜堂兄弟。アンタら四人姉妹の政治的・経済的影響力を殺ぐような事を何かやっていましたっけ? たかが四人姉妹の中枢に乗りこんだ程度の事で四人姉妹の世界支配体制に打撃を与えられるわけがないでしょうに。もしここで老ダニエルが「自分が死んでも五〇億人抹殺計画は続行する」などと言い出したらどうするつもりだったのでしょうか? 竜堂兄弟に「染血の夢」計画を止める術は完全になくなってしまうのですけど。
 しかも竜堂始は「四人姉妹を裁く国際法廷がどうのこうの」と喚き散らしているようですが、その「国際法廷」を開く勢力というのは一体どこの誰であると言うのでしょうか? 「染血の夢」計画を阻止したところで、四人姉妹にとって代わる勢力が全く存在しない以上、引き続き四人姉妹の世界支配体制は続いていくわけで、それほどまでの強者たる四人姉妹を裁く国際法廷など開かれるわけがないではありませんか。第一、四人姉妹側だって「染血の夢」計画の隠蔽工作ぐらいするでしょうよ。元々「染血の夢」計画というのは「秘密計画」でしたから隠蔽も容易なものです。
 こんな破綻だらけの行動で竜堂兄弟は「染血の夢」計画を阻止する事ができると考えていたというのですから、全く何も考えない行き当たりばったりな行動で事態が好転するだろうなどと考えられる連中のお気楽な思考法が、ある意味非常に羨ましくてなりませんね。まあ全然真似しようとは思いませんが(笑)。

 そして「アンチテーゼ」の方ですけど、そもそも竜堂兄弟は「染血の夢」計画を阻止することに一体どんな意義を見出していたと言うのでしょうか?
 創竜伝8巻の引用で漢鐘離が述べているように、竜堂兄弟が「染血の夢」計画を阻止したところで「染血の夢」計画がもたらした世界的混乱がすぐに収まるわけではなく、それどころか却って世界的混乱が拡大する恐れすらあります。しかも四人姉妹の世界支配体制はほぼそのまま維持される上、「染血の夢」計画が解決目標としている「世界的な人口過剰問題」が解決されるわけでもありません。さらに竜堂兄弟は「染血の夢」計画を阻止した後に発生するであろう世界的混乱に対して「後は世界政府や国際連合が担当することだ」と完全に自己責任を放棄した態度を取っています。
 これっておかしくありませんか? 四人姉妹側は、そのやり方はどうであれ、すくなくとも「世界的な人口過剰問題」を阻止し、新たな世界秩序を確立するというきちんとした目的を持って動いているのです。そうであるならば、四人姉妹の「染血の夢」計画を阻止する立場にある竜堂兄弟は、当然の事ながら四人姉妹の自己主張に対抗できるだけの理論で構築されたアンチテーゼを提示し、また「染血の夢」計画阻止の行動と結果に対して責任を持たなければならないはずです。ところが竜堂兄弟の主張と行動をいくら検証してみても、連中はただ「反対のための反対」を行っているようにしか見えません。
 竜堂兄弟が「染血の夢」計画に反対する理由はただひとつ、
「50億人を四人姉妹の手で抹殺するのは可哀想だしケシカランことだ」
これだけです。ただこれだけの理由で竜堂兄弟は「染血の夢」計画に反対しているわけです。そこには万人を説得し納得させるだけの理論も、四人姉妹の主張に満足に対抗できるだけの自己主張さえも全く存在しません。ただ単に連中の感情的な思考と行動原理に基づいた考えが露呈しているだけです。これでは感情的な理由を除いたら、誰だって四人姉妹側の自己主張の方に理があると考えてしまうではありませんか。
 竜堂兄弟が本当に四人姉妹が展開している「染血の夢」計画を阻止したいのであれば、四人姉妹がその計画の最終的な解決目標としている「世界的な人口過剰問題」に対して「自分達で」具体的な解決策を提示し、「自分達の力で」四人姉妹が推進している「染血の夢」計画を阻止し、「自分達が」その後の世界的混乱に対処していくという気概がなければ話にならないではありませんか。ただ感情に訴えるだけで、一番重要なところを自分達で解決しようとせず、全て「他力本願」な発想に頼って一体どうしようというのでしょうか。
 竜堂続に至っては、自分達の他力本願的な責任放棄が当然であるかのような態度を取った挙句、他力本願的に自分達が起こした騒動の後始末を押しつけているはずの人類や各国政府を一方的に罵っているありさまです。ロクなアンチテーゼを提言する事もできない自分達の無責任と無能力を棚に上げて、よくも偉そうに人類批判が展開できるものだと感心してしまいますね。
 これならば四人姉妹が展開しようとしている「染血の夢」計画の方が、そのやり方はどうであれ、ある程度明確な目的意識と自己責任に基づいて発動され、「世界的な人口過剰問題」をとにもかくにも解決してくれるだけまだマシというものです。何しろ竜堂兄弟側の思考や行動には全く論理的整合性を見出す事ができないのですからね。「染血の夢」計画に対抗できるだけのまともな「プラン」も「アンチテーゼ」も全然作れないような竜堂兄弟に、四人姉妹や牛種の世界支配を批判する資格があるとは到底思えないのですけど。

 それにしても、今回3回にわたって創竜伝のストーリーを徹底検証してみましたが、いくら何でも、これほどまでにストーリー設定や内容に関してツッコミどころがありすぎる小説というのもちょっと珍しいのではないでしょうか(笑)。いかに作者である田中芳樹が社会評論やりたさにストーリーをデタラメに作っているかが分かろうというものです。
 まあ普通なら「この小説はツマラン」の一言で終わらせてしまうところを、端から端まで徹底的に調べて「なぜつまらないか?」の理由を検証しようなどと考える私などもまた相当に珍しい部類に入るのかもしれませんが(^^;;;)。

親記事No.1245スレッドの返信投稿
board2 - No.1369

そもそも名称の定義とは何ぞや?

投稿者:Merkatz
2000年09月08日(金) 12時22分

不沈戦艦さんは度々、「感情的になって、理性的な判断ができなくなっていたロイエンタールは阿呆」とおっしゃっていますが、
不沈戦艦さんにとって名将の定義とはどんなものなのでしょうか?
仮にそれが「感情的にならない、常に理性的判断が出来る」というものだとしたら、
そんな定義に当てはまる名将など存在しません。
如何な名将といえども、人間である以上、感情からは自由でいられません。
名将と呼ばれる人が感情面で失敗したり、苦渋の判断を下したりするからこそ、歴史というものは彩りに満ちているわけで、
それらを不沈戦艦さんの言うように「感情的になって、理性的な判断ができなくなっていた阿呆」と切り捨てていたら、
古今東西、ありとあらゆる名将は皆阿呆だということになってしまいます。

ロイエンタールはあれほどの名将でありながら、自虐的・破滅的で女性不信というトラウマを抱えた精神面での脆さがあったからこそ、人間臭い名将であったのであり、
もしそれらがなかったら、機械と同じで何の面白味もないでしょう。
謀叛決起後の戦略について、色々穴があったことが分かったのは面白かったですが、
謀叛の動機について阿呆呼ばわりは違うと思います。

動機については平松さんとほぼ同意見なのですが、私も若干の推測をすれば、
ラングの存在の方がオーベルシュタインよりも大きかったと思います。
最初の謀叛疑惑の時、中心人物はラングでした。
そのことはロイエンタールがラインハルトの前で釈明に及ぶとき、ラングについて言及することから、周知の事実でした。
したがって、ロイエンタールはラングが自分に復讐しようと付け狙っていることは十分知っていました。
この場合、オーベルシュタインという存在が、ラングに対する警戒心をいささか変質させたのではないでしょうか。
ラングは内国安全保障局々長でありながら、軍務尚書の部下のように振る舞っていました。
(内国安全保障局は内務省管轄)
すなわち、表面上はラングの行動はオーベルシュタインがバックアップしているかのように取れるわけです。
そこまでいかなくとも、周りは「オーベルシュタインはラングの行動を黙認している」と認識していたわけで、
ロイエンタールもそのように受け取っていました。

やがて帝都に流れた奇妙な噂(皇帝行幸の際、自分が謀叛を起こす)をキャッチしたとき、これはラングの仕業であることも見抜いていたと思います。
この時点では、根も葉もない噂であるし、ラインハルトは招請に応じたのだから、一応ラングの策動に警戒はするにしても、謀叛は考えていなかったでしょう。

致命的だったのはウルヴァシー事件です。
ただし、ロイエンタールはすぐに謀叛を決めたわけではありません。
なぜなら真相調査のためグリルパルツァーを派遣しています。
もし、謀叛を起こすなら、調査などに時間を掛けるより、すぐに謀叛のための準備をした方が効率的です。
明らかにこの時点では謀叛の意思は固まっていないと思います。
決定的になったのは、ルッツ死亡・事件の真相不明とグリルパルツァーが報告したことでしょう。
ロイエンタールはこの時、ウルヴァシー事件がラングの策謀とは考えていなかったと思います。
むしろ、この事態を利用してラングが自分に謀叛の嫌疑を掛けることを憂慮したと思います。
つまり、ウルヴァシー事件が偶然であれ、作為であれ、これは自分を貶める決定的な機会になってしまうということです。
そして、一度ラングの掌中に落ちれば、どのような運命になるか分かったものではありません。
如何に元帥といえども、謀殺(ボルテックが変死した事も当然頭にあっただろう)の可能性すらあります。
そしてオーベルシュタインがラングの行動を「黙認」しているという事実が、これは一筋縄ではいかない事態になったと絶望したのでしょう。
(単にラング一人の妄動であったなら、素直に出頭していたであろう)
したがって、謀叛の嫌疑を掛けられて牢獄に繋がれるよりは、謀叛を起こしてやろうという気になったのでしょう。

推測材料としては、ロイエンタールがベルゲングリューンに「(事件がラング・オーベルシュタインの策謀であることを)俺がそう思いたいのだから、そう思わせておいてくれ」と言っていることから、明らかだと思います。
後付けで自分を納得させている様子が分かります。
ロイエンタールも理性では、ウルヴァシー事件は偶発ではないかと思っていたのでしょう。

ウルヴァシー事件がラングやオーベルシュタインの策謀だと思ったから謀叛を起こしたのではなく、その事件(偶然か故意かは分からないが)を利用して自分が貶められる事態になったから謀叛を起こした。
私はそう推測します。

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